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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パニック関連

ゾンビに囲まれて

(まずいよなあ……)

 さすがにこれはないと思った。

 板崎ヒロシは自分の周囲の状況があまりにも酷い事にため息を漏らす。

 そうしてても状況は何も変わらないが、それでも動き出せないまま時間を無駄にしていた。

 閉鎖された空間に人が集まってるのだから仕方ないとは思う。

 だが、だからといって全てが許されるわけもない。

 いずれこのままでは内部崩壊を起こすのは目に見えていた。



(どうするよ)

 危機感が解決策を求めていく。

 可能であればこんな所からさっさと逃げ出したかった。

 だが、それがそうもいかない。



 ヒロシがいる建物、この近隣では比較的大きなスーパーマーケットの外は、今や人が歩ける状況では無い。

 うめき声を上げながら歩き回る者達が、そこかしこで人を襲っている。

 目的もなく歩きまわり、それでいて人をみれば習性のように襲いかかってくる化け物どもが。

 今世界は、ゾンビ達によって覆われていた。



 置かれた状況は最悪だった。

 突如あらわれたゾンビによって世界は壊滅的な被害を計上している。



 ゾンビ自体はそれほど強力なわけではないが、初動における対処に失敗した事がその後に響いていた。

 おかげで人類は各所に孤立し、対抗らしい対抗もなかなか出来ずにいる。

 政府は一応機能してるらしく、稼働可能な軍隊を動員して各地をゾンビから解放していた。

 それでもなお、いまだ救いの手が届かない場所も多い。

 いずれ時間が解決する事ではあるかもしれなかったが、その時間を生き延びる事が難しい者達もいる。

 政府も全てを救出する事は出来ず、出来る所から、そして戦略的に重要な地点から順に解放をしている。

 後回しにせざるえない地域が出るのはやむなき事だった。



 それが悪いという事ではない。

 もし効率を無視して行動していけば、救出出来ない者達が多くなる。

 政府もそうだが軍隊もゾンビの襲来により痛手を被っている。

 そこから立ち直り、残った兵士や兵器をまとめて反撃に出ているのだ。

 最善からほど遠い状態で事にあたってる以上、無理強いは出来ない。

 彼等はよくやっていた。

 だが、それが後回しにされてしまう者達への慰めになる事もない。

 不平不満は言わないまでも、置かれた状況に絶望する者達もまた多かった。



 そんな中でヒロシは運が良い方だった。

 初期の段階でゾンビの存在に気づき、それなりの対策が取れていた。

 周りの者達も比較的冷静に行動し、襲いかかってくるゾンビを撃対する体制を作り上げていた。

 粗雑で穴もあったが、何も出来ないで襲われた者達に比べればかなり増しな状況だった。

 そういった者達を共にヒロシは、住んでいたアパートを離れ、近くのスーパーマーケットに集まっていった。

 そこならば食料が比較的豊富にあり、ある程度の期間の籠城が可能だったからだ。

 いつ果てるともなく続くゾンビ災害において、まずは物資の確保が何よりも必要だった。

 出来るだけ多くの者達が集まれる事も。



 それぞれが家の中に籠もっていても、いずれはゾンビに襲われてしまう。

 外をゾンビが徘徊してる状況なので、家で大人しくしてるのは孤立と同義であった。

 やがては集まってきたゾンビに囲まれて襲われる。

 何十体というゾンビに囲まれて襲いかかられてしまえば、家などもろいものだ。

 力任せに押し寄せるゾンビに窓を割られてしまえばひとたまりもない。



 実際、家に残った者達が襲われる事は数多く発生していた。

 住み慣れた家から離れるのがしのびなかったもの、外にいる家族を待つ為自分も残ったもの。

 そういった者達が次々とゾンビに襲われた。

 そしてゾンビに襲われたものもゾンビになる。

 家の中で息を潜めていた者達の多くは、新たなゾンビとなって地上を徘徊していった。



 更に問題なのは、食料などの備蓄状況だった。

 震災の記憶もあって、非常時の備えをしてた家は多く、ある程度の期間はしのげる所も多かった。

 だが、それもあくまで震災を想定してのものである。

 だいたいの家がしていた備蓄は数日程度。

 長くても二週間から三週間程度である。

 それだけしのげば政府などの救助が見込めたから、これで十分であった。



