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北の恋風  作者: 空蝉 明
4/18

ル・シエルに入ったアルバイト

輝は免許取得から家に戻って、ル・シエルでのアルバイトを再開する。

すると、新しいアルバイトが入っていたが・・・

期末テストも終わり、中間より上の学年で5位の成績を取ることが出来た輝は、夏休みに入るとすぐに免許を取るために合宿に入った。通うことも考えたが短期間で取るには合宿のほうが有利みたいだったのでそうした。 無事、免許も取得し、家に戻った輝は夏休みの課題をこなしながら、ル・シエルにバイトに行った。


輝がル・シエルに行くと新しくアルバイトで入った女子大生の 玉川たまがわ玲奈れいながいた。 シェフは輝と玲奈をお互いに紹介して、お互い軽い挨拶をして輝はキッチンに玲奈はホールに入った。

玲奈は21歳。大学3回生で少しハーフっぽい感じの顔立ちだった。

薄いメークだったが、瞳が大きく鼻筋も通っていてノーメイクでもおそらくかなりの美人だろうとキッチンのスタッフたちが仕込みの時間に噂していた。

今は開店前で、輝は仕込みの作業中。ピューラーでじゃがいもの皮を剥いていた。玲奈はホールの清掃やテーブルのセッティングをホールのチーフ 大和やまと高志たかしから教わりながら作業していた。

彼女は島根県の松江出身らしくて、派手な顔立ちだが、両親ともに普通の日本人で中部地方の大学を受験し、大学の近くで一人暮らしをしているらしい。

一度ランチに、友達と、美味しいと評判のル・シエルで食事して感動し、帰り際に会計の近くに貼ってあった小さなホールのアルバイト募集中という求人を見て応募したようだ。

ル・シエルのホールはかなり大変だ。 毎日のメニューを覚えて、素材の説明やらソースの説明、必要があれば素材の産地まで覚えなければならない。 それに仕入れによってメニューが度々変わるので、余計に大変だ。 ル・シエルは特に完全予約制とかではなかったが、ランチは予約できないシステムだったので早い時間に来て、行列に並べば食事できたが、ディナーは予約がなければすでに予約の客で埋まっていて、飛び込みできても無理だった。 なので完全予約制と実質はかわらない状態だった。 ディナーの客は予約時に、お客様カードを作ってそこに人数や、男女別が記載される。来店後に、ホール係は、客の好みや残し具合そういった事を記憶し、1ターン(ル・シエルのディナーは2部制になっていて、6時スタートが1部、7時半スタートが2部になっていた)が終ると時間を見つけてそのカードに書き込んでいく。予約の際に当然食物アレルギーや苦手なものは確認するのだが、ディナーが始まってからお客によっては、これちょっと苦手とか言うケースは結構ある。ル・シエルでは、客に出された料理でも苦手なものがあるようなら、できる範囲で代替のものを用意して提供していた。 1部は1時間半と予約の際に客に了解を得てもらう。アルコールをゆっくり飲みたいとか食事をゆっくりとって話す時間に余裕が欲しい客は2部のほうを勧めた。 通常のコース料理ならゆっくり食べても1時間あれば十分で少しくらいアルコールを入れても1時間半あれば大丈夫なのだが、やはり余り時間を気にしなくて良い2部のほうが人気があってそちらから先に埋まってしまう。 ただ元々予約自体がとりにくいので1時間半でもここの料理が食べたいというニーズも沢山あって、予約はほぼ連日埋まっていた。


玲奈は、本当は東京の国立大学が第一志望だったが、それが叶わず、後期で名古屋の公立大学に受かったのでこちらに来た。 記憶力もそれなりに高く、それに容姿が美しいのですぐ採用された。

輝は学校が終ると開店の1時間前の5時くらいに出勤し、1部の終了くらいで終わりだった。 ただ忙しいときは2部の途中くらいまで働くこともあるし、ホールが足りなければ、時にはホールを手伝う事もあった。

玲奈がアルバイトを始めて1週間近く経ったある日、その日はホールのスタッフの一人が重要な用事ができて、2部が始まる時間にしか間に合わないという事で、輝が代わりにホールに入る事になった。

