典子と涼
数学の苦手な涼は、輝に教えてもらうことになり、テストの直前輝の家で教えてもらうことになった。
涼は、始めて輝の母、典子に会う。 そして典子と涼、二人が感じた事は?
9時40分。 輝は少し早めに涼の家の近くまで来て、約束の時間まで待っていた。
涼は、輝に家の近くまで来たらメッセージください。とお願いすると、すぐに返信が来て、もういるけどゆっくり来てもらえばいいからね。と書いてあった。
涼は、姉に『お姉ちゃん。輝君もう来てるみたいだから行くよ。』と声をかけた。
『は~い。』 姉は返事をして、涼と一緒に家を出た。
『輝君。おまたせ。 うちの姉です。』 輝は軽く会釈し、『水主 輝です。』と言った。
姉は、『いつも涼がお世話になっています。 涼の姉の 矢島 真琴です。 今日は涼が、お邪魔するそうですが、よろしくお願いします。』 挨拶した。
輝は、『いえ 大した事はできないですから。』と言った。
涼は、『じゃ お姉ちゃん行ってくるね。』と言った。 輝はもう一度軽く会釈して、輝の家に向かった。
『涼ちゃんのお姉さんも綺麗な人だね~。』
『うん。お姉ちゃんは私なんかより綺麗で昔から、もてるんだよね。』
『いやいや 姉妹揃って綺麗だよ。』 と言うと、涼は、『私は違うよ。』と恥かしそうに言った。
輝の家に着いた。 『お母さん ただいま~。』 『あっ お帰り。 いらっしゃい。何もおもてなしできないけど上がって。』 典子は涼に声をかけた。『矢島 涼です。 今日は水主君に勉強教えてもらいに来ました。よろしくお願いします。』と会釈した。 『涼さん でいいかしら?』 『はい。』
『涼さん、なんて綺麗で可愛いの! 私にもこんな娘さんが欲しかったな~。』典子が笑顔で言った。 『おい お母さん!』 典子は、涼の可愛さにすっかり魅せられてしまった。
涼の方も、典子の若々しくて、少し凛とした美しさに見とれてしまった。まるで母と言うより姉と言うほど若々しくて、明るい。
輝は、『涼ちゃん。 こっちだよ。』と自分の部屋のドアを開けた。 大きなパソコンデスクの横に本棚が置いてあって、後はベッド、スライドハンガーが2本あっていくつかの服がかかっていて、入り口の奥にクローゼットらしい扉があった。 すごくシンプルだけど綺麗な部屋だった。いつも輝が座ってるパソコンデスクの椅子に輝は、『涼ちゃん ここに座って。』と言った。 『俺、リビングから椅子持って来るんで座って待っててくれる。』 『うん。』 涼はうなずいた。輝がリビングに椅子を取りに行くと、典子が、『涼ちゃん、なんて可愛いの!あんな子があー君の彼女だったらいいのにな~』と言った。 輝は、『確かに可愛いね。お母さん。何か飲み物だけ部屋に持って来て。 オレンジジュースでいいよ。』と言った。 典子は、『うん。』と答え、輝は椅子を持って部屋に戻った。
『涼ちゃん お待たせ。 今お母さんが、飲み物持って来てくれるから、それ飲んだら始めよう。
俺も、数学出そうなところとか、ポイントまとめといたから、それをやりながら、わからないところがあったらいつも図書館でやってる感じで聞いてね。』 と言った。 涼は典子の事が気になってしまって、『輝君のお母さん。ほんとに綺麗な人だね~。お母さんには見えない。お姉さんだよ~。』と言った。
『まぁ お母さんはどこ行っても若くみられるね。 41歳なんだけど、20代?って言われる事もあるくらい(笑)』 『うん。 ほんとそうだよ~。私びっくりしちゃって。』 『進路相談に来た時もうちのクラスの女子から、お姉さん?っていわれてたしね。』 『うんうん。 私だってそう思うもん。』
『で、 勉強なんだけど、そんな感じで進めるけどいいかな?』
