旅の終わり
北海道の旅もいよいよ終わり、輝は家に戻る。
智美との別れは、恋人同士らしく別れる事ができた。 智美は輝にプレゼントを渡す。
明日は苫小牧港、19時発のフェリーに乗って名古屋に戻る。苫小牧には遅くとも18時には到着しておきたい。
旭川から苫小牧までは高速道路を使って3時間は見ておいたほうが良い。
旭川まで智美の家から少しあるので、どんなにいられても午後2時までだ。
残り少ない智美との時間をどう過ごしたらいいのだろう?
とりあえず今日の夜はゆっくり色々な話を智美としてみたい。
輝の彼女になったと言っても彼女の事をほとんどまだ知らないのだから。
食事を終えてお風呂に入り、みんなそれぞれの部屋に戻っていく。
正は明日の朝も早朝から作業があるようで、夜は早く就寝する。
翔は、自分の部屋でネットゲームを楽しんでいる。
陽子は、録画したビデオを見ている。
輝は、智美に俺の部屋で少し話しない?とメッセージを送った。
家族全員公認だとは言っても、家族の前ではどうも直接言いにくい。 智美はすぐ行きます。と返信してきた。 輝が使わせてもらってる部屋は、智美の祖父と祖母が生きている時使っていた部屋なので、和洋室のようになっていた。 ベットで寝るのだが畳のスペースもある。
輝と、智美はそこに座って話をした。
『私小さい時から、男の人が苦手で、中学時代も、電車で男の人に触られたりした事があって余計に、怖くなっちゃったんです。 中学の時に、付き合って欲しいと何人かに言われたけど、付き合うってどういうことかも良くわからなかったし、その人と一緒にいたいなんて思ったこともなかったです。だからみんな断りました。』
『そうか~』
『はい。高校になってからも付き合って欲しいとは言われたけど、何を目的に付き合うのか?全然わからなかったし、相手がなぜ私と付き合いたいかもわからなくて。断られた理由を教えてくれ!って詰め寄られた時はほんとに怖くて。それからは、近づかないようになったんです。』
『その気持ちはなんかわかるような気がするな~。でもね、智美ちゃん。俺も正直言ってそんな真面目な人間じゃないよ。そりゃね、礼儀も大切にしてるし、人に迷惑かけるとか、嫌われるような事は極力しないようにはしてる。けど、俺だって智美ちゃんみたいな可愛い子と、二人きりになっちゃうと、抱きしめたくなったりするもん。 もちろん智美ちゃんの事がすごく大切だから、君の気持ちに添わないような事はしたくないという理性ももってる。 山に登った時、霧の中で、智美ちゃんを後ろから抱きしめた時、どこまでも続く自分の欲望に負けそうになるのを、頑張って抑えたんだ。 まだ智美ちゃんは高校1年だし、それもちゃんと彼氏なら考えなきゃいけない。俺と智美ちゃんがいくらお互いに好きと言っても、どこまででも今行ってもいいってことはないような気がするからね。
でも、智美ちゃんといると自分のものにしてしまいたいという衝動がどこまで抑えられるかわからなくて怖くなる時があるんだよ。』
『私、輝さんが、ファーストキスです。 多分それはわかったと思うし、なんとなく輝さんは私が始めてじゃない。少し上手な気がしました。 でも私が2番目でも.3番目でも今は私の事だけを彼女としてみてもらえるなら私は大丈夫です。 私だって正直に言えば、輝さんに2回目に長いキスをされた時は、このままどうなってもいいかなって一瞬思っちゃいましたから・・・。 恥かしいです。』
『恥かしくなんてないよ。 好きになればそうなりたいって思うことなんて俺たちくらいになればそりゃあったっておかしくはないもん。』
しばらく二人の間に沈黙が続いた。
『でも、今はこの前したキスが俺たちの限界であったほうがいいと俺は思ってる。
もっと大人になって、君ともし結婚したいとか、君もそう思ってくれたなら、その時はまた違うと思う。前に、うちのお母さんに恋と愛はどう違うの?って聞いた事があってさ、お母さんもすごく難しいと言っていたけど、愛は、きっと自己犠牲なんじゃないかなって言ってたんだ。
