北海道へ
輝は、新しいバイクを購入し北海道に旅立つ。 その途中に驚くようなニュースが・・・
6月がもうすぐ終ろうとしていた。
輝は中型バイクを色々探していたが、予算や、自分の好みに合うものが中々見つからなかった。
北海道に行く前に購入し、運転にも慣れておきたいしなぁ。 輝は少し焦り始めていた。
そんな時、渉が授業が終ると輝の教室にやって来た。
『輝。お前バイク探してるだろ?』 『うん。 中々自分の思うようなのがなくてさ~。』輝が答えると、渉が、『実は昨日、俺の父さんの知り合いがバイク屋やってて、そこの息子さん 俺より5こ上の人なんだけど、今乗ってるのからもっと排気量の大きなバイクに乗り換えるから、もし興味があるなら、一度見に来ないか?って連絡もらったんだ。 俺が、俺の友達が中型探してるっておじさんに言ってたからさ~。 お前一度見に行ってみない?』
『おお~ ありがとうな。 うんうん 見に行かせてもらうよ。お前が付いて行ってくれるの?』
『悪い。 俺用事があって一緒に行けないから、学校出たらバイク屋のおじさんに連絡しておくよ。お前の名前とか伝えておくから、場所は後で教える。』
『サンキュー わかった。じゃ頼むな。』
輝は、学校が終るとすぐに渉から聞いたバイク屋に向かった。
いらっしゃい。60歳近くに見える恰幅の良いおじさんが、輝に向かって言った。
『すみません。水主 輝です。 渋谷君からこちらを紹介してもらって来ました。』
『うんうん 聞いてる聞いてる。 裏のガレージに置いてあるから付いて来て。』
輝はそのおじさんの後に付いて行った。 ガレージを開けて、『うちの坊主が今乗ってるやつだけど、あれね。』と指を指した。
ホンダCBR400Rだった。 『めちゃくちゃいいですね~。 でも400Rは予算的に無理だと思います。』
おじさんは輝に、『予算はどのくらいで考えてるの?』と尋ねた。
『車検が付いてれば、頑張って28万くらいまでです。』
『う~ん 流石にそこまでは厳しいな~。』おじさんは唸った。 『知り合いの息子さんの友達だから儲けとかはいらないけどそこまで下げたら、完全に赤字になっちゃうよ。』 そして また 『う~ん』と唸った。
『ちょっと待ってな。うちの坊主に聞いてみるよ。』 おじさんは息子さんに電話をかけて色々話していた。 『なぁ 輝君。 今回は28万払って、分割で後5万円払うってのはどうだい? 勿論学生なんだし、知り合いの友達だから、利息なんていらない。 毎月2500円の20回払いでもいいからさ。そこまでなら、何とか譲ってあげるんだけど・・・。』
輝は考えた。通常3年少しのこのバイクは、どこを探してもそんな値段では買えない。すべての経費込みでこの価格で買えるのは二度とないのは間違いない。
けれど、典子が借金やローンが大嫌いなことも知っていたので、即答できなかった。
『おじさん、僕はそれでお願いしたいです。 けれどうちの母が、ローンとかが大嫌いな人なので、家で今日の夜了承だけもらいたいんです。 明日必ず返事させてもらうので、1日待ってもらえませんか?』と尋ねると、 『ああ いいよ2-3日中くらいに返事してくれればいいから。と言ってくれた。』
ただ、輝は頭が痛かった。 典子は絶対に借金は許してはくれないだろう。 旅費の分を使えば払えない金額ではないが、そうなると予定よりかなり出発が遅れてしまう。
帰って典子に相談したが案の定、ローンはだめ! と強く言われてしまった。
輝は決めた。 どうせバイクがなきゃ北海道に行けないんだ。 少し出発が遅れてもこの際仕方がない。
典子には、借金せずに買うという事で了承してもらって、翌日 店に返事をしに行った。
おじさんは、輝の話を聞いて、『今時珍しいな。 親の許可ちゃんともらおうとする子は。とても大切な事だけど、そんなことしないやつが多いからな。 じゃ 特別にもう1万円サービスしとくよ。』 おじさんは笑顔で言ってくれた。
ようやく念願のバイクが手に入った。保険の登録とかもして、明日からは乗れそうだ。 輝は新しいバイクに胸が高鳴った。
渉に連絡して、お礼と購入した事を伝えた。 渉も 『気に入ったやつに乗れてよかったな~』と喜んでくれた。 渉は、多少強引なところがたまにはあるが、真っ直ぐで友達思いのいいやつだった。 輝は渉が友達になってくれたおかげで、本当に明るい学校生活になったと感謝していた。
そしてあっという間に期末テストも終わりもうすぐ夏休みになろうとしていた。
