プロローグ馬車の荷台にて
「起きたか」
図太く低い声である魔女は起きた。上半身をむくりと起こして辺りを見回す。
大きな荷馬車の中、森の中を進んでいた。 遠くには青々と草木が生い茂った山が見える。がたりこどりと荒い道を馬車は走っている。
馬車の中にいた大柄の剣をもった男がと目が合った。
「魔女とはめずらしいな。アズナカルドに行くのか」
男は剣を磨きながら、魔女に言った。魔女は怪訝な顔をしながらコクリとうなづく。
「ああ、そう怪訝がるな。俺はガーランド・ガードナー。ただの剣士だ。お前は?」
ガーランドと名乗った剣士は、魔女に話しかける。魔女は、その小さな唇を小さく動かし、ぼそりと自分の名をつぶやいた。
魔女は20代ほど。 片目を包帯で隠し、黒い鍔の広い三角帽子を目深にかぶっていた。髪の毛は黒く肩まで伸びる真っ直ぐな髪。大きな肩掛け鞄を小さな手でぎゅっと握りしめて、大きな瞳でガーランドを見つめた。
「そう怯えるなよ。旅は道連れというじゃねえか」
魔女はやはり少し警戒しながら、ガーランドを見る。
魔女の名はイヴァリーア・キスティス。腐敗した世界に生まれた。1人の魔女である。その瞳に、絶望と希望を秘め。馬車は2人を乗せて、大都市、アズナカルドへ向かっていた。