涼の気持ち
智美の家を出て霧多布に輝は向かう。渉は輝から智美を彼女にした事を聞いて、他の友達にも教えるが、涼だけには言いにくく、教えなかった。しかし、明日香が涼の気持ちに気づかず涼に知らせる。
輝と智美の事を知ってしまった涼は・・・。
渉は、輝から智美の事を聞くと、どうにも他の仲間に教えたくて、すぐに理恵、明日香、俊、茜にはメッセージを送った。 しかし涼にだけはなんとなく教えにくかった。 輝はああ言っていたが、渉には涼が輝を好きなんじゃないかと写っていたからだ。
明日香は、渉からメッセージと輝の彼女の写真を見て、この子じゃ自分は絶対勝てなかったし、私は俊君で今とても幸せ。 素直におめでとうと言えるわ。と思った。そして、俊や茜や涼に、渉からメッセージもらったんだけど、みんな聞いてる?と聞いた。 涼からは既読にはなっていたが、何も返って来なかった。 理恵ちゃんには渉君の彼女だし伝わっているだろうから聞く必要もないよね。 そう思った。 涼のほかの3人からは、見た見た!何このすっごい可愛い子。と言うような返信がすぐに返って来た。
あれ?涼ちゃん既読なのに・・・ 明日香は まさか・・・と思った。 涼ちゃん輝君の事好きだった?
うわ~ 私どうしよう。 そうだっのかな~ 明日香は焦って、茜にLINEで通話した。
『茜ちゃん。もしかして涼ちゃん。輝君の事好きだったのかな。』
『私は涼ちゃんから何も聞いてはないけど、なんとなくそうかもって思ってたよ。』
『うわっ 私、全然気づかずに涼ちゃんにも送っちゃったよ。』
『いずれわかる事なんだから仕方ないよ。私も涼ちゃんに直接聞いてもいないし、本当はどうなのかもわからない。だから明日香ちゃんがそんなに気にする事ないよ。こう言う事って本人がどうするかって問題だから。涼ちゃんがもし輝君の事を好きだったとしても、それを言うか言わないかは私たちの問題じゃないもん。涼ちゃん自身が決める事だから。』
『そうだよね・・・ でも涼ちゃんの性格では好きだったとしても言い出せなかったのかな?』
『明日香ちゃん。今私たちがそれ考えても仕方ないよ。涼ちゃんが私に相談したり助けを求めたら、私なりに精一杯涼ちゃんのために考えてあげようと思ってる。』
『そうだよね。でも私には相談しにくいかも・・・ 私ずっと前輝君に告白して振られちゃってて、それ涼ちゃんも知ってるから私にずっと気をつかってたのかもだし。』
『そうなんだ~。今はとりあえずそっとしてあげようよ。』
『そうだね。何も出来ないしね。』
二人は心配しながらもどうする事もできなかった。
涼は、明日香からのメッセージを見て愕然とした。ショックで涙が止まらなかった。 智美の写真を見て、可愛い。可愛すぎる。 この子なら輝君が好きになっちゃうのは仕方ない。 けれど、真琴にあれだけ助言されてたのに勇気がなくて何もできなかった自分が情けなくて、後悔しても後悔し切れなかった。
夜になっても電気もつけず呆然として、ベットの上で泣き続けた。
真琴が、仕事から帰ってきて、真っ暗だったので、最初は涼がどこか出かけてるのかと思ったが、靴もあるし、と思って部屋に行くと。涼がベットでうつむきになってしくしく泣いていた。
『涼。何かあったの?』真琴が尋ねても、ただ泣いていた。 真琴はなんとなく輝の事ではないかと思った。
『涼。輝君の事じゃないの?』 そう言うと涼は声を出して泣き始め、『お姉ちゃん』と真琴に抱きついてきた。 真琴はこれで大体の事はわかった。 涼が振られることはまずない。 誰かが先に輝君に告白して輝君がそれをOKしたのだろう。 真琴が感じた嫌な予感が的中してしまった。 今は涼を責めても仕方ない。 励ますような言葉も更に涼を苦しめるだけだ。 真琴は泣いている涼を優しくずっと抱きしめた。
