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北の恋風  作者: 空蝉 明
3/18

瀬戸 明日香

林間学校も終わり普段の生活を送るある日、輝に思ってもみない事が起きる!

林間学校では湖の近くをハイキングした。

まだこの時期は富士山の登山はできないようで、山頂まで登れるのは7月からになるらしい。

こう言う雄大な自然の中を歩くのは輝にとっては始めてだった。

今日は早朝の出発だったので朝食の用意が大変で、昼食はホテルに戻ってから作る事になるのでかなりきつかった。

午後の昼食後は自由時間になっているので輝はその時間に休憩するつもりだった。

昨日の夕食と今日の朝食を食べた教員たちは、今年の調理担当は本当に凄いとまた感心していた。

かおるちゃんは輝や他の3人の2組調理担当の生徒たちに 『私、昨年も引率したんだけど今年の食事はすごいわよ! 何回も来てる先生なんて愛心始まって以来最高の調理担当グループだ!ってべた褒めで、あなた達が頑張って、それで褒められてるの聞くと、なんだか私が褒めらるよりもうれしくて~(笑)。

それもね 水主君が他の子に聞いたらリーダーみたいにやっててくれて凄く頼りにされてるって聞いたの!それでなんかまたまたうれしくて。』 かおるちゃんは上機嫌で微笑んでいる。

輝は 『まぁ 僕がいくら頑張ったって他の人が出来ない人ならいい料理にならないけど、今年の子たちはみんな凄く料理がうまいよ。だから美味しいのができたんだよ。』 そういうと 他の三人は『水主君みたいにできる人から褒められてすごくうれしい。でも水主君がいなきゃ やっぱりこんな美味しいのできないですよ。』とかおるちゃんに言った。

輝のクラスの担当の一人 安藤あんどう三咲みさきは、輝が自分がいたから出来たと言ってもおかしくないのに、他の人の事をすごく褒めてくれたり、そして私たちが頑張ってるのをちゃんと見て評価してくれた事に胸を打たれてちょっと涙目になっていた。

三咲は他のクラスの担当の子にも輝と先生のこのやり取りを話した。

初日の夜から輝の評価が上がっていたが、三咲の話を聞いた女生徒は余計に輝の事を尊敬するようになった。

涼もこの話を聞いて、やっぱり水主君は私の感じたとおり素敵な人だなと確信した。

昼食はカレーライスだったのでわりと簡単に出来たが、教員の間からは今回の食事はすごく手が込んでいて例年と違うので彼ら20人だけでこのスケジュールの中を全てやらせるのは可哀想だし、大変すぎないか?という意見が出た。

学年主任でこの合宿の責任者である 手塚てづか さとしは調理担当者を集めて、『先生たちは君らがすごく頑張ってくれてるのを評価してるが、林間学校のスケジュールをこなしながら、君ら20人だけで調理を任せるのは大変すぎるという意見も出てる。 君らはどう思うか?率直に意見を聞かせて欲しい。』と言った。


みんなが考えてる中、三咲が『先生いいですか?』と挙手した。 『安藤 意見あるなら言って。』と手塚が言う。

三咲は『みんなの考えはわかりませんが、私は大変でもできたら頑張って続けたいです。できればこのメンバーで。 これは私の事ですが、この調理担当で水主君にすごく教わる事が多くて勉強になったんです。私の家は両親が共働きで妹もいて、料理は私が大体作ってます。 ここに集まってる子は私に似たような環境が多いからみんな私より料理が上手い子ばかりです。 正直なところ私も今までネットで見て料理結構作ってきて、自分は料理できるほう、というか 今は恥ずかしいけど上手なほうだと思ってました。けれど ここで水主君に教えられたのはネットのレシピだけじゃなく、値段とか旬とか考えてその素材の中で美味しいものを作る工夫と、それとネットでは中々実際に見られない合理的な手順を生で見れて凄く勉強になったんです。

私は全然、水主君や他のみんなと比べても要領悪いけど、折角のチャンスなどで多少身体が疲れてても、頑張りたいです。

三咲がそういうと明日香も 私も三咲ちゃんと同じ気持ちです。 できるって思ってた今までの自分が恥かしいから、水主君に教えてもらいたいです。』と言った。

すると ほとんどの女の子が 『うんうん 私も』と答えた。

輝は 『みんなが俺の事をそういってくれるのはうれしいけど俺は料理の先生じゃないからね。』と笑った。

『安藤さんの考え方はポジティブですごいなとは思う。

でもこのスケジュールの中、俺たちだけでやるのは実際大変なことも確かじゃない?