 しかし、それらはゾンビの襲来を見越したものではない。

 数日どころか数週間経っても解決の見通しが立たない状況で、家に籠もってどうにかやり過ごしていた者達も欠乏にあえぐ事になる。

 やむなく外に出て食料を調達に、あるいは人が集まってるところに合流しようとして襲われる事もあった。

 さもなくば、飢えに苦しみながら息絶えていくしかない。

 どちらにしても、新たなゾンビとなっていく事に変わりは無かった。



 そんな中にあって、寄り集まる事が出来た者達は、まだしも頑強な抵抗を続けていた。

 壁を作り、襲いかかってくるゾンビを撃退し、ギリギリのところで命をつないでいた。

 交戦中にゾンビに襲われ命を落とした者もいたが、それでもまだ多くの者達が生き残っている。

 さすがに食料などは尽きていったが、そうなったら近隣のコンビニやスーパーなどへ遠征し、必要な物資を確保していった。

 もちろんゾンビとの交戦もあったが、人数が多いこともあって撃退も十分に可能だった。

 その中で命を落とすものもいるにはいたが、損害率でみればかなり低い方である。

 そうした努力のおかげでヒロシ達は二ヶ月にわたる長期間の生存を達成していた。



 だが、内情はやはり悲惨なものになっていった。



 閉鎖された空間に大勢の人間が集まってるのである。

 否応なしにストレスは高まっていった。

 不安が不満になり、憤りが噴出する事も珍しくない。

 食料はかろうじて確保していたが、大勢が集まればそれもいずれ尽きていく。

 日が経つにつれて配られる食料は少なくなっていった。

 状況が状況だからといって我慢はしてるが、それもいずれは限界を迎える。

 そうやって高まった不満は、外に向ける事が出来ない場合、内部においてはけ口を求めていく。

 苛立ちを誰かにぶつけはじめ、それらはやがて集団内における娯楽へと変わっていく。



 最初はささいな陰口からはじまり、やがて面と向かってのののしりになり、暴力にいたる。

 そうなるのにさして時間はかからず、はけ口となった者を責め苛んでいった。

 さすがにそれに拒否を示す者達もいるにはいたが、全体の流れや雰囲気にのまれて止めに入る事も無い。

 行為に荷担しないという消極的な拒絶しか出来ないでいる者達が大勢あらわれるにとどまった。



 また、この集団をまとめてる者達にも問題があった。

 食料の配布をはじめ、全体を統括してる者達であるが、彼等の行動も目に余るものがあった。

 他の者達への待遇の偏りは見てて分かるほどであり、彼等にすり寄る者達には物資の配布を多めにしていた。

 のみならず、作業量の割り当てなどでも差が作られていた。

 当然ながら彼等の身内や迎合する者達の待遇は良く、それ以外は酷いものとなる。



 襲いかかるゾンビへの対処や、危険な外への物資調達などは上層部と縁遠い者達に回されていた。

 ばかばかしい事に、この狭い空間の中で協力関係ではなく上下関係が作り上げられていた。

 作業における指揮系統などはともかく、生活や待遇における意味のない線引きである。

 物資の独占を含む支配構造でしかなかった。

 ヒロシだけでなく、多くの者達はこれに白い目を向けていた。



 更に悪い事に、そいつらの中の野郎共が若い女に目を向けている事だった。

 極限状況で娯楽もないとなれば、欲求のはけ口として暴力以外を用いるようになる可能性は高い。

 今はまだ人の目があるから行動に出てないが、やがて何かしらやらかす可能性はあった。

 それが分かってるからか、女も彼等と距離をとりつつあった。



 それらが更に悪い方向に進んでいく可能性もあった。

 虐待によるストレス発散も含め、標的がいつまでも一定である保障はない。

 だからこそヒロシは何とかしようと思っていた。

 周りの雰囲気は理解はしてたが、さすがにそれらを放置は出来なかった。



 だが、表だって行動すればどうなるかくらいは理解している。

 なので、人が集まってる中で行動を起こすことはしなかった。

 上手く周りを引き込む事が出来れば不利な形勢を逆転させる事も出来るだろう。

 しかし、その為にはそれなりに達者な口が必要である。

 人付き合いが苦手だという事を自覚してるヒロシに出来る事ではない。

 別の行動を取る必要があった。



 娯楽としての虐待、リンチを行ってる者達は全体からみれば少数である。

 だが、基本的にまとまって行動してるので手が出しにくい。