俺もそう思うよ。高校時代に付き合ってそのまま結婚するような人もいるけれど、高校時代の彼氏とか彼女って付き合ったり別れたり、そんなの多いじゃない? きっとその時に一緒にいたい。と思うのが恋なんだろうけど、恋は愛に比べたら虚ろなものに思うよ。 僕らは今、恋をしてる。僕は君に。君は僕に。
それは間違いない。けれど僕らに愛は早すぎる気がする。僕は自分のために智美ちゃんが少しでも犠牲になってほしくない。』
『それは 私も同じです。 私のために輝さんを犠牲にするのは絶対嫌です。』
『うん。 多分 君ならそういうような気がしたよ。 そういう子だから僕は君に恋をした。
多分、君が僕に恋をしたのは、僕が自分の欲望のために君を傷つけるような人間じゃないって君が感じたからだと思う。だからきっと僕が怖くなかったんだよ。
けれど、君のような可愛すぎる彼女を前にすると、本当にそれを保ち続ける事が難しいよ(笑)』
『そんな~ 私だって同じです。 キスしてもらったとき止めないで、このまま時間止まっちゃえ!って思いましたよ。』
輝は、もう智美のこの言葉で自分の気持ちを抑えきれなくなった。
智美を抱きしめて長いキスをした。 智美も、輝の気持ちを受け入れ、智美自身もそれを望んでいた。
そして、『離れていても今の気持ちを持ち続けられるようにお互いに頑張ろう。』と輝は智美に言った。
智美は 『うん。』とうなずいた。
輝も智美も、お互い想う心が強まるに連れ別れの痛みの大きさが増して来るのだった。
『智美ちゃん。 明日 翔君を朝バイクに乗せる約束したから、今日はそろそろ休むね。 翔君乗せて帰ってきたら智美ちゃんとも少しだけドライブに行こう!』
『はい。 じゃぁ おやすみなさい。』 智美は輝に軽くハグをして、自分の部屋に戻って行った。
翌朝、正はもう明け方に出かけたそうでいなかった。 陽子が、『お父さんが輝さんによろしくって言ってたわ。 また寂しくなっちゃうわね。でも智美の為に来てくれてありがとう。』と輝に言った。
『僕も、寂しいです。智美ちゃんだけじゃなくて、お父さんやお母さん、翔君みんな温かく僕を歓迎してくれました。少しだけなんだか家族になれたような気がしたんです。』
『そうね。輝さんはもううちの家族のようなものだわ。 またいつでも遠慮なく来てね。』 陽子は努めて明るく輝に言った。
翔と智美も来て、朝食を食べた。 そして食べ終わり、 『翔君。行ける?』
『うん。いつでも行けるよ。』
『じゃ美瑛の丘陵の辺りをドライブしようか?』
『うん。』
『では、お母さん安全運転で行って来ます。』
『翔。輝さんの言う事ちゃんと聞くのよ!』
『わかてるって~。』
そんな会話の後、輝と翔はドライブに出かけた。
ポテトチップを作っている有名な会社の工場が見えた。 本当に北海道のじゃがいも使ってるんだな~と輝は実感した。30-40分そこらを軽くドライブして、智美の家に戻ってきた。
『輝兄ちゃん ありがとう!すっごく気持ちよかったよ~。僕も早くバイク乗りたいな~。』翔はにこにこしながら言った。 『次はお姉ちゃんの番だから、僕呼んで来るよ。』
『うん。じゃ頼むね。』
翔は智美を呼びに行った。
陽子と智美が家から出てきて、陽子が 『輝さん。ここ出る前にお昼食べて行けそうな時間はありそう?』と聞いた。
『はい。遅くても2時には出たいのでそれまでなら大丈夫です。』
『そう、じゃ用意しとくから食べてから出発してね。』
『ありがとうございます。智美ちゃん。 じゃ 行こうか?』
『はい。』
輝と智美は、ドライブに出た。 輝は走り出すとすぐバイクを停めて、 『ねぇ どこかお薦めのドライブコースか、景色のいいところないかな?』と智美に尋ねた。