俺はさ みんなが頑張るからやろう!って言うならもちろんやるよ。

でもこの中で無理して頑張ってる子がいるなら別に恥かしくないから、ちゃんと言ったほうがいいよ。

じゃないと、無理してこの林間学校が全然楽しくなくなってしまったらつまんないじゃない?』

すると、手塚が 『先生も水主の言う通りだと思うよ。 ここまでだってここにいるみんなは十分すぎるほど頑張ってきたんだから、きついなと感じる子はちゃんと遠慮なくいいなさい。』

すると 涼が 『大変じゃないって言えば嘘になっちゃうけど、私はやめたくないです。三咲ちゃんの気持ちと同じように感じるところも大きいから。だから 私は最後までやりたいです。 でもどうしても難しい時は、水主君に相談します。』 輝は 『えっ 俺なの? 俺でよければいいけど 先生じゃないの?』と言うと 『じゃ 私も涼ちゃんと同じだから水主君に相談するね』と言う声が聞こえた。

手塚は 『他につらいなって思ってる人はどう?』とみんなに聞いたがみんな首を横に振った。

すると 手塚は 『水主 頼りにしてるぞ。 何かあればすぐ先生に相談しなさい。』と言った。

輝はいつの間にかリーダーに完全にされてしまって責任が重いなぁ~ と思ったが、『じゃとりあえずやってみるよ。』と答えた。

涼は、なんとなく輝と二人で話がしたいな~と思って、夜、輝の部屋の近くに行ってみたりしたが部屋から出てきても渉と一緒だったり、 渉が離れると他の誰かが輝に話しかけるので中々チャンスがなかった。 涼がもう少し積極的に他の女の子のように 水主君、話がしたいんだけど。と言えさえすれば良かったが、涼はそういう積極的な行動がとれず、チャンスは中々訪れなかった。

輝は、涼の事が気になってはいたが、自分がリーダーみたいになってしまったので、これからの調理でみんなになるべく負担のかからない合理的に進める事を考えることで頭が一杯になり、涼のことだけを考える余裕がなくなっていた。

最初の頃は自分が少しみんなより知識があるしメニューも提案したので、みんなに指示しながらするのは役割として仕方ない。でも、自分が他の人がスムーズにできるようにと思ってしたことが、結局自分の重しになってしまう。人のためにやるということはそもそも自身の苦労が伴うものだとはわかっていたつもりだが、その加減が難しいものだと輝は思った。

人が信頼してくれることはうれしい事ではあるが、その分責任も背負わなければならない。

ル・シエルでシェフやチーフ、先輩に指示されている方が余程楽で、少しだけだが、指示しなければいけない人の苦労もわかった気がする。

輝が話し合いが終わって疲れた顔で戻ってくると、渉が、『輝、おつかれ~ なんか大変みたいだな』 と声をかけてきた。 輝は 『明日でほぼラストだし頑張るわ・・・ 渉 風呂行くけどお前もう行った?』というと 『輝が帰るの待ってたから 俺も行くよ』 と言って ついて来た。

輝と渉は、大浴場で体と頭を洗うと湯船に浸かった。

渉は、『今日は理恵と夜抜け出して、ちょっと散歩してくるつもり。なぁ 輝は涼とどうなの?』と聞いた。

『どうって? どうもないし。』 輝はぶっきらぼうに答えた。 渉は 『輝って女と付き合った事あるの?』と聞いた。 輝は 『俺さ 別に女に興味ないとかじゃないけど、あんまり時間がなかってさ、バイトとか家事とかな。高校になって少しは余裕もできたけど、バイクも大きいの欲しいし、今、原付だけど中型取るつもりだから、金がいるんだよな。 2年の夏休みには絶対 バイクで北海道に行きたいんだよ。だからバイトの時間少し増やしてもらうつもりでさ。 そうなると、もしうまく誰かと付き合えても時間取れないやん。 だからちょい無理かもな・・・』

渉は 『そっか~ まぁ 俺もさ~バンドやりたいしギターも欲しいしだけど、俺の場合さ 輝みたいに頭良くなくて成績悪いから、勉強もやらなきゃじゃない? 理恵はまぁ 俺よりはすっと賢いからうちに来て教えてくれたりさ。 だからそういう時間も含めて一緒にいられるから付き合えるけど、確かに輝は難しいかな~。 でもさ 俺 輝って結構もてると思うよ。』 というと 輝は『お前に言われたくないわ。理恵ちゃん可愛いし、お前入学した直後からめちゃくちゃもてたやん!』と渉に湯船のお湯をかけた。