 それでも四六時中行動をともにしてるわけでもない。

 一人や二人くらいになる瞬間はある。

 それを狙って襲いかかっていった。

 まずは人数を減らさない事にはどうしようもない。

 全体からすれば少数だといっても、ヒロシ一人からすれば大勢なのだから。



 当然ながら、痛めつけて捕らえる……なんて悠長な事はやってられない。

 一撃必殺で仕留めていく。

 ゾンビがはびこるこの状況では危険な事ではあった。

 何せ、死ねばほぼ必ずゾンビとして蘇るのだから。

 確実に活動不能にするには、手足を完全に粉砕するか、頭を破壊しなくてはならない。

 それだけの事をするのはかなりの手間がかかる。

 だが、それもまたヒロシには好都合ではあった。



 そうやって隙を見て何人かを始末していった事で、スーパー内部に何体かのゾンビが発生した。

 もちろん内部は大騒ぎになったが、ヒロシとしてはありがたい。

 その隙に虐待を受けていた者達に近づき、多少強引に彼等を別の所に引っ張っていった。

 騒ぎと虐待の加害者共から引き離すために。



「悪いな、無理矢理連れてきちまって」

 そういって話を切り出す。

 連れてこられた者達は何が起こってるのか理解出来ない様子だった。

 そんな彼等に言葉を重ねていく。

「今まで見捨てていて悪かった。

 今更だけどごめん」



 まずは謝罪から。

 それが良いかどうかは分からなかったが、話のきっかけがないとどうしようもない。

 被害者達はそんなヒロシに面食らったようだが、否定的な感情を抱いたりはしなかった。

 見捨てられていたと思っていたところに、意外な味方がいて驚いている。

 そんな彼等にヒロシは更に言葉を重ねていく。



「俺もあれを見ててどうしようもないと思ってたんだ。

 けど、どうにも出来なくてな。

 何とかしようと思ったんだけど、なかなか機会がなくて。

 でも、今回こんな事になって、ようやく話が出来る」

 そうしてヒロシは話を続けていく。



 相手も頷きながらヒロシの言葉に耳を傾けていく。

 物陰にかくれ、人目を避けながら。

 大事な話をしてる最中である、誰かに邪魔をされたくなかった。

 それに、中にいるゾンビの対処で他の者達は慌ててる。

 こちらに人がくる可能性は低い。

 この状況を利用しないわけにはいかなかった。



「…………というつもりだ。

 どうだ、協力してくれないか」

 手短に、可能な限り要点を絞った話をして返事を待つ。

 聞いてた被害者達はさすがに考えこんでいった。

 ヒロシの言い分に反対というわけではない。

 言ってる事には賛同するし、出来れば協力したいと思っていた。



 だが、その為に被る危険も大きく、すぐには頷けない。

 それが今の状況を打破するものであろうと、はいそうですね、とすぐに賛同する事も出来なかった。

 彼等も馬鹿ではない。

 可能性と危険を天秤にかけて考えていく。

 だが、そんな彼等を今までの境遇は後押しした。



「……分かった」

 一人が呟く。

「あんたについてくよ」

 置かれた状況を良しとしていたわけではない。

 今の境遇から抜け出せるなら何でもすると思った事もある。

 そんな機会が今訪れているのだ。

 拒否する理由はなかった。

「よし、やろう」

 彼等の肩を抱き寄せ、ヒロシは決意の声をあげる。

 つられるように被害者達は頷いた。

 言葉はないが目に強い光が宿っている。

 ──こうしてヒロシは最初の仲間を手に入れた。



 ゾンビ騒ぎがどうにかおさまっていく。

 いきなりゾンビとなった者達をどうにか倒し、スーパーの中はほんの少しだけ静寂を取り戻した。

 しかし、誰もが安心してるわけでもなかった。

 安全だったはずの建物内にゾンビがあらわれたのだ。

 それも今まで生きていた者達がそうなっている。

 中にいる誰かがやったのは明白だった。

「誰が?」

「どうして?」

 そんな声があちこちからあがる。

 不安が募っていく。



 その一方でゾンビとなった者達を見て安堵する者達もいた。

 ゾンビになった、死んだ者達がこの中の鼻つまみものだったからだ。

 そいつらが襲いかかってきたのはともかく、こうして始末が出来たのはありがたいものだった。

 だが、そのままにしておくわけにもいかない。

 いくら何でも建物の中で、施設内でこんな事をされては危険でしょうがない。



(やるならなあ……)

(別のところでやってくれれば……)