『あっ ごめんなさい。 はい。それでお願いします。 私、輝君のお母さんに見とれちゃって、そっちに頭がいっちゃってた。』涼は微笑んだ。
輝は、『お母さんは涼ちゃんに見とれてたみたいよ。』と笑った。 涼は 『え~』と言って恥かしそうに下を向いた。
典子が、オレンジジュースを持ってきた。 『輝~ 飲み物持ってきた。ドア開けて~。』 『うん。』輝はドアを開け、典子からトレーを受け取り、デスクの上に飲み物を置いた。 『涼さん、 上着かけておくわ。暑いでしょ?』 『あっ すみません。 ありがとうございます。』 『私のハンガーにかけておくね。 帰りにお渡しするわ。』 『ありがとうございます。』 母は涼の上着を持って、 『ごゆっくりね。』と声をかけて部屋を出て行った。
輝と、涼は母が持ってきたオレンジジュースを飲みながら少し雑談した。
涼は、『私、男の人の部屋って始めてなの。父親には小さい時から、怖くてあまり近づかなかったから、本当に始めてなの。 友達は男友達のいる子もいたり、彼氏がいる子もいて、みんなそういう経験とっくにあるみたいだけど、私、中学の時もそういう付き合った人もいなかったから、本当に経験なくて。』
輝は、『なんか男子の部屋ってイメージあったの?』と尋ねた。 『友達が話してるの聞いてたら、もっとごちゃごちゃした感じだって思ってたから、こんなにすっきり綺麗な部屋はイメージしてなかったかも。』と答えた。 輝は、『俺の部屋何もないからね~。パソコンと本棚だけだし。』と言った。
輝は、飲み終わったグラスをトレーに乗せ、『グラスだけ置いてくるからちょっと待って。あっ 涼ちゃんちょっと来て。』 部屋を一緒に出た所で、『その右側がお手洗いだから、必要な時は使ってね。』と行って台所のほうにトレーを持って行った。
輝が、部屋に戻り、勉強が始まった。 いつもの図書館とは違い、二人の距離がもっとずっと近くに感じられた。 涼は、そういう意識を掻き消そうと勉強に集中しようとした。
輝の教え方は、いつもわかり易く、理解がしやすかった。 あっと言う間に2時間近く過ぎ、12時10分くらいになっていた。 『涼ちゃん。ちょうど切りがいいので、お昼にしよう。今日 お昼オムライスにしようかなと思ってたんだけど大丈夫?』 『うん。もちろん。ありがとう。』 『じゃあさ、リビングで待ってて、俺が作るから。』 『えっ 輝君が作ってくれるの? うん。お母さんも料理は上手いほうだけど、オムライスは、俺のほうが多分上手くできるから。』 『うわ~ 楽しみ~。』
輝は涼を連れて、リビングまで行って、椅子を引いて、『涼ちゃんここに座って待ってて』と言った。
『お母さ~ん ちょい休憩して、お昼にするわ~。』 輝は典子に聞こえるようにリビングから言った。
典子は、部屋から 『は~い』と言って出てきて、『涼ちゃん 勉強お疲れ様。ほうじ茶しかないけどいいかしら?』と涼に尋ねた。 『はい。 頂きます。ありがとうございます。』と涼は答えた。
母は、お湯を沸かしながら、涼に話しかけた。『涼ちゃんは、どこか行ってみたいところあるの?』
涼は、 『旅行とかですか?』と聞いた。 『うん。旅行でも旅行じゃなくてもいいんだけど、行ってみたいとか見てみたいと思うところ。』 『そうですね~。夢はやっぱりヨーロッパに行って街並みを歩いてみたいですね。 日本だったら、京都に行きたいです。修学旅行には行ったんですけど、小学生の時で、ちゃんと覚えてないし、もう一度ちゃんと見てみたいな~と思います。』 『輝は 京都詳しいわよ。 輝に連れてってもらったら?』 輝は作りながら、『おい お母さん何言ってるんだよ!涼ちゃんが困るだろ!』と言った。