智美は、『今はもうどこも有名になっちゃって隠れた名所みたいのはなくなっちゃってるんです。 だから普通に美瑛の丘の辺りをドライブが一番かな~。 まだ 時間も早いし、そんなに人も多くないと思うから。』 と言った。
『わかった! じゃそうしよう。』
輝はバイクを走らせた。 丘陵近くの道を走っていると、晴天だった空からポツリポツリと雨粒が落ちてきた。 えっ 雨? 輝は、智美に『雨だね。どこか雨宿りできそうな所無い?』 と聞いた。
『う~ん この近くはないな~ 大きい木を見つけてその下くらいかな・・・。』
『わかった。もう少し向こうにに大きい木見えるからとにかくあそこまで行くわ。』
雨は、あっという間にざ~っと降って来た。 少し濡れちゃったね。 何とか大きな木の下でバイクを停めて凌いだ。 智美の髪と、白いTシャツが少し雨で濡れていた。
『ごめん。荷物置いてきちゃってタオルがないから。』
輝はポケットに入っていたハンカチを出して、智美の髪を持って拭いた。そしてTシャツの肩の辺りも拭こうとした時、智美は、輝の腰の辺りに手を回して、輝の胸に顔を埋めた。 輝は、軽くハグをした。
『あっ 智美ちゃん 雨止んだよ。 凄いよ。向こう見て!』 丘に大きな虹がかかっていた。
『うわ~ 綺麗~!』 智美は輝の横に寄り添って、大きな丘に掛かる虹を二人で見た。
バイクの座席を、ハンカチで拭いて、『さぁ じゃ行こう!』
輝と智美は、まだお昼まで時間があったので、拓真館へ行った。 有名な写真家が美瑛の町を撮った写真が展示してある。 白樺の並木を二人で歩き、拓真館に入った。
『冬の美瑛も綺麗だね~。』
『うん。こうやって写真だとすごく綺麗なんだけど、凄く寒いよ~』 智美は笑った。
『そうか~ そうだよね。 でもこうやって夏以外に智美ちゃんの住んでる町はこんな風に季節が変わるとなるんだな~ って思いながら見てると何だかそれも楽しいよ。』
『そか~ でも私も輝さんが、普段どんなとこに住んでて、どんな町で、どんな学校行ってて。そういうの見てみたいよ~。』
『そうだな。 もし来れるようなら 遊びにおいで。 うちは智美ちゃんちみたいに広くないから、ゆったりはできないけど、俺がお母さんの部屋で布団敷いて寝るから、俺のベットが嫌じゃなきゃ俺ので寝てくれればいいし。 お母さんもきっと智美ちゃんに会ってみたいだろうからね(笑)』
『うん。私も行って見たいな~。』
輝と智美は、拓真館を出て智美の家に戻った。
『おかえり~ 雨に降られなかった?』陽子が智美に聞いた。
『急に降って来たんだけど大きな木の下で、少し待ったらすぐ止んだからそんなには濡れなかったよ。』
『そう。じゃ 良かったわ。』
『お母さん 雨の後でね。すっごく綺麗な虹が見えたの。』
『へぇ~ 良かったわね。 思い出に残りそうね。』と陽子は、にこやかに笑っていた。
『輝さん、お昼簡単だけど作ったから、食べて行って。』
『ありがとうございます。 本当に色々お世話になっちゃってすみません。』
『何言ってるのよ。 智美の為にわざわざ来てくださったんだもの。 このくらい当たり前よ。 こちらがお礼しなきゃだわ。』 陽子は明るく輝にそう言ってくれた。
『翔、智美。お昼食べるわよ。』 『は~い。』智美と翔の返事が聞こえて、リビングに来た。
昼食を、今日のドライブでの出来事の話をみんなでしながら食べた。
いよいよ、輝が帰る時間になった。
『お母さん、翔君色々お世話になりました。元気で頑張ってください。 智美ちゃん。しばらく会えないけど、電話もするから。』
智美は、『これ私からのプレゼント。』 小さな袋を渡した。
輝は『見ていい?』と聞いた。 智美は黙ってうなずいた。 一つは小さなアルバムだった。ほんの少しの時間だったかもしれないが、その間、智美と輝が過ごした二人の写真をアルバムにしてあった。
『うわ~ これいいね~! すごくいいよ。 毎日みたいな(笑)』