 口に出して言うことはなかったが、そう思う者はそれなりの数にのぼった。

 それらもすぐに始まった犯人捜しの中で結局誰も口にせずじまいとなっていく。

 そうした騒ぎに紛れるように、ヒロシ達はスーパーの敷地の外に出ていった。



 危険ではあるが、スーパーの中に留まっているのも危険だった。

 犯人捜しが続けばヒロシがやった事が露見する可能性がある。

 そうでなくても、やがて業を煮やした連中が虐待を開始するかもしれなかった。

 そうなってしまったら逃げ場がなくなる。



 姿が見えなければ見えないで疑いをかけられるであろうが、それでも即座に攻撃される事は無い。

 無論、外似出ればゾンビという脅威があるが、それもやり方が分かってくれば対処のしようもあった。

 中に残って高確率で攻撃されるか、生き延びる可能性が少しは高いゾンビの中を歩いていくか。

 考えるまでもなかった。



 ゾンビそのものはそれほど脅威とはいえない。

 動きは鈍く、少数ならば掴まる危険はない。

 だが、問題は数だった。

 さすがに何十体にも囲まれてしまったらどうしようもなくなる。



 また、行動不能にするのも手間がかかる。

 頭が一応の弱点であるのだが、これを破壊するのは簡単な事ではない。

 頭蓋骨は固く、それを破壊して脳を潰すのは手間がかかる。

 金属バットや手斧、バールなどで叩きのめすが、それでも一体を倒すのにかなりの手間がかかる。

 銃器が入手しやすい国や地域ならば、銃弾を頭にぶちこんでやれば良いだけかもしれないが、この日本においてそれは簡単にできる事ではない。

 その為、ゾンビへの対処は基本的に逃げる事に割かれていた。



 とはいうものの、その動きを誘導する事は出来る。

 基本的にゾンビは視界内にいる人間に向かっていく性質がある。

 だが、そうでなければ音などに反応する傾向があった。

 どの程度反応するのかは状況次第であるが、大きな音がすればそちらに向かっていく事が多い。

 その為、何らかの方法で音をたてて、そちらに気が向いてる間に移動をしていくという方法が確立していた。



 外に出たヒロシ達もこの習性を利用して移動をしていた。

 持ってきた空き缶を投げて音を立て、ゾンビを誘導していく。

 思ったよりも安全に移動をしながらヒロシは一度自宅へと戻っていった。



「埃が凄いな……」

 しばらく放置していたアパートの中は、どこかは入り込んだのか分からない埃が舞っていた。

 その中に土足で入っていって、目的のものを集めていく。

 アウトドアを趣味としてるので、野外活動に使える道具は揃ってる。

 懐中電灯に野外調理用の炊事道具、火種のライターにマッチ、燃料の木炭。

 照明のランタンに個人用だがテントもある。

 さすがに全部を持っていく事は出来ないが、必要なものはまとめていく。



「どこかで車を手に入れたいな」

 持っていく事が出来ない荷物を見てそう思った。

 やはり機動力は必要である。

 だが、今は持てるものを持っていくだけで満足する事にした。

 そんなヒロシの道具を見て、ついてきた者達は驚いてる。

「凄いですね」

「そうか?」

「ええ。

 こういうのがあれば、もうちょっと楽だったかもしれないですね」

「それはないな」

 ヒロシは即座に否定する。

「あれだけ大勢が使えば、こんなもんすぐに無くなるよ」



 あくまで個人が使うための量である。

 大勢が使えば一瞬でなくなる。

 それでも、あればそれなりに便利ではあったとは思う。

 しかし、とある懸念があって、ヒロシは持っていた道具の全てを持ち込んだりはしなかった。

「あいつらに横取りされただろうからな」

 そう言うと同行者達は、「ああ」「なるほど」「それもそうですね」と頷いた。



 スーパーに集まって起こった問題の一つである。

 何かしら便利な道具や食料などを持っていたら、それを供出するよう要求されていった。

「他の人達のためにも」

などと反論しにくい理由を持ち出して一人一人の持ち物を強奪していった。

 そのくせそれらが共用として使われた形跡はほとんどない。

 ほとんどが上層部が横取りしてそのままである。

 体よく強奪されたとしか言えなかった。



「そういう話があるって聞いてたけど、本当に起こるとはね」

 災害が起こった時の避難場所でどういった事件が起こっていた、という話は聞いていた。

 だからそれを懸念して、貴重な物は持ち込まないようにしてた。

 残念ながらその用心は正解だったと言うしかない。



「ま、おかげでこいつらが残ってるんだかありがたいけど」

 そういって、更にいくつかの道具を取り出す。

 それを見て同行者達は驚愕した。