『涼。とりあえず今日は、外食しようよ。 お姉ちゃんもお腹が空いたし。 近くのファミレス行くから着替えなさい。』
涼は、うなずいて着替えをして真琴と食事に出た。
涼は、料理が来る間、静かに話始めた。
『輝君が北海道に旅行中、偶然助けた女の子に告白されて彼女にしたみたい。 私、輝君が帰ってきたら勇気を出して言ってみようと思ってた。お姉ちゃんの話聞いて勇気ださなきゃって思ったの。 でも遅かった・・・。 旅行に出かける前に言えるチャンスはいくらでもあったのに・・・私に勇気がなかったから・・・。』
涼は、携帯を取り出して、姉に智美の写真を見せた。
『お姉ちゃんこの子。輝君の彼女。 すっごく可愛いでしょ?』
『そうね・・・』
『私どうしたらいいかな?彼女が出来たって言われてもこの気持ちをすぐに変えるなんて無理だよ。』
『そうね。わかるわ。お姉ちゃんもどうすれば一番いいのかなんてわからないわ。 でも 涼の気持ちをすぐ変える必要はないと思うの。 そんなに簡単にあきらめられるものじゃないもの。』
『ねぇ もしお姉ちゃんならどうするの?』
『そうねぇ~ 私と涼とでは性格も考え方も違うから私がすると思うことが涼に当てはまるかどうかはわからないわ。でも私なら輝君への気持ちは捨てない。 輝君にできた彼女は容姿も涼と同じくらいに素敵な女の子だわ。 だけど一つ問題がある。それは距離よ。 男と女って実際の所いくら心で結ばれてるとか言ってもずっと会えないって言うのは凄く難しいの。 会いたいって気持ちが強いほど、会えないことが苦しくなる。電話やメッセでコミュニュケーションが取れるって言ったって触れ合いたいと思わないわけがないからね。 輝君と彼女が別れる事を望んでるわけじゃないのよ。 けど自然にそうなれば、涼にはまだチャンスはあるわ。でもそれでも二人が上手く行く場合もある。 それって賭けみたいなものよね。 でもお姉ちゃんなら汚いかもしれないけどそれに賭ける。 もしかしたら、近くにいる事利用して奪おうするかもね。涼にはできないでしょうけど・・・。』
『そうか・・・。私にはそこまで出来る覚悟もないけど、でもやっぱり今すぐこの気持ちを捨てちゃうなんてとても出来そうにないよ。』
『すぐに捨てる必要なんてないと思うわ。人を好きになるのは自由だもの。相手に彼女がいたとしてもね。とりあえず、涼がそういう気持ちなら、今の涼よりも、もう一ランク上の女の子になるように努力してみたら? お姉ちゃんも前に話したけど、輝君もほんとは涼が好きだったと思うの。でもそれが叶わないって感じてこの子に出会って新しい恋を歩みだしたように、涼もそうなるかもしれない。今は輝君の存在があなたの中で大きすぎて無理だろうけど、時間は色々変えるから。 だから 自分にできることを頑張りなさい。』
『うん わかった。 泣いてても何もかわらないものね。』
『そうだよ。』
二人は夕食を食べて家に帰った。
次の日、霧多布は曇りだった。しかし霧も無くカヌーに乗るには問題がなかった。
オーナーが『じゃ出発するよ』と輝に声をかけた。 カヌーを車に載せ、川の近くでカヌーを下ろした。
オーナーの奥さんが、カヌーを下ろした車を運転して、カヌーの終着点に迎えに来てくれるようだった。
湿原の中をカヌーはゆっくり進んだ。湿原の中の鳥や、植物を間近に見る事ができて、とても楽しかった。都会では味わう事が出来ない自然の美と触れ合う事は、輝に新しい楽しさを教えてくれた。
