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北の恋風  作者: 空蝉 明
8/18

初詣の帰りに

お互いに、好きという気持ちはありながら距離が縮まらない、輝と涼。

そんな二人の距離が少しだけ縮まる。

今日は、2学期の終業式。 渉の追試も無事終わり、気の早い渉は、大晦日や新年の計画を立てている。

輝も、年末は、ル・シエルが年末・年始の休暇が長いので、その間どうしようか思案していた。

母 典子は、スーパーが忙しく、元旦以外は、ほぼ出勤になっている。

4日過ぎには、2-3日休みが取れるそうなので、たまには母に親孝行して、二人で一泊二日の温泉旅行にでも連れて行ってあげたい。 来年の夏、北海道に旅行するための費用も、結構貯まって来ているし、そのくらいはなんとかなりそうだ。 輝は家に帰ると、ネットで母と泊まれそうな宿を探した。


夕方、典子が仕事を終えて帰って来た。 『ただいま~』  『おかえり~ お母さん お疲れ。 ご飯作ってあるよ。 まだ 早い?』 『5時半か~ でもお腹ペコペコだから頂くわ。』 『じゃ 俺も一緒に食べるわ。』 『うん 温かいうちに一緒に食べよ。』 典子は、手と顔をさらっと洗い、部屋着に着替えて、テーブルに着いた。

 『じゃ いただきま~す。』 『ねえ お母さん。お母さんの年始の休みはもう決まってるの?』 『うん 決まってるわよ。 4日まで働いて、5日から7日まで3日間お休みだよ。』 『何かその休みの間って予定入れてるの?』

『ううん 予定はないわ。』 『じゃさ 予定入れずに空けといて。お母さんと温泉でも行こうよ。』 『えっ ほんと? あー君が招待してくれるの?』 『まぁ そんな大したところには連れていけないかもだけど、近場で探して見ようと思って。たまには親孝行もしないと、天国の父さんに叱られそうだし。(笑)』 『わぁ~ うれしいな~ じゃ 楽しみにしてるね。』 『行き先は決まっても言わないよ。 その時のサプライズにする。』 『ほへ~ 考えたわね(笑) なんかちょっとワクワクするね。』 典子は満面の笑みを浮かべた。 自分の母親に対してあまり綺麗だと感じる人は少ないかも知れない。 いくら綺麗でも所詮は自分の母親なのでそういうことを余り意識することは少ない。 けれど、輝は美しいと思うものは、条件を問わず、美しいと感じる感性を持っていて、自分の母親でも、笑顔の典子は、そこらの女優でも敵わないほど美しいと思った。


渉からメッセージが入って来て、大晦日は11時に愛心高校前駅の横のコンビニ前に集合!と書いてあった。

まぁ 大晦日は、暇だし渉の計画に参加してやるか。 輝は思った。

12月27日。その日は、ル・シエル今年最後の営業だった。年始は8日から営業し、それまで、結構長い休みになる。 年末・年始は食材の調達コストも上がり、良い物もすぐに無くなってしまう。 店のスタッフは毎週水曜日の定休日と他にローテーションで週に1回休みをとれるが、サービス業は祝日がないため、休暇が十分に取れない。 高峰さんや佐川さんは自分が休みの日でもたまに店に来たりして、実質的な休みが少ないのが実情だ。 なので 唯一 この長期の休みだけは家族でゆっくりしたり、自分の時間が持てるようにしようということで、高峰さんは長い休みにしている。

毎年、最後の営業日は1部だけで終了し、その後は、店のスタッフ全員で打ち上げをする。

残っている店の食材を、全部使い切って、色々な料理を従業員に提供する。

車で通勤してる人は別だが、公共交通機関を使ってきている人は、ワインやビールも飲める。

なので、この日だけは車で通勤している人も、バスや電車で来たりする。

輝も、普段食べられない高峰の料理がこの日は食べられ、佐川のデザートも食べられて大満足できた。

佐川が、一人に2個ずつ、小さな箱にケーキを入れお土産にと最後に配った。

輝は、母に上げようと思って店を出かけて足を止めた。 ふと 涼に一つ渡せないか?と思いついた。

とりあえず、 佐川に、『佐川さん申し訳ないんですが、箱もう一つあれば、いただけませんか?』 『ああ いいよ そこの棚の引き出しにあるから持って行って。』 『ありがとうございます。 お疲れ様でした。 良いお年を。』 『うん ありがとう。 輝くんもな。』

