サフィア嬢視点
従兄弟であるアシュナード様が屋敷に来て頼みがあると言ってきた。これが全てを壊す原因になるなんて思ってもいなかった。
応接室でアシュナード様と対面する。
「サフィア嬢、従兄弟として頼みがある。……恋人のフリをして欲しい。リリィは何時も同じ表情ばかりだ。君の様な表情豊かな令嬢と恋人のフリをすれば、何か反応をするかもしれない」
「ノエル様はリリィ様に嫉妬して欲しいのですね。分かりました……面白そうなので協力しますわ」
「有難う、サフィア嬢」
この時最悪の結末が待っているとも知らずに私達は恋人のフリをし、リリーナ様を追い詰めていった。リリーナ様は社交界で笑い者になのに、どうして笑っていられるのかしら?私はそれが気に食わず、アシュナード様が思っている事がこういう事かと納得した。
それからの私達は演劇に行ったり、手紙のやり取りをしたり、逢瀬を重ねていった。それでもリリーナ様は笑っていられるかしら?ちょっとした意地悪心だった。婚約者に咎められても、事情を説明して黙らせた。
でも、少し気になったのはマーベリス公爵様が俯向き加減で微笑むリリーナ様をずっと見つめている事。
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「リリィが自殺未遂をした……私の記憶だけが消えて、まるで知らない人を相手にする様な態度だった……」
「えっ!!!!何故、どうして!?」
「……リリィを追い詰めすぎた」
「私は悪くない、悪くない!!アシュナード様が悪いのです!!恋人のフリを頼むから!!」
「君も楽しそうにしていたじゃないか!!」
「こんな事になるなら引き受けてなかったわ!!」
それからは転げ落ちるように悪いことばかりが起きた。婚約者のネル様から婚約破棄を申し渡され、両親から次に何かしたら勘当と言われ、アシュナード様と婚約を結ぶ様に言われた。
部屋に閉じ込められ、怒りからグラスをメイドに投げつけ憂さ晴らしをする。
「私は悪くないわ!!悪いのは全部アシュナード様とリリーナ様なのに!!誰も私の話を聞いてくれない」
そうだわ。次に公爵家で開かれる舞踏会でリリーナ様に説明すれば良いのよ。
だが、舞踏会に現れたリリーナ様はまるで別人の様だった。壁際で俯いて微笑むリリーナ様はどこにいったの?
「お久しぶりですサフィア嬢。今宵もアシュナード様とのファーストダンスは宜しいのですか?私は一向に構いませんが」
「リリーナ嬢……アシュナード様との関係には訳があって……」
「そうですか。私は今宵はアシュナード様と踊る気など一切ないので、安心してください?」
コロコロと嗤い、飲み物を持ってバルコニーへ行ってしまった。その後をマーベリス公爵様が追ったので、割り込むことは出来ない。
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今日は何故かアシュナード様の屋敷に呼ばれ、項垂れるアシュナード様と並ばせられる。アシュナード様のご両親も、私の両親も激怒しながらリリーナ様にした仕打ちを怒っていた。アシュナード様に到ってはリリーナ様に暴行を働いたらしい。
リリーナ様には公爵様から婚姻の申し込みがあったらしい。そんなリリーナ様に暴行を働いたとなるとただじゃ済まない。
「私は悪くないわ!!アシュナード様が頼んできたのですもの!!私はしょうがなくっ」
お母様に扇で頬を打たれた。ジンジンして痛い。お母様に打たれたのが衝撃的で思考が止まる。
「アシュナード、お前はこのままサフィア嬢と婚約しなさい。お前達がしてきた事は社交界でも噂になっている。覚悟するんだな」
「い、嫌です!!此れじゃあ私が社交界で笑いものになってしまいます!!」
「黙りなさい!!サフィア!!」
お母様の怒声に身がすくむ。
「何度も私やネル様が注意したというのに、子供じみた事をするからこうなったのです!!反省の色も見えない……もう貴女は私の娘じゃないわ!!」
「お母様……」
私は涙を流し、自分がしてきた事が自分に返ってきた事をやっと理解した。アシュナード様は何も言わずに項垂れるだけ。
これから私達は社交界という魔の巣窟で針の筵だろう。これから起こる未来に私はまた涙した。