玲奈もこの頃になると仕事にも慣れて客への対応やキッチンとの呼吸もバッチリだった。

輝は大和に、『6番から10番テーブルメインで頼むね。』と言われ、『わかりました。』と答えた。

基本的にテーブルの担当が決められ、補助が必要な時にお互いにカバーし合うシステムになっていた。

食事が同じ時間から始まるので、前菜を食べ終わるタイミングが重なることも多く、そういう時は全員で対処していた。

ル・シエルの客のほとんどは、紳士的で常識を持った客ばかりだったが、年に1回や2回は非常識な客も来てしまう。

運悪く今日はその日だった。 玲奈が担当したテーブルに座った3人の男性は、会社帰りのスーツ姿だった。 彼らのうちの一人は空いた皿を下げようとした玲奈の手をわざとらしく触ったり、足をテーブルの外に出して玲奈の足にこすりつけたりしていた。

大和も輝も自分の担当のテーブルに集中していて最初は気づかなかった。

輝は皿を下げて戻る玲奈の顔がいつも明るい玲奈のそれではなく曇っている感じを受けて、どうしたのかな?と思った。 3番テーブルの3人は小声で玲奈の話をしていた。

玲奈が次の料理を3番テーブルに運んで説明している時、輝は偶然そのテーブルの一人がテーブルの外に足を出し玲奈の足にこすりつけているのを見た。 輝は駆け寄り『玲奈さん1番テーブルの料理お願いします。こちらのお料理の説明は私がさせていただきます。』と玲奈の手を引いて目で合図した。

玲奈は『お願いします。』と奥に戻って行った。 輝は3番テーブルのお客に料理の説明をし、戻ろうとしたとき 『ちぇっ』 と言う声をかすかに聞いた。

輝は大和にそれを伝え3番は自分がカバーすると申し出た。 大和は 『わかった じゃ輝君頼むね。』といい、『玲奈さん 3番は輝君に任せなさい』 と玲奈に言った。 玲奈は『輝君ありがとう。助かったよ。』と言った。 輝は『あいつらひどいし。 僕ならあんなことするわけないから、大丈夫です。それよりも玲奈さんは大丈夫ですか?』と言うと 『うん ありがとう 大丈夫だから』といつもの玲奈の笑顔で答えてくれた。

1部が終わり遅れてきたスタッフがホールに入り、もう一人パートのホール係の人が来て、輝と玲奈は仕事を終えた。 輝が更衣室から出て、店の駐車場の端に置いた原付の所に歩こうとすると玲奈が 『輝君!』と呼び止めた。 輝は『今日はお疲れ様でした。』と玲奈に言うと 玲奈は『今日はほんと ありがとう。輝君少し時間大丈夫?』と聞いてきた。 『ええ大丈夫ですけど。』 『じゃ お茶くらいご馳走させてよ。今日のお礼。』 『いや そんな気をつかわなくていいですよ。』 『気を使ってるとかじゃなくて私が輝君にご馳走したいのよ。』 『わかりました。じゃ ご馳走になります。』

そう言って 輝と玲奈は公園を抜けた所にあるカフェに向かった。


公園は少し大きく通り抜けるのに5分くらいかかる。 玲奈は公園を輝と歩きながら、『今日みたいなお客さんってよくあるの?』と聞いた。 『ああいうのは少ないです。 たまに意味のわからない難癖つけるような客もいるけど、基本的にはうちのお客さんちゃんとした人が多いんですけどね~。 今日の3番の客は大和さん顧客カードに出入り禁止!って赤のサインペンで書いたみたいだから予約はもう取れないと思いますよ。』と笑った。

『そか~』 玲奈も笑った。 『輝君はいつからバイトしてるの?』 『中学1年からです。中学生の時は土日の、ランチの前に来て、仕込みの手伝いして、ランチの間は食材運んだり 補助?そういうのしたり下がってきた食器の洗浄がメインだったかな。

 高校になってからはバイクでこれるから夜も入るようになったんだけど、うち母子家庭なんでお母さんはちょっと寂しがってるかも。 まぁでも僕お金貯めて大きいバイクも欲しいし来年の夏は北海道に旅したいんですよ。 だから夜も結構入ってます。』

玲奈は 『なんか輝君 すごいな~ 私なんか高校時代なんもしてなかったよ。 それにさ~ 大和さんに聞いたんだけど輝君 愛心高校なんでしょ? あそこってめちゃ偏差値高いよね。バイトやりながらで平気なの?』

