北の恋風
涼と智美。二人の気持ちの両方には応えられない。 輝は中々結論が出せず、友人たちにアドバイスを求める。 茜、明日香、渉、俊。 みんなそれぞれの立場で輝に話をしてくれる。
それでも 輝は中々決断できなかった。 しかし輝は春休み後5日という日の夜ある決断をした。
輝は、家に帰っても全然落ち着けなかった。
涼が、自分に好感を持ってくれていたのはわかっていた。けれど、まさか自分の事が好きとまで思ってくれてるとは・・・。 しかし、涼の気持ちを知った今でも、智美の事を失いたくないという気持ちも残っている。
もし、輝がアラブ人のように力量さえあれば、二人の女性を娶ることが許されるのであれば、二人と付き合いたいくらいだった。 しかしここは日本で常識的にそんな事が許されるはずも無い。
結局どちらを選んでも片方は傷つく事になってしまう。
俺は一体どうしたらいいんだろう? 自分の気持ちをいくら考えても、涼と智美に順番なんか付けられなかった。 輝は、自分ではわからなくなって、渉に電話した。
『渉? 輝だけど、今って忙しい?』
『いや。そこまで忙しくはないけど、どうした?』
『なぁ 俺、お前に相談したい事があるんだけど、お前んち今から行ってもいいか?』
『別に構わないけど、電話では話せないことなのか?』
『直接会って話したいんだよ。』
『おぉ~ 全然いいけど お前が俺に相談ってもしかして初めてじゃないか? おれがお前に相談や頼みごとしたことは山のようにあるけどな(笑)何か俺うれしいわ。』渉はそう言った。
輝は渉の家に着いて、渉の部屋で話し始めた。
『渉。お前、俺が彼女できた時、涼ちゃんにだけ教えなかったろ?』
『うん。』
『何でだ?』
『俺が見てて、涼ちゃんが輝が好きだったんじゃないかって思ったからだよ。』
『お前どういうところでそう感じたんだよ?』
『どうって具体的にどうじゃないわ。なんとなくだよ。フィーリングみたいなもの。』
『そうか・・・。』
『実はさ、お前だから話すんだけど、今日茜ちゃんが、俺に話があるから屋上に来てって言われてさ。』
『えっ 茜ちゃんもお前が好きだったんか?』
『馬鹿 違うよ! 茜ちゃん涼ちゃんの親友だろ。それで俺が智美が来れない事で落ち込んでたのを涼ちゃんが見て心配してたらしいんだ。』
『それは涼ちゃんだけじゃないよ。 俺や俊や明日香ちゃんも同じだったぞ。』
『そうなんだけど、茜ちゃんは、前から涼ちゃんが俺の事好きじゃないか?って思ってたらしくて、今日涼ちゃんに聞いたら、そうだって・・・。』
『やっぱ そうか~ 俺もそんな気はしたんだよな~。』
『俺はそれに全然気づかなくて、涼ちゃんは好きだけど憧れの存在で手が届かない女性だって思ってたんだよ。智美と付き合って思うのは、会えないのは、まじきつい。これにどこまで耐えられるかって思ったのは1回や2回じゃなかったよ。 けど別れようなんて思った事もない。智美を失うことも傷つけるのも俺には怖くてできないんだよ。 でも今日、茜ちゃんから涼ちゃんの気持ち聞かされて、心がぐらついちゃってさ。 かっこ悪いよな・・・。』
『輝~。 そんなん普通だろ。かっこ悪いとか思う奴は思わせとけ。 俺だって輝と同じ立場になりゃ同じように悩むし。』
『もし渉ならどうする?』
『そうだな~ 難しいな~。 普通に高校生らしく恋愛しようと思えば、智美ちゃんと別れて涼ちゃんと付き合うかな~。 智美ちゃんとこのまま付き合っても、後2年近くこんな状態で付き合わなきゃいけないだろ?普通に考えてそれってすっごく大変な事じゃない? 涼ちゃんちの事は俺あまり知らないけど、少なくとも後1年は普通に付き合えるでしょ? そういうの考えたら輝にどちらがいいかって言えば涼ちゃんだと思うな。』
『そうか・・・。 渉の言うのもよくわかるわ。 俺、俊にも話してみるわ。』
『おぅ。 色んなやつの考え方は聞いてみる価値はあると思うわ。 けどさ、智美ちゃんとこのまま行くにしても涼ちゃんと付き合うにしても、輝の心の深いところまでは俺も俊もわからないからさ。最後にお前が良く考えて決めろよ。』
