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北の恋風  作者: 空蝉 明
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輝と母 そして玲奈との別れ

輝の母 典子と父のなれ初めとファーストキスの相手玲奈と輝のその後は・・・

輝の母 典子は、41歳。 典子は父と結婚する前は美容師をしていた。

父はフランスで修行後、帰国してしばらくは、ホテルのキッチンで働いていた。

その時に、父の行く美容室で働いていたのが、母であった。

母と父は4つ違いで、時々父の髪を切る母に、父が一目ぼれしてしまったらしい。

父は、輝よりも身長が高く(輝は179cm、父は182cmだった)輝は細身で筋肉質だが、父はがっしりとした体型で筋肉質だった。 父は理数系こそ弱かったが、芸術的センスに優れ、ピアノも弾け、絵画も上手かった。 その上、語学が堪能で、しかもハンサムときていた。 そんな父だったので女性にもてないはずはない。 母に出会う前までは、あちこちの女性と遊んでいるような人だったらしい。

しかし、母はまじめを絵に描いたような人で、堅くて、遊び人の父を最初は毛嫌いしていたようだ。

父は、母を何度か誘ったが断られ、母に何でもいう事を聞くから一度だけでいいからデートして欲しいと頼み込んだ。そこで母の出した条件は、今、付き合ってる女性すべてと別れて、女を作らずに1ヶ月間一人でいたら一度だけならデートしてあげる。 と言うかなりきつい、と言うか父にとってはほぼ無理とも思える条件だった。 母は、最初から付き合うつもりなどなく、こんな無理な条件ならどうせ出来ないから諦めるだろう と思っていたらしい。 ところが、父はどうしても母が諦められず、母の条件をついにクリアしてしまった。

母は、嘘の嫌いな人だったから、約束どおり一度はデートすることにした。

しかし、父の女癖の悪さは今まで、見たり聞いたりしていたので、一度だけにするつもりだった。

その最初のデートで父が母を連れて行ったのは、渥美半島の先端にある伊良湖岬だった。

伊良湖には恋路が浜という長い砂浜があり、潮風が気持ちよい。

その時は、まだ4月で人気ひとけも少なくて、涼しくて過ごしやすい季節だった。

母が、驚いたのは父が母のために、お弁当を作って来たことだ。

父がコックだと言う事は知っていたが、デート先のどこか食堂かレストランで食事するものだと母は思っていた。 しかし、父は母の同僚に、母の好きな食べ物を事前に聞いて、この日のためにお弁当のメニューを考えて作ってきたのだ。 母は洋食より和食が好きで、特にお寿司が大好物だ。 それは今でも変わらない。

そこで父は、穴子の押し寿司と、今では珍しくもないが、アボカドとズワイガニの身を白ゴマとマヨネーズで和えた巻き寿司を作ってきた。 今で言うカリフォルニアロールに近いものだ。

当時は、アボカドを寿司に使う発想はまだなく、フレンチのシェフらしい父のアイデアだった。

父は、自分が母を心から愛してるという事を一回のデートでわかってもらうために、このお弁当に賭けたのだ。 父は料理は愛情だとよく話していた。 それを母に実践した。

流石の母も、このお弁当には感動したらしい。 父はただ一言『どうぞ食べて見て。』としか言わなかったらしいが、母の好きなものを調べて作って来てくれたのは、いくら鈍感な母でもわかる。

そもそも、自分とたった一回の約束のデートのために、全ての女性と別れてこれをされては、母もその気持ちを大切にしないわけにはいかない。

こうして、母と父は付き合うようになった。

父は、母と付き合い出してから、全く遊ばなくなり、仕事ばかりして、人が変わったようになったらしい。 それは母と結婚するため少しお金を貯めるという事、母を幸せにするためには独立できるだけの、料理人としての腕を磨くためだったようだ。

それから一年後、母と父は結婚した。

結婚式は、質素にカトリックの修道院で行われた。 本来、信者以外は結婚式が出来ないが、1ヶ月間,神父の講義を受ける事を条件に認められた。

母は、父が亡くなるまでは、少し父の店の手伝いをしていたが、専業主婦に近かった。

輝の髪は、父が亡くなるまでは、母がカットしていた。

父が亡くなった時、母はまだ35歳で、再婚も十分にできる年齢だったし、ノーメイクでも平気で外出できるほど綺麗だったので、再婚したり、他の男性と付き合うことは簡単にできたはずだが、母は全くそういう事をしなかった。

