新川(しんかわ)智美(ともみ)との出会い
輝は旭川で男に絡まれている女の子を助ける。 そして新しい恋の予感が・・・
旭川に着いた。バイクを駐車場に停め、駅前辺りからとりあえずぶらぶら歩いてみる。
流石に、北海道第2の都市だけあって、駅前は栄えている。 通りも平日にしては人通りも多いように感じた。 旭川に来たら、まずは旭川ラーメンを食べよう。 12時を過ぎると恐らく込み合うと思ったので、開店すぐの11時少し過ぎに行った。 ラーメン屋に入った輝は、塩ラーメンを頼んだ。 この店は最初塩ラーメンだけを出していたらしい。なのでオリジナルは塩ラーメンのはずだから、それが一番かなと思ったからだ。
出てきた塩ラーメンは、乳濁色のラーメンで、きくらげらしきものがトッピングしてあった。 ラーメンのトッピングできくらげって見たことないな。 輝はラーメンを食べ始めた。 『うまっ。』思わず声がでてしまった。 美味しかった。 スープがあっさりしていて飽きが来ない。 なんかきくらげも合うし。 輝は、ちょっと感激した。 旭川を出る時、もう一度食べたいな~と思った。
ラーメン屋を出た輝は、石狩川の近くにある大きな公園まで行き、その公園を散歩した。池には鴨がイラストか漫画で見たように一列に並んで水の上を泳いでいて、偶然そう見えたのかも知れないが、『えっ 鴨ってまじで一列で泳ぐの?』と思わず口に出して笑ってしまった。 輝は公園から旭川駅近くにバイクを停めた駐車場に戻り始めた。
その途中、小さな路地を通り過ぎようとした時、女性の 『いや~ やめて!』 と言う声が聞こえた。 制服を着た女の子の手を、ちょっとヤンキーっぽい男が引っ張っている。 気になってもう少し見てみたら、どうも知り合いで揉み合っているのではなさそうだった。 女の子は必死で男から逃げようとしていた。 輝は思わず駆け寄って、『嫌がってるだろ! 離してやれよ!』と男に言った。 男は、『なんだお前! 関係ないだろ!』と言って女の子の手を離して、いきなり輝に殴りかかってきた。輝はとっさにそれを避けて相手の足に思い切りローキックをした。空手をやっている輝のローキックは強烈で相手は足を押さえ込んで転がり動けなくなった。
輝は、急いで女の子の手を取り、駅の方に走り出した。
しばらくして後ろを振り返ると男は付いて来てはいないようだった。 輝は、まだ女の子の手を握っていた。
『あっ ごめん。』それに気づいてやっと手を離した。
『いえ 本当にありがとうございます。』
『知ってるやつなの?』輝が女の子に尋ねると、『いいえ 全然知らない人で、いきなり付き合えとか言われて・・・。』と言う。
『ちょっとの間は動けないだろうけど、すぐに動けるようになるから、早く家に帰った方がいいよ。』と輝は言い女の子に 『じゃ 気をつけて』と去ろうとすると、彼女は、 『待ってください!』と呼び止めた。
『えっ 何だった?』と輝が聞くと 『私、旭川から電車に乗って帰るんですけど、1時間に一本くらいしかなくて、今から駅に行ってもちょうど出ちゃうくらいで、待たなきゃいけなくて・・・。またあの人が来るかもと思うと怖くて・・・。電車が来るまで一緒にいてもらうのは無理ですか?』 と聞いてきた。
輝は、『まぁ 構わないけど、君の家はここからだと車ならどのくらいかかるの?』と聞いた。 『30分まではかからないと思います。』
輝は少し考えて、『俺バイクだから じゃ送って行くわ。 本当は後ろに人乗せて事故とかしたら困るからあまり気が進まないけど、こういう場合は仕方ないから。 それでどう?』と聞いた。
『いえ そこまでしてもらっては悪いです。』