「……なんですか、それ」

「うーん、まあ、なんていうか。

 こういうのも格好いいなあ、とか思ってね」

 そう言ってヒロシは、山刀を取り出した。



「使うことなんて無いだろうなあと思ってたけど」

 この状況なら使用頻度はかなり高くなるだろうと思った。

 何せ刃渡り30センチから40センチはあある分厚い刃物である。

 大きめの鉈といってもよい。

 そこらを歩き回るゾンビを撃退するのに役立ちそうだった。



「幾つかあるから持っていって」

 そういって更に三つほどを取り出す。

 目の前に出されたそれらを、同行者達は呆然と見つめていた。

「まあ、ありがたいですけど」

「しかし、これは……」

「言い訳できないですね、お巡りさんに」

 口々にそういいながら山刀を抜いていく。

 切れ味はどれほどか分からないが、重みのある刃はゾンビを簡単に粉砕してくれそうに思えた。

 そんな彼等にヒロシは、

「幸いお巡りさんもいない。

 職質の危険はないぞ」

と根拠のない言葉をもたらした。

 三人は苦笑するしかなかった。



 それからあちこちを周り、必要になるものを集めていく。

 車を無断で拝借し、生活用品を集めていき、ゾンビを切り抜けるための道具を見つけていく。

 機動力を手に入れてからは収集も早くなり、車の中は荷物であふれる事となった。

 ゾンビが邪魔になりはいしたが、車ではね飛ばせばそれほど怖くもなかった。

 そして、必要な道具を用意して次の段階へと向かっていく。



 その日、ヒロシ達はスーパーを眺める事が出来る家の中に入り込んでいた。

 元の住人はどこかに行ってるようで、中には誰もいなかった。

 窓ガラスが割れてるわけでもなかったので、ゾンビが押し入ったという事は無い。

 そんな家の二階部分に梯子で上がり込み、屋根を伝ってベランダへと向かっていった。



 スーパーの方からは見られる可能性もあったが、わざわざこちらを発見するとも思えなかった。

 死角というほどではないが、向こうからは見えにくい位置である。

 加えていうなら、数ある周囲の建物の一つにわざわざ注目する理由もない。

 上手く物陰に隠れれば、ヒロシ達が見つかる可能性は少なかった。

 そんな状態でヒロシ達は、中から人が出てくるのを待った。



 既に物資が少なくなってるスーパーにおいて、外部からの調達は必要不可欠である。

 その都度ヒロシ達は命がけで物を調達してきていた。

 今もその状況は変わってないはずである。

 だから、中から調達部隊が出てくるのを待った。

 彼等と合流するために。



 それほど待つ必要は無かった。

 張り込んでから二日で中から大勢の集団が出て来た。

 人数は二十人ほどだろうか。

 以前より人数が減っている。

 おそらく、何度かの遠征で人数を減らしたのだろう。

 また、中に老人や少年の比率が増えていた。

 命を落とした者達の代わりに補充されたのかもしれない。

 それほどまでに損害は大きくなってるのかもしれなかった。

 そんな彼等を遠目に見ながら、ヒロシ達も動き出す。



 出来るだけ距離が離れないように、それでいて見つからないように。

 気をつけながら尾行を開始する。

 荷車を引きながら移動する彼等の立ててる音が少しばかり気がかりだが、こればかりはどうしようもない。

 ゾンビがよってくる可能性があったが、そうなったらそれまでである。

 それよりも尾行してる者達は彼等の編成というか顔ぶれの方に注意を向けていく。

 今回の行動で大事なのはそこである。



「……うるさい奴らが何人かいるけど、ほとんどは普通の人ですね」

『なるほどね。

 うるさいのは監視か何かなんだろうな』

 トランシーバーごしに会話をしていくヒロシ達は、離れながらも最新情報の共有につとめていった。

 携帯電話もまともに働かないこの状況において、通信が出来るというのは大きな利点だった。

『そのまま監視を続けてくれ。

 やつらがこっちに入ってきたら一気にやる』

「分かりました。

 ゾンビに気をつけてくださいね」

『はいよ。

 そっちもな』

 そう言って通信は一度途切れる。



 必要以上に物音を立てたくなかった。

 たとえ小声であっても、人の気配のない町の中では意外と響く。

 傍にいる事を勘づかれる可能性があった。



 スーパーからある程度離れたところで行動を開始していった。

 車で移動をしながらあちこちに空き缶をなげ、ゾンビの注意をひいていく。

 それも遠征部隊とスーパーの間を横切るように。

 彼等が来た道を引き返せないようにするためだった。

 今は合流させたくない。

 それに気づいた遠征部隊の者達は、驚きながらも対処をはじめていく。