『昨日さ~ 理恵と話してたら ここに来てから水主君ってかっこいい~ってよく聞くようになったって言ってたぞ。』 輝は『こんな疲れ果てた顔した男もてないわ』 と溜息をついた。

髪の毛をドライヤーで乾かして部屋に戻ると、渉が携帯のメッセージを見て 『ちょい俺出るから、もし先生とかきたら適当に頼むな』 といって、部屋着を脱ぎ捨て、ジーンズとシャツと薄いジャケットを羽織って出て行った。

ホテルのエントランスは夜10時で閉まってしまうが、少し離れた所に別の出入り口があって、そこはルームキーをかざすと、開くシステムになっていてルームキーさえ持っていれば実質24時間出入りが自由になっていた。

輝は明日の朝も早いので眠った。

涼は明日香と同室で、その夜は明日香と部屋に戻って話しをしていた。

明日香は顔は中の上くらいだが、スタイルがよく小顔で足も長くスレンダーで胸も大きい魅力的な女性だった。 涼ほど可愛くはないが大人っぽさとか色気みたいなものは涼より全然、上だった。

最初二人は、互いの家族の事や中学時代の話をしていたが、その話が一段落したころ、明日香が 『ねえねえ 涼ちゃん。水主君の事どう思う?』と突然聞いてきた。 涼は、『どうって 凄いなと思うよ。』 『えっ それだけ?』 『う~ん クラス違うし今まで話しもしたことがなかったけど、話してると色々なんだろう?気をすごく使ってくれたり優しいなとか思うかな~。』 『涼ちゃんは 尊敬みたいな? そんな感じなの?』『まぁ 尊敬みたいな感じかな~。』 すると明日香は、『私もしかしたら水主君の事好きになっちゃったかも?』と言った。 涼は驚いて 『え~~』と声を上げた。 明日香は 『そんな驚く?水主君成績も学年でトップクラスらしいし、料理の時のあの包丁捌きとか、手捌き? あれ見てたらかっこいい~って思ったのね。でさ、 三咲ちゃんからの話 あれ聞いたらそれに加えて人に優しくて気遣いもできるんだ~って思ったら こんな男中々いないよな~ で またかっこいい~とか思ちゃってさ~。』

涼は 内心愕然とした。私も明日香ちゃんみたいに自分の気持ちをこんなにストレートに言えたらいいのに・・・ でも 明日香ちゃん水主君に告白とかするのかな~ 水主君言われたらどうするんだろう・・・

心がなんか握りつぶされるような思いがした。

『涼ちゃん どう思う?』 明日香は尋ねた。 涼は 『うん 確かにね。男らしくてかっこいいよね。 明日香ちゃん 告白とかするの?』 明日香は『水主君って付き合ってる人いないって聞いたから、タイミング見て頑張ってみるつもり!』 涼は 『そか~ 頑張ってね。』 そうとしか言えなかった。

明日香の気持ちを聞いてしまって 自分が頑張ってね などと心にもないようなことを明日香に言ったので、さらに輝から遠ざかってしまったように感じた。


三日目も爽やかな晴天で、風も心地よく、湖畔をサイクリングした。

ここはサイクリングロードもあって、景色も良くて気持ちいい。

湖を一周すると、人にもよるが1時間半くらいか。

ただ、みんなゆっくり周れるようにと、2時間半の時間が取られていた。

輝は一人で湖を眺めながら所々で停まり、写真を撮ったりしながら自転車を漕いだ。

渉が、『俺と一緒に行こうぜ!』と誘ったが『理恵ちゃんと行ってやれよ。 俺は一人でゆっくり好きなように行きたいから。』と断った。

輝はどちらかというと誰かと一緒に、というのをあまり好まなかった。

誰かと行けば、楽しい事もそれは多いが、人一倍相手に気を使う輝は一人のほうが気楽に感じたからだ。

普段は、恐らくわりと音も少ない静かな道なのだろうが、この日は愛心高校の200人の生徒が湖畔をサイクリングしていたので、湖畔の生き物たちは うるさいな~とか思ったかもしれない。

つかの間だが、輝にとってはかなり精神的に癒された時間だった。

輝は海が好きで、太陽に反射してキラキラと光る波を見ているのなら、長い時間それを見てぼーっとしていられた。 炎天下の中や極寒の中はもちろん無理だが、気候さえよければしばしば海を眺めに一人で出かけた。