輝は、中の一つを慎重に取り出して、別の箱に入れた。

そして、店を出てバイクの座席に、箱を置き、涼にメッセージした。 涼ちゃん、起きてる? すると 起きてますよ。 どうしたの? あのさ、ちょっと渡したいものがあるんだ。 渉の家の近くのコンビニなら俺わかるんだけど、出て来れる? うん いいよ。コンビニまですぐだから、輝君着いたら、メッセージ入れて。着替えて出れる準備しておくから。2分くらいで行けると思います。 わかった。夜遅い時間に無理言ってごめんね。 ううん 大丈夫。じゃ メッセージ待ってるね。 

輝は、コンビニに着き、涼にメッセージを送った。本当に2分ほどで涼がやってきた。

『涼ちゃん こんな遅い時間ほんと ごめん。 これ 良かったらどうぞ。』 輝はケーキの入った箱を涼に渡した。 『何かデザートかな?』 『うん 今日で今年の俺のバイト終わりでね。 帰りにうちのパテェシエが作ったケーキを2つもらったんだ。 一つはお母さんにと思って、で もし涼ちゃんが起きてたら涼ちゃんに食べてもらおうかなって。』 『うわ~ うれしい。 ちょっと箱開けてみていい?』『もちろん。』 涼が箱を開けると、上に小さな飴細工でハートをかたどった、ホワイトチョコレートのケーキだった。 『わぁ~ かわいい~ すごく 綺麗! これ本当に私もらちゃっていいの?』 『うん そのために俺ここまで持って来たんだけど。』輝は笑った。 『じゃ 遠慮なく いただきます。 わざわざ ありがとう。』 『ううん。 じゃ 家の人が心配するから、早く家に戻って。 ごめんね遅い時間に来てもらって。涼ちゃんの家、渉んちの近くって言うのは知ってたけど、場所知らなくて。』 『じゃ 輝君家まで 送って。』 『いいけど 教えてくれるの?』 『もちろんだよ。』 涼はゆっくり歩き始めた。 輝はバイクのエンジンを切ったまま押しながら涼の横を歩いた。

路地を曲がった所に、3軒 家が並んでいて、 その奥のほうに、2階建てのコーポがある。そこに、涼は姉と住んでいるらしい。 『ここの2階の一番奥。送ってくれてありがとう。』 『ううん こちらこそ、遅い時間にありがとう。』 『じゃ おやすみなさい。』 『おやすみ~。』

たった2分程度では、並んで歩いたというだけで何も話せなかった。 せめて10分位は涼と歩きたかった。

涼も帰って、部屋に戻ってケーキを見つめながら、もう少し家まで時間がかかればよかったのに・・・と思った。 でも 涼は、このケーキを自分のために輝が持って来てくれた と思うとうれしいのと、何だか期待するような気持ちで、頬がゆるみっぱなしだった。


輝が帰ってケーキを典子に渡すと。『うわ~ 綺麗。この時間食べると太るかな~? でもいいや! 今日はたべちゃおっと』 と言ってコーヒーを煎れてケーキを食べた。 『流石 佐川さんのケーキね。 そこらのケーキと全然違うわね~ ほんとっ 美味しい。』 典子は笑顔で食べてる。 『お母さんが喜んでくれて良かったよ。』 輝も笑った。