涼と真琴は夕食を食べていた。『ねぇ 涼。 あれから輝君とはどうなってるの? もうすぐ夏休みだよ。』 と真琴が言うと、 『う~ん あのままだよ。普通に仲はいいと思う。』と涼が答えた。
『涼。 一つお姉ちゃんの失敗した話をしてあげる。 お姉ちゃんが高校2年の夏休みが終った少し後に、それまでずっと憧れてた人から、告白されたの。 イケメンでセンスも良くて、見た目は本当に申し分なかったわ。 ずっと憧れてた人だったからすごく嬉しかった。 けどね、その人お姉ちゃん以外とも、平気で手を繋いで歩くような人だったの。 偶然 名古屋に出た時、他の女の子の肩に手を回して歩いてたのを見てしまったの。
ショックだったわ。 それで 彼にどういう事!?って聞いたらね。 別にそのくらいいいだろ?キスしたわけでもないんだしって言うのよ。 じゃ これからもするの?って聞いたら、悪くないんだからするだろ。だって。 もう無理と思ってお姉ちゃんのほうから別れたの。 そんな時かなり沈んでて、勉強もあまり手に付かなくなって特に英語が元々悪かったから、全く付いて行けなくなっちゃったの。
お姉ちゃんのとなりの席は賢い男の子でね。 その子すごく英語が得意だったの。 顔は悪くはないけど、普通くらいでね。 服装の着こなしとかもだらしなくはないけど、普通って感じで、とても付き合うような対象ではなかったのね。 彼はお姉ちゃんに、矢島さん、この頃 英語付いていけてないみたいだから余計な事だとは思ったけど、矢島さんにわかるようにと思ってノートまとめてきたから良かったら使ってみて。って言ってきたの。 お姉ちゃんは賢い人だったし、泥沼に嵌った感じだったから誰でもいいから引っ張りあげて欲しかった。 だから彼のノートを喜んで使わせてもらったわ。 彼はそれからも、テスト範囲をまとめてくれたり、わからないと言えば丁寧に教えてくれたりしたのね。 いつの頃からか、容姿はいまひとつだけどこんな優しい人が彼氏だったらいいかもって思い始めたの。
みんなは、彼がお姉ちゃんが好きだからしてくれてるみたいに言ってたわ。 でも 釣り合わないってね。 お姉ちゃんあのころ可愛かったしね(笑) 色々な悩みとかも話すようになって、学校の帰りに無理やりお茶とかにも誘ったりして、でもいつもお姉ちゃんのわがまま聞いてくれてた。 お姉ちゃんは、もう自分の中では彼の事を彼氏感覚でいたのよ。 いつでもお姉ちゃんが付き合おうって言えばOKしてくれる。そう思ってた。彼がお姉ちゃんに好意を持ってたのは事実だったし、それがわかってたから安心しきってたの。
そんなある日、彼に告白してきた女の子が現れたの。 その子 相当可愛い子で、人気があったから、どうして?と思ったわ。 そして 彼はすんなりOKしてその子と付き合ってしまったの。
その2日後くらいだったかな~ 教室で二人に偶然なった時、僕ずっと矢島さんに憧れてたんだ。 矢島さんに勉強教えて、矢島さんの役に立ててると思うだけで、すごく嬉しかった。 憧れの存在だから、彼女にできるなんて微塵も考えた事はなかったけど、今やっと僕にも彼女ができたから、ちゃんとお礼言っておこうと思って。って言われたの。 自分がどれだけ馬鹿だったか痛感したわ。 私がいいと思うように彼の良さをわかる女の子がいてもなんの不思議もなかったのにね・・・。
輝君はきっと涼に好意を持ってる。それは間違いないと思うわ。 でも私の話した彼と違って、そもそも輝君の場合は、イケメンで、スポーツも楽器も運動までできるような男の子よ。 このままになってたらきっと誰かと付き合っちゃうよ。 涼はそれでもいいの? 』 『やだ・・・』 『じゃ手遅れになる前に勇気ださないとだよ。』
真琴は、自分の悲しい過去の話を涼にして、妹には自分の二の舞になってほしくないから頑張れと伝えたかった。 真琴には 輝がもしかしたら同じように涼を、憧れだけの存在にしてしまうような予感がしたからだ。
バイクを手に入れた輝は、試し乗りも兼ねて、伊良湖岬までバイクを走らせた。 太平洋に昇る朝日を見たかった。 オレンジ色の太陽が徐々に海から出てくる様は、いつ見ても美しい。
輝は浜辺に座り、太陽が昇りきるまでずっと見ていた。 ふと、涼の事を思い出した。二人で行った京都は本当に楽しかった。 大人しくて少しクールな涼が、満面の笑顔を見せてくれた。その笑顔はまぶしいほどに可愛かった。 涼は一体自分の事をどう思っているのだろう? 好感を持っていてくれてるのは確かだと思う。 けれど、自分が涼と釣り合うとは思えない。いくら近づいても、どこか大きな壁があるような気がした。 ずっと涼が誰かと付き合うまでの間、その間だけ近くで憧れの人と接していられる。今はそれで満足するしかないと輝は思った。
