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シンデレラの愛を一身に受ける義姉は、舞踏会で魔術師に求婚される  作者: 空月
その時彼は(レヴィSide)

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5話




 人気の少ない場所にいたとはいえ、舞踏会会場は話をするのにはあまり向いていない。バルコニーに出ることを提案すると、彼女は頷いた。


 呪いじみたもの――の原因である彼女の義妹・シンデレラについて聞いてみる。

 しかし要領が得ない。どうやら彼女はシンデレラが『そういうことをしかねない』と確信しているようだが、その根拠がいまいち見えてこないのだ。

 詳しく聞こうと水を向けると、彼女はかなり言いづらそうに口を開いた。そして判明する根拠。



「シンデレラは私のことが、ものすごく好きなんです……」



 ものすごく好き。少し掘り下げて訊いて、なるほど、つまり執着しているということか、と納得すると同時に、どうして言いづらそうにしていたのだろうと思う。向けられている当人が察するほどなのだろうから、客観的事実として憚るところはないように思うのだが。


 今度こそ呪いについて詳しく探ることに了承を得て、彼女の手を取る。彼女にまとわりつく魔女の力――のなりそこないのようなものを探ると同時、彼女の奥深くにしみ込んでいる魔女の力も探る。

 まとわりついている方は、彼女の奥深くにしみ込んでいる魔女の力が強まったことによるものらしかった。



『好き。好き。大好き』


『わたくしの大好きなおねえさま。わたくしの大切なおねえさま』


『誰の物にもなってほしくない。いつか誰かに嫁ぐだなんて考えられない』


『私の物にしたいだなんて贅沢は言わない。ただ、ずっと傍にいてほしい』



 そんな思念が読み取れる。なるほど、『ものすごく好き』は事実だった。


 思念が魔女の力の源だった。つまり、この思念が願うことが、呪いの形になっているのだ。

 シンデレラの思念がまるでこちらにまでしみ込んでくるように思えるほどに、強烈な感情だった。久しく感じていない強さの思いに、こちらがあてられそうだった。



 探るのを終了して、ざっと『独り身の呪い』と要約すると、彼女はぱちりと瞬いた。

 いきなりそんなことを言われても、面食らうだろうとは思ったので、もう少し詳しく説明する。彼女は現実が呑み込めないような顔をした。義妹にそんな拗らせた執着をされていたと知ったら、そんな顔にもなるだろう、とレヴィは思った。



「え、ええと……では、この舞踏会で万が一にも誰かに見初められないように、『人に認識されにくい』呪いになっていたんでしょうか?」



 それでも彼女は思考停止を選ばなかったようで、的確に推測を口にしてきたので肯定する。彼女は心が強いのかもしれないとレヴィは思った。




 呪いをどうするか話し合う。

 「解けるなら探ってもいい」と言われたので、呪いを解いていいかと訊いたのだが、彼女はこれまでわかった事実から、きちんと問題点を認識していた。

 ではシンデレラをどうにかするしかないが、そこも曖昧な点が多くて結論が出しづらい。いくつか質問を重ねる中で、彼女とシンデレラが過ごし積み重ねてきた日々を垣間見る。本当の姉妹のように仲がよかったのだろう。


 と、彼女から意外な提案が飛び出してきた。



「シンデレラに会ってもらえませんか? やっぱり魔術師の方でないとわからないこともあると思いますし……私だけでうまくシンデレラを説得できないかもしれませんし」



 こんな通りすがりの、なんだか面白そうだったからという理由で関わってきた相手に対して、あまりに信頼を置きすぎているとレヴィは思った。これを『心配』という感覚だと思い出すのに少しかかったくらいには久しぶりの感覚だった。

 確かに自分に彼女を害したり絶世の美少女だというシンデレラをどうこうするつもりはないが、年頃の娘として、異性に対する危機感が足りないのではと思う。ましてやシンデレラに会うとしたら家に行くしかない。もっと躊躇すべき案件だろうに。



 返事に躊躇していると、彼女は何か勘違いしたようだった。重大な間違いを犯してしまったかのような表情で、平伏せんばかりに謝罪してくる。

 そういうつもりではなかったので、慌てて口を開く。慌てるということ自体いつぶりだろうと思いながら。



「そういう意味じゃないんだ。ほら、僕は契約した魔術師だろう? 王子に無断で遠くに離れられないんだ。でも今の王子に近づくのは、ちょっとね。面倒が多くなりそうだから」



 事実ではあるが、考えていたこととは別のことを口にする。

 レヴィから「危機感足りないんじゃない?」などと言われたら、きっと彼女は恥ずかしさに縮こまってしまって、今のような距離感で話せなくなるだろうと思ったので。


 遠目に舞踏会の会場を眺めて、気付く。

 そういえば彼女は、誰とも踊らないままここに来てしまったのではなかっただろうか。


 問いかけてみると、彼女はうっと息を呑んで、気恥ずかしげに「声を……かけられなかったので……」と答えた。


 シンデレラの呪いがあったとはいえ、舞踏会で誰にも声をかけられないというのが不名誉だということはレヴィにもわかる。そしてレヴィがここまで連れてきてしまったので、その機会をゼロにしてしまったということも。

 そこまで考えて、レヴィはあることを思いついた。



「僕でよかったら踊る? 君をリードできるくらいには踊れるはずだけど」



 そう、自分と彼女が踊れば、彼女は舞踏会で誰にも声をかけられず踊ることもなかった不名誉を被らなくて済むはずだ。



「あ、でもこの格好じゃまずいか。えーと、うん。王子の服を参考にして……だいたいこんな感じかな」



 舞踏会に参加するために出てきたわけではなかったので、自分の服装がふさわしくないことに気付き、変える。王子のものを参考にすれば少なくとも時代遅れだとかにはならないだろう。


 いい思いつきだと気分がよくなっていたレヴィは、彼女がひたすら戸惑っていたことに気付かなかった。何せちょっと楽しくなっていたので。




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