12時近くに、輝がパソコンを見ていたら、涼からメッセージが来た。 輝君 まだおきてるかな? うん 起きてるよ~。 今日はケーキわざわざありがとう。本当は遅いから明日食べようと思ったんだけど、姉さんにたべられちゃったらって心配で、それに美味しそうで我慢できなくて、頂いちゃいました。

すご~く 美味しかったよ。 ありがとう。輝は、 喜んでもらえてうれしいよ。良かった~。 と返信した。 少しだけ涼に近づけたかな? 輝はうれしかった。涼も自分にわざわざ持って来てくれた理由を、自分の中で勝手に都合の良い理由に想像してうきうきしていた。


大晦日の夜、輝は約束の時間より少し前に駅前に着き、携帯電話で熱田神宮について調べていた。

輝は、歴史好きで、寺社仏閣も大好きだ。 この年齢には珍しく、神社のような凛とした空気の流れているような場所にいると、心が清らかになった感じがして、気分が滅入ると一人でそう言う所に行って、気分転換をした。 

熱田神宮は、神宮(伊勢神宮 正式名は神宮と言う)の次に中部地方では社格の高い神社で、広大な敷地を持ち、三種の神器の一つ草薙神剣くさなぎのみつるぎを鎮座する。

輝は、初詣だけではなく、1年のうちに2-3回はここに来ることがある。 中学2年の頃からだろうか。

熱田神宮の本殿の脇から裏手に進む道は、こころの小径こみちと言って、都会とは思えない静けさと、森の中を歩く心地よさを感じる事ができる。 輝は、ここを歩くのが好きで、都会の中で、そんなにはない、自然を感じられる場所のひとつにしている。 歴史は古く、第12代景行天皇の御代にまで遡る。西暦で言うと113年と言うから、1900年近くも前だ。そんな事を調べていると、横から 輝君と声をかけられた。 明日香だった。 『あっ 明日香ちゃん 早いね。』 『うん 少し早めに来たんだけれど、そう言う輝君のほうが、もっと早いじゃない。』 『そうだね。俺 時間に遅れるの好きじゃなくて、いつも早めに出ちゃうんだ。 余り寒いの苦にしないほうだから、ネットでちょい 色々みてりゃ いいか~ みたいな感じで。』『そか~ でも もうみんな来るんじゃない?』 『そうだね。』と輝は答えた。

『でも、確か林間学校の時、バスの出発時間 ギリギリくらいに来たんじゃなかったっけ?輝君。』

『ああ そうだったね。 でも5分前だったし、みんなバスの中で座って待ってるでしょ? そう言うのはいいんだよ。 でも今日みたいな待ち合わせは、寒い中、遅れると、みんな立って待たなきゃいけないでしょ。 そういう時は、少し早めに来るようにしてるかな。』

『そっか~ 確かにね~ そういうとこ優しいよね~。』 『優しいか?普通でしょ?』 『う~ん そりゃ 輝君には普通かもだけど、みんながみんなそんな風に相手の事を考えられないのよ。 本当なら、きっとみんながそう考えれば、嫌な気持ちもしなくて済むんだけど、みんな自分の都合優先みたいになって、人の事を後回しにしちゃう。』  『そんなものかな~ まぁ 俺はそこまで、良心的な気持ちとかじゃなくて、普通にみんなが嫌な気持ちにならないほうがいいかなって思う程度。 一緒に行く前くらい、いい気持ちで行きたいじゃない。 初詣だから余計ね』 と言って輝は笑った。 明日香も 『そうだよね』 と微笑んだ。