智美は 『うん。』とにこやかに笑った。
『もう一つは何かな?』輝が包みを開けるとキャメル色のブックカバーだった。
『輝さん本好きだけど、カバーつけてなかったから、どうかな~と思って。』
輝は、智美の自分に対する心遣いが嬉しくて、陽子や翔が見てるのも忘れて、智美を抱きしめた。
『あっ すみません。』 輝は我に返って智美を慌てて離した。
陽子が 『いいのよ。彼女なんだもの。そのくらい。 お父さんもいないしね。』と言って声を出して笑った。 輝は苦笑いして、翔も智美もケラケラと笑っていた。
『輝さん 気をつけて。 また船に乗ったらメッセージくださいね。』 智美は、輝に軽く抱きついた。
『うん。 わかったよ。』
陽子は、智美に『今度は彼女らしくお別れが言えたわね。』と言った。
翔は、『俺も姉ちゃんみたいな可愛い彼女欲しいな~。』 と言うと智美は、『翔もたまには良いこと言うね。 きっとできるわよ。頑張れ!』と翔の背中を叩いた。みんなが笑った。
輝は、もう一度陽子に礼を言い、『お父さんにもよろしくとお伝えください。』と言った。 そしてバイクのエンジンをかけて 智美と翔に 『バイバイ またね。』 と言って、苫小牧に向かった。
船に乗った輝は、智美にメッセージを送った。 智美からは無事船に乗れたんですね。良かったです。と返信が来た。
船は、北海道を離れて行く。
輝は、スカイデッキから苫小牧の町の明かりが見えなくなるまでずっと見ていた。
北海道の旅は、智美との出会いの旅だった。
毎日、智美と会えたら、どんなに楽しいだろう。 これからは、受験も意識して学業も忙しくなって行く。 お金もある程度は必要なのでバイトもするが、これまでのようなペースではとても出来ない。
輝は、荷物の中から、智美にもらったブックカバーを読んでいる本にかけ、智美とのアルバムを見た。
改めて、智美を写真で見ると、天子のような可愛さだ。 肌があまりにも白いので、余計に天使のように見える。 自分がこんなにも可愛い女性と付き合えるなんて夢のようだ。 智美は容姿だけでなく心も純白だと思った。 嘘や偽りがなくいつも輝に真っ直ぐに向かって来てくれる。 輝の事を考えていつも気遣いもしてくれた。 俺の人生の幸運を全て使い果たしたかも・・・こんな子が俺じゃなきゃダメ。俺しかダメだなんて・・・。
船は夜の海を進んでいく。
二日間の船の旅ももうすぐ終る。 船内放送でもうすぐ、名古屋港に着くと案内放送が流れた。
10時30分。 船は名古屋港に着いた。 輝は、バイクで家に戻った。
典子は、仕事で家にいなかった。荷物を整理し、溜まっていた洗濯物を洗濯した。
アルバムと智美にもらったブックカバーのついた本を机の上に置く。
またアルバムを見た。船の中でも一体何回このアルバムを開いただろう。智美がこれを作ってプレゼントしてくれて本当に良かったと思う。 会えない寂しさの穴をこのアルバムが少しだけ埋めてくれるような気がした。 時間は12時近くになっていた。 輝は、冷蔵庫を開けて、残っている食材でチャーハンを作ってお昼ご飯を食べた。 そうだ。智美に家に着いたことを連絡しよう。 無事家に着いたよ。智美ちゃんがくれたアルバムは俺にとって最高のプレゼント!離れていてもこれを見ると北から君の恋の風が吹いてきてこのアルバムに香りをつけて僕に届けてくれるような気がするよ。 智美ちゃんに会いたい・・・
暫くすると智美から返信が来た。 無事に到着して良かったです!あのアルバムは私の分と2冊作りました。輝さんが大学生になったら、出来たら同じ大学、もし無理でも絶対近くの大学に行きます!私 頑張る! 大好きだよ輝さん。
輝は、胸が熱くなった。もし近くに智美がいたらこういう切なさは感じなくて済んだと思う。けれど、こんなにも強く思っていると実感することが出来ただろうか?こんなに愛しいと思えただろうか?
