京都へ
1年生の時はお互いに祝う事が出来なかった輝と涼の誕生日。
輝は涼にどんな誕生日プレゼントを贈るのか?
窓から見える桜は、もう葉桜になっていた。 ほんの少し花びらをつけている。そんな景色もまた美しい。
輝は、時々外を眺めながら授業を受けた。斜め前にはいつも涼がいる。
人を愛するという事までは、まだまだ輝にはわからなかったが、好きになるというのは、はっきりと感じられた。 好きな人と一緒にいたい。自分だけのものであって欲しい。涼の事を考えるとそう思う。
将来の事を深く考えて、そういう思いがあるわけではない。 現実を考えれば、自分が目指す道は医師であり、希望する大学も京都大学医学部だ。 恐らく涼は地元の国立志望であるから、高校生活、あと2年が終れば、離れてしまう事になる。 渉と理恵のように同じ大学に行く希望があれば良いが、輝と涼ではそれはまず望めない。 それでも今はそういう事はあまり関係がなかった。 純粋に涼と今、同じ時を一緒に過ごしたい。それだけだった。この年齢になれば、輝だけではなく、涼の心の中にも、輝にハグしてもらえたらというような気持ちや、ファーストキスも輝とできたらという気持ちもあるのは間違いない。
輝はすでに玲奈との経験があるが、それでも涼は玲奈とは違う存在で、自分が意識してそうなりたいと思う女性だったから、感じ方も違った。
このまま、ただの仲が良い友達という存在で高校生活を終えてしまうのだろうか?
輝の気持ちも涼の気持ちも複雑だった。
涼は、1年の時に明日香とはすごく親しくして、色々遊べる本当に良い友達であった。 ただ一つ問題があったのは、明日香が恐らく今も輝の事が好きだと言うことだった。 涼は、明日香と恋の話をする時、いつも嘘をつかなければならなかった。 私も輝君が好き。 とはとても明日香には言えなかったから。
すべてを語り合えるのが親友だとすれば、涼にとって明日香は良い友達ではあっても親友ではないことになる。 涼は、この年齢ではほぼ誰もが経験する恋の悩みを話せる相手がいなかった。
涼の隣の席の茜は、いつも穏やかで、人の輪に積極的に自分からは交わらないが、話してみると、結構楽しく、きつい冗談か本気かわからないような事をさらっと言う。しかし不思議な事に茜が言うと、全然嫌悪感が起きないのだった。 元々大人しい涼には、茜のゆったりとしたペースがかなり居心地も良かった。
茜は、小説が好きで、漫画も良く読んでいるようだった。 涼は、茜が読んでいた漫画に興味を持ち、茜とはその話題で話す事が多くなった。 また音楽の趣味も茜の聞いているものを教えてもらって聞いているうちに好きになっていったので、二人は趣味で共通の話題が出来た。 何よりも茜のまったりとした世界が、涼にフィットしたのだろう。
輝の隣の席になった俊は、輝がどちらかと言うと、クールなタイプだとすれば、大人しくて爽やかな好青年という感じだった。 余分な事は話さないが、話しかければ、輝に合わせて話してくれる。 渉は、真っ直ぐで、どんどん進む感じだが、俊は思慮深く、相手の立場を考えながら意見を言ってくれる。
輝は、俊と話すのが楽しいと感じた。 輝は哲学的なものの考え方が好きで、生き方にもそれが現れている。 俊はそういう輝の本質をよく理解してくれたし、どうかな?と聞けば、俊なりの考えを輝に率直に話してくれた。 嘘がなく、言い方も柔らかい。 輝は俊のそういうところを尊敬するようになって行く。
輝の誕生日は4月22日。 学年の中でも17歳になるのが早い。 1年の時は、入学してほぼすぐなので、誰も誕生日を祝ってはくれなかったが、今年はみんなでカラオケに行って誕生日を祝ってくれることになった。 最初は、渉、明日香、涼、理恵と輝の5人のはずだったが、茜と俊も参加してくれることになった。
