12話
この街に来さえすれば、すぐにズックへ会えると思いこんでいた自分は浅はかだった。友人どころかヘルツさえ見当たらず、俺は路地裏の道路の縁で身を縮こまらせている。彼に会えさえすれば、無一文もゴーストも気にしなくてよくなるはずだ。しかし肝心なことを言わないあいつも悪い。この街に来いと言ったくせに、自分がどこにいるのかその情報を伝えてはいかなかった。アノイは思った以上に広大で、うろついているうち野垂れ死にかねない。
腹が満たされている間に、夜を明かせる安全な場所を見つけなければならなかった。風雨をしのげる屋根付きの空間か、最悪広場のベンチでも良かったが、歩けど歩けど建物、屋台、人、ゴースト。余剰なスペースはどこにもない。路面に寝られるはずもなく、めぼしい場所を探している内、少しずつ飲食店や人通りは減って、ついに全く見当たらなくなった。俯いて歩くゴーストがちらほらいるばかりで心細くなってきた。引き返そうとも思ったが、振り向くと闇が迫ってきていた。
両側にはペンキのはげた土色の壁が高く聳え、道に暗い影を落としている。大地の割れ目にでも落ちた気分になって、出口を求めさまよった。亡者ばかり見ていても滅入るから、空を見上げていた。どの窓にもカーテンがなく、人の気配も感じられなかった。昼間だから皆外に出ているのだ。そう思ったが、進み続けていても一向に窓辺は真っ暗なままだった。試しに俺は、「火事だ!」と叫んでみた。声が道に沿ってまっすぐ飛んでいく。けれど待てども人らしきものが窓や出入り口から顔をのぞかせることはなかった。
どうやら気のせいではないのだった。この区画には誰も住んでいない。背がうっすら寒くなる気がしたが、しめたとも思った。通りに面した部屋の全てが空いているのなら、寝る場所を確保できたのも同然だ。しかも好きな部屋を住処にできる。それから、少し元気づいて、俺は物色し始めた。
どの建物も住人がいた頃には色々の着彩がなされていたのだろうが、今や見た目には大差なく古めかしく、大部分の窓の木枠は腐るか落ちるかした暗い口がぬっとあいている。どうせなら窓の残っている方がいい。鳥や虫に入りこまれるのはごめんだ。
少し行くと、周りよりひとまわり大きなレンガ造のアパートメントと目が合った。レンガの小口がもろもろと風化して丸みを帯びてはいるものの、大きな亀裂も見られず、拳でノックすると固く詰まっていた。下から順に数えてみると五窓ある。二階より上で生活したことなどなかったから、いつか高所に住んでみたいと思っていたのだ。内見する前からあの一番上の窓のところへ住むのだと決め、アパートメントへ入った。
階段を上りきると薄暗い廊下の両側にずらりとドアが並んで、陰気な雰囲気が立ちこめていた。電気が通っていれば照明を点けることもできるのだろうが、スイッチの場所も分からないし、廊下の突き当たりの小窓から差してくる外光を頼りにそれぞれのドアを見て回った。