 といってもやれる事はそれほど多くはない。

 音のしてる方向から出来るだけ離れること。

 身を隠せる場所を見つけ、出来るだけそこに籠もる事。

 それを優先していく。

 幸い住宅値なので、入り込もうと思えばいくらでも入れる家はある。

 身を隠す場所もある。

 全員が身を隠すとなると難しくなるが、何人かずつに分かれれば何とかなる。

 そうやってゾンビをやりすごそうとしていった。

 そうする間にも、甲高く響く音がどんどん遠征部隊に近づいていった。



 ゾンビ集めを兼ねて派手に音を鳴らしていく。

 そう簡単にゾンビが集まってくれるわけもないが、布石としては上出来だった。

 それにこれの目的はゾンビ集めというわけではない。

 この音を聞いた遠征部隊がどう動くかが問題だった。

 当然ある程度の警戒はするだろうし、相応の動きも見せるはずである。

 それらがどうなるかは運任せであるが、なるべくヒロシ達にとって有利な方向に動いてもらいたかった。

 監視をしてる者達から入ってくる連絡によれば、幸い彼等は小さく分かれてそこかしこに隠れてるという。

「よーし……」

 狙い通りになってくれてありがたかった。

 更に上手くいくよう願っていく。



 個別に隠れた者達の中から、上層部に近い者達へと接近していく。

 どうやら彼等だけで固まってるようで、他の者達の姿は見えない。

 絶好の機会であった。

「やるぞ」

 集まってきた仲間にそう言って行動を開始する。



 まず最初にやる事は、上層部とは関係のない者達の所。

 そこに出向いて彼等をヒロシ達のほうに引き込んでいく。

 そうやって人数を増やしたところで、今度は上層部の連中を取り囲む。

 人数による不利はここで一気に逆転する。

 彼等も手に武器を持ってるが、人数差があるので問題は無い。

 そうやって取り囲んだところで、攻撃を開始していく。



 集まってきた者達に取り囲まれた彼等はかなり面食らったようだった。

 身を隠してなければならない状況なのに、いったい何をやってるのかと。

 だが、それらがすぐに驚愕に、そして恐慌に変わっていく。

 集まった者達が上層部に関係のある者達に襲いかかってきたのだから。

 それでも何とか抵抗をしようとしていたが、多勢に無勢である。

 すぐに取り押さえられていく。

 そんな彼等の前にヒロシ達は出ていった。

「久しぶり」

 意外なほど平坦な声をヒロシは出した。



 しかし次の瞬間、手にした手斧で相手の頭を叩き割った。

 他の者達も同じように処理をしていく。

 ヒロシはともかく、他の者達にとっては自分達を虐待していた憎い相手である。

 躊躇いなど全く無く、その命を絶っていく。

 瞬く間に上層部縁の者達は絶命していった。

 それを他の者達は何を言うでもなく見つめていた。



 あらためて中から出て来た者達と合流したヒロシは、その中から車を運転出来るものを何人か乗せてその場を離れた。

 この時の為にと集めた車がある。

 そこまで人をつれていき、車を運転してもらって残りの者を回収する。

 増えた人数を移動させるにはこうするしかなかった。

 もちろん、残った者達も車のある所まで歩いてもらう。

 少しでも距離を縮めるために。

 行動は迅速に、即座に行われていった。

 徒歩では結構な時間がかかる距離であったが、車であればそうでもない。

 五分もせずに目的地に到着し、すぐに何台かの車が動き出す。

 引き返した彼等は残りの者達を回収し、更に別の場所へと移動していった。



「それで、中はどうなってる?」

 無人のホームセンターに入り込んだヒロシは、合流した者達から内部の事を聞き出していく。

「酷いもんだよ」

 即座に答えが返ってきた。

「もう食料もほとんどない。

 それも上層部の連中が好き放題使っちまう。

 俺達は腹を減らしてくだけだ」

「中にいる他の人は?」

「腹を空かせて動けなくなってるよ。

 助けたいなら、外から物を持ってこいって」

「人質か」



 なかなかに汚い事をしてくる。

 だが、効果的な手段である。

 そうされたら、迂闊に反抗も出来ない。

 そもそもとして食料がなければ動く事もできないのだし、逃げる心配も少ない。

 やってる事は最悪だが、手段としてはなかなかのものだった。

 また、そんな状態だからこそ納得出来た事もある。



「だからあんたら、あいつらを殺しても止めたりしなかったのか」

 ヒロシ達が監視役を殺した時、彼等は止めたりしなかった。

 余程の事がなければ目の前で行われる殺人を黙って見てるなんて事はない。

 何かあるのだろうと思っていたが、案の定である。

「それで、女の方はどうなんだ?