『でもさ、一時間君に付き合って待つよりその方がいいし、君も確実に安全じゃない? 俺もその方が安心だしね。このまま君を一人にしたら、それはそれで心配で嫌だし。』
『本当にいいんですか?』 『うん。 いいよ。』 『じゃ すみません。お願いします。』女の子がそう言ったので、『じゃバイクの置いてある所まで戻るから付いて来て、駅の近くだから。』と言った。
女の子は、『私 新川智美です。』と言った。
輝は、『俺は水主 輝。北海道に10日間くらい旅行に来たんだよ。』 と言った。
智美は『輝さんって呼んでいいですか?』と聞いた。
『ああ いいよ。じゃ俺は智美ちゃんでいいかな?』
『はい。』
『智美ちゃんの家はどっちの方角なの?』
『JRだと富良野線に乗るんです。美瑛ってわかります?』
『うん。俺そっちの方から旭川に来たから。わかるよ。 とりあえずそっち方面に走るから、曲がらなきゃいけない所が近づいたら、教えてくれるかな?』
『はい。よろしくお願いします。』
バイクが置いてある駐車場に着いた。
『あっ 俺考えてなかったけど、後ろに乗ってもらうと俺にしがみついてもらう形になっちゃうけど・・・智美ちゃん 平気?』
『私は輝さんが良ければ大丈夫です。』
『そう じゃごめんね。』
二人はバイクに乗って富良野方面に戻り始めた。
輝は、平静を装ってはいたが、相当ドキドキしていた。 智美は色が抜けるように白く、少しスレンダーな飛び切り可愛い女の子だったからだ。 涼は笑うと凄く可愛いが制服姿で静かな時は、美人というタイプなのに比較して、智美は、美人と言うタイプではなく、すぐにアイドルグループにでも入れそうな抜群の可愛さだった。 そんな子が後ろからバイクに乗るためとはいえ輝に抱きつくような形で乗っている。 最初は、そんな事を考えていたわけではなかったが、現実を考えると、ものすごく緊張する。
まるでアニメの中のワンシーンのようだった。
智美が輝に手で合図すると、輝はバイクを停めて、道を聞きまた走り出す。
そうして、智美の家に着いた。 智美の家は農家らしく、牧草地のような所に大きなサイロがあって、ポツンと大きな家が建っていた。 輝は、智美にカバンを渡すと、『じゃあ』 と帰ろうとした。
すると 智美が『待ってください!』と大きな声で言った。
『うん?なに?』
『お願いですから、うちでジュースでも飲んで行ってください。母からもお礼してもらいたいので。』
『そんな大した事じゃないからそこまでしなくても大丈夫だよ。』
『お願いです。』そう言って輝の手を握った。
『あっ ごめんなさい。』 慌てて手を離した。
『わかった。せっかくそう言ってくれるなら、飲み物だけ頂いてから行くよ。 喉も渇いてるし。』輝は笑った。
玄関を開けて 『ただいま~』と大きな声で言うと、奥から 『おかえり~』という母親の声がした。
『お母さん ちょっと来て~』 とまた智美が大きな声で言った。 『なに~』 と智美の母親が玄関の方に来た。 『あら どなた?』と母親は尋ねた。 智美は母親に輝の事と今日の事を話すと、母親は、『そうだったの。本当にありがとうございます。 何もないけどとりあえず上がって。』と輝に言った。
輝は『お邪魔します。』と言って靴を揃え、リビングの方に付いて行った。
母親は、『智美 着替えてらっしゃい。』と言い 『すぐに着替えて戻ります。』と智美は輝に言って着替えに行った。
母親は、『オレンジジュースか牛乳かコーヒー、あと柚子のジュースくらいしかないのだけれど、水主さんは何がいいかしら?』 と聞いた。
『じゃ柚子のジュースお願いします。』 輝は答えた。 智美が戻ってきた。