期末テストも終って短縮授業になった。 ランチタイムからアルバイトに出て、少しでもお金を貯めておかないと北海道旅行が遅れてしまう。 夏休みの北海道は宿泊予約を取る事が難しくなるが、お金が貯まらなければ日程も決まらない。
そうこうしているうちに夏休みになった。
輝は、バイトと夏休みの課題を毎日長時間やった。7月26日ようやく課題が終わり、お金も予定額貯まった。 あらかじめ立てた計画にしたがって、船や、宿の予約をネットで入れていく。 典子のクレジットカードで支払いし、その分を典子に支払った。
典子は、輝が旅先で困らないように、デビットカードを渡してくれた。 『お財布とは別に保管するのよ。』
そういって渡してくれた。
そしていよいよ旅の準備も整い出発する。
典子は、輝に 『気をつけてね。無理は絶対ダメよ。それと必ず1日に1回はお母さんに連絡しなさい。約束よ。』 そう言って輝を見送った。
名古屋港から苫小牧行きのフェリーにバイクを乗せて北海道に向かう。
途中、仙台で寄航し苫小牧には翌々日の11時に着く予定だ。
北海道までは、のんびりと船旅を楽しめる。名古屋港は19時出航で、夕食は、典子が持って行きなさい。とお弁当を作ってくれた。 輝は旅費を節約するため、最初は2等の和室にしようかとも思ったが、船を降りたらずっと運転しなければならないので落ち着いて眠れるB寝台にした。
指定された寝台に荷物を置いて、展望通路の椅子に座った。 典子が作ってくれたお弁当を食べながら、外の景色を見た。もう暗くなってきて、陸の明かりが遠くに見えるだけだった。その明かりも段々離れて行き、見えなくなった。 船は夜の海を静かに仙台に向けて動いている。お弁当を食べ終わった後、スカイデッキに上がった。
今日は波も穏やかで、晴れているのか星が綺麗に見えた。洋上は周りが暗いので星が、より綺麗に見えるのだろう。 名古屋港に着いた時はかなり蒸し暑かったのが嘘のように、海風が心地よく吹いていて、とても快適だった。 翌日、仙台に寄航した。次の出航まで2時間くらいあったので港の近くのスーパーで食料品や飲み物を買って、船に戻った。 明日はいよいよ北海道だ。
船の中では、大抵は本を読んでいた。 海を見ながら読書できるのは最高だ。 日中は暑いので、冷房の効いた船内で読書した。読み疲れると、大浴場に行った。 いつでも入れるが、時間によっては込み合うので、そういう時は時間をずらして行くようにした。
船内にワイファイもあって、時々典子に、メッセージを送ったりした。 お母さんも行きたいな~ いいな~ 典子はそんなメッセージが多かった。 涼にメッセージを送ろうとも思ったが、涼からのメッセージの返信ならともかく、特別な用事もないのに送るのはどうかな?と考えてしまい、結局送れなかった。 涼は、涼で楽しい旅の邪魔しちゃ悪いと遠慮して中々送れなかったので、結局二人は、輝が旅行中一度もメッセージを送らなかった。
渉からは、時々 元気か~? とか 今何してる?とか言うあまり意味のないようなメッセージが来てそれに簡単な返信をしていた。
旅行中に驚いたのは、俊からのメッセージだった。 どこでどのようになったのか?それははっきり教えてもらってないが、俊と明日香が付き合う事になった。という事だった。 俊の話では、きっかけは輝の誕生祝のカラオケらしく、俊の方から明日香に告白してOKをもらったらしい。 俊がそんなに大胆で勇気のあるようなタイプに輝には見えなかったので本当に驚いた。 明日香ちゃんからならわからなくもないけど、俊からか・・・。 でも仲の良い友達が上手く行くのは輝にとっても嬉しい事である。
俊ならきっと明日香ちゃんを大切にしてくれるだろう。 輝はなんだか安心した。明日香の事は自分が断ったので気にしていたところがあった。 俊のような良い男と付き合えば、きっと幸せだろう。そう思うとほっとした気持ちになるのだった。
苫小牧が近づいて来た。 輝は下船の準備をして北の大地が近づいて来るのを眺めていた。
日にちも予算も限られているので、北海道全ては周り切れないので、道央を中心に計画を立てていた。
