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1話

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よろしくお願いします。

「サーシャお姉さま、本当にわたくしを置いて舞踏会に行ってしまわれるの……?」



 絶世の美少女な義妹が、うるうると瞳を潤ませて見上げてくるのに、サーシャはうっと息を呑んだ。



「シンデレラ、まだわがまま言ってるの? 招待状が来たのだから仕方ないでしょう」


「あなたが参加年齢を満たしていれば一緒に連れて行ったけれど……年齢が足りないものはどうしようもないものねぇ」



 姉のメイディと母のローズが呆れたように言う。というのも、義妹――シンデレラが舞踏会に行くのを引き留めようとするのは既に両手両足の指の数では足りないほどだからだ。

 舞踏会への招待状が届いてからこっち、シンデレラは「舞踏会なんて行かないで」「わたくしひとりぼっちになってしまうわ」「サーシャお姉さま置いていかないで」と縋りつかんばかりに引き留めてくるのだ。それも上の姉や母には何も言わず、サーシャにだけ。



「本当にシンデレラはサーシャが好きねぇ」



 のんびりとメイディが言うが、そういう問題ではないとサーシャは思う。ふつうに考えて異常だ。



「メイディ姉さまが言う通り、招待状が来たのだから、行くのは義務なのよ。そしてあなたは年齢を満たしていないから連れていけないの。わかってちょうだい」



 何度繰り返したかわからない内容を口にする。シンデレラは小さな唇を尖らせて、わかりやすく拗ねた表情をした。



「一人くらい行かなくても気付かれないわ。わたくし、サーシャ姉さまが心配なの。きっと悪い男の人に騙されて手籠めにされてしまうわ」


「騙されて、まではまだしも、手籠めにって、それはないわよ、シンデレラ」


「わからないわ。だってサーシャ姉さまはこんなにこんなに素敵なんだもの。わたくし以外の人がその魅力に気付いてしまったら、無理やりものにしようとする人だって現れるに違いないもの」


「いつも言うけれど、そういうのを心配すべきはあなたの方というか、私については今の今まで男の人に声をかけられたことすらないじゃないの」



 正確に言うと、そばにいるシンデレラが美しすぎて視界にも入らない、という。そもそもサーシャを素敵だとか言うのはシンデレラだけだったりする。

 まったく見向きもされない悲しい思い出に遠い目になりながら、サーシャはシンデレラの説得を試みる。



「ちょっと行って、運がよければ誰かと踊って帰ってくるだけよ。うちは貧乏だし、私は地味顔だし」


「あら、わたしは嫁ぎ先を見つける気満々よ?」


「メイディ姉さまは誰か捕まえられそうだからいいんですよ」



 メイディは少し気の強そうな美人顔である。ローズもそれなりに整った顔をしているので、完全に地味顔なのは家族の中でサーシャだけだったりする。純朴な顔立ちをしていた父に似ているらしいので、ローズはサーシャの顔がお気に入りだが。



「せめて持参金なしで嫁がせてくれる人を見つけたいわよね」


「志が高くいらっしゃって心強いです、メイディ姉さま……」



 シンデレラの生家であり、今はサーシャ達の家でもあるフィニエスタ家は、かつては裕福な豪商だった。しかしとある事情で今は見る影もなく、その日の食事にも事欠く日がある始末。持参金なんてひねり出す余地がないのだった。

 なので、食い扶持を減らす且つうまくいけば実家に支援をもぎとる結婚をするべく、婚活に励まなければならないので、今回の招待状は渡りに船だった。


 今回招待された舞踏会は特別だ。個々で開く舞踏会ではなく、なんと宮廷舞踏会。しかも王族主催。

 爵位もないのになぜフィニエスタ家が招待されたかというと、定期的に庶民の一部を招待する制度があるからだ。それに選ばれたのは幸運というほかない。何といっても、支度金が出るのだ。



「このドレスも、私はまた着る機会はないでしょうから、終わったら質に入れるつもりだし。本当に心配するようなことはないのよ、シンデレラ」


「サーシャ姉さまは自分の魅力をわかっていないからそう言えるんだわ。わたくしはこんなにこんなに心配しているのに!」



 涙ぐんだシンデレラがダッと駆け出した。娯楽本で見る悲劇のヒロインのようだ――と思っているうちに自室に籠られてしまう。


 思わずため息をつく。メイディは楽しそうに笑っているし、ローズは微笑ましそうに見つめている。味方がいるようでいない。



「ふふ、懐かしいわぁ。ルーチェもよくあんなふうに癇癪を起こしていたものよ」


「そんなところが似なくてもいいでしょうに……」



 ルーチェとはシンデレラの母であり、フィニエスタ家当主デゼルの前妻である。デゼルは既に天に召されたので、正確にはフィニエスタ家前当主なのだが、直系でありフィニエスタ家を継ぐシンデレラがまだ成年を迎えてないので便宜上そう表すことにしている。


 ルーチェとローズは親友で、シンデレラはルーチェによく似ているらしい。絶世の美貌を誇るところもだが、主に特定の人物にのみ執着するところが。

 ちなみにルーチェが執着していたのは、もちろんというかなんというか、ローズである。そこはデゼルでは?と思うのだが、何故か違うらしい。

 シンデレラを見ていると異性に興味を持ってくれるのか不安になるのだが、それなら大丈夫なのかもしれない、とサーシャは安心材料にすることにしている。



 シンデレラは部屋に籠ってしまったが、なんだかんだと舞踏会の時間が迫っている。

 サーシャは急いで舞踏会に参加する準備を進めたのだった。




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