母親は、飲み物を3人分持って来て、携帯でおそらく父親に電話しているようだった。
『水主さん。 主人もお礼が言いたいからすぐ戻ると言ってるから待っていただいてもいいかしら?』と言うので、輝は、『わざわざお仕事ならそこまでされなくていいですよ。』と言ったが、『私が怒られちゃうから』と母親が言うので、『はい わかりました。』と答えた。
すぐに父親が戻ってきた。がっしりとした、男らしい男性で、『智美を助けてもらったそうで。ありがとう。』と頭を下げた。 輝は立ち上がり、『お父さん頭上げてください。そんな大した事してないですから』と言った。 母親は、キッチンに戻って父親のコーヒーを煎れて戻ってきた。
3人分の柚子のジュースとコーヒーを置いたテーブルに真ん中に父親、左に母親、右に智美が座り、父親の正面に輝が座っている。6人掛けのテーブルだった。
『改めて、僕は新川 正で智美の父親です。 家内は 新川 陽子。』
『輝は、僕は水主 輝です。』
『水主君か。珍しい苗字だね。どんな字を書くの?』
『水の主と書いてみぬしと読みます。』
『どういう由来なんだろうね~。苗字の意味みたいなのあるのかな?』
『そうですね。僕も自分の家以外には同じ苗字の人に会った事がないです。 本当かどうかはわかりませんが、うちの祖先は天智天皇に繋がると言われてるんです。 天智天皇の皇女に 水主皇女と言う人がいて、その人がうちの始祖らしいです。 ただ、僕もかなり調べてみたんですが、謎の多い人であまりわからなかったんです。
たぶん うちの誰かがその皇女様を尊敬か何かしてて、勝手に字を頂いて、名乗っただけのような気がします。』
『なんか凄い話だな~。』
『ただうちの祖先が公家だった事は本当みたいです。それ以外の真実はわからないんです・・・。』
『で、水主君はどこから来たの?いくつ?』
『僕は名古屋の近くから来ました。高2です。』
すると 智美が 『え~』と声を上げた。 『輝さん高2なんですか?』
『そうだけど。』
『私、大学生くらいかと思ってた。バイクも大きいの乗ってたし。』
『うちの学校はバイク 正当な理由なら許可してもらえるんだよ。僕は母子家庭でアルバイトに行ってるから、必要で許可してもらったんだよ。』
陽子も、『輝さんでいいいかしら?高2には見えないわね。もう少し大人びて見えるわ。』
『そうだな~』 正もうなずきながら相槌を打った。
『結構そう言われます。』輝は笑った。
『あっ そうそう智美。 どういう状況で輝君に助けてもらったか父さんにも話してくれよ。』
いつの間にか正も水主君から輝君と変わっていた。 智美は今日の出来事を父親に話した。
『そうか~ 今時 そんな男らしいやつ少ない。お前運が良かったな。輝君が偶然そばを通ってくれたおかげで。』
智美は 『うん。本当に助かったよ。家までも送ってもらったし。』と言った。
陽子は、『この子が男の人連れて来たときは本当に驚いたわよ。 そういう事全く気がないというか、むしろ嫌がるような子だから。 少し期待したんだけどね。』陽子は微笑んだ。
『もう お母さん 余計な事言わなくていいよ!』 智美は恥かしそうな表情をした。
正は、輝に、『これからはどういう予定なの?』と尋ねた。
輝は、『今日は旭川市内のホテルに泊まって明日は、大雪山の旭岳に登ろうと思ってます。
天気が良ければですけどね。 何か初心者でも今の季節なら登れるみたいなので。それでその日は同じホテルに戻って泊まる予定にしてます。』
『なぁ 輝君。 もし良かったらうちで2泊泊まって行かないか? 智美が助けてもらって何かお礼がしたいからさ。 輝君も旅費が節約できるし、食事もうちですればいいからさ。 なあ 陽子。どうだろう?』