典子は、笑いながら『ごめんごめん。 冗談よ。 でも輝が京都に詳しいのはほんとよ。』 と言った。
お茶を淹れ、椅子に典子も座り涼とまた何か話し始めた。
輝は、オムライス作りに集中しだして、二人が何を話してるのかわからなかった。
『お母さん。 もう出来るから大きな皿取ってくれる? で、スプーンと水もお願い。』と頼んだ。
輝は、チキンライスを盛り付け、手早くオムレツを作ってチキンライスの上に乗せて行った。
3つできあがり、『お母さん。一つゆっくり持って来て。後二つは俺が持って行くから。』 テーブルにオムレツを乗せ、涼のオムレツを最初に、ナイフで真ん中を切ると、二つに真ん中から切れたオムレツがチキンライスの上にとろける様に広がって行った。 『うわ~~ 美味しそう。』涼は思わず声をあげた。 あと二つを次々に、カットして、ケチャップを入れた小さな陶器のボールにスプーンをつけて、『ケチャップは、お好みで好きな分だけかけて。』と言った。 『じゃ 食べよう!』 三人は 『いただきま~す。』と言って食べ始めた。
輝も、自分で納得するくらいオムライスは美味しくできた。
涼は、『普通に卵でロールしたオムライスは食べた事があるんですけど、こう言うオムライスは写真で見て食べてみたいな~とは思ってても中々食べられる機会がなくて、始めて食べて感動しました。』と言った。 典子も 『私も始めて。 また輝つくってね。』と言った。
昼食を食べ終ると、 輝は典子に、『お母さん食器だけ下げてくれる? 俺デザート用意するから。』と言った。 涼は、『私も手伝います。』と立ちかけたが、典子に『涼ちゃんは座ってて、私がやるから。それにね。輝が作った。デザート台所行くと見えちゃうから。 ここで楽しみに待ってて。昨日私が味見したけど抜群に美味しいから、味は保障するわ。』と言った。 涼は、『はい。じゃあ すみません。ここで座ってます。』と言った。 典子は 『うん そうして。』と言って食器を下げ始めた。
輝はロールケーキをカットして、お皿に乗せた。 そして少し大きな声で、 『涼ちゃん。コーヒーと紅茶ならどっちがいい?』 と聞いた。 涼も少し大き目の声で、『じゃ 紅茶でお願いします。』と答えた。 輝は、『わかった~。』と言って典子が持ってきた、マイセンの兼用カップに紅茶を入れ、『お母さんはコーヒーだよね?』と尋ねた。 『うん。お願い。』 『お母さん。 涼ちゃんの紅茶と俺の紅茶、先に持って行ってと』頼み、典子のコーヒーをドリップした。 『お母さんコーヒー入ったよ。 お願い。』 そして輝は、トレーにロールケーキの2切れづつ乗った皿を3つ乗せ、テーブルまで持っていった。 『お母さん フォークね。』『は~い。』
『これ輝君が作ったの?』涼が尋ねた。 輝は 『うん。昨日作ったよ。明日香ちゃんが涼ちゃんは生クリームに目がないくらい好きだって言ってたの思い出して、ロールケーキがいいかな~って。』
涼は、それを聞いて涙ぐんでしまった。 典子が 『えっ 嫌いとかじゃないよね?』と声をかけると、涼は、『うれしくて・・・』と泣きながら笑った。 『さぁ さぁ 涼さん。 紅茶が冷めないうちに頂きましょ。』と優しく涼に言った。 『はい。 頂きます。』 涼は一口飲んで、ケーキを食べた。 『うわ~ すっごく美味しい!』 典子が 『でしょ!』 と言う。 輝は喜んでもらえてよかったよ。と微笑んだ。
ケーキも食べ終わり、紅茶もほぼなくなりかけたころ、涼が『このカップ綺麗なカップですね。』と言った。
典子は、『そう?ありがとう。このカップね。マイセンって言って、こんな貧しい家には場違いみたいなカップなの。亡くなった主人が陶器が好きで、持ってたもので唯一の形見というか、そんな感じ。でも綺麗だし大切に取ってあるの。』 と言った。