輝は 『まぁ なんとか頑張ってますよ。』と答えた。公園を通り抜けカフェの明かりが見えてきた。

玲奈は『ここのケーキすごく美味しいから輝君にどうかな~って思うんだけど残ってるかな? 時間遅いしね~。』と言った。

カフェに入るとガラスケースにいくつかはまだケーキが残っていて、『ねえ輝君はどれがいい?』と玲奈が尋ねると輝は『玲奈さんのお勧めとかあります?』と聞いた。 『私はここのイチゴショート好きなんだけど。』と言うと、輝は『ちょうど2つ残ってますから じゃ 僕もそれでお願いします。』と言った。

『わかった!』 玲奈は店員に『ケーキセットにします。ケーキはイチゴショートで。飲み物はテーブルついてから決めます。』とオーダーして二人は窓際の公園が見える席に座った。

玲奈は席につくと『飲み物はセットだからこの中からになっちゃうけど何がいい?』と聞いた。輝はアイスカフェオレを選んだ。 玲奈はホットコーヒーを選んで店員にオーダーした。

ケーキと飲み物が運ばれて店員が『ごゆっくりどうぞ。』とにこやかにお辞儀して戻っていった。

確かに玲奈のいうようにここのケーキは美味しかった。 『玲奈さんが美味しいって言うだけありますね。これ まじ美味しいですよ。』 輝は笑顔で玲奈に言った。 『よかった~。輝君 佐川さんの味見とかさせてもらってるから、ちょっと心配だったんだ~。私もランチで佐川さんのデザート食べた時天国~って感じたくらい美味しかったから(笑)』 


『確かに佐川さんはすごいですよね。ほんと美味しくて で めちゃ綺麗!』輝も笑った。

玲奈は輝に 『ねえねえ 私たちって他の人から見たらどんな風に見えるかな?』 輝は 『姉と弟?』と言うと、玲奈は『そっか~恋人同士には見えないかな~?』というので 輝は『玲奈さんみたいな綺麗な彼女がいたらいいんですけどね~(笑) 残念ながら彼女さえいないです。』と苦笑いした。

玲奈は 『じゃ私の彼氏になってよ。輝君すごくかっこいいよ。 背も高いし顔も醤油顔で私好み。それに一番大切な優しさ持ってる。 輝君の良さわからないような女の子は見る目ないわ。 愛心の女の子は勉強ばかりできて、男を見る目はないのかしら?』 輝は照れて、『いやいや~ 冗談でもうれしいです。玲奈さんは彼氏とかいないんですか?』 『少し前までいたけど別れちゃった。 この年齢で付き合うんだからさ、そりゃ少しはお互いに求め合うっていうのも必要なんだけど、そればかりだと、そのために付き合ってるの?って思って嫌気が差しちゃうのよね。』 『そうなんですか~。』 輝はそもそもちゃんとしたキスの経験さえなかったのでそうとしか答えられなかった。


そういう事にこの年齢の男子なら興味がなくはない。 いや むしろすごくある。

でもそういうチャンスもなかったし、まだ高1だし いいか~ 見たいに思っていた。 輝は高1にしては大人びて見えたし背も高く細身で筋肉質だったので、高3くらいに見えなくもない。

憧れだけの存在だけど、涼とならそんな関係になってみたいと内心思う事もあった。


玲奈と輝が話していると、通路を挟んだ隣の席に若い外国人のカップルが座った。

二人ともアイスコーヒーをオーダーし地図とスマホを見ながら首を傾げながら話していた。

輝は別に聞くつもりもなかったが聞こえてしまった。二人はどうもこの辺りの民泊に泊まる予定なのだが、この時間になっても場所がわからなくて困っていた。部屋の鍵はポストの暗証番号を回せばその中に入っているようだが、肝心の場所がわからないようだった。

玲奈も英語が出来なくはなかったが、会話が出来るほど上手くもなくスピードが速すぎて何を言ってるのか全然わからなかった。 輝は玲奈に 『横の外人さん 今日泊まるところがわからないみたいで困ってるみたいです。聞いてたらこの近くで僕わかるんで教えてあげようと思うんですけど、歩いて3分くらいなのでここで少しだけ待っててもらえませんか?』と尋ねた。 玲奈は驚いた。 『輝君。話してる内容わかるの?』