そして当日、渉が、手続きをすべて済ませてくれて、7人は大きな部屋に入った。
渉が『、輝!誕生日おめでとう!』 と声をかけ みんな 『おめでとう!』と後に続き拍手が起きた。
渉は、すでに司会者のように振舞っていた。
『今回は、 俊君、茜ちゃん、そして理恵も参加してくれました。 そこでトップはニューフェースの俊君にお願いしたいと思います!』 そう渉が言うと、俊を除くみんなが大きな拍手をした。
俊は、 『え~ 僕が最初なの?』と言ったが、茜が、『私も次歌うから、頑張ろう!』と言うので 『じゃ わかった。』 と言って歌ってくれた。 俊が最初に歌った曲は、BUMP OF CHICKENのリボンだった。 その歌声は、俊の印象と同様、爽やかで綺麗な歌声で、まるで歌詞という物語の語り部のようだった。
歌い終わると大きな拍手が起きて、渉は、俊に 『なぁ 俊 うちのバンドでも歌ってくれない?』 と頼むほど上手かった。
続いて 歌ったのは茜だった。 曲はEvery Little Thingの浴びて!光 だった。 茜の声は話す声とは全く異質の声で、歌う時の声は繊細で細く美しい歌声だった。 茜の声と歌がマッチして、光が本当に降り注いでいるような感じがした。 また終ると大きな拍手が起きた。
渉は、『二人とも上手すぎるわ! この後はもう輝か明日香ちゃんしか歌えないだろ!?』と苦笑いした。
そして、輝以外の人が全て一曲づつ歌い終えた。
渉は、みんなの拍手の多かった、明日香、茜、俊にもう1曲ずつ歌ってもらい、最後に 『輝、最後にお前が歌って〆にしよう。』 と言った。 みんなが大きな拍手をした。
明日香が、『輝君。今日は何歌ってくれるの?』 と少し大きな声で尋ねた。
輝は、『今日はみんなが俺の誕生日のお祝いにカラオケに集まってくれるって聞いてたから、邦楽覚えてきたのでそれ歌うね。』 と言った。
輝が歌った曲は、Acid Black Cherryのイエスだった。 輝の歌は、学園祭の演奏でもそうだが、感情が曲に乗るような、その世界に聞いている人たちが入り込んでしまうようなものがあって、その歌詞にみんなが引き込まれてしまった。 涼も、明日香も、茜も、理恵も そして俊までも涙を流していた。
渉だけが、涙をぐっとこらえて、最後まで聞いた。 歌い終わっても拍手はすぐに起きず、涙を拭っていて、渉がやっと拍手すると、バラバラと拍手が重なり、最後に大きな拍手になった。
俊は、『僕始めて輝君の歌聞いたけど、コンサートでもここまで感動するなんて少なかったよ。』と言った。
輝は、俊に 『そんなでもないけど、そう言ってくれてうれしいよ。』と背中を軽く触った。
輝は、みんなに、『俺のためにこんなに沢山集まってくれて、ありがとう。 こういう誕生日は始めてなんで、凄くうれしかったよ。 俺もみんなの誕生日にできるだけの事はしたいから、できたら俺も呼んで欲しい。』 と言った。
そして、家で待ってくれていた典子と、小さなバースディーケーキを二人で食べた。
5月25日。この日は昨年、林間学校に出発した日でもあるが、涼の誕生日でもあった。 輝はまだ、涼と、それほどこの時はつながりもなく、誕生日を聞くような関係でもなかった。 涼の誕生日を知ったのは、もう夏休み近くになってからの事だ。 来年こそ、涼のために何かしたい。 輝はそう思っていた。
輝は、自分が涼に何が出来るか? 何をしてあげたら一番喜んでくれるのか? 考えに考えた。
そして、一つ思いついた。 しかし、それは輝にとっては、大きな勇気が必要な事だった。
5月25日は月曜日で、夕方5時から、輝の時と同じようにカラオケで祝おう。 と言う事に決まっていた。