父を亡くして暫くした後、母はクリスチャンになり、聖書研究に没頭していて、仕事や家事がない時は、聖書を読んでいる事が多かった。

輝は、父に似て料理も上手く、母のレジの仕事も、色々なシフトがあって、早朝や夜遅めの時もあったので、輝が自分から食事は作るようになった。 ただ 母が休みのときは、母が料理していた。

41歳になっても、若々しくて、高校の最初の父兄懇談で会ったクラスの女子に、水主君のところはお姉さんが来てくださってるの?と聞かれたくらいだ。

化粧は薄く、 UVや基礎化粧は丹念にするようだが、ちょっとファンデーションを塗って、薄い口紅塗って はい お終い(笑) そんな感じでメイクに10分以上かけてるのをあまり見たことがなかった。

輝は、母 典子を尊敬していた。 自分が母なら、子供がいても恐らく好きな人を作って再婚するだろう。 母は、父とは死別だし、父も母の再婚に反対するような心の狭い人間ではなかったはずだ。

自分は、高々16歳なので母の年齢の人の気持ちがわかるわけではないが、あれだけの美しさがあれば、好きな人と恋愛しても上手く行くように思う。 母は決して料理も下手ではなく、普通に上手だし、綺麗好きで、暇さえあれば掃除するような人だし、お金の使い方も派手ではなく、賢く倹約する。少し気の強い所を除けば最高のお嫁さんだと子供ながら思う。 それでも再婚しなかったのは、恐らく子供のためだろう。輝はそう思っていた。

唯一の母の欠点は、かなり気が強く、あまり融通が利かないところだ。 輝が涼のような優しい女性を好むのは恐らくそのせいだろう。


母との関係は、良好と言って良かったが、最近は会話する事が減ったように思う。

それは、お互いにやりたい事や、やらなければならない事が多くなって輝と典子の時間もうまく合わなくなったからだ。

リビングにあるカレンダーは少し大き目で、日付の所に余白があり、輝と典子はそこにお互いの予定を書き込んでいた。

確実に知らせておかなければ重要な事は、口頭でも伝えたが、それ以外は忘れないようにという意味と、お互いに自分の予定を相手がわかるようにという意味で、カレンダーに書き込んだ。


その日、輝は髪を切りに行った。

輝が行くヘアーサロンはチアロッソという名前で、50歳少し手前くらいの母と、24歳の娘さんが二人でやっていた。

娘さんの年齢がわかったのは、彼女が輝の髪をカットしている時に、何気ない会話の中で輝の年齢を聞かれた時に、彼女の方から自分の年齢を話した事があったからだ。 この店は最初、典子が通っていて、輝もここに来るようになった。

女性が二人でやっていたので、輝は最初二人とも、美容師だと思っていたのだが、実は二人とも理容師なのだそうだ。 特に母親くらいの年代の人で、女性の理容師は珍しいらしい。

 輝は髭なんて、生えてるとも言えないほど薄かったが、顔剃りが気持ちよくて好きだった。

娘さんの名前は、リナ という事だけは一緒に働いているお母さんがそう呼ぶのでわかった。 リナはこう言う仕事に携わっている人らしく、ファッショナブルで、ファッション雑誌のモデルのような服装をしていた。

輝のヘアースタイルはさっぱりとした、普通のヘアースタイルだったが、輝はリナのカットが気に入っていた。

リナは輝の名前を知っていて、輝君と呼ぶ。

シャンプーしている時、リナは、 『ねえ 輝君ってさ~ 彼女っているの?』

と突然聞いてきた。 輝は 『いきなりですね~』と 笑って 『いないですよ。』 と答えると、 彼女は、 『そうなの?』 そして、しばらく間を置いてから、『何か今日はいつもと違う雰囲気するね~』 と言った。 『そうですか? 別に変わってないと思うんですけど・・・』

輝は、怜奈との事が知らないうちに自分の何かを変えたのかな? リナさん勘がよさそうだし・・・と思った。

リナは 『なんかね。ちょっと大人っぽくなった気がしたの。でさ 彼女でもできたのかな~ってね。』 女性の勘は鋭いな。 輝は思った。

『彼女は欲しいんですけど、どうせバイトとかで時間少ないし、2年の夏休み過ぎたら、ちょっと頑張ってみようかな~って思ってるんですけどね。』 『2年の夏休み過ぎに何かあるの?』 『2年の夏休みに北海道に旅行行きたいなと思ってて、それで今はバイトの時間増やしてるんです。 そうすると勉強の時間もある程度必要なんで、時間ないんですよ。 でもその旅行行った後は、バイトの時間も少し減らそうと思ってるし・・・ ただ その時期になったら勉強が忙しくなっちゃって、結局無理かもなんですけどね。(笑)』 リナは、『でもさ~ 高校時代の恋はしとかなきゃだよ。いい思い出になると思うよ。』と言った。 『はい。 頑張ってみます!』 輝は言った。