 そんな事になってると、かなりまずい事になってると思うんだけど」

「ああ……」

「まあな……」

 途端に全員の口が重くなる。

 やはりまずい状態になってるようだった。



「まさか、もう手を出してきたのか?」

「なってるよ」

 はっきりとした返答が出てきた。

「それどころか、自分から股を開いてるのもいる」

「そうするしかないのは分かってるけどなあ……」

「まだ手を出されてない子もいるけど、この先どうなるか」

「元気が残ってるのが中で守ってくれてるけど」

 誰もが悲痛な声をあげていた。

 ヒロシはため息を吐くしかない。

「こりゃあ、急ぐしかないな」

 出来れば時間をかけて準備をしていきたかったが、そうも言ってられない。

 出来るだけ急いで結果を出さねばならなくなった。



 とりあえず食事をさせて彼等の体力を万全に近づける。

 それから必要な道具を揃え、これからやる事の手順を考えていった。

 とはいえ時間もない。

 綿密な計画をたててるわけにもいかない。

 思いつきと勢いだけの行動計画がたてられていく。

 正直、成功するかどうかは悩ましいものがあるが、のんびりしてるわけにはいかない。



 幸い車はあるから移動と運搬手段に困る事はない。

 必要なものを詰め込み、何台にも分乗して根城にしてるスーパーマーケットへと戻っていく。

 途中、放置していた荷車を回収し、準備も万端にしていく。

 スーパーの近くで一度荷車をおろし、そこに荷物を入れていく。

 遠征で回収したように偽装するために。



 それと、何人かは一緒に戻らずヒロシと行動を共にする。

 これから何をするにしても人手が必要であり、どうしても何人かは手元にいてもらわねばならなかった。

 中に入る人数が大分減る事になるが、それでも問題は無い。

 途中でゾンビに襲われた事にすれば良い。

 こんな状況であるから確かめようもない。

 そうやって中にはいっていく者達を遠目にながめ、ヒロシもやるべき事を始めていく。



 夜。

 誰もが寝静まってる頃に町の中に音が響き渡る。

 空き缶が地面に衝突して鳴る音がゾンビを呼び込んでいく。

 それは徐々にスーパーへと近づいていく。

 ゾンビはゆっくりとした動きで誘導され、おびただしい数の亡者が集っていく。



 それらを見た見張りがあわてて中に状況を伝えていく。

 そうして注目がゾンビの方に向けられていく中、ヒロシと少数の同行者は梯子を使って内部に侵入していく。

 そんな彼等を待っていた中に戻っていった者達が、入り口を開けて内部に案内していく。



「話は通したか?」

「ええ、ほとんどが納得してくれました」

「じゃあ問題は無いな」

「ただ、みんな体力が……」

「だよな」

 もとより懸念事項であった。

 それを見越してヒロシ達は出来るだけの食料をもってきていた。



「これをみんなに渡してくれ。

 少しでも体力をつけておいてもらわないと」

「助かります。

 俺達がもってきたものはほとんど取り上げられてたんで」

「……予想通りだけど、酷いな本当に」

 怒りを通り越して呆れるしかない。

 おかげで協力してくれる者達が続出してくれているが。



「まあ、そっちは頼む。

 俺らはこっちに行くから」

「はい、お願いします」

 そういって案内役のものは走っていく。

 ヒロシ達はそれとは別方向へと向かっていく。

 上層部達が籠もってる場所へと。



 途中で出くわした者達のほとんどは始末していった。

 皆、上層部側の人間であるから躊躇いはない。

 恨み辛みもあるし、相手側の人間を少しでも減らしておかねばならない。

 協力してくれる者が多いとはいえ、まだまだ数の差はある。



 それをこなしながらヒロシ達は、上層部連中が使ってる最上階の入り口に到着する。

 スーパーとはいえ4階建てのこの建物は、そこが事務室となっている。

 この中では比較的快適なのと、ゾンビの侵入を受けやすい地上から遠い事から、上層部が占拠している。

 彼等はそこに籠もってほとんど出てこない。

 今もおそらく、外からの襲撃の事を聞きながら、そこにいるはずだった。



 かつては腹が立ったものだが、今となっては好都合でもある。

 また、いつもなら何人かが警備してる扉の前にも誰もいない。

 全員で中に籠もってるのか、それともゾンビ撃退のために彼等も狩り出されたのか。

 理由は分からないが、今は誰もいないという状況が大事である。



「やるぞ」

 促してヒロシ達は、扉に工作をしていく。

 事務室に続く扉のドアノブに、持ってきた鉄パイプをあてて針金でくくりつけていく。

 単純だが、これだけで中から開けられなくなる。

 更に様々な物を持ち込んで、ドアの前に置いていく。

 商品陳列の棚を積み上げ、針金でまとめて固定し、出来るだけ動かないようにしていく。

 今までは中から出てこなかった事に腹を立ててたが、今はそこから出ないでいてもらいたかった。



「ま、こんなもんか」

 短時間で出来る事は限られてるが、こればかりはしょうがない。

「少しだけでいいから、保ってくれよ」

 そう言いながら下に戻っていく。

 ここにこれ以上いる理由は無い。



 下の階では、少しずつ人が外へと移動していった。

 寝起きをしていた一階部分の大半は空っぽになっている。

 動くのが難しくなっていた者達もいたが、久しぶりの食料でどうにか体が少しは動くようになっていた。