涼の誕生日が近づいた、5月22日。輝は、涼に、放課後 図書室に来て欲しいと頼んだ。
涼は、最初、数学でもまた教えてくれるのかな?と思って軽い気持ちで図書室に向かった。
涼が、図書室に着くと、輝はいつもの席ではなく、窓側の一番端の、カウンターから一番遠い席に座っていた。
涼は、『輝君 お待たせ。 今日はいつも教えてもらう席じゃないからキョロキョロ探しちゃったよ。』と言った。 輝は 『うん。ごめん。』と言って、かなり緊張した顔つきになっていた。
涼は、何だか心配になって、『何か困った事でもあるの?すごく深刻な顔に見えるよ。』と尋ねた。
輝は、『ううん。 いや深刻と言えば俺にとっては少し深刻か・・・。』とつぶやいた。
涼は、益々心配になって、『私にできる事ならするから、相談してみて。私じゃ頼りにはならないかもしれないけど・・・。』と言った。
輝は、勇気を振り絞って、 『俺さ 涼ちゃんの誕生日 何かしたくてすごく色々考えたんだ。 プレゼントするものも色々見に行ってね。 でもさ 物じゃなくて涼ちゃんの心に残る形はないかなって思った時、ふと涼ちゃんが、最初にうちに来た時、母さんと話してた事を思い出したんだ。 でね。 もし涼ちゃんが嫌でなかったらなんだけど、1日前の5月24日の日曜日、俺と日帰りで京都に行かない? 旅費は俺が用意するし、京都は詳しい方だから、涼ちゃんが好きそうな所、案内できると思うんだ。 嫌かな?』
涼は、思いもよらない輝の提案に、驚いた。 『本当にいいの?もちろん私は行きたいよ。 でも旅費まで全部は悪いよ・・・。』 『輝は、そんな事言わないで。俺このために少し時間延ばしてバイトしたんだ。 それが意味なくなっちゃったらもっと悲しいから。 もし涼ちゃんが、俺と行ってもいいと思うなら、日帰りで夜の8時までには送れるようにするから、考えてくれないかな? 涼ちゃんのお姉さんが許してくれるかは、わからないけど・・・。』
涼は、即答した。『私、輝君に連れて行ってもらいたい。だからお姉ちゃんに今日話して説得します。返事は、明日するけど、私は今すぐ 行くって返事したいの。』と言った。
輝は、ほっとした。 『良かった・・・。 もしお姉さんが許可してくれなくても、涼ちゃんがそういう気持ちでいてくれたってわかってほっとしたよ。』と ようやく表情が和らいだ。
涼はその夜、真琴に話した。 すると真琴は、『私は涼が一泊したいって言っても許可するわよ。 涼はもう子供じゃないんだしね。 だけど 私、輝君って偉いと思うわ~。ちゃんと8時までとか時間も考えてくれてるし、きっと涼の事本当に大切に考えてくれてるのよ。 ねぇ ほんとのとこ 涼。あなた輝君の事どう思ってるのよ?』 真琴は真剣な表情で涼に尋ねた。 『たぶん・・・ 好きだと思う。』涼は小さな声でそう言った。 『まぁ そうだとは思ってたわ。輝君にはあなたの気持ち伝えないの?』 涼はしばしの間黙って、 『怖いの。』 とだけ答えた。 真琴は、『言ってみて振られちゃったらって事?』 『うん。それもある。私そういう経験がないし。でもそれより怖いのは、輝君の近くにいられなくなるかなって感じる事なの。 実はね。明日香ちゃんは以前輝君に告白したんだけど、断られたのね。 明日香ちゃんみたいに、それでも上手く輝君と友達として付き合える子はいいけど、私はきっと上手くできないと思う。 私が気持ちを伝えなければ、最低限、今の友達ではいられるでしょ? だから・・・。』