『私は輝さんさえ構わなければそうして欲しいわ。大したことはできないけど、亡くなったおじいちゃんとおばあちゃんの部屋は空いてるし、少し掃除してベットシーツ変えれば綺麗になるから。』
智美も『うんうん 輝さん 是非そうしてください。』と言う。
『でも悪いし・・・。それにホテルも予約してあるのでキャンセル料かかっちゃうし。どうしよう。
すごく嬉しいしありがたいんですけどね。』
正は、『ホテルどこのホテルだい?』と聞いた。
輝はスマホで確認し、『ここです』と正に見せると、『あぁ~ ここなら大丈夫。俺の知り合いが支配人だから、電話して頼めばキャンセル料なんてかからずに取り消せるから』と言って、もう携帯で電話をし始めた。 そして勝手にキャンセルしてしまったようだ。
『輝君。キャンセル料はかからいように取り消したから。』と言う。
陽子は、『お父さん まだ輝さん うちに泊まる事承諾されてないのよ。』と言った。
輝は、『もうお父さんがキャンセルされてしまったなら、ご迷惑かけますが、お言葉に甘えます。』と言った。
陽子は、『ごめんね。主人慌て者だから・・・』と苦笑した。
正は 『いいじゃないか!俺のおかげで輝君うちで泊まってくれる事になったんだから』と言うと、みんな笑った。
『智美の弟がいてまだ帰ってきてないけど中2で翔です。また帰ってきたら挨拶させますね。』そう陽子は言うと、『私、部屋を掃除してシーツ変えてくるわね』と言って出て行った。
智美も『お父さん、私もお母さん手伝ってくるね。』 そう言ってリビングには正と二人になった。正は輝にいろいろな事を聞いて輝も、正の質問に答えていた。
『実はね、輝君。 うちの智美は、今まで男の友達とかを全く避けるような子でね。浮いた話一つもないんだよ。 自分の娘を褒めるのはどうかとも思うんだけど、容姿だっていいほうだと思うし、優しくて明るいのにどうしてそういうのが全くないのか不思議なくらいでね。』
『ほんとですか? いや めちゃくちゃ可愛いですよ。それに凄く優しくて気が付く女の子じゃないですか。 彼氏もいないなんて普通信じられないですよ。』
『彼氏が出来たら出来たで心配するとは思うけど、全くないのはもっと心配で複雑でさ。』と苦笑いした。『でも輝君には、今まで見たこともないような態度だったから正直驚いたんだよ。』
『そうなんですか?』
『うん。』正はうなずいた。
もうすぐ夕方になるころ、翔が帰って来た。
『ただいま~ 何かかっこいいバイク停まってるけど誰のなの?』 リビングに翔が入ってきた。 『翔。この人は 水主 輝君と言って今日お姉ちゃんが変な男に絡まれてるのを助けてくれてうちまで送って来てくれたんだ。 今日と明日うちで泊まってもらうことになったから。』
『そうか~ 僕は翔です。お姉ちゃんの事ありがとう。うちの事でわからなかったら僕になんでも聞いて。』
輝は、『うん ありがとう。お世話になるけどよろしくね。』と答えた。
『僕 着替えてくるから』と翔は、リビングから出て行った。
陽子がリビングに来て、『輝さん 部屋が片付いたから荷物、部屋に入れてね。』と言った。
輝はバイクに乗っていた荷物を案内された部屋に運んだ。 部屋からは牧草地がずっと続いた景色が見えてのどかな感じがした。 北海道って広いんだな~ 輝は思った。
陽子が部屋に来て、『輝さん、洗濯するものがあったら遠慮なく出して。うち大きな乾燥機あるから夜までに乾くから。』と言うのでビニール袋に入った洗濯物を『申し訳ありませんがではお願いします。』と陽子に渡した。
