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9話




 家に入った三人をローズは「あらあらまあまあ」といつものノリで迎え入れた。絶対に外の騒ぎが聞こえていたはずなのに、何も聞こえていませんでしたよという顔をしている。

 ローズはこういう人なので、サーシャは諦めてとりあえずお茶の用意だけ頼んだ。ローズは快く引き受けてくれた。


 レヴィを案内した客間へ、自分にくっついて離れないシンデレラを伴って向かう。

 先ほど空を飛んだ時のサーシャとレヴィのような体勢で、シンデレラはくっついてくる。歩きにくい。あとサーシャより既に育っている胸が当たっていて何とも言えない心地になる。



 部屋に入ると、レヴィは物珍しそうに客間を見回していた。家自体はかつての大商家の時代の持ち物だが、内装はあらかた売ったのでだいぶ貧相だ。その落差が物珍しいのかもしれない。



「お待たせしました」


「そんなに待ってないよ。というか、もてなしなんてよかったのに」


「そういうわけにはいきません。レヴィさまはお願いして来ていただいたお客様なんですから」



 言葉を交わしている間に、ローズが用意したお茶を並べ終えた。レヴィはカップを手に取り、香りを楽しんでから口をつける。



「うん、おいしい。それに温まるね」


「お城で出るようなお茶とは比べ物にならないとは思いますが……」



 ローズの謙遜する言葉に、レヴィは首を振った。



「僕は基本飲食をしないから、お城でも王子の付き合いでしかこういうのは飲まないよ。でも、城のよりおいしいと思う」


「そ、そうですか……」



 なんだか反応に困る話題をさらっと言われたので、サーシャはとりあえず流すことにした。ローズはにこにこと後は若い人たちに任せますみたいな態勢になっているし、シンデレラはレヴィをじっと睨むような目つきで見つめている。



「それで――とりあえず落ち着いて話せる状態になったわけだけど」


「はい」


「聞いていい? 君が呼んだ名前で、シンデレラの魔力が一瞬でおさまったのはなんで?」


「なんで、と言われますと、私にもわかりません。ただ、……」


「ただ?」


「あれは、あの名前は――ルーチェが『万が一の時に』と教えてくれた名前だったんです」



 そこで、黙っていたシンデレラが反応した。



「……おかあさまが?」


「そうよ、シンデレラ。あなたが『どうしようもなくなった』ら呼びなさいと言われていたの」


「あれは……あれはわたくしの名前だわ。わたくしも知らなかった、わたくしの名前」



 サーシャとシンデレラのやりとりを聞いていたレヴィが訊ねる。



「つまり、あれは魔女名ということ?」



 魔女名は魂に刻まれている名前、らしい。魔女として独り立ちする時に師匠である魔女に教えられ、それに厳重な保護をかけて、通り名とするのだとルーチェが言っていた。


 そういえばレヴィの魔女名はなんなんだろう、とサーシャは思ったが、それどころではないと意識を戻した。



「……言われてみれば、そうなのかもしれないと思うわ。どうしてあれを『名前』だとわかったのかしらと思っていたけれど、あれはわたくしの魔女名なのね」


「つまり、シンデレラ。君はル・フェイに知らされていなかったのかい」


「…………。おかあさまは、わたくしが魔女になりたいと思っていないのを知っていらっしゃったから……あまりそういう話をされなかったわ」



 一瞬渋面になったものの、シンデレラはレヴィの言葉に答えた。答えなかったら教育的指導が必要だと考えていたので、ほっとする。



「だったらなんで、サーシャに教えたんだろう? ――と言いたいところだけど、僕は恐らくその答えがわかっている」


「え?」


「本当ですか?」



 シンデレラとサーシャの声が重なった。

 


「推測だけどね。――その前に聞いておきたいのだけど、シンデレラ。君は自分がサーシャのことを好きすぎる・・・・・ことについて自覚はある?」


「……? 確かにわたくしはおねえさまが好きですわ。家族の中で一番。他の誰よりも。でも、それがどうしたというんですの? だっておかあさまも、ローズおかあさまのことを大好きだったじゃありませんの」


「――やっぱりね。……結論から言おうか。サーシャはシンデレラの『碇』なんじゃないかと思う。それを判別できるのはシンデレラだけだから、曖昧な言い方になってしまうけど――恐らく間違いないだろう」



 サーシャはレヴィの言葉が呑み込めず瞬いた。



(『碇』? 『碇』って、物質的な碇のことじゃない、わよね?)



 そんなサーシャの様子を見て、レヴィは言葉を足した。



「『楔』『鎖』――人によって言い方は様々だけど、契約者のことを聞いたことがあるなら、ル・フェイから聞いているだろう。魔女や魔術師を、時代に、ひいてはこの世界に留める、そういう役割を負う人間のことだよ」



 それで、サーシャもレヴィの言いたいことを飲み込めた。確かに聞いたことがある。ル・フェイも『碇』に例えていた。



「おねえさまが、わたくしの『碇』……?」



 シンデレラが、信じられないというように呟いた。サーシャも同じ気持ちだ。何故なら。



「もしそうなら――シンデレラがわからないはずはないんじゃないでしょうか」


「そこは僕には何とも。正式な魔女でないからか、本人が魔女になりたいと思っていないからか、それともただ元々判別できないタイプの魔女なのか――『碇』については遭遇事例が少なすぎて情報も少ない。僕も推測で言うしかないんだ」


「では、どうして『碇』だと?」


「そう考えた理由は二つある。一つ目は、正式な魔女でないとはいえ、感情が昂って魔力が暴走するような事態でも、時代からも界からも動かなかったこと。二つ目は、シンデレラがサーシャを好きすぎる――自覚がなく異常なほどに執着しているからだ」




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