輝は、『お母さん、悪いけど、後片付け頼んでいい?』 『いいよ~ やっておくわ。』 涼は、『片づけくらいは手伝わせてください。』と言ったが、輝が、『今日やる分早くやりたいから、お母さんに任せて、すぐ勉強しよう』というので、仕方なく典子に、『すみません。お願いします。』と行って輝と勉強に戻った。
それから1時間くらいで輝が予定していた、今日の分をやり終えた。 『今日はここまでにしよう。』 『うん。本当にありがとう。 すごくよくわかったよ。』 涼が言った。 涼は持ってきた勉強道具をバックに入れて、『今日は本当にありがとう。帰りは一人で歩いて帰れるから。』と言うと、輝が『ちょっと待って、もう一つデザート作ってあるから、それ食べて行って。』と言った。そして二人はリビングに行った。図書館で借りた小説を読んでいた典子を呼んで、文旦のゼリーを食べた。 『今日は色々ご馳走になっちゃって。 みんなすごく美味しかったです。 私も輝君みたいにこういう風に作れるようになりたいなぁ~。』 典子は、『じゃ 今度は輝に料理もうちで教えてもらったら?』と言うと、 輝は、『お母さん!涼ちゃんが困るって!』と言うと、典子は少し舌を出して、 『ごめんね。でもまたいつでもうちでよければ遊びに来てね。』と涼に言った。 涼は、『ありがとうございます。 本当にご馳走様でした。』と言って輝と二人で部屋に戻りバックを持って帰る準備をした。 『お母さん 涼ちゃんの上着持って来て~。』『は~い。』 『輝~ 涼ちゃんちまで送って行ってあげなさい。』 『うん。そのつもり。』 涼は 『大丈夫だよ』と言ったが、輝が『送るよ』と言うので送ってもらうことにした。
次の日も、同じような感じで勉強して、ようやく勉強が終った。
2日間の輝との勉強は終った。 終ってしまった。と涼は思った。勉強する。それを理由に二人きりで時を過ごした事は確かに嬉しかった。 けれど、ただそれだけ。 何か物足りなさも残った。 もし輝君が私の彼氏だったら、勉強なんて理由がなくても、もっと一緒にいられる。理恵ちゃんや渉君たちみたいに、休みに一緒にお出かけしたり、もしかしたら、典子さんが話していたように輝君と、京都まで電車に乗って行って、京都の町を二人で歩けたらどんなに幸せだろう。 そう思った。
けれど、涼には自信も勇気もなかった。 明日香ちゃんは他の男子に結構人気がある。私よりずっと大人っぽいし、明るくて可愛い。 明日香ちゃんがダメだったのに私じゃなぁ~。 輝が考えていたように涼も考えてしまっていた。 もし、輝が他の女の子と付き合えば、今みたいに二人でいる時間もできなくなる。 それは嫌だ。 けれど、告白してだめだったら、私は明日香ちゃんみたいにできない。 きっと遠のいてしまう。そうなる事が怖くて、好きです と告白できなかった。
涼が、典子に会って感じたのは、もしかしたら、お母さんがあんなに素敵だから、どこかお母さんと比較してしまうから、輝君に彼女がいないのかも。 とも思った。 学園祭の後から、輝の演奏を聞いて、輝に興味を持つ女の子はすごく増えた。 涼も、明日香の他に輝が好きだと聞いた女の子を何人か知っている。彼女たちが輝に告白したのかどうかはわからなかったが、今、輝に彼女がいないのは確かだ。
涼は、あんな綺麗で優しくて明るいお母さんと比べられたら、ほぼ誰でも無理なんじゃないかと思った。
もし、そうなら、振られてしまうリスクを取るより、近い友達でいる方が安全かもしれない。 自分の勇気のなさを、そういう理屈で誤魔化してしまっていた。