そして、陽子に、『もしお母さんに迷惑がかからないならですけど、泊めていただくお礼に、僕にみなさんの夕食を作らせてもらえませんか?』と提案した。
『えっ 輝さん料理ができるの?』
『はい。僕5年くらいずっとフレンチでバイトしてるし、さっきもお父さんに話したんですけど母子家庭で、小さい時から料理はしてるので、普通には作れると思います。 そんな大した物は作れないかもしれませんが。』
『凄いわね~。 じゃ 私も手伝うからお願いしちゃおうかな~。』
『はい。是非。』
『じゃ智美にも手伝わせましょう。輝さん。とりあえずリビングで待ってて、私もすぐ行きますから。』そういって洗濯物を持って出て行った。
輝は、ジーンズとTシャツに着替えてリビングに行った。
智美が正と座っていて、『今お母さんから聞いたけど、輝さんが今日は夕食作ってくださるんだって。』と正に言った。
『へえ~ 料理もできるの?』
『お口に合うものができるかどうかはわかりませんけど、5年くらいフレンチでバイトしてるんである程度はできると思います。』
『へぇ~ 凄いな。 今日の晩御飯が楽しみだ。』正は豪快に笑った。
『いつも新川家の夕食は何時くらいにされてるんですか?『』 輝は陽子に尋ねた。
『日によってマチマチだけど7時くらいが多いかしら。』
『じゃ 下ごしらえ必要かもしれないので、食材見せて頂いていいですか?』
『あまり食材ないから今から買い物に行こうと思ってるの。』
『とりあえず、今有る食材見せてもらえませんか?』
『いいけど、大したものは何もないわよ。』そう言いながら、輝とキッチンに行った。
冷蔵庫を開けてチルド室を見ると、結構たくさんの鶏の胸肉が入っていた。 牛乳や生クリーム、バターは酪農をしているせいか、ちゃんと揃っていた。 少し離れたところには玉ねぎとジャガイモも置いてあった。 野菜もトマトやレタスがある。ブロッコリーもあった。
他にもそこそこ食材はあったので、輝は陽子に、『買出しに行かれなくても今日の夕食分くらいならこれで十分です。 ちょっと、下ごしらえに時間かかるので今からここ使わせてもらっていいですか?』
『ええ でも沢山あるのって鶏の胸肉くらいよ。 たいして美味しくないから、牛肉か、せめて良い豚肉でも買ってくるわよ。』
『お母さん、胸肉で美味しいの作れますから、食べて見てもらえませんか?』
『本当にいいの?』
『大丈夫です!』輝はそう言ってチルド室から胸肉を出した。
ハーブとかは流石においてはなかったので、胸肉を砂糖と塩を1:1で溶かした水をフリーザーパックに入れレモンスライスと胸肉を入れて、冷蔵庫に戻した。 陽子は、それするとどうなるの?と輝に聞いた。
『胸肉をジューシーにするには、肉に水分を含ませるんです。こうして冷蔵庫に2時間くらい入れておくと水分を肉が吸収するんで柔らかくなります。本当は一度冷凍にしてからもう一度解凍するといいんですが、今日は時間がないので。』
『へぇ~ そうなの。 いつも塩して焼くだけでバターとかで焼いてもあまり美味しいって感じしなかったんだけど。』
『今日はソースもちょっといつもお母さんが使わないようなものにしてみようと思ってます。』
『楽しみだわ~ 私何かお手伝いできることない?』
『じゃお願いします。』
キッチンに智美もやって来て、『私も手伝う』と言う。
『じゃ 智美ちゃんにも手伝ってもらうよ。 智美ちゃんは、ピューラーでジャガイモの皮剥いてもらっていいかな? 僕が必要な分ボールに入れて渡すからお願い。』
『はい。わかりました。』 智美は輝から受け取ったジャガイモの皮を剥き始めた。
『お母さん、圧力鍋ってありますか?』
『あるわよ。』
『じゃ 圧力鍋出しておいてもらえますか?』