玲奈との事があってから、母からも何かあったのか? ちょっといつもと感じが違う。見たいな事を言われ、輝は、女性の勘は鋭いなとつくづく思った。


夏休みも、あと少しというある日、ル・シエルにバイトに行き、更衣室から出ると、玲奈が小声で『輝君、今日夜空いてない?』と声をかけてきた。輝は、『別に何もないので大丈夫ですよ。』と言うと、 『じゃ この前のカフェで仕事終ったら待ち合わせでお願い。』と言った。 『わかりました。』輝は答え、お互い仕事に入った。


仕事が終わり、着替えてカフェに行った。 玲奈はまだいなかった。 輝は、母に今日遅くなるから、もし遅かっても心配しないで先に休んでて。とメールした。

典子からはすぐに返信が来て、 了解です~ バイト頑張って!と書いてあった。


しばらくすると、玲奈が公園から駆け出てくるのが窓越しに見えた。

輝は以前、玲奈とこの店に来た時と同じ席に座っていた。 玲奈は少し息を切らせて 『ごめんね。 待った?』と輝に尋ねた。 『いえいえ~ そんな走ってこなくてもゆっくり歩いて来てもらって全然よかったのに』 と言って輝は笑った。 『だって~ お店出ようとしたら、通用口で大和さんに呼び止められちゃって、遅くなっちゃったから悪いと思って走ってきたんだよ。』 玲奈が言うと、輝は『お疲れ様でした。ありがとうございます。』と言って微笑んだ。


輝は、アイスコーヒーを飲んでいて、玲奈は店員に私もアイスコーヒー とオーダーした。

玲奈は、輝に 『今日ね。 実は私の誕生日なの!』 と言った。 輝は驚いて 『えっ そうなんですか?おめでとうございます。 全然知らなくて・・・ 知ってたら 大したものは用意できなかっただろうけど何か用意したのに・・・ 』と言うと 玲奈は 『ううん 別に何か欲しいとかは思ってないの。 でもね、ちょっとわがままなお願いがあるんだけど。 いい?』 と言った。 『輝は、なんですか? 僕にできることならしますよ。』 と言うと、『最初はね、誕生日に夕食一人で食べるって寂しすぎるから、輝君にどこかレストランでも付き合ってもらおうかな~って思ってたんだけど、3日前、私ランチのバイトも出たじゃない?』 『ああ そうでしたね。 玲奈さん ランチタイムはあまり来てなかったんで覚えてます。』 『でね、ランチの後の賄い あれ輝君が作ったって聞いたのね。』 『ああ~ そうでしたね。僕が作りました。』 『それさ~ すっごく美味しかったのよ。』『ありがとうございます。うれしいです。』 『でねっ とってもわがままなお願いなんだけど、私の家で夕食作って二人で食べたいな~って 輝君に作ってもらって(笑) だめ?』  『えっ 玲奈さんちでですか? 僕が行っても大丈夫なんですか?』 『もちろんだよ。 私の家の近くに大きなスーパーあるからそこで食材なにか買ってね。 もちろん食材のお金は、私が払うし、メニューはお任せするから、作ってくれて一緒に食事してくれたらうれしいんだけどな~。』

輝は、色々考えたが、女性の誕生日にそのくらいはしなきゃと思った。

『わかりました。 ちょっと母にメールだけさせてください。』

『お母さんは、急で大丈夫かな?』 『ええ 大丈夫です。 店が忙しくてラストまで急に頼まれることもよくあるので、連絡さえ入れておけば問題ないです。』

『そっか~ でも 急でごめんね。』 『いえいえOKです。』

『じゃ スーパーは10時まで開いてるけど8時ちょっと過ぎてるし行きましょう。』と玲奈は言った。


玲奈はいつもバスで駅まで行くのだが、それは駅までの近道に暗い場所が何箇所かあって、時々痴漢も出るらしく、それで大回りするバスにわざわざ乗って帰るのだが、駅までは歩いたら7分くらいのものだった。 輝は、『玲奈さん。今日は僕がいるので駅まで歩きましょう。その方が早いし。』 『そうね。そうしましょう。』 『お茶代くらい今日は僕に払わせてください。』輝はオーダーが書かれた伝票を持って会計に向かった。 『じゃ ご馳走様。』 玲奈も輝の後を歩いて二人は店を出た。