それともう一つ、輝は花を見ることも好きだった。男性にしては少し珍しいかもしれない。だから、北海道に旅をした時、うまく季節が合えばラベンダーとかジャガイモの花とか向日葵とか咲き誇る景色が見れたら最高だな~と思っていた。

サイクリングの時間も終わり、みんなホテルに戻ってきた。

輝は同じクラスの三咲に、みんなが戻ってお昼の準備始めるなら、部屋にいるから悪いけど声かけてくれない。俺の部屋番号は521号室です。 とメッセージを送っておいた。 三咲からはすぐに 了解だよ^^わかりました~♪ と 返信が来た。 自分のクラスの調理担当の三咲を含めた他の三人とは、連絡を取る必要があるかもと、調理担当が決まった時あらかじめアドレスを交換しておいた。

部屋のドアをノックする音が聞こえ、『水主君 安藤だけど』 と声がした。

『うん すぐ行く。ちょっと待って』 輝は三咲とキッチンに向かった。

昼食の準備が終わり、午後の自由時間になった。

輝は持ってきた単行本を持って湖の近くのベンチに座って読み始めた。

輝が読んでいる本は菜根譚さいこんたんという哲学書で高峰の愛読書である。高峰が輝の16歳の誕生日に何が欲しい?と尋ねるとシェフのお薦めの本かな。というので高峰が解説して要約された読みやすい本を探してきてプレゼントしてくれた。

輝は、小さい時から本を読む習慣があった。 漫画本も、普通の少年らしく読んだが、歴史書や人の生き方に関する哲学書を好んで読んだ。

菜根譚は中国の洪自誠こう じせいという人が書いた随筆集で、人とどのように関わって行けば、うまく行くか?という事の参考になる著書である。

木陰のベンチで風も心地よく本を読んでいたら、あっ と言う間に4時近くになっていた。

本を部屋に置いてキッチンに向かうともう半数くらいは集まっていた。

今日の夕食はカレーである。先日のランチで作ったのでみんな要領はわかっていて、集まった人から、じゃがいもの皮むきや、人参をカットしたり、前回やった自分の持分の作業をしていた。

輝は、冷蔵庫に残った食材を確認した。 明日の朝食分を残して何か余ってるのはないか?

すると、まだ鶏の胸肉が結構残っていた。

輝はこれをオーブンで焼いて、カレーの中に入れてチキンカレーにしようと思った。

少し大き目の声で、『冷蔵庫に胸肉残ってたから、食材余らせてもしょうがないから、オーブンで焼いてカレーの中に入れてチキンカレーにするわ。』 すると みんな 『うんうん いいね~』と声が上がった。

夕食も終わり、風呂に入って、歯磨きとか髪を乾かした後、昼間読んでいた本を読んでいると、渉が携帯で理恵と何かやり取りしてたらしく、『ちょっと出るから、輝また頼むな~』 と言って部屋を出て行った。

輝は本を読んでいるうちに疲れも出て眠ってしまった。


翌朝、最後の林間学校の日。今日の朝食でやっと調理担当の役割も終える。

そして 20人で最後の朝食を食べて『ご苦労様でした。』と拍手で終った。

部屋に戻り荷物を持ってバスに乗り込み3泊4日の林間学校は終了した。今朝の渉はいつもと少し違う雰囲気だ。あいつ理恵ちゃんと昨夜なんかあったな。 輝はそう思った。


林間学校も終わり通常の授業に戻り、輝はいつもの生活になった。

ただ、今年の夏休みは自動二輪普通免許(中型)を取るつもりなので、30分バイトの時間を増やしてもらった。 輝は将来 出来たら医師になりたいと思っていた。


 料理は好きで料理人になりたいと一時は思った事もある。けれど、ル・シエルでバイトするうちに自分には無理だと諦めかけていた。

ル・シエルは席数で言えば30席くらいの決して大きな店ではないが、土曜日のディナーは半年先でも予約が取れないほどの人気店だった。

理由はいくつかあるのだが、まず第一に料理もデザートも本当に美味しいし、芸術か!と思うほどに美しい。

二番目はシェフがお客に合わせて味を調整することだ。

高峰シェフは、そのお客が頭脳労働者か肉体労働者かそういうのを会話の中からうまく尋ねて、少し塩分の加減や味の濃さみたいなものを調整していた。

ソースの種類によっては難しい場合もあったが、できる限りお客に合う料理を作ろと努力していた。

シェフが皿に色とりどりのソースで描く まるで絵画のような芸術も料理は目で食べるというのを黙っていても感じさせるものだった。

そして、この店の2大看板がパテシェの 佐川さんだ。佐川さんの特に飴細工は芸術的でそれをお客の前で時々披露してくれる。 結婚記念日に来た若い夫婦に即興でお祝いのケーキを作った時は 飴細工でケーキの上にカラフルに重ねたハートと日付、そしてマジパンでご夫婦の人形まで似せて作ってしまった。