『ええ まぁ 父に少し教えてもらってたんで。』 『うん もちろんいいけど。』そう玲奈が言うと輝は英語で二人に話しかけた。 自分はその場所わかるし、ここから歩いて3分くらいだから、良ければ自分が案内するというと、二人は喜んで、 『本当! 凄い助かる! じゃお願いします!』と言った。玲奈はもう食べ終わったし『お会計して私も行く。』と言う。 輝は 『いいんですか?ここで待っててもらってもいいんですよ?』と言ったが玲奈は『大丈夫。私も行くから』とついて来た。 外人二人と玲奈たちは会計を済ませ、輝を先頭に歩き出した。

彼らはニュージーランドから日本に観光に来たらしく、今 流行の民泊で、宿泊する費用を節約して10日間くらい旅をする予定らしい。玲奈もそうだが、彼らも輝のあまりにも流暢な英語に驚いて、君の両親のどちらかはイギリス人なのか?と尋ねた。 父の英語は正統なブリテッシュ・イングリッシュで輝の発音はネイティブのように綺麗だった。二人連れの彼女のほうは私たちはニュージーランド訛りがあるから、私たちよりずっと英語が上手いと苦笑いしていた。

輝は玲奈に、二人と話した事を通訳して説明しながら二人を送った。無事ポストの鍵も受け取れて二人はお礼を言い、輝に、もしニュージーランドに来るようなことがあれば是非連絡して欲しいと、メールアドレスを教えてくれた。

玲奈は 『ひえ~ 凄いね。 輝君の英語。 いつ教わったの?』と聞いた。 輝は 『教わったという感じじゃないんですけど。』と言って父の事を話した。

『じゃさ フランス語も話せるってこと?』 『まぁ 少しですけど。』 『ひえ~ 凄すぎる!私にも教えてよ!』

 『いやいや 教えるほどはできないんで。』 『またまた~ 謙遜して~ 私、第二外国語フランス語取ってるから わからない時は 教えてもらうね!』 玲奈は微笑んだ。 輝は 『僕でわかれば。』と答えた。

『でも 玲奈さん お店の人や他の人にこの事話さないでくださいね。 あれこれ言われるの面倒だし、そういうので頼まれたりするのも嫌なんで。』『 じゃ また困ったら助けてくれるってことが条件でいいかな?』 玲奈はすこし意地悪に微笑んだ。 輝は 『ふぅ~ わかりましたよ。。。』と苦笑いした。

玲奈が帰る家までは、公園を通り抜けて、ル・シエルの脇をしばらく歩いた所にあるバス停からバスに乗らなければならない。輝も店の脇にバイクが置いてあったので、それを取りに戻るので二人はまた公園を抜けて店のほうに歩いて行った。9時を少し過ぎていて輝はメールで母に今日は少し遅くなるからと連絡をしておいた。公園は人の気配もなく薄明るい外灯があるが所々薄暗い通りもあった。

そこで玲奈はふいに立ち止まった。 輝は『どうしたんですか?』と声をかけた。その瞬間玲奈はショルダーバックを肩からづり落とし、輝の正面に立って、首に手を廻して背伸びをしてキスをした。

玲奈の唇と舌の感触がなまめかしく、輝はその空気に呑まれてしまって、玲奈のなすがままになっていた。 自分の意思ではないファーストキスになった。

はっきりとした記憶はないが2分近くはキスされていたように思う。

玲奈は輝の首から手を下ろし、『いきなりで嫌だった?』と聞いた。

輝と玲奈は少し離れた所にあったベンチまで歩いて座った。

 輝は 『いや、びっくりしちゃって、俺初めてだったし。。。』 『えっ 私がファーストキスって事?』 『そうですよ。。。経験ないって玲奈さんわかったんじゃないですか?』 『そか。。。私からしたから任せて好きにさせてくれてるのかと思って。。。』

『でも俺 嫌じゃなかったです。こういうものかって今は感じで。 玲奈さんが気まぐれっていうか、そういうのだとはわかってます。 俺より5つも上だし、玲奈さんから見たら俺なんてまだまだ子供ですからね。それに俺、ファーストキスとかに夢のような幻想は抱いてなかったんです。

俺は、今彼女とかいないんですけど、もし彼女とかできて、そういう雰囲気になった時、全然リードできないのもなんか男としてダサイかな~なんて思ってましたから。

玲奈さんとキスしてこれで大丈夫なんて自信とかはもちろんないですよ。 でも一度してたらなんとなく落ち着いてできそうで。 なんて思っちゃってます。』

『輝君、私ね。いいかげんとかじゃないのよ。 私だってこんなこと誰にでもするわけじゃないし、自分からしたのも始めてなのよ。 でもね。なんかわからないけど、輝君としたいってなって身体が勝手に動いちゃって。』