カヌーの湿原の小さな旅も終わり、夕食までまだ時間があったので霧多布岬までバイクで行って見た。
太平洋に突き出るように岬は伸びていて、太平洋に沈んでいく夕日がとても美しかった。
そうだ。 そう言えばお母さんにまだ智美ちゃんの事報告してなかったな。
輝は、典子に智美の写真を添えて彼女ができました。と報告した。
典子は、その日まだ仕事で仕事が終って、携帯を見て驚いた。
あら・・・ 私はてっきり涼ちゃんが彼女になると思ってたのに・・・。 本当に智美ちゃんってなんて可愛い子なの。 これじゃ輝が好きになるのもわかるわ。 でもこれからどうやってお付き合いするのかしら? でもまぁ 良かったわ。青春時代は恋はしないとね。 典子は輝に、可愛い子だね~ 上手くやったね(笑) 良かったね~ と返信した。
ペンションに戻って、食事の前に先にお風呂に入って、食事をした。今日は生憎の曇り空で昨日のような星は見えない。 オーナーも『昨日みたいな事は、ここに住んでいても何回も見れるもんじゃないからラッキーだったね。』 と話してくれた。
明日は 朝食を取ったらすぐに出て札幌まで移動するつもりだ。 次の日だけは宿の予約を取っていなかった。かなり長距離なので、天候とかによっては移動が困難かもしれなかったから、無理ならどこか空きをネットで探せばいいと思っていた。
幸い、智美の家で2日間お世話になったので旅費も節約できていた。 輝はまだ時間が早かったので持ってきた本を読み始めた。 しばらくすると智美から電話がかかって来た。
『輝さん 今大丈夫ですか?』
『うん。 暇してた(笑) 今日は曇りで星も見えないし、する事なくて本を読み始めてたところだよ。』
『じゃ 読書の邪魔しちゃったかな?』
『ううん。読書より智美ちゃんと話したほうがずっと楽しいから嬉しいよ。』
初めての彼氏、初めての彼女、そんな二人はこんな感じなのかもしれない。毎日会ったり話したり、好きな人一緒にいられるだけで幸せと感じる。 大人の恋ような打算などなく、純粋にいつも一緒にいたい。話したい。そういう恋は一番美しい。今の輝と智美のように。
『輝さん、明日はどういう予定ですか?』
『明日は札幌まで行こうと思ってる。宿泊先は決めてないけどね。明日ネットで予約するつもり。 天気は多分大丈夫だと思うけど、長距離だから移動難しくなると困るからね。』
『ねぇ 輝さん、わがままだって言うのは十分わかってるんだけど、北海道を出る前にもう一度だけでいいから会ってもらえないですか? 明日 泊まるところが決まってないなら、明日もう一度うちで泊まるのは無理ですか?』
『無理じゃないけど。でもいいの?』
『私は来て欲しい。会いたいもん。私も簡単に輝さんに会いにいけないから・・・。 お願いします。』
『智美ちゃん。お父さんやお母さんには話したの? お父さんにはまだ言えてないけどお母さんは私の気持ちを話して、輝さんに迷惑じゃなければ、うちに来て泊まってもらうのは全然構わないって言ってくれてます。』
『う~ん お父さんには俺から頼もうか?』
『いえ じゃ私今からお父さんと話します。それでもう一度輝さんに電話していいですか?』
『わかった。 じゃ 待ってるね。』
電話を終えた智美は、正に、『お父さん今話せる?』と聞いた。
『おう お前から話なんてなんだ?珍しいな。なんか頼みごとでもあるのか? ちょっと聞くの怖いわ。』と正は笑って言った。
『お父さん、まじめな話なの。』
『悪かった。ちゃんと聞くから言ってみなさい。』
『私、輝さんの事好きなの。 それで大雪行ったときそれを輝さんに伝えて、それで輝さんOKしてくれたの。』