こんなケーキを見て喜ばないお客はいないと思った。

もう一つ大きな理由は高峰シェフは沢山の人に美味しいフランス料理を食べてもらいたいという気持ちが強く、素材の質や手間の割りに料金もリーズナブルだった。


輝はこういうレストランで働いていたのでこんなシェフやパテシェにはどう頑張ってもなれるわけがない。 そういう風に感じてしまっていた。 でも自分も少しでもそういうものが作れるようになりたいと思って努力も研究もしたし、そういう輝に二人は自分の仕事を見せて教えてくれた。

輝が医者になりたいと思ったのは父が亡くなったときだった。

自分が人の死を少しでも伸ばせるような医者になれたら。。。

そう思ったときから医者になれたらな~と思って今まで勉強してきた。

バイトしながら成績を落とさないようにするのは至難の業だったが、輝は懸命に両立した。

そんなある日、学校で、明日香が輝に『放課後話があるから、屋上のベンチに来て欲しいの』と、昼休みに言いに来た。 輝は『バイトもあるので20分くらいしか時間がとれないけどいい?』と聞くと『それで大丈夫』というので『わかった。』と答えた。

その日の放課後 輝が屋上に行くと明日香はすでに待っていた。

『ごめん 遅くなって』と言うと、『ううん 私も今来たところだから』と明日香は言った。

輝は 『で、なんだった? 何か相談とか?』 と聞いた。

明日香は、しばらくうつむいて 顔をあげて 『私、水主君の事好きなの! 私じゃだめかな?』と言った。

輝は驚いた。 明日香は魅力的だけど付き合うとかそういう対象に考えた事もなかった。

まして 自分の事が好きだなんて全然考えてなかった。

輝は『ちょっと待って。瀬戸さん 俺が好きってこと?』

明日香は うなずいた。

輝はしばらく沈黙して、『そんな風に思ってくれてありがとう。 俺は瀬戸さんの事嫌いじゃないよ。林間学校の時もすごくいい子だなって思った。 でもさ ずるい言い方かもしれないけど付き合う対象として瀬戸さんを見たことがないんだ。 瀬戸さんと仲良くなってもう少しコミュニュケーションとって瀬戸さんの事がわかればそういう気持ちになるかもしれない。でもそれは約束とかできないし、それにね、瀬戸さんも少し知ってると思うけど今はバイトと勉強で精一杯で時間も作れない。

瀬戸さん 以外に俺に声をかけてくれるような子がいるなんて自惚れてはないけど、もしもそういう子がいても瀬戸さんに今話してる事と同じ事を言ったと思う。

俺は 今は誰かと付き合えるような環境じゃないけど、俺に仮にそういう子がいても今の瀬戸さんみたいに勇気を持って告白できないと思う。 だから瀬戸さんの告白は本当に俺はうれしいし感動というかなんだろう? なんて言えばいいかわからないんだけど ほんと ありがとうだよ。うれしかったよ。

でも ごめん。瀬戸さんの気持ちには応えられない。』 そう言って輝は明日香に頭を下げた。

明日香は涙を浮かべていたが、 『水主君 謝らないでよ。 振られちゃったのは悲しいけど、私に気を使って言葉を選んでくれた。水主君の心遣いと優しさはわかったつもりだから。』

輝は 明日香に 『瀬戸さん ありがとうね。嫌じゃなかったら友達になってくれないかな?』と 明日香の右手を両手で握った。 明日香は『好きになっちゃったから気持ちを切り替えれるかわからないけど、友達でもいいからなりたいかな。』 と握手してくれた。

輝は 『時間がないから ごめんね。 ありがとう』 と屋上と校舎の出入り口に走っていった。

輝は、その日バイトでも明日香との出来事が頭に時折浮かんでしまって、ぼーっとしていて度々注意されてしまった。



夏休みが始まり、バイトの時間を増やした輝。

バイト先に新しくホール担当のスタッフがアルバイトとして入る。

輝との関係は・・・

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