玲奈の住んでいるところは、電車で15分くらい行ったところだった。 駅の近くのスーパーで輝は予算と玲奈が食べたいもの、後は玲奈の家に残っている食材と、調理器具の有無を色々尋ねながら買い物をした。 

スーパーから3分くらいの所に外観がコンクリートの打ちっぱなしのデザイナーズマンションが見えて、玲奈はあそこよ。と言った。 玲奈の住んでいるマンションは3階建てでオートロックになっていて、指紋認証のドアだった。 玲奈の部屋は3階だった。

玲奈は玄関に入ると明かりをつけて、『1LDKだから狭いけど上がって。』と言った。

『お邪魔します。』 輝は用意されたスリッパを履いて中に入った。 家具付きのマンションらしく、リビングは結構広くて、キッチンは普通に広い。 玄関を入るとすぐLDKになっていて玄関の横がベランダになっていて外の景色が見える。 リビングの奥に1室あるようでそこが玲奈の部屋らしい。

輝は、『30分くらいで作りますから、玲奈さんは着替えて部屋でのんびりパソコンかテレビでも見ててください。 調理器具の場所は今教えてもらったので、わからなければ呼びますが大丈夫だと思います。

食器棚にある食器は全部どれでも使って構いませんか?』 『もちろん いいわよ。じゃ 部屋で何ができるか楽しみに待ってるね。』 

時間はもう9時近くになっていたので輝は、急いで準備した。

輝は、作るのが通常の人に比べてかなり早い。 とにかく調理する順番とか時間の無駄が本当に少なくて、高峰にも合理的で早いと褒められた。

30分くらいで、『玲奈さん ほぼ出来たので来て下さい。』 輝はキッチンから玲奈に声をかけた。

玲奈が部屋から出てきて、 『うわ~ なんかお店みたい~ これ30分でほんとに作れるなんて信じられない!』 と驚いた。

『うちの店みたいには出来ないですけど、頑張ってみました!』 『うんうん すごいよ!』 玲奈ははしゃいでいた。

スープはじゃがいもの冷たいスープだった。 『うわ~ 美味しそう。 暑いから冷たいスープ美味しいと思うなぁ~』

サラダは じゃがいもと卵とハムのポテトサラダにトマトの飾り切りをつけた。

メインは、玲奈の好きなサーモンにホワイトソースをかけてその上から刻みパセリをかけて、付け合せはさつまいものオレンジジュース煮とボイルしたブロッコリーをごま油と塩昆布で和えたものに 胡麻を上から散らしたものにした。 今の炊飯ジャーは早焚きなら30分もあればご飯が炊けるのですごく便利だ。

最後にライス。 

輝は 『簡単ですけど、こんなものでどうでしょう? サーモンもノルウェー産の大振りなのでこれで大丈夫かな~って思ったんですけど。』 

玲奈は 『ありがとう!十分すぎるよ~! 早く食べたい~ 食べよ 食べよ。輝君も座って。ただきま~す。』 そういって スープを飲み始めた。

『う~ん 美味しい~。』 『良かったです。』 二人は色々な話をしながら食事をした。

食事が終った。 輝は『玲奈さん。デザート作ってあるんで』と言って冷蔵庫からデザートを出した。

時間がぎりぎりだったので固まってるか心配だったんですけど。なんとか固まってました。と笑いながら出したデザートはガラスのグラスに入った、オレンジのゼリーだった。 上にスペアミントを乗せてある。 玲奈に 『どうぞ』と言うと、玲奈の顔が少し曇ったように見えた。 『あれ? 玲奈さん オレンジ好きって言ってましたよね? ゼリーがダメでした?』 輝は心配になった。

玲奈は 涙を流していた。 そして 『違うの 違うのよ。 私こんな素敵な誕生日始めて。 デザートまで私の好きなもので作ってもらって。 急に無理なお願いしたのに嫌な顔一つしないで、こんなに素敵な料理と デザートまで・・・』 玲奈は涙はぼろぼろと流して泣いていた。