『そうなのか~ 良かったじゃないか。』
『ありがとう お父さん。 それでね。もうすぐ北海道から帰っちゃうんだけど、私どうしてももう一度会いたいから、お父さんが許してくれたら明日もう一度うちに泊まってもらうように頼んでみようかなって。』
『でも智美。輝君の予定もあるだろ?それさえ問題なければお前の頼みなんだしお父さんは構わないぞ。』
『輝さん 明日は本当は札幌まで行く予定だったんだけど、泊まるところは予約も入れていないから、お父さんの許可があれば、うちに来てもいいって言ってくれた。』
『そうか。 わかった。お父さんは構わない。お母さんには聞いたのか?』
『うん。お母さんはお父さんがダメって言っても私が応援するって言ってくれてるけど、輝さんがお父さんに聞くように、と言うか、自分がお父さんに頼んでみようか?と言うから私が頼んでみるって言ってお父さんに頼みに来たの。』
『そうか。 なぁ 智美。お父さんなぁ~ 輝君で良かったって本心で思ってるんだ。 お前を勇気を持って助けてくれた事だけでもお父さんは彼の事気に入ってた。 2日間泊まった時の、彼の態度とか誠実さ、あんなやつ中々いないと思ったよ。 正直お前の婿になるならああいう男がいいなって思ったくらいだ。 まだまだ嫁にいかれては困るけど(笑) それに明日泊まる事もちゃんとお父さんに許可もらおうとするなんて、今の男でそんな律儀なやつは珍しい。益々お父さんは彼が気に入った。 お前本当によかったな。』
『お父さん!』
智美は、父の言葉があまりにも予想外で嬉しくて初めて自分から正に抱きついていた。 正はびっくりした。 おいおいと言いながら照れ笑いをしていた。 父はてっきりあまり言い顔はしないと思っていたので智美にとってはナイス サプライズだった。 陽子に父の話を伝えると、陽子は『お父さんもいいとこあるわね。』と笑って智美を、『良かったね。』と言いながら抱きしめた。
智美は、父の許可をもらえた事を報告し、輝は智美の家に明日もう一度行く事になった。
智美は、お父さんやお母さんにもこれでちゃんと彼氏と報告したので、次別れる時は堂々と彼女らしく別れようと思っていた。
輝は、もう一度智美に会える喜びは大きかったが、陽子や正にどんな顔をして会えばいいのかが、ちょっとした悩みでもあった。
明日は、少し大回りになるが、霧多布からは2時間ほどの摩周湖を見ておこうと思った。 智美には早く会いたいが札幌に行かないなら摩周湖は見ておきたい。
次の日は、少し雲はあったが晴れだった。 朝食を取り、よくしてもらったペンションのオーナー夫婦にお礼を言って摩周湖に向かった。 道も空いていて予定より少し早く摩周湖に着いた。 奇跡的に晴れていて摩周湖全体を眺める事が出来た。 その美しくブルーに輝く水面は流石、世界第2位(バイカル湖が第1位)の透明度の高い湖だ。摩周湖を堪能した輝は、近くの道の駅に行った。 そこにはここで湧き出ていると言う温泉の足湯があった。 少しだけその足湯をした。 もしもう少し寒い季節ならもっと長い時間したいところだが、今日は少し暑いのですぐやめてしまった。
コンビニでお手洗いを借り、サンドイッチとおにぎりとお茶を買って、イートインで食べて、また旭川に向かった。 もう智美の両親も輝と智美の関係を知っている。こういう場合どう振舞えばいいのか? 初めての経験でまるでわからなかった。
夕方近くに智美の家に着いた。 呼び鈴を鳴らして『水主です。』 というと 『すぐ行きます!』と智美の声がした。 玄関のドアを開けた智美は、輝にいきなり抱きついて来た。