『うん。わかってる。 俺も別に渉や俊の考えに流されるつもりは無い。ただ違う視点の意見を聞いてみたかっただけだからさ。』
『うんうん。それならいいよ。』
『渉 ありがとうな。』
『いやいや全然。大丈夫。』
輝は渉と別れた。
『俊。遅い時間に悪い。』
『ううん。大丈夫だよ。どうしたの?』
『今から俊に会うのは無理か?』
『いや 大丈夫だよ。』
『俊んち行っていい?』
『うん。いいよ。』
輝は俊の家に行った。
『ごめん。遅い時間に。』
『まぁ 入ってよ。』
俊の部屋には明日香がいた。
『あっ 明日香ちゃんいたんだ? ごめん。邪魔しちゃったな。』
『私がいないほうが話しやすかったかな?』
『いや 明日香ちゃんもいてくれたほうが却って良かったから。』
『そう?じゃ良かった。』
輝は、渉に話した内容を俊と明日香に話した。
『やっぱりそっか~ 涼ちゃん今も好きなんだね。今更言っても仕方ないけど、輝君か涼ちゃんかどちらか先に気持ち伝えたら私と俊君みたいになってたかもね。 でも現実は難しいよね。
私は、女の子の立場で考えると、涼ちゃんも智美ちゃんもほんと凄いと思うよ。 女の子ってね、多分男の子以上にそばにいてくれなきゃ辛いのよ。 だから智美ちゃんは相当輝君の事が好きなのよ。 もうここまで来ると好きとかじゃなくて愛してるレベルだよ。 でも涼ちゃんもすごいのよね。私だったら智美ちゃんの写真見た瞬間に無理って思っちゃう。勝ち目ないもん。 そりゃ涼ちゃんも智美ちゃんに負けないレベルなんだけどさ、それでも出遅れは相当きついよ。恋愛なんて言ったもん勝ちみたいなとこがあるからね。 私には正直難しすぎるよ。このケースは・・・。だけど やっぱり身近にある幸せを取っちゃうかも・・・。 その方が楽だもん。』
『俊はどう思う?』 輝は聞いた。
『正直僕も明日香ちゃんと同じで難しすぎてわからない。渉君はなんて言ったの?』
『渉は、このまま付き合えば2年近くこの状態が続くから智美にとっても俺にとってもきつすぎるんじゃないか? 涼ちゃんと付き合えば大学生になってからはわからないけど、1年間は普通に近くにいて普通の恋人同士で付き合えるから、高校生の恋愛だし、そちらの方を選ぶんじゃないかなぁ~って言ってた。 茜ちゃんは、涼ちゃんの親友って立場もあるし、こんなつらい恋は、俺にとっても智美にとっても大変だから、涼ちゃんのほうがいいって。』
『そうか~ みんな色々立場や考え方あるからね。 う~ん。僕ね、輝君の気持ちや智美ちゃんの気持ちがどれだけ強いのかとか涼ちゃんがどの程度輝君を好きなのかそういう細かいところまでわからないから、単純に僕が、もし明日香ちゃんと何かの理由で離れなきゃ行けなくなった場合を考えてみたんだ。
まず、大切にしたいのは明日香ちゃんの気持ちかな~。 僕と離れても僕と付き合って行きたいかどうか? もし明日香ちゃんがそれはつらいから無理って言うなら、僕がどう思ってもあきらめる。
でも、明日香ちゃんがそれでも僕と付き合いたいって言うなら、僕はどんなに自分が辛くても明日香ちゃんと付き合っていく。自分の気持ちだけを言うなら、明日香ちゃんを失いたくない。それが本音。もし自分を好きでいてくれる人がいてその人に辛い思いをさせてしまったとしても、そして僕がその子に好意を持っていたとしても、今の僕の彼女は明日香ちゃんなんだよ。 明日香ちゃんにはプライオリティ(優先順位が高い)があると思うんだ。 だから僕は明日香ちゃんを選ぶと思う。』
明日香は俊の話を聞いて涙を流していた。 『俊君・・・嬉しいよ。私、俊君の彼女で良かった。』明日香はボロボロと涙を流し、しゃくりあげるように泣いた。俊は明日香のそばに行って、そっと抱きしめてあげた。
『俊 お前やっぱり凄いわ。 俺がこれからどうするかはまだ俺の中ではわからない。渉や茜ちゃんの言うのもわかるしな。 でも俊の話はかなり俺の心に響いたよ。 ありがとうな。