真琴は、 『ねぇ 涼。 もしよ。輝君が他の誰かに告白されてOKしたら、あなたそれでも今のように輝君の友達でいられるの? お姉ちゃんはそれ難しいと思うわ。涼の気持ちもわかるわよ。 けどね、私、あの子にあって、きっと彼もてるだろうなって直感的に思ったわ。 涼じゃなくても好きになるって。私はね。自分の経験から言えば、高校時代なんて、愛は必要ないと思ってるの。恋してるだけでいいのよ。 私の年齢になると、恋だけでは走れなくなる。 結婚という意識も付いて廻るからね。 けど、涼は、ただ、彼と一緒にいたい。 彼といつもいたい。 そういう思いだけで彼にぶつかってみていいんじゃないかな~。 結果はわからないわよ。 でも私なら、頑張ってみるわ。』 真琴は涼にそう言って、『とりあえず、京都行く事は、お姉ちゃん認めるから。折角の彼の好意は受けなさいよ。 二人で行けばまた何か変化もあるかもだしね。ちゃんとお洒落して行くのよ。今度は勉強しに行くとかじゃないからね。』 そう言って 涼の頭をなでた。 涼は、『お姉ちゃんありがとう。お姉ちゃんが今言ってくれた事、私もう一度色々良く考えてみるね。』と言った。 『そうね。 頑張りなさい。』真琴は台所のほうに歩いて行った。
涼は、本当は自分の口から行くと伝えようと思った。けれど真琴に許可をもらったその夜、輝にメッセージを送った。 お姉ちゃんが許してくれました。私、輝君と京都に行きます。よろしくお願いします。
輝は、涼からのメッセージを見て安堵し、すぐに、良かった~。じゃ 少し早いけれど24日朝6時に涼ちゃんちに迎えに行きたいけど、早すぎる?と返信した。 大丈夫です! すぐにまた返信が来た。
輝は、少し歩く事になるから、スニーカーの方がいいと思うよ。と返信した。
そして24日の朝、輝は5分くらい約束の時間より早く、涼の家の近くに着いた。
涼から、もう着いたのかな?とメッセージが来て、 輝が着いたよ。と返信すると、すぐに涼は、家を出てきた。白のスニーカーに白のスカート、チェックのシャツにデニムのジャケット姿の涼は、輝をドキドキさせた。
二人は駅まで歩きながら、少し話をした。
名古屋駅で新幹線に乗り換え京都に向かう。 輝は、途中、伊吹山や琵琶湖が見える右側の窓側から2席の指定席を取り、涼を窓側に案内した。新幹線なら京都まではわずか1時間だ。
輝は、涼を最初、清水寺に連れて行くつもりだった。清水寺に上る参道は清水坂や三年坂等が有名で、日中は、観光客などで混雑しているが、まだ店の開いていない早朝は、一味違う佇まいがある。
京都を少し知っている人間なら、早朝の清水の良さを知っている人も多い。 清水寺の開門時間は午前6時だが、地元の人を除くと観光客はまだ、ほとんどいない。 涼とゆっくり人の少ない清水を歩きたかった。 涼は、にぎやかな店の並ぶ坂のイメージしかなかったので、輝と二人で広々と歩く坂に新鮮味を感じた。 清水寺の境内も人が少なく、まるで輝と涼のために貸切ではないかと思えるくらいだった。
二人は、清水寺を堪能して、坂を下りて行った。
次に輝は、慈照寺(銀閣寺)に涼を連れて行った。 輝は、慈照寺から南禅寺に抜ける、哲学の道を歩くのが好きだった。 道の脇には小さな川が流れ、小さなカフェや、ペーパークラフトのお店があったりする。 輝と涼はどちらともなくこの道を軽く手をつないで歩いていた。 輝がこの道を選んだのは、途中に有名な甘味処があるからだ。 涼をそこに連れて行きたかった。道から少し入ったそのお店は、落ち着いた佇まいの大人っぽいお店だった。 そこで、涼はあんみつを、輝は抹茶パフェを頼んで、朝の清水の話などをしながら、デザートを食べた。
『涼ちゃん。 これから少し今までより歩くけど大丈夫?』 『うん。大丈夫だよ。今度はどこに行くの?』
『今度はね。 南禅寺に行くの。南禅寺にある琵琶湖疏水を見たら、お昼は湯豆腐にしようと思うんだけど、お豆腐は大丈夫?』 『もちろんだよ。私お豆腐大好きだよ。』