すぐに、涼が来て、『今晩は。今日はよろしく~。』と言った。 渉と理恵が歩いてくるのが見えた。

渉は、『お待たせ』と言い、理恵も 『待たせちゃってごめんね。』と言った。

『じゃ 行きましょう!』 明日香がみんなに声をかけ、ICカードで改札を通り、電車に乗った。

『始発で座れるから助かるよね~。』 『だよね~。』 『すごい人だろうな~。』 そんな会話をしながら電車は出発して、神宮前駅に電車は着いた。


流石に、大晦日の夜は、人が多く、歩くだけでも大変だった。 離れてしまったら、LINEで連絡を取り合うことにして、本殿の方に向かって行った。

本殿から少し離れた所で止まり、新年になるのを待った。 『あけおめ~』 渉が言うと、みんなで『おめでとう~』と声をかけあった。 あちこちで 『おめでとう』 と声が聞こえる。渉が 『すごい人だから、とりあえず終ったら、ここにもう一度集まるってことでどうかな?』と言った。 『うん。』とみんな同意して、参拝に向かった。それぞれ、人波にもまれてバラバラになってしまったようで、輝はなんとか、本殿の前までたどり着いて、手を合わせた。今年も良い年になりますように。神様のご加護がいただけるよう、自分も努力するのでよろしくお願いします。輝は心の中でつぶやいた。 具体的な願いはせず、抽象的なお願いだけして、約束の場所に戻って行った。


まだ父が生きていた頃、父と輝でどこかの神社にお参りに来た事があった。

輝は、神様に、『幸せになれますように。』と声を出してお願いした。

すると、父が『それでは神様にお願いは聞いてもらえないよ。』と言った。 輝は『どうして?』と尋ねると、『神様は沢山の人から頼まれるけど、全部は聞いてあげられないんだ。 忙しいからね。 それで、神様は助ける人をどの人にするか選ぶんだよ。 その時、自分も精一杯頑張るから、神様 どうか力を貸してください。とお願いした人を選ぶんだよ。 神様は、努力もせずに、全部 神様に頼るような人は助けないんだよ。』 そう教えられた。 だから 輝は神様にお願いする時は、必ず自分も精一杯努力する。という事を神様に伝えるようにしている。

輝が、約束の場所に戻ってしばらくすると、涼が戻ってきた。 『大丈夫? すごい人だったね~』 輝は涼に言った。 『うん もみくちゃにされて明日香ちゃんとも離れちゃった。 ねえ 輝君は何をお願いしたの?』 『特別な事はお願いしてないよ。今年も良い年になりますようにって ただそれだけ。 涼ちゃんは?』 『私はね。 内緒!』涼はいたずらっぽく微笑んだ。 涼が笑うと天使のような可愛さで、輝はぎゅっと抱きしめたくなる気持ちを、抑えるのに苦労した。

明日香が戻ってきた。 『おつかれ~』 輝が言うと、『涼ちゃんとはぐれちゃって・・・ 凄い人だったね。』と言った。 『後は、渉と理恵ちゃんだね。』 輝が言うと、明日香は、『あの二人このままいなくなるんじゃないの?』と笑った。 そうすると 明日香の後ろから、理恵が、『誰がいなくなるって!』と明日香を後ろから抱きしめた。 『うわっ』 明日香が叫ぶと、理恵は 『あはは』と笑いながら、腕を解いた。

渉も理恵の後ろで、にたついている。

『とりあえず、初詣は終ったけど、この後どうする?』 輝が言うと、 渉が 『悪い。 俺 理恵ともう少し二人でぶらぶらしてから帰るわ。』 と言った。 明日香は、『私は帰るよ。』と言い、涼も『私も帰る』と言う。

『じゃ 俺 明日香ちゃんと涼ちゃん送ってから帰るわ。』と輝は言った。 渉は、『輝 すまん。じゃ 頼むな。じゃ またな~』と言って、理恵と二人で人混みの中に消えて行った。


輝たち3人は電車に乗り、『駅から明日香ちゃんの方が近いから、先に明日香ちゃん 送ってから涼ちゃんでいいかな?』『明日香は私は近いからいいよ。 涼ちゃん送ってあげて』と言った。 すると涼は、『ううん 私明日香ちゃんちまで輝君と行ってから送ってもらうよ。 輝君 いいでしょ?』 と言った。 『うんうん じゃそうしよう。』 という事で明日香を送ってから涼を送っていく事になった。