邪魔しちゃってごめんな。 俺帰るわ。 二人ともありがとう。』
輝は家に帰っていった。
俊の話は、輝の心に相当なインパクトを与えた。しかしそれでも、俊はこのつらい経験を生で味わった事はない。口で言うほど簡単な事ではない。もちろん、俊なら言葉どおりにやり遂げるだろう。 けれど、簡単に答えが出るような問題でもなかった。
そうこうしている間に春休みに入った。 輝は、智美に会えない寂しさを紛らわすように勉強し、少しバイトもした。 しかし、勉強をやってもいつものように集中できなかったし、バイトにいってもすぐに疲れてしまった。
茜に相談すると言っても、彼女の意見はすでに決まっているだろう。
もう自分で何かしら決断しなければならない。
どちらにも決められない自分が、優柔不断で最低な人間に思えてきて自分自身に腹が立った。
智美には悟られないようにしていた。 智美は少しずつ回復はしているようだった。
春休みも後5日。 その日輝は決断した。 決断と言っても、二人のどちらを選ぶか決めたわけではない。 俺は今、ただ智美に会いたい。会いたくて会いたくてたまらない。
会いに行こう!そう決めた。
しかし、会うと言っても飛行機で行かないと無理だ。 中部空港から旭川空港行きのフライトはあったが、とても高すぎて無理だった。 もう無理なのかな・・・。 そうだ!千歳ならもしかしたら、LCC(ローコストキャリアの略。経費を下げて低料金で運行サービスをする航空会社)あるかも!
あった! うん。 これなら千歳までは行けるし、旭川までは千歳から直通バスもある。料金もこれなら行ける。 あとはJR富良野線で北美瑛まで行くだけだ。 よし! 輝が今あるお金を全部出せばなんとか往復できそうだった。
『お母さん。俺 明日、智美の所に行くよ。会いたいんだ。どうしても。今調べたら何とか俺の持ってるお金で往復できそうだから。』
『また急ね。 智美ちゃんや智美ちゃんのご家族には連絡したの?』
『ううん。してない。まだ航空券も予約できるかもわからないし、だから北海道に明日、着いてから連絡する。一目会うだけでもいいから。』
『わかったわ。行ってらっしゃい。予約が取れたらお母さんのところにもう一度来なさいね。』
『うん。わかった。』
輝は、まず智美に明日、家にいるのかどうかだけ確認した。 智美は家にいるけどなんなんだろう?と思いながらいきなり掛かってきてそれだけ聞いてまたいきなり切ってしまわれたので意味もわからず、なんだったんだろう?と思っていた。
席数の残りがわずかだったので、輝は急いで予約した。
なんとか予約ができた。
『お母さん、なんとか予約できたよ。とりあえず智美が明日、家にいることだけは確認した。』
そう言うと、典子は輝に3万円渡して、『もし向こうでホテルに泊まらなきゃいけない場合もあるだろうから、これ持って行きなさい。』そう言って渡してくれた。 『お母さん。ありがとう。』
典子は輝を抱きしめて、『気をつけてね。明日は空港に早い時間に着かなきゃいけないんでしょ? 今日はゆっくり早めに休むのよ。頑張って。』
『うん。 お母さん 本当にありがとう。すごく助かるし、心強いよ。』
『良かったわ。』典子はにこやかな笑顔で言った。
次の日の早朝、輝は電車で中部国際空港に向かった。
搭乗手続きを終えて、飛行機に乗り込んだ。
今日は4月1日。 春休みは4日まで、4日には戻ってこなければならない。 1日だけでも智美と一緒にいたい。 今は後の事なんてわからないし、帰ってから考えよう。
飛行機は千歳に着き、そこから旭川行きの直行バスに乗り換えた。
4月になったと言うのに北海道は肌寒かった。
千歳でこれなら恐らく美瑛はもっと寒いんだろうな~。
千歳に9時15分の定刻に着いて、たいせつライナーというバスが上手く10時にあったので乗り継ぎもスムーズに行けた。 ここから旭川まではバスで3時間弱かかる。旭川に到着するのは12時45分。
それまでバスで少し眠ろう。 バスに乗って輝は智美にメッセージをした。