『はい。』
『ジャガイモの皮を剥いたら軽く水で濯いで、圧力鍋に入れて圧力かけてください。』輝は陽子に頼んだ。
『お母さん、さっき頂いた柚子のジュース。あれユジャロンですよね?』
『ユジャロンって言うの?わからないけどビンに入った甘い柚子よ。』
『それユジャロンです。それ使いたいので出して貰えますか?』
『わかりました。』
智美は、『輝さん何作るの?』と聞いた。
『柚子のオランデソースだよ。』
『なんか凄そうね』と陽子が言った。
『お母さん、冷蔵庫にあった白ワイン少しだけ使わせてください。』
『はい。』
輝は他に卵、塩、バター等を使ってオランデソースを作り始めた。 陽子も智美も輝の手早さと、流れるような作業に驚きながら、作り方も覚えようとじっと見ていた。
『このソースは何に使うの?』陽子が聞く。
『グリーンアスパラがあったので、それをグリルしたものに付ける予定です。』
『へぇ~ なんか凄いね~。』
『智美ちゃん、皮むき終わったら、トマトを洗って、すりおろしてくれる?皮はついたままでいいよ。』
輝は、二人に色々頼みながら準備を進めた。 陽子が一番知りたかったのは、胸肉をどうやって柔らかく焼いてどんなソースを作るのか?だった。
輝は、胸肉を焼く1時間少し前に冷蔵庫から出して、両面に塩を振った。
『お母さん、胸肉焼く時、冷蔵庫から出してすぐ塩を振ってフライパンで焼いていませんか?』
『そうしてるけどそれじゃダメなの?』
『胸肉は焼く前の30分くらい前までには塩を振っておかないとダメなんです。 そうしないと、塩が肉に浸透しないんです。 後、常温にしてから焼かないと中まで火が通りにくいので必ず肉が冷たいうちは焼かないでください。』 輝は色々陽子に教えた。 陽子はメモを持って来て、取り始めた。
『ジャガイモの冷たいスープを作ります。本当は漉したりしたいんですが、時間もないので少し手抜きします。』
ミキサーに牛乳とコンソメスープ、ジャガイモを入れて完全に粉砕させて、鍋に移して生クリームを入れ、塩で味を調えて、ボールに移し変え冷蔵庫で冷やした。
デザートに智美がすりおろしたトマトでシャーベットを作った。
椎茸をスライスしてソテーして胸肉のつけ合わせにした。 他にも色々つくり後はメインの胸肉を焼くだけだ。 輝は常温程度になった胸肉をフライパンで中火にして蓋をして、表面が白くなったら裏返して両面をこんがり焼いた。 そしてそれをアルミホイルに包んでグリルに入れてまた暫く焼いた。
その間に、酒、味醂、醤油、砂糖、を鍋で温め、おろし生姜を入れて少し甘めのステーキソースを作った。お客に出すなら、前菜から順番に出せるが、自分も一緒に食事するので、温かいものはなるべく温かく出せるように、アルミホイルに包んで保温しながら、全ての料理が完成した。
じゃがいもの冷たいスープ、グリーアスパラのグリルにオランデソース、メインは鶏の胸肉のステーキしょうがソース、付け合せはポテトサラダと、椎茸のソテー。とりあえずこれだけ食卓テーブルに並べた。
綺麗に盛り付けられた、料理を見て、陽子が『ほんとに、輝君すごいよ。 大した食材なかったのにこれだけ作るなんて。流石プロだわ。』と言った。 他のみんなも『ほんとに綺麗』とか『すごい』とか言っている。
輝は『僕なんかプロでもないし、まだ全然です。冷めないうちに食べてください。』と言った。 正が、『温かいうちに頂こう。』と言うとみんな『頂きま~す。』と言って食事を始めた。
翔が胸肉のステーキを食べて、『何これ!滅茶苦茶美味しい!お母さんが作るとパサパサのなのに全然違うわ!』と大きな声で言った。
みんな『凄く美味しい』と言っていた。