輝は玲奈の肩を、少しさすって 『良かったです。こんなに喜んでもらえて。 さあ デザート一緒にたべましょ。』 と言った。 玲奈はうなずき 『ほんと 滅茶苦茶美味しいわ。 幸せ』 と泣きながら笑顔を見せてくれた。

もう 時間は11時近くになっていた。 輝は、典子に お母さん 今日はかなり遅くなるから先に寝てて。 とメールすると、 返信が来て もう寝てる~ 気をつけて帰ってくるのよ! おやすみ~ と書いてあった。 輝は食器を洗い出した。『僕が洗いますから、玲奈さんは乾いたら片付けだけお願いします。』 そう言うと、『ごめんね。洗物まで じゃ 私その間シャワー浴びて来ていい?』と言うので 『ええ どうぞどうぞ』 と輝は言った。10分くらいで片づけが終ると 玲奈もシャワーを終ったようで、髪を乾かすドライヤーの音がした。

輝はテーブルを整えて、そろそろ帰ろうかなと思っていた。

玲奈が軽く髪を乾かして出てきた。

部屋着に着替えた玲奈は、一段とセクシーに見えた。

輝は、『玲奈さん 僕今日はそろそろ帰ろうと思います。』と言うと、玲奈は『輝君もシャワー浴びてから帰ったら?』と言った。 輝は 『いえいえ いいです いいです。 汚くしても嫌だし。』と言ったが 玲奈は強引に輝にさっぱりしたほうがいいいからとバスルームまで手を引っ張ってきた。

『玲奈さん わかりましたから。 じゃ シャワーお借りします。』 

『うんうん』 と笑いながら玲奈は更衣室のところにある籠を指差して、『これ使ってね。』と言ってドアを閉めた。 輝は服を脱いでシャワーを浴びた。

なんとなく輝はドキドキしていた。 公園でのファーストキスのこともあって、玲奈といると、どこかで意識してしまう。 玲奈の事が嫌いなわけではない。 女性としては綺麗で魅力的だし、性格も明るくてさっぱりしている。 けれど、自分の彼女にと言うと年齢も離れているし、それにまだ自分は玲奈から見れば、男性として意識されるまで成長できてないと思う。

そんな事を考えながらシャワーを浴びているとドアの開く音が聞こえて、『輝君。シャワー浴びたら着替え出しとくからこれに着替えて』と玲奈の声がした。 輝は 『えっ』 と言ったがすぐにドアの閉まる音がして玲奈はそこにはもういないようだった。

脱衣かごの横には新しいバスタオルと半そでとショートパンツの部屋着が置いてあって、輝の服はなかった。 どういうこと?・・・ 輝は仕方なく用意された部屋着を着てドアを開けた。

玲奈は食器を拭いて食器棚に片付けていて、それもほぼ終るところだった。

出てきた輝に、『良かった~ サイズちゃんとぴったりで』と笑った。

『玲奈さん どういうこと?』 さすがに輝もわけがわからず玲奈に尋ねた。

玲奈は『ちょっと私の部屋に来て。』と輝の手を握り奥の玲奈の寝室に向かって歩いた。

女性の部屋なんて 典子の部屋以外に今まで入ったことがない。

少し大き目のパソコンデスクと少し離れた所にドレッサーが置いてあってセミダブルくらいのベットがあった。 白い布製の整理ダンスとスライドハンガーにいくつか服がかかっていて、入り口の近くには、小さなクローゼットがあった。

『輝君 椅子 パソコンデスクのしかないから ベットの上に座って。』 玲奈は 自分もベットに座って手で ポンポンとベットを叩いた。

輝は、玲奈の言うまま ベットに座った。 輝の頭はもう真っ白になっていた。

輝が座ると玲奈はリモコンで部屋の明かりを消した。 部屋の隅にある小さな間接照明の明かりだけがうっすらと点いていた。

輝は その後のどうしたのかはっきりと覚えていない。 ただ玲奈のするままに流されて玲奈と寝ていた。 恥かしいとか、そういう事もあまり実感もなくただ玲奈に合わせて流れのままに身をゆだねていただけだった。

いつの間にか眠ってしまったようで、遮光のカーテンの隅が少し明るかった。

間接照明を頼りに、目を凝らすと玲奈の整理ダンスの上に輝の服が丁寧に畳んであってその上に携帯電話も置いてあった。時間を携帯でみたら4時50分だった。

玲奈はベットでまだ寝ていた。 輝は着替えをリビングに持って行き、着てきた服に着替え、部屋着を畳んだ。 そのまま帰ろうかと思ったが、昨日残った食材で、玲奈に朝食を何か作っていってあげようと思って、置いてあった食パンと冷蔵庫から、昨日少し残ったじゃがいもと卵とハムのサラダを出して、サンドイッチを作った。 食パンの耳は刻んでバターで炒めて、グラニュー糖を降りかけておやつにした。