けれど、それは全く輝も同じだった。 ただ輝の場合は、元々涼を彼女にしたいという気持ちが少し涼よりは少なかった。 それは、前から涼を、憧れという存在にしてしまっていたからだ。
彼女が誰かと付き合ったら、それは悲しいに決まっている。 でも、憧れの存在なのだから、涼に釣り合うような人がいて涼が幸せにその人と付き合えるのなら、それも仕方ない事だと思ってもいた。
期末テストも終わり3月10日。 この日は、テストの返却が始まると同時に、愛心高校の大きな、学生への発表の日でもあった。 特待を受けられるランクと名前が公表される。 もし、ここで今まで特待を受けていて受けれなくなった場合、すぐ適用されるわけではなく、夏休みの前までの間、猶予が与えられ、1学期末の成績が、特待の条件まで回復すれば、特待に戻れる。しかし回復しなければ、2学期からは、特待がなくなる。 そういうシステムであった。
涼は、今回輝のおかげで、数学は思った以上に出来たと思っていた。他の科目も、自分なりには頑張った。 ただ特待は他の生徒の成績が加味された相対評価だ。 絶対評価なら少し自信もあったが、相対評価は他の生徒がもっとできてれば、ダメになってしまう。
涼は、祈るような思いで張り出された紙を見た。『あった!』涼は思わず叫んだ。授業料免除の中に自分の名前を見つけた涼は本当にほっとした。 輝はその上の上位ランクの所に名前があった。
人だかりが少なくなった頃、輝が発表を見に来た。近くに涼を見つけて、輝は自分の結果も見ずに涼にかけより、『涼ちゃん。どうだった?』と尋ねた。 涼は満面の笑顔で、 『あったよ。あったよ。 私輝君といられる!』と言った。 思わず本心がポロリと出てしまって、慌てて 『授業料免除に入れたよ。輝君のおかげだよ。』と前の言葉を隠すように言った。 輝は、自分の事のように喜んで、 『いやいや 涼ちゃんが、頑張ったからだよ。ほんと 良かったね~ おめでとう!』と言った。
涼は、無意識に自分から輝の手を握り締めていた。 『あっ』 それに気づいた涼が、慌てて手を離して、『ごめん。』 と恥かしそうに言った。
輝は、俺も見てくるね。と言って少し掲示板の方に歩き始めると、涼が、『輝君!』と呼び止めた。 『私見たよ。輝君一番上のところに名前があったよ。』 『ほんと?良かった~。 これで生活も今まで通りにはできそうだし。』 輝はもう一度確認しておこうと自分で見に行った。
短い春休み。 輝は、北海道旅行と、バイク購入のためにバイトに多くの時間を割いて終った。
2年生になった。 愛心高校は、併設する中学から約200人。そして、高校からの編入生として約200人。合計約400人が1年生になる。 ただ、付属中学はでは、中学生のうちに高校の範囲まで授業が進むため、高校から入った生徒は、1年生のうちに付属中学の生徒に追いつかなければならない。
それで、高校からの編入生は1組から5組に、中学からの内部進学は6組から10組に分かれて授業が行われる。 そして編入生は1年生の終わりに内部進学者に追いついて、2年生からはすべて混合されてクラス編成が行われるような仕組みになっていた。
輝は2年2組。 渉は2年9組。 明日香は2年3組。 そして涼は輝と同じ2年2組になった。
『輝~ 俺、お前と別れちゃったよ。同じクラスになれる確率は10分の1だから仕方ないけど、教室も少し離れてるし、ちょっと寂しいな~ 』渉は、輝に言った。
『俺も、渉と一緒になりたかったけど、こればっかりは確率低いし、仕方ないよな。 理恵ちゃんは何組?』
『理恵とも別れたけど8組でとなりのクラスだからまだましかな~。』
『そうか~ まぁ お前らずっと仲良いし、クラス離れても関係ないか?』
