第1章17『怒らないから話して理論』
お姉さんの問いに対し、おっさんの方は無言だ。
俺が見る限り、おっさんは、わざと声を発していないのではないと思う。
恐怖のあまり、おっさんは身動きも取れず、声も発せられないのだ。
俺が、このようなことを考えながら、おっさんを見ていると、まるで俺の心の内を読んだかのように、お姉さんが、おっさんに声をかける。
その声は、さっきとは打って変わり、とても優しい声だった。
「さっきはごめんなさいね。あなたを威嚇するような態度を、とってしまって。それを踏まえてなのだけれど、私はあなたが何を言っても怒らないから、どうしてちゃんと聞いていなかったか、教えてくれる?」
あっ出た!絶対に怒らないからすべて話して理論。この理論のせいで俺は、17年間トラウマを、植えつけられまくった。
また、俺はこの理論を使い本当に怒らなかった人を、17年間見た事も、聞いたこともない。
これは、俺の勝手な推測だが、神の理とやらで、俺たちは相性抜群だと判断された。全く持って俺の意にそぐわないが、多分考え方も似ているところがあるのだろう。
だから、おっさんは、お姉さんが怒らないという嘘をついているのを見破ってくれるだろう。
といった、俺の淡い希望は、次のおっさんの一言で、粉砕された。
「本当ですか!なんて慈悲深い!」




