3話
日に焼けてかさついた口から、さも大事のように甲高い罵りが投げつけられる。
「あの子がからだ弱いこと知ってるだろう。あんたがどっか行ってる間に、木の根元で倒れてたんだ。今医者のとこ行って、診てもらってきたところだよ。ったく、あの子がもし死にでもしたらどうしてくれんだい」
俺は軽く舌打ちをして睨み返す。
「どうせ熱中症だろう。水飲んで寝りゃあすぐに治るさ。それをわざわざ呼び止めてぎゃあぎゃあと」
「なんだい母親に向かってその憎まれ口!」
顔をひっぱたこうとした手を咄嗟に避け、走って逃げた。母親も追いかけてきてはいるが、肥えた足じゃもちろん追いつけない。自分のトレーラーまで一目散に駆けて、ドアの鍵をかけた。車の外では家畜でも鳴くような母親の声が、しばらく聞こえていた。しかしそれも放っておけば長く続かないことを俺はよく知っていた。畜生の声は枯れ、疲れてくると、ドアを叩く音と共にどこかへ消えた。
毎日これの繰り返しだ。パークの中で役をもっていないことを口実に、水汲みやら食材の調達、ゴミ出しにガキの遊び相手、そんな雑用を顔を合わせる度言いつけてくるんだから、このままじゃ引きこもっちまう。外に出るのも億劫だし、中にいるのも気が滅入る。どちらにせよ息苦しくて、ここでの生活はどん詰まりだった。
もし仮に、甥が母親の言う通り死ぬような状態にでもなったら、いっそこのパークを抜け出そう、そんなヤケさえよぎってくる。
ああ、もう少しすればメシの時間だ。あいつらと顔を合わせる最悪の時間だ。年長者どもにはねちねち嫌味を言われ、ガキには軽んじられる。そんな厭わしい状景が目に映るようで、一食くらいぬいたって死にゃあしない、このまま寝たふりしてやり過ごそう、そう思った。
ズックが姿を現したのは、俺が嫌悪を瞼の裏に投げつけ、しばらくした時だった。
車の屋根でも外れて外光がそそいできたように瞼の外が明るくなって、目をあけるとそこに彼がいた。
目の前で輝くズックは俺に微笑んだまま、微動だにしなかった。電気のようにちりちりと瞬き、音もなく明滅する様はむしろ光に似て、全方位を照らしていた。目を細めて見ると、彼にしか見えないが彼ではないようでもある。再会の喜びなんかすぐに飛び去って、美しい彼の周りをぐるぐるとまわった。棚やベッドや窓が彼を通して見える。透けるっていうのは妙に現実感がなかった。