このころには、輝は智美ちゃんではなく、もう智美と呼んでいた。
智美。今俺千歳にいるよ。今旭川行きのバスに乗ったんだ。 旭川には12時45分に着くけど、朝早く出てそんなに食べてないから、旭川でお昼軽く食べてから、富良野線で北美瑛まで行く。 もしお母さんもお父さんもそこまで迎えに来れなさそうなら、美瑛まで行ってタクシーに乗るから連絡して欲しい。
とにかく智美にどうしても会いたかったんだ。 そうメッセージを送った。
しばらくすると智美から返信が来た。
ほんとなの? ほんとに会いに来てくれるの? 嬉しくてもう泣いちゃってるよ・・・。神様ありがとうって感じだよ! お母さんが北美瑛まで私を乗せて迎えに行けるって言ってくれてます。
お父さんも輝さんに会えるのを楽しみにしています。 うちに泊まれるんでしょ? いつまでいられるのかな? それと旭川から電車に乗ったらすぐにメッセしてね。着く時間に迎えに行くからね。
急に来たから、4日には帰らないと行けないんだ。学校5日から始まるしね。 もし智美んちに泊めてもらえるならほんとに助かるよ。 智美と一緒に寝たいくらいだよ(笑) 旭川から電車に乗ったらメッセするね。 智美に早く会いたい。
智美からまた返信が来た。 3泊はできるんだね。 嬉しいな~ うんうん。一緒にひっついて私も寝たいな~(笑) でも家じゃ無理かな~ だけど一杯ハグして一杯キスはしてね。 私も早く会いたいよ~。 輝さん 大好き!
輝は北海道の景色をしばらくは見ながら眠った。
バスは旭川駅に定刻に着いた。
そうだ。 あのラーメン屋さん。もう一度あそこに行こう。
輝は、昨年の夏休みに来たラーメン屋に入った。 1時近くになっていたので少し待っただけで入る事ができた。 なんか懐かしいな~ この後智美と出会ったんだな~。 そんな事を思いながらラーメンを食べた。 変わらず美味しかった。
輝は駅に向かった。JR富良野線は、1時間に一本程度しかない。1時46分間に合うかな?
輝は旭川駅に急いだ。 何とか間に合った。 輝は電車に乗ると智美に、1時46分のに乗りました!とメッセージを送った。 智美からは は~い わかりました。 駅で待ってるね。 と返信が来た。
富良野線を走る車両はキハ150形という気動車だ。 なので列車と言う事にする。
列車は、旭川駅を出ると右にカーブしながら進路を取り、警笛を鳴らしながら小さな川を渡った。途中、西御料という駅では輝と同じ高校生が何人か乗って小さな列車は少し人で賑やかになった。西御料を出るとしばらくして左手には広大な農地が広がっていて北海道らしさを感じられた。
なぜだかはわからないが、西御料を出ると、次は西瑞穂その次は西神楽また次は西聖和と言うように、西という字が最初に付く駅が4つも連続で並んでいた。
輝は、なんかあるのかな?と思いながらなんとなく面白いなと思った。
千代ヶ岡を出て次はいよいよ智美の待つ北美瑛に着く。 列車は左手に農地を見ながら木々の間をすり抜けて、小さな川を渡った。 そして、『間もなく北美瑛』という 車内のアナウンスが流れた。 智美が待っている。 輝の胸は高揚した。
列車は静かに北美瑛駅に停まった。
輝が列車から降りると、北のほうからシュっと風が吹いてきて、ほんの少しちらちらと雪が舞った。
輝は、なんだか風の香りが智美を抱きしめた時の香りと似ているような気がした。
北から、吹く恋の風のようだった。
駅の近くに駐車スペースがあってそこに陽子の軽自動車が停まっていた。
そして、その横に笑顔で一杯の智美が立っていた。
『輝さ~ん。』 智美は輝に向かって手を振っている。
やっと、やっと会えた・・・。 輝は智美に向かって手を振った。陽子が智美の隣に立って智美の肩を抱いている。
まぶしかった。智美。君はなんて素敵な笑顔なんだ。
完
読んでくださった方 ありがとうございました。 みなさんならどちらの恋を選ぶんでしょうか?
長い小説。初めて書いたので読みづらいところが沢山あったかもしれません。 でも楽しく書けました。
ありがとうございました。