駅に着き、3人は、明日香の家に歩き始めた。『明日香ちゃんは何をお願いしたの?』 涼が尋ねると、 『私? 私ね~ 今年こそ素敵な彼が出来ますようにってお願いしたの。』 と言った。 輝は、なんて反応して良いかわからなかった。すると涼が、『そか~ 彼氏 欲しいよね』と言った。

明日香が、『輝君は?』と尋ねるので 『俺? 俺はいい年になりますようにってだけ。』 と言うと、明日香は『え~ それだけ? なんかつまんない~』 と声を出して笑った。 涼も 『平凡ね~』 と笑っている。

明日香を家まで送って、『じゃあ』 と明日香と別れて、今度は涼の家に向かった。

涼は、『輝君って何か好きな事あるの?』と尋ねた。 『好きな事って趣味って事?』 『う~ん 趣味とか好きな場所とか、行きたいところとか・・・』 『そうだね~ 料理は趣味というより実用的に毎日してることだけど、上手く出来た時はやっぱり嬉しいし、食べた人が笑顔になれたら、作って良かった~って思えるから好きかな。 後 行きたいところは北海道。 今年の夏休みに行くつもりでお金貯めてるんだ。 バイクで10日間くらい行けたらいいな~ってね。』 『うわ~ いいな~ 北海道 私も行ってみたいな~。』 『涼ちゃんは、何か趣味とかあるの?』 『私はやっぱり料理かな~。 お姉ちゃんと二人でお姉ちゃん仕事で忙しくて疲れてるから、せめて美味しいもの作ってあげたいの。私 お姉ちゃんに頼ってばかりで何も出来ないから、せめて料理くらいはってね。』 『そか~ 偉いな~。 そういう気持ちが俺は好きだな~。』

『そんな風に言われたら恥かしいよ・・・』 『いや、俺もそういう気持ちわかるから、うち母子家庭だから、涼ちゃんと俺少し環境が似てるからさ。 俺も母さんにそんな気持ちあるんだよね。だからなんとなく涼ちゃんの気持ちわかるんだ。』 『私ね。 林間学校の時 思ったの。 あ~ 輝君みたいに料理ができたらな~ 私に教えてくれないかな~って。』 『俺さ あの時 他の子の技術も見てたんだけど、みんなの中で一番涼ちゃんが、できると思ったよ。 やり慣れてるってすぐわかった。 みんな 普通の高校生なら高いレベルの子たちばかりだったけど、涼ちゃんは特に凄いよ。』 『輝君にそんな風に言われるとお世辞でもうれしいよ。』 『お世辞じゃないよ。 まじでそうだって。』 『ほんと? ありがとう!』 涼は微笑んだ。

『結構 寒いね』 涼は言った。 『うん。』輝は答えた。

もうすぐ 涼の家だ。 輝は寒くてもこの二人の時間が終ってしまうのが寂しかった。

涼は、『今日ね。お姉ちゃんいないんだ~。 彼氏さんの家に行って、帰って来ないの。 輝君。もし迷惑じゃなかったら、うちで温かいもの飲んでから帰らない?』 涼は自分の一番の勇気を出して、輝を誘った。『えっ いいの?』 『うん。 大したものは出せないけど、寒いし少し温まってから帰った方がいいよ。』 輝はかなりドキドキした。 涼と二人でか・・・ いいのかな~?そう思いながらも、そんなチャンス二度とないかも。と思って、『涼ちゃんがいいなら、じゃお茶だけ頂いてから帰るけどほんとにいいの?』

『うんうん コーヒーとかカフェオレくらいならインスタントで悪いけどあるし。来て。』

涼は、家に着くと、鍵を開け、家の中の明かりを点けて、『狭いけど どうぞ。』と言った。 『お邪魔します。』

輝は靴を脱いで、涼が引いてくれた椅子に座った。1階の小さな玄関に入ると、2階に上る階段があって、階段を上がったところにスペースがあり、小さいテーブルと椅子が二つ置いてあった。右奥がキッチンでこのサイズの家にしては大きめのキッチンだ。ガスレンジがあって シンクもまぁまぁの大きさに見える。 涼はシンクの下の扉を開けて、姉がいつも飲むドリップコーヒーを出して、お湯を沸かした。