『智美ちゃん お母さんもいらっしゃるでしょ?』と言って少し智美の身体を離して、『お待たせ』と、頭をなでた。
後から、陽子が出てきて、『智美。何してるの?早く輝さんに上がってもらいなさい。』
『あっ ごめんなさい。』
輝はバイクから荷物を降ろして前に泊まった部屋に置いた。
『喉渇いてるでしょ? 何がいい?』 陽子が大きな声でキッチンから尋ねた。
『もしあれば 柚子ジュースでお願いします。』
『わかったわ。リビングに着替えたら来てくださいね。』
『ありがとうございます。わかりました。』
輝はチノパンと襟付きのシャツに着替えてリビングに行った。
陽子は、『この前座ってもらった席に座ってて』と言い、ジュースを持ってきた。
智美は部屋で何かしているようで、すぐには来なかった。
『智美いらっしゃい。』陽子が智美に声をかけた。『は~い。すぐ行く~。』
陽子は輝に、『輝さんのお母さんからお手紙が届いたの。私宛に。』
『えっ そうなんですか?』
輝は最初に智美の家に泊まった時、典子に住所やお世話になる家の人たちに付いて、母に連絡はしていた。でもその時点で母は、輝と智美の関係は知らなかった。 ただ息子がお世話になるからと、陽子宛にお礼の手紙を書いて送ってくれていたようだ。
『今時手書きのお手紙でこんな風にお礼してくださるなんて少ないから、流石 輝さんのお母さんだと感心したわ。 私も典子さんを見習わなきゃと恥かしくなったわ。 メールでちょこちょこっとお礼したりする程度が多いから・・・。 字も綺麗だしきっと素敵なお母さんでしょうね。』
『僕にはわからないです。普通の親ですよ。お母さん以外の母親がどんなものかわからないので普通がお母さんになっちゃいますから。』
『そりゃそうよね。 でもちゃんとしたお母さんだわ。』
陽子は典子に好感を持ってくれたようだ。
智美が部屋から出てきた。 なんか少し可愛らしい服を着ていた。
『その服すごく似合うね。』輝は智美に言った。
智美は頬を赤らめて『よかった~。どれにするか迷っちゃって。』と言うので輝は『家の中だし智美ちゃんはパジャマで十分可愛いよ。』と言うと陽子は、『ごちそうさま。智美良かったわね~』と笑った。
『ねぇ 輝さん。輝さんのお母さんの写真ってあるの?あったらどんな方か見てみたいんだけど。』
『あぁ~ あるよ。今年のお正月明けくらいにお母さんと旅行行った時のがスマホにあると思うから。ちょっと待って。』
陽子も『私もみてみたいわ。』と興味津々で待っていた。
輝は何枚かの写真の中から母の少し笑っている写真を選んで智美と陽子に『これだよ。』と言って見せた。
二人とも 『えっ』 と同時に言った。
『お姉さんじゃないの?これ典子さん?』
『そうですけど、母ですよ。』
二人は 今度は同時に『え~~~』と言った。
『お幾つ?』陽子が聞くので『今年で42歳です。』と言うとまた二人で『え~~~』と言った。
『うちの母、友達にも良く言われるんですけど若く見えるみたいです。』
『お母さんと同じ年だよ。 でも輝さんのお母さん完全にお姉さんだよ~。』
『悪かったわね』と陽子は苦笑した。
『うちのお母さんだって年齢よりは若く見えるし、ここらでは一番綺麗な自信はあるよ。 ただ 輝さんのお母さんが綺麗過ぎるだけだよ。』
『フォローしてくれてありがとう。』陽子は智美のおでこを軽く人差し指で押した。
『僕も陽子さんは綺麗な方だと思いますよ。』
『そう?嬉しいわ。それにしても典子さんどうやったらこんなに若々しくいられるのかしら。教えてもらいたいわ。』
翔が帰って来た。『輝兄ちゃん来てるよね~』 玄関で大きな声でそう言った。