涼は、本当に幸せで一杯だった。 これで輝君が彼氏だったらいう事ないんだけど、贅沢すぎるよね。 今こうして二人でいられるだけで、神様に感謝しなきゃ。 そんな風に思った。
南禅寺を見て、そして南禅寺近くに立ち並ぶ湯豆腐のお店に入って、二人で湯豆腐を食べた。
誰から見てもこの時の輝と涼は恋人同士に見えたはずだ。
午後から輝は、涼を保津川下りに連れて行った。 亀岡から、保津川の急流を下って嵐山に行く。舟は水しぶきを被りながら下っていく。ビニールのシートでカバーしなければ相当水しぶきがかかるほど、急流を舟は下って、嵐山に着く。 船頭さんもユーモア溢れるトークをしてくれて、二人は笑顔で舟を降りた。 嵐山では、竹林の小径を歩いた。涼はこんな竹林を見たのは初めてで、かぐや姫の世界にでも入り込んだ気がした。 そして、有名な洋菓子店で抹茶のエクレアも食べたりした。
涼にとっては、夢のような時間だった。 そして時間も過ぎ、4時近くになった。 輝は最後に涼を祇園に連れて行った。 祇園白川は白川が流れ、石畳の道があり情緒溢れる所だ。そこをゆっくりと二人で歩いた。 その後、花見小路の方に向かって歩いて行くと偶然、舞妓さんを見ることが出来た。 涼は、『本当の舞妓さんを生で始めて見た!』と興奮していた。 『輝は良かったね。』と微笑み、少し早い夕食に連れて行った。 京都にある老舗の漬物屋の祇園店では漬物のお寿司がある。 輝は前に食べた事があるが、涼はもちろん初めてで、それが思っていたよりずっと美味しくて感動していた。
二人は、京都駅に戻った。時間は18時ちょうどだった。
輝は、新幹線の切符を買い、涼と二人、新幹線に乗った。
涼は、こんなに歩いた事がなく、流石に疲れていた。 輝は、『名古屋に着く少し前に起こしてあげるから、涼ちゃんは少し寝ていいよ。』と言った。 涼は 『ううん。起きてる。』と言ったが5分も経たないうちに、眠ってしまった。 輝は涼の寝顔を見て、本当に可愛い子だなと思った。自分のもし彼女ならどんなに幸せだろう。 すると涼が、輝の方にもたれかかってきた。 涼は、輝の肩辺りに頭をもたれて、すやすやと眠っている。 輝は左手を廻して抱きしめたい衝動にかられたが、彼女じゃないんだ。という理性がなんとか働いて、それを止めた。 名古屋に着く少し前に、輝は、肩にもたれている涼に、『涼ちゃん。』と声をかけた。 『もうすぐ名古屋だよ。』 涼はゆっくり目を覚ましでびっくりした。完全に輝に身体ごともたれかかっていたからだ。 『あっ ごめんなさい。すっかり眠っちゃって。 ずっともたれかかっていた?私輝君に?』 輝は少し笑っただけで返事をしなかった。 『重かったでしょ?ほんとごめんなさい。』
涼が輝に言うと、『涼ちゃんくらい全然重くないから大丈夫だよ。』優しく涼に言った。
長くて短い日帰りの二人の旅が終った。 輝は涼を家まで送ると、涼は『本当に素敵な誕生日プレゼントありがとう。私、今日の事は、きっと一生忘れないと思う。 私こんなにしてもらっていいのかな?』 と言った。 輝は、 『涼ちゃんが、こんなに喜んでくれただけで、俺には十分だよ。俺もすごく楽しい一日だったから。 明日はまたカラオケで会おう。 じゃ ゆっくり休んで。 おやすみ~』 と言って別れた。
次の日、涼の誕生日祝いのカラオケがあった。 涼は、昨日の輝からのプレゼントの事は誰にも話さなかった。 今日の涼は、いつもの涼より少し明るく見えた。 そしてカラオケが終わり、みんなそれぞれ家に帰っていった。