離れているからこそ、お互いが強く思わなければ簡単に切れてしまう。 こういう恋の形ももしかしたら素晴らしいのかもしれない。輝はそう思った。
夏休みの課題は終っていたが、明日からバイトなので、暇な時間は少し勉強しておこう。
夕方近くになり典子が帰って来た。
『あー君 おかえり~ バイクあったから帰ってるよね~。』 玄関で典子の声がした。
『ただいま~ 帰ってるよ。』と輝は言いながら部屋のドアを開け玄関に歩いて行った。
『着替えてお茶入れるから、旅行の話聞かせて~。』
『うん。わかった。 お茶は俺が入れるわ。お母さんコーヒーだよね。』
『うん。じゃ お願い。』
輝は、典子のコーヒーと、自分は柚子のジュースにして、テーブルに置いた。 そう言えば うちもユジャロンいつも冷蔵庫にあったな~。 輝の家にも、典子が時々温かくして柚子茶を飲むので置いてあった。 陽子さんとお母さん、少し似てるかも・・・。
『あー君お待たせ~ コーヒーありがとね。 ねぇねぇ 写真では見たけど、すっごく可愛い子ね~ 性格とかはどんな子なの?』 想像通り、典子は智美の事が気になるようで、最初からいきなりその話になった。
『性格は、明るい子だよ。とにかく優しい子。見た目もすごくいいんだけど、俺は智美ちゃんの優しさがあったから付き合ったと思う。やっぱり彼女にするなら優しい子だなって思ってたからね。』
『そか~ うんうん。優しいのが一番だよね。 スマホの写真見せてよ。』
『それより、彼女が俺に帰り際にアルバムを作ってプレゼントしてくれたからそれ見て見ない?』
『見る見る~~。』典子は子供のように満面の笑顔で言った。
『じゃ 持って来るよ。』 輝は、部屋からアルバムを持って来て典子に見せた。
『うわ~ いいね~ ほんと なにかしら?二人とも輝いてるわ。恋してるって感じ! いいな~。』
『お母さんも、こんなに綺麗なんだから、別に恋もしようと思えばいくらでもできるからすればいいじゃん。』
『う~ん 私はね。今もあなたのお父さんに恋してるからいいの! あなたは信じないでしょうけど、神様の国になった時また、お父さんと素敵な恋人から始めるわ。』とにこやかに笑った。
クリスチャンらしい考えだな~ と輝は心の中で思った。
俺は、そういうの信じてないから、この世の中でできるだけ自分も幸せになりたいし、智美ちゃんも、お母さんも幸せにしたい。 だから現実的に俺ができる事を精一杯やるだけだ。輝はそう思った。
典子は、アルバムを開きながら、輝に『この写真はどこ?』とか『私もいつか連れて行って』とかそんな話を輝と暫くしていた。
『今日は、あー君が帰ってくるから、タイムセールでお刺身買っておいたの。』
『いいね~お刺身。』
『でしょ! じゃちょこちょこっとお吸い物とかお母さん作るから待ってて。』
『じゃ よろしく~』と輝は言って、部屋にアルバムを片付けに行った。
典子が準備している間、久しぶりにパソコンでアニメを見た。 輝が見たアニメは高校生の恋の物語だった。 そのアニメではいつも二人は近くにいて同じ時間を過ごせていた。同じ学校で、昼休みや放課後、そして下校時には一緒に帰る。 休みにも会ってデートしたり、時にはちょっとした喧嘩もあったが、それでも会いたいと思えばいつでも会える距離にいた。 輝も智美ではなく、もし同じ学校の生徒、例えば涼が彼女であったなら、こんな楽しい恋人のいる生活が出来たかもしれない。 俺と智美ちゃんの彼氏彼女はこんな風にはならないけど、どうやったら一番楽しくやれるのかな~? 会わずに恋人として充実したやり方ってどんな風にすればいいんだろう? 輝は色々考えてみた。 しかし、正直なところあまりいいアイディアは出て来なかった。 離れてるってやっぱり難しいな~。輝は思った。
典子が『食事の準備が出来たから食べましょう。』と呼ぶ声が聞こえた。
輝は典子と久々に親子で食事をした。
輝は家に帰り、また元の生活が始まる。 智美との電話やメールは続くが、日に日に会いたいという気持ちが募る。 涼は輝に彼女ができても自分のきもちを簡単に帰ることが出来なかった。 苦しむ涼を茜は励まそうとする。