『いや~ やっぱりそれは同じクラスのほうが何かといいよ。 でも仕方ないよな。そんなに上手くは行かないし。3年になったら、受験の事でみんな忙しくなっちゃうから、2年の時に遊んでおかないとな。』
『お前は、ずっと遊んでるだろ?(笑) 少しは2年で頑張って成績あげないとだろう?』
『まぁな~ 理恵が同じ大学行こう!って言うから相当頑張らないとだめだわ。』と言って渉は苦笑いした。
『涼ちゃん輝と同じクラスになったみたいだな?』 『うん。そうみたい。』輝はできるだけそっけなく言った。
すると渉は、にやにやしながら、『輝~ 涼ちゃんと一緒で良かったな~ 頑張れよ じゃあな~』と笑って去って行った。
輝は、自分がどのクラスになったか掲示板で確認した時、同じクラスになった生徒の名前を目で追うと、そこに涼の名前があった。 その瞬間、胸が高まった。 いつも涼がそばにいて、いつも彼女を見ていられる。それは輝にとって、凄く大きな事だった。
涼もそれは同じだった。輝と同じクラスになれたとわかった時、大人しい涼が、思わず両手を握り締めて、『やった~!』と声をあげてしまったくらいなのだから。 愛心高校に合格した時もかなり嬉しかったが、これほどのジェスチャーはしなかった。 それほど涼の中で輝の存在は大きくなっていた。
輝は、新しいクラスに向かう途中で涼に会った。 『涼ちゃん。同じクラスみたいだね。』『うん。輝君よろしくお願いします。』涼はにこやかに言った。 輝も 『こちらこそよろしく!』 と笑顔で答え教室に向かった。
すでに席は決められており、輝の席は窓際の後ろから2番目、涼の席は輝の少し右斜め前だった。
涼から輝を見るにはほんの少し振り返らなければいけない。輝は顔がはっきりは見えないが、ほぼいい感じで見れる位置だった。 輝の隣は、浅海俊という男子で、笑顔が爽やかな、くせのなさそうな生徒だった。
涼の隣は三条茜という女子でまったりすると言う言葉を絵に描いた様な、ほわりとした感じの生徒だった。
俊も茜も中学からの内部進学者で、二人とも成績は上位だった。
輝は、俊に 『俺、水主 輝。よろしくな』と言うと、俊は『水主君のことは僕知ってるよ。学園祭の演奏で感激したからね。 僕は 浅海 俊。こちらこそよろしく。』と爽やかに笑った。
輝は、俊とはこの会話をしただけで、なんとなくいい友達になれる気がした。 輝にはない穏やかさと、そしてほんのりとした気品のようなものを感じたからだ。こう言う人間は人を騙したり陥れたりするようなことをしない。輝は直感でそれを感じた。
涼も茜に、『矢島 涼です。よろしくね。』と挨拶すると、茜は、少しだけ微笑んで、『三条 茜だよ。気楽にやろうね~。』とほんのりとした笑顔で言った。 涼が、『三条さんは内部なの?』と尋ねると、茜は 『うんそうだよ。 涼ちゃん、苗字で呼ぶのやめよ。堅苦しいよ~ 茜でいいから。』と言った。 涼も 『そうね。じゃ 私も茜ちゃんで行くね。』 『うん そうして~。』 そう答えると小説を出して読み出した。
涼はこの時、茜の事を陽だまりにいる猫のような感じがした。 そこにいるとなんとなく なでなで したくなるような。人に媚びない柔らかい感じ。そういう気がして、この人だったら、毎日緊張することなく学校にこれそうな気がした。
俊は渉とは全く違うタイプで、静かで、大人しい人だった。 それでいて話しかければ、普通に必要な事にはちゃんと答えてくれる。 普段はイヤホンで音楽を聴いたり、小説を読んだりして、人の中に積極的に入っていく方ではなかった。
2年生になって初めてのホームルームが始まった。
いよいよ二年生になり、新しい友人たちとの出会い。 今までの友人との関係も多少 変化も起きる。