輝は、次の日から夜のバイトに入った。そして、その日の仕事が終った。 ル・シエルは25日が給料日だったが、輝が休んでいたので、この日の帰りに、経理をやっている高峰の奥さんが輝に給料を渡してくれた。 『輝君。ご苦労様。給料よ。』 高峰の妻は言った。 輝は『ありがとうございます。』と受け取った。
帰って給料袋を開けてみると、何か金額が多い気がした。
あれっ 何か多い気がする。計算間違ってるのかな? そう思って明細を見ると、時給の欄が1600円になっていた。 輝は高校生になってから時給1400円もらっていた。 その時給は、飲食店で働く高校生の時給では破格の時給だった。 それは輝が、キッチンもホールも上手にこなし、大いにル・シエルに貢献していたからだ。 ホールの大和は、時々客から、 今日はあの若いお兄ちゃん休み?と聞かれるほど輝の対応を気にいってくれる客も、1組や2組ではなかった。 それもあって、輝の評価は高く、そういう破格の時給だったのだ。 しかし、今回はそれを上回る1600円になっていた。5月は40時間働いていたので、前の時給なら、56000円だが、今回は64000円だったので、輝は次の日、差額の8000円を持って高峰の妻の所に行った。
『奥さん、昨日は給料ありがとうございました。』『はい ご苦労様』 高峰の妻はにこやかに答えた。
『それで、なんか間違って多く入ってまして・・・。』 『えっ 間違ってはいないはずよ。』『僕の時給が200円多く計算されてたみたいで・・・ それで8000円違うんでお返しに来ました。』と輝は言った。
高峰の妻は、『あら 主人、輝君に伝えてなかったのかしら・・・ 輝君間違ってないのよ。あなた5月から時給が200円上がったのよ。 キッチンのあなたの先輩達から、この頃 輝君の仕事は、相当レベルが高い仕事してる。って言う声もあったし、もちろん主人もそう思っててね。 それにあなたが、ホールに出た時、お客様からの評判がものすごくいいのよ。 いつ だったかしら、高齢で少し足の不自由そうな女性が来店された事があって、ご自分でお手洗いまで行かれたのね。足が悪いからゆっくりとだけど、その方がお手洗いから出られた時、あなたが温かいお絞り持って、出口の先でその方にお渡しして、お席までサポートしたことあったでしょ?』 『あぁ~ ありましたね。品の良いおばあちゃんでしたね。』 『ええ その方が、うちの店にお手紙くださったのよ。 本当に心が温まるような素敵なサービスだったってね。 大和さんも主人もそれがすぐ輝君のした事だってわかったわ。 私もね それ聞いて本当に嬉しかったの。 料理を褒められる事は、主人の腕だから多いのよ。けれど、こういう料理以外にこの店を褒めていただけるのは中々ないの。 それで三人で相談して、時給を上げることにしたのよ。輝君が大学に行ったらもう来てもらえないのが、私はさみしいけど、立派なお医者さんになれるように私も祈ってるわね。 そういう事だから間違いじゃないからそのまま受け取ってね。』
輝は『奥さん ありがとうございます。これからも頑張ります。』と会釈をした。
涼との京都旅行は、二人で日帰りできるコースで最高の、今、輝の知識の中では一番のものにした。高校2年生にしたら、やや贅沢なコースだったけど、こんなチャンスは二度とない。だから最高のものにしようと頑張った。 なので結構お金もかかってしまった。 輝にとって200円の時給アップは有難かった。
たった1日だけれど思い出に残る旅が出来た二人。
輝は、夏休みの北海道行きの準備を始める。
(注) 涼が輝と京都旅行に行った時のコーディネートは下です。 良かったら見てみてください(笑)
https://fashion-collect.jp/feature/13089.html
一番上の 春は出会いの季節 の服です。