『輝君 コーヒーかカフェオレならどっちがいい?』『カフェオレがいいけど面倒ならコーヒーでいいよ。』 『ううん 全然面倒じゃないからカフェオレにするね。 私もコーヒーよりカフェオレの方が好きだから。』

『じゃ 悪いけどカフェオレでお願いします。』

涼は、左奥にある冷蔵庫から牛乳を出して、鍋で温めた。 輝は、『このサイズの家にしてはキッチン広いね』。と言った。 涼は、『そうなの? 私よくわからないけど、もう少し広いといいなとは思うけど、二つガスが点くから、二人分の料理なら、そんなに不自由はないかな~。』

涼は、テーブルの近くの食器棚からマグカップを二つだした。 『ごめんね。 ちゃんとしたコーヒーカップ置いてなくて、マグカップなんだけど。』 『ううん 十分だよ。 うちもそうだよ。』輝は言った。

『私のマグだけど、ちゃんと綺麗に洗ってあるからそれで飲んでもらっていい?』 涼は恥かしそうに輝に尋ねた。 『涼ちゃんが嫌でないなら俺は全然構わないけど。 俺も飲んだ後、綺麗に洗うよ。』 『大丈夫だよ。私が後は洗って置くから。』そう言って、マグカップにコーヒーを半分ずつドリップして、温めた牛乳を入れて、小さなトレーにマグカップとスティックシュガーとスプーン、スプーンを置ける小皿を乗せて、持ってきた。 『簡単でごめんね。 どうぞ。』 涼は輝の前にそれぞれを置いた。

頂きます。 輝は砂糖を入れてかき回し、ゆっくり飲んだ。 『美味しいね。』輝は涼に言った。 『ありがとう。』 このスペースの奥は恐らく姉と涼の部屋だろう。二人で住むにはちょっと狭いが、なんとか住めるという感じがした。

涼が 話始めた。 『私んち、色々あって、私 お姉ちゃんに、ここで住ませてもらってるんだけど、見ての通りここ狭いでしょ。 お姉ちゃん一人なら十分快適なんだけど、私のせいで不自由かけてるの。 出来たらね。学校の女子寮に入れたらいいんだけど、親の家が通学できる範囲だし、親との事情も学校に聞かれたくないの。お姉ちゃんが、進路懇談とかも出てくれるから、頼りっぱなしなの。』

『いい お姉さんで良かったね。』 『うん ほんと感謝してる。 私も輝君と同じで、学費が今は免除されてて、だから愛心高校に来たの。 けど 私 輝君ほどには出来ないから、成績落ちたら公立に転校しないと無理なんだ~。 勉強も頑張ってるけど、成績は少し落ちてるし・・・。』

『俺、涼ちゃんとクラス違うからそんなわからないけど、何か苦手な科目あるの?』 『数学。 他はそうでもないけれど、数学が少し付いて行くのが精一杯みたいになってるの。』

『数学か~ 俺、割と数学得意なほうだから、俺で良ければわからないとこ教えるよ。』

『ほんと! 助かる!お願いしていい?』  『うん いいよ。』 『よかった~。』涼はなんだか凄くうれしそうだった。 涼が数学が苦手なのは本当だった。 けれどこの時、数学が苦手でよかったとさえ思った。 これを正当な理由にして輝に教えてもらえる。 それがうれしかった。 今まで、どうやって近づこうか悩んでいたのに、これからはいつでもこれを理由に堂々と輝と二人になれる。 涼は幸せな気分だった。





3学期も終わりに近づき、いよいよ輝も2年生、クラス替えが行われ、新しい友人もできる。

涼にも、新しい友人が。 そして涼は彼女と親友になる。その前に期末テスト 数学の苦手な涼が取った行動は?

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