最後にオレンジをミキサーにかけてオレンジジュースを作って ラップをかけて冷蔵庫に入れた。

ミキサーを洗って、他に使った調理器具も洗って、輝は玲奈の部屋を出た。

オートロックなので鍵の心配はない。

時間は5時少し過ぎていて、もう電車も動いている。 輝は電車の中から玲奈に朝食は冷蔵庫の中に用意してあります。とメッセージを打ち、店まで戻りバイクで家まで帰った。

典子は まだ寝ているようで輝はそっと自分の部屋に入って、パジャマに着替えてベットに入った。

昨夜の事が頭に浮かんで眠れなかった。

こういう形で初体験をするとは思いもよらなかったし、どうやったのかもちゃんとは思い出せない。

まだ、なんとなく玲奈の香りが残っているような気がした。


8時を過ぎたころ、輝がうつらうつらしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえ、典子が 『あー君 帰ってる?』とドアを開けた。 輝は 『うん 昨日は、遅くなってごめん。 俺後で朝ご飯食べるから、お母さん先食べて。仕事でしょ?』 と言うと 典子は 『うん じゃ 食べて仕事行くね。』 と言ってドアを閉めた。

玲奈は 一体どういうつもりだったんだろう? これからどうしたらいいんだろう? 輝はわからなかった。 暫くすると、メールが玲奈から来た。 朝食まで準備してくれたんだね。本当にありがとう。凄くおいしかったよ。 また 朝から泣いちゃった。うれしくて。 こんなに男の人に優しくされたのは始めてだよ。 昨日はごめんね。私の気持ちばっかりで・・・。でもね。いい加減な気持ちではなかったの。

私、本当に輝君のこと愛しちゃったみたい。 でも、もう迷惑かけたりしないから許してね。

私にとっては一生忘れられない素敵な夜でした。

元気で頑張ってね。素敵な彼女作ってね。 さよなら。 玲奈


まるでもう会えないようなメールの内容だった。

輝は、昨日は、びっくりして 頭が真っ白で、今はなんて言っていいのかわからないし、自分の気持ちがどうなってるのかも自分でもわからない感じです。 ファーストキスの時も同じだったけど、玲奈さんが最初だった事に後悔もないし、むしろ良かったと思っています。 ただ 玲奈さんを愛していてああなったかと言うと そうではなかったような気もして・・・。 すごく申し訳ないというか・・・ ごめんなさい。

また お店で笑って会いましょうね。


そう返信した。 玲奈からは もう返信はなかった。


10時半ごろ起きて、食事をしてバイトに行った。店に着いたのは11時くらいで、みんな忙しそうにランチの準備をしていた。 コックコートに着替えてキッチンに入ろうとした時、大和とシェフが話していて二人に呼び止められた。

『輝君、 今日の夜からしばらくホールに入ってくれないかな?』 大和はそう言った。

『はい。 わかりました。 でもどうしてですか? 誰かお休みですか?』 と言うと 『玲奈ちゃんから午前中に電話があって、急で申し訳ないけれど、留学することが急に決まってしまったので、引越しの準備もあるので、辞めさせて欲しいと連絡があったんだよ。

とりあえず、輝君に入ってもらうから、そういう事情なら仕方ないと。承諾したんだけど。

彼女 仕事できたから残念だよ。 いい子だったしね。』

輝は 愕然とした。 『玲奈さん もう来ないってことですか?』  『そうなるね・・・』 大和は溜息をついた。

輝は 玲奈にもう一度会えないか?とメールしたが返信はなかった。

次の日 輝は9時くらいに玲奈のマンションに行った。

郵便受けの表札ははずされていたが、1日や2日ですぐ引越しなどできるはずもないし、と思ってエントランスのオートロックで部屋番号を押したが、応答はなかった。3回くらいやってみたがダメだった。

その次の日も行ってみたが同じだった。

輝はむなしい気持ちだった。 玲奈さんは留学だと店に言ったけど、多分 それは嘘だろう。 自分が彼女を追い込んでしまった。 輝は自分が情けなかった。 女性の気持ちを全然わかってあげられなかった。







次話は夏休みが終わり秋の学園祭に向けてのお話です。

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