『玲奈さん。 さっきも言ったけど俺、嫌とかじゃ全然なかったですから。

素敵な経験が運よく出来たな!って思ってますよ。』輝ははにかむように笑った。

そして、『そろそろ行きましょう。母も待ってるんで』と言って立ち上がり店の方に向かって歩き始めた。

沈黙が続いた。 そして店の近くに来ると、輝は、『今日はご馳走様でした。 おやすみなさい。

玲奈さん 帰り気をつけてくださいね。』と 軽く会釈し、置いてあったバイクに乗って家に帰って行った。 


玲奈は 『うん ありがとう。』 と言えただけで、他には何も言えなかった。

一時の、衝動的な気持ちで輝にキスしてしまったが、キスをした自分より、自分の事を気遣いながら、その事を受け入れてくれた輝のほうが、自分より人間的には余程大人なのかもしれないと思った。

あれは、本当に一時の衝動だったのか? 本当に彼を好きになってしまったのかもしれない。玲奈は自分の気持ちがわからなくなった。

輝は、家に帰って母の夜食の準備をした。時計の針は夜の10時を少し回っていた。

母が待っているというのは嘘で、今日は10時までの勤務で家に帰るのは恐らく10時30分を少し過ぎるくらいになる。 母にはもっと遅くなるかもしれないので、一応メールはした。

炊飯ジャーの中にほんの少しご飯が残っていたので、輝はそれを、焼きおにぎりにした。

そして、簡単なお吸い物だけ作っておいた。


母が帰ってきたのは、10時35分くらいで、母は 『ただいま~ あー君帰ってたのね。』と言った。

母は、外では輝と呼ぶが家の中ではだいたい輝の事を あー君と呼ぶ。

『お母さん、 焼きおにぎりとお吸い物だけ作っといたから。』と輝が言うと、 『うん ありがとう。 頂くね。』と母は答えた。

輝はお風呂が沸いたので、風呂に入り身体と頭を洗うと湯船に浸かって、今日の玲奈との事を思い出していた。 輝は玲奈に嘘をついたわけではない。 玲奈はとても綺麗な人だし、多少強引だったにせよ、気持ち良いと感じた自分もいた。 でも、どこか玲奈ではなく涼だったら。と思う気持ちもあった。


風呂を出て、髪の毛を乾かすと、『お母さん お先にね~』と母に声をかけて自分の部屋に戻った。

輝は、父に教えてもらった語学を忘れないように、ネットで見れる英語の映画や、フランス語の映画を字幕で見るようにしていた。 言葉は話さないとすぐ忘れて話せなくなってしまう。

フランス語は探すのが難しかったが無くはなかった。

後、イギリスのBBCというテレビのニュースを見るようにしていた。 政治や経済の事はあまりわからなかったが、発音がニュースキャスターは綺麗だし、新しい単語も勉強できるからだ。

人前で、英語とかフランス語を話すのは本当はしたくなかった。 本当に必要な時に話せたら便利というだけだ。 今日もあの外人が困ってなければ玲奈の前で話さずに済んだが、輝は他人が困っているのを見るとどうしてもほっておけない、性格だった。

時々、階段でしか昇降できないような通路があってベビーカーを持ち上げてるお母さんを見ると、上まで持ちます。 と手伝ってしまう。

愛心の生徒が不良っぽいのに絡まれていれば男女問わず助けようとしてしまう。

輝は、空手をやっていたので自分が怪我をしたりすることは少ないが、大勢に囲まれたらその保障はない。 それでも助けようとしてしまう。

それは、別に優しさとか労わりとかそういう気持ちが輝の中に、強くあるわけではなかった。

そうしなければかっこ悪いと自分で思ってしまったり、そうしないと男じゃない。と自然に考えてしまうからだ。 他人から見ればいい人なのだろうが、輝自身は、自分のポリシーとか哲学、そういうものを自分の納得するように生きているに過ぎない。

確かに、結果だけみれば、自分の行為は人の為とも言える。

けれど、見返りが欲しいわけでもなく、誰かに褒めてもらいたいわけでもなく、自然にそうなるって言うだけのことなのだ。 そういう所は結構ドライというかクールだった。






ファーストキスの後は・・・

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