輝は、玄関の方に歩いて行き『翔君お帰り、またお世話になるね。』と言った。
『夏休み中うちにいなよ。僕、旭川案内するからさ。』
『ありがとうな。でもそんなにはいられないからごめんな。』
『そっか~ 残念だな。 ねぇねぇ ちょっとお兄ちゃんのバイク触らせてもらっていい?』
『ああ いいよ。』
『やった~。』
翔は、カバンを玄関にポンと置いて輝のバイクを色々触っていた。
輝は陽子に、『明日晴れていたら少し翔君僕のバイクの後ろに乗せてそこらをくるくるっとドライブしたいんですけどいいでしょうか?』と尋ねた。
『ありがとう 輝さん 翔 喜ぶと思うわ。』
『安全運転で少しだけバイクを楽しんでもらう程度で戻ってきますので。』
『色々気を使ってくれてありがとう。』陽子は輝にお礼を言った。
『翔君明日の朝は何か予定ある?』
『明日の午前中は何もないよ。』
『じゃ明日の朝、朝ごはん食べたら少し俺の後ろに乗る?バイクで?』
『えっ いいの!?』
『うん。お母さんにも許可もらったから。』
『やった~ お兄ちゃんありがとう。』とすごく喜んだ。
智美は『翔だけずる~い』と言うと翔は、『ずるくないし、お姉ちゃん前に市内から乗せてもらったくせに!』と言った。輝は、『智美ちゃんも少し乗せてあげるから』と言うと、翔は『ちぇっ彼女だからまぁ仕方ないか』と言って笑った。
正が仕事から帰ってきて、『輝君なんか智美のわがまま聞いてもらってすまないな~。』と言った。
輝は、『いえいえこちらこそまたお世話になります。よろしくお願いします。』と正に頭を下げた。
智美と陽子は夕食の準備を始めて、翔は自分の部屋でなにかゲームをしているようだ。
リビングには輝と正の二人になった。
『智美から聞いたよ。 よろしく頼むな。智美の事。 父親としては正直複雑な気持ちもある。でも心から君で良かったとも思ってる。』
『ありがとうございます。』
『前にも話したけど、あの子男性が苦手で、このまま誰とも付き合えないかも知れないと思ってたんだ。俺だって、若いときは好きな子もいたし恋もした。 そういうのが青春時代に全くできなかったら可哀想だなと思ってたし、このままじゃきっとそういう経験もできないと思ってたんだ。 だから今は父親としても本当に応援してるし、良かったと思ってるよ。 ただなぁ~ 君もわかってるだろうけど、距離が、距離だ。会いたくても簡単には会えないし、会わせてやりたくてもそう簡単なことでもない。 それでもちゃんとやって行けるか。それが心配なんだ。』
『お父さん。僕も智美ちゃんも正直それは不安です。 僕だって、せめて東京くらいまでならバイク飛ばして行くくらいの気持ちはあるんですけど・・・。だけど、智美ちゃんは僕に僕しかダメだって言ってくれました。 僕は今まで彼女もいなかったから、彼女として付き合うってどういう風に付き合えばいいのかよくわかりません。 でも、そんな風に言ってもらえたら僕だって智美ちゃんの容姿も性格もすごく好きだから、自分に出来る限り大切にしたい。そう思ったんです。 でもお父さんのおっしゃるように距離の壁がどのくらい僕らの妨げになるか?それはこれから先やってみなければわかりませんし、絶対大丈夫とは約束ができません。 それでも今は頑張ってみよう。そう思ってます。』
『輝君。君は正直だな~。 君でほんとに良かったよ。青春の恋だし先の事はわからないけど、智美の事よろしく頼むな。』
『はい。』
正は輝の肩を2回ポンポンと叩いて、台所からビールを持って来て飲みだした。
いよいよ北海道の旅も終わり帰路に着く輝。
これから智美との遠距離恋愛が始まる。 涼との関係はどうなる?