輝と智美の家族は、色々話しながら食事をした。
『最後にデザートがあるので』と輝が言って、『智美ちゃん一緒に持ってくるの手伝ってくれない?』と頼むと 『はい。』と言って智美と二人でキッチンからトマトのシャーベットを持ってきた。
みんなデザートも食べ終わり、正が、『いや~ 輝君本当に美味しかったよ。ありがとう。』と言った。
正はそのあと輝に、旭岳に登る注意を説明していた。正は、登山が好きで、知識が豊富だ。この時期に登るのはほぼ心配はないが、山の天気は変わりやすく、時に注意が必要なので、細かく教えてくれた。
その説明が終った時、智美が急に、『私も明日輝さんに付いて行っちゃだめかな?』と言い出した。
正は、『輝君に迷惑だからよしなさい』と言った。
輝は『別に迷惑じゃないですけど、僕バイクで麓まで行くつもりなんで、昨日は、ああ言う状況だったので後ろに乗ってもらったけど、車ならともかくバイクは事故すると、取り返しがつかないので、後ろには乗せられないよ。』と言った。
陽子も『無理言っちゃダメよ。』と智美に言った。 すると智美は、涙を流し始めた。
輝はかわいそうになって、『お父さん、麓までここからバスではいけませんか?』と尋ねた。
正は、『旭川から出てるバスが何本かあるから、バスで行くなら途中の停留所までなら、俺か陽子が送れるけど。』と言った。
輝は『お父さんやお母さんが許してくれるなら、バスで行くなら一緒に行ってもいいよ。』と智美に言った。
陽子は『輝さんいいの?』ともう一度尋ねた。
『はい。僕はいいですよ。』
陽子は正に、『智美がこんなに行きたがってるから、輝さんがいいとおっしゃるなら、行かせてあげましょうよ。』と言った。
正は輝の事をすごく気に入っていたので、『わかった。行っておいで。輝君に迷惑かけないようにな。』と許してくれた。
輝は智美に、『智美ちゃん良かったね。』と言うと泣いてた顔が、笑顔に変わって、『はい。明日はよろしくお願いします。』と元気を取り戻した。
陽子が正に色々聞いて、明日智美がでかける準備をし始めた。 輝も片づけを手伝った後、部屋に戻り明日の準備をした。
『輝さん。お風呂どうぞ。』 陽子がお風呂に案内してくれた。 新川家のお風呂はかなりバスタブも大きくて、ゆっくり入れた。
『お風呂ありがとうございました。』 輝は陽子にお礼を言って部屋に戻った。明日は6時くらいに起きて、準備して出発だ。
輝は、智美があまりにも可愛くて、完全に一目ぼれのような状態だったが、理性をなんとかここまで保って、それを隠して来た。 しかし、明日二人で出かけると言うのは期待する半面、不安もあった。
次の日は快晴だった。
『おはようございます。』 輝は着替えてリビングに行った。 キッチンでは智美と陽子がなにやら忙しく作業していた。
『あっ 輝さん おはようございます。』 智美がキッチンからリビングに来て挨拶した。
『今日はよろしくお願いします。』
『うん。こちらこそね。』 智美はまたキッチンに戻って行った。
正と翔がリビングに来た。おはようの挨拶をそれぞれがした。
翔は、『俺も部活が今日なきゃ輝兄ちゃんに付いて行きたかったな~』と言った。
『部活頑張って!』輝は翔に笑って言った。
正は、『智美の事今日はよろしく頼むね』と言った。
輝は 『はい。』と答えた。
簡単な朝食を陽子が用意してくれて、バス停までは陽子の軽自動車で送ってもらった。
旭岳に向かう、いで湯号と言うバスに二人は乗った。
一人で登るはずだった、旭岳。しかし、智美の希望で輝と智美は一緒に登ることになる。快晴の好天だったが、山の天気はかわりやすい。 旭岳で輝と智美は・・・