今日は取り合えず占冠村にあるホテルに泊まる。このホテルは母の勤める大手スーパーが提携しているホテルらしく、母に申し込んでもらって格安で泊まる事ができたので、ここを中心に美瑛、富良野に行く事にしている。
輝は、ネットや写真で、美瑛の風景を見て、ここは自分の目で見たいと思っていた。富良野のラベンダーもまだ咲いていれば見たいが、7月下旬では少ないかもしれない。
輝は、取り合えずホテルにチェックインして、荷物を少なくして時間があればその近辺を廻ろうと思っていた。 北海道は7月下旬なのに涼しくて快適だった。 天候にも恵まれて真っ直ぐに続く長い道は輝が想像していた通りバイクで走るには最高だった。 北海道では輝の住んでいる地域では見られない、コンビニがあった。 地元の人はそのコンビニをセコマと呼んでいるようで、結構田舎かなと思われるような所にもあって驚いた。
しかし、このコンビニのおかげで、お手洗いにも不自由はなかったし、おにぎりや、サンドイッチも美味しくて色々助かった。
占冠村にあるホテルは大きなリゾートホテルで、中には色々お店もあって、部屋も綺麗で快適だった。
あちこち停まって、風景を見たり、写真を撮りながら来たので、チェックインした時は、夕方近くになっていた。 ホテルのレストランを使えるほど輝には余裕がないので、コンビニでカップラーメンとお弁当を買っておいて、部屋で食べた。
翌日は、最初に富良野に行った。 途中スイカやメロンを売るお店があり、輝が見ていると、店のおばちゃんが、味見してみる?と言ってメロンを試食させてくれた。 美味しかった。おばちゃんは輝に、『どこから来たの?』とか『いくつ?』とか色々尋ねた。 北海道は美味しいものも一杯あるし、景色もいいから楽しんで行ってね。 と優しく話してくれた。
富良野にある有名なファームに着いた。 もうラベンダーはほぼ終っていて写真で見るようなものが実物でみられなかったが、まだいくらかは咲いていて近くで匂いを嗅ぐと、ラベンダーの香りがした。
ラベンダーのアイスクリームがあったので、それを食べたりもした。平日だったが、夏休みだからか、多くの人で賑わっていた。 ネットで調べたら、別のファームならラベンダーがありそうだったので、もう少し美瑛方面に近いファームに行ってみた。 ここにはラベンダーが結構咲いていて、空の青とラベンダーの紫の組み合わせが美しかった。
翌日は、美瑛に行った。輝がどうしても見たかったのは青い池だった。 駐車場から遊歩道を歩くとその池はあった。なんでもここを見るには日の出の時間帯が良いらしいので、早朝ホテルを出てその時間に間に合うように行った。 こんな朝早いのに結構沢山人がいた。 そしてコンディションがたまたま良かったのか、名前の通り薄いブルーに染まった池を見ることが出来た。 なんとも幻想的で、本当にこの世界にある池なのだろうか?物語の中の世界に入り込んでしまったのではないか?と思わせるほど美しかった。 その後、そこから近い白金不動の滝に行った。 石仏がいくつかある道を通って滝に着くと、段々になった滝は、真っ白な水しぶきを上げながら水を落としていた。 この爽やかさを心で感じた時、ふと涼の事を思い出した。 涼という名前を輝は素敵な名前だと思っていた。 この滝の水は清清しく爽快で、まるで涼のようだと思った。
美瑛の丘陵は写真の通りで、のんびりとして気持ちよかった。
昔、たばこのコマーシャルか何かで使われた風景もあるらしく、その辺りの写真を撮って、母に送ると、それマイルドセブンだったかセブンスターだったかの木だよ~ と返信が返って来た。
今日は夕方から小雨の予報だったので、少し早めにホテルに戻った。
雨が降ると、北海道は夏でも肌寒い感じだった。 母が入れてくれた何枚かの上着のおかげで、本当に助かった。
明日は旭川に向かう。 『雨 止んでくれないかな~』 輝はネットで天気予報を見てベットに寝転がった。
一人旅は誰かに気を使う必要もなく、宿泊先さえ確保しておけばその時の、気分や思い付きで自由にできる。 食べたい時に食べ、寝たい時に眠る。 唯一、食事を一人で食べるというのは少し寂しい気がした。
朝になり天気も回復して、輝はホテルをチェックアウトして旭川に向かった。
今日は、北海道 第2の都市旭川の町をぶらぶらして、旭川ラーメンを食べて、明日は大雪山に早朝から登る予定だ。 『天気がこのまま良いといいんだけどな~』 輝は、途中バイクを停めて景色をみながらつぶやいた。
いよいよ出会いの待つ、旭川へ。どんな女と輝は出会うのであろうか?