 そんな者達に元気が有る者達が肩を貸して外へと歩いていく。

 それを見てヒロシ達は、ゾンビと交戦してる場所へと向かっていく。

 途中、上層部に虐げられていた者達と合流して数を増やしながら。

 その者達と共に、ゾンビと戦ってる場所へと向かった。



 後ろからやってきた者達を見て、ゾンビを払いのけていた者達は少しだけ安心をした。

 ゾンビの数が多くて撃退が難しかったからだ。

 防壁になってる丸太や鉄パイプで補強したフェンスは、今はハゲしく揺れてかなり危なくなっている。

 そんなフェンスの上から長柄の斧を振って少しずつゾンビを倒してるが、効果はほとんどない。



 相手の数が多すぎた。

 このままでは押し切られる。

 人手が今は欲しかった。

 それがようやくやってきた。

 これでどうにかなると思った。

 だが、その期待はあっさりと裏切られた。

 やってきた増援は、彼の背後から組み付き、体を持ち上げる。



 何をするんだと思った瞬間にはフェンスの向こう側に落とされていた。

 当然そこにはゾンビが屯している。

 投げ込まれた男は、自分に目を向けるゾンビを見て、絶望というものを知った。

 その次には、飛びかかってきたゾンビが彼の体のいたる所に噛みついた。

 激痛が全身に走った。



 同じような事がそこかしこで起こっていく。

 上層部側の人間は残らずフェンスの向こう側に放り込まれていく。

 数好くな井戦力がこれで完全に壊滅した。

 それを見届けてからヒロシ達は撤退をしていく。



 ここで残ってゾンビを撃退する必要は無い。

 もうヒロシ達にとってここは何の価値もない場所になっていた。

 上層部や虐待を楽しんでる連中がいるから、というだけではない。

 食料を始めとした物資もあらかた使い尽くし、これ以上踏みとどまる必要性がなかった。

 そんな場所だから、ヒロシ達は躊躇う事無く捨てる事にした。



 気持ちを同じくする者達はもう外に逃げ出している。

 走ってくる車に順次乗り込んでゾンビから逃れてるはずだ。

 それらに続いてヒロシもこの場をあとにする。

 その途中、少しだけ目線を上げて四階部分を見上げる。

 そこにいるはずの連中は、今どんな顔をしてるのだろうと思いながら。



「ま、ここはあんたらの好きにしてくれ」

 そう言って外へと向かっていく。

 急がないとゾンビが周囲を固めてしまう。

 そうなったら逃げる事は出来ない。

 叩き割られたガラス戸の入り口をくぐり抜け、その反対側の外へと向かっていく。

 ゾンビが押し寄せてる方面のフェンスや門は既に崩壊してる。

 ここまで奴らが押し寄せるのも時間の問題だった。



「それで、全員脱出出来たのか?」

「みたいですね。

 残ってるのは上層部の連中と、それに荷担してたりおもねってた奴らだけみたいです」

 ギリギリのところで乗り込んだ車の助手席で、最終確認をしていく。

 一応、これで全員助けたはずだが、それが分かるのは異動先で落ち着いてからになるだろう。

 あわただしいこの状況では、漏れた者が出てきてもおかしくはない。

 それでも出来るだけ多くの者を救い出してると信じたかった。



「それじゃ、あらたな我らの家に」

「はい」

 エンジン音を鳴らしながらトラックが走っていく。

 荷台に乗ってる人達の事を考えて速度は抑え気味だが、それでもゾンビよりは早い。

 周囲に群がるそれらを横目に、ヒロシ達は安全な場所へと逃れていった。



 スーパーの四階に残った者達は、それを絶望的な表情で見つめていた。

 安全だと思われていた彼等の居城が、完全に孤立した密室となってしまった。

 入り口は何者かによって塞がれ、外に出ることもかなわない。

 仮に出たとしてもゾンビがあふれてるだろう。

 少なくとも一階部分にはもうゾンビが入ってきている。

 いずれそれらが上に昇ってくる。

「なんてこった……」

 誰かが悲痛な声をあげた。



 一応水や食料はまだある。

 ここにいる三十人ばかりがある程度生きていく事は出来る。

 それ程長くはないのも確かな事実であるが。

 普通に、今まで通りに消費すれば二週間。

 切り詰めればその二倍くらいはどうにかなるだろうか。

 だが、その先の展望はない。



「救助が、救助が来れば」

 頼みの綱はそれしかない。

 だが、それがいつ来るのかは分からない。

 明日か明後日か。

 来襲なのかその次の週なのか。

 あるいは一ヶ月先なのか。

 現在手に入る情報ではそれも分からなかった。



 ラジオからの放送では、各地で軍やゾンビを掃討してるというが、この近隣までは及んでないようだった。

 展開してる方面を考えても、彼等のいる場所には遠い。

 いずれはやってくるにしても、まだまだずっと先になるだろう。

 それまで彼等の命が保つ保障はどこにもなかった。



 ただ一つ可能性があるとすれば、入り口をどうにかこじ開けて、ゾンビを切り抜けて脱出する事だ。

 しかし、それはかなり難しいだろう。

 まだかろうじて生き残ってる灯りに照らされたうごめく影は、数える事が出来ないほど多い。

 100や200ではきかないだろう。

 そんなゾンビの群れの中を突破していく事など出来るわけがなかった。

「……終わりだ」

 ささやかな栄華を楽しんだ彼等の今を、誰かが正確に言葉にした。



 スーパーが壊滅へと向かってる頃。

 ヒロシはトラックの助手席に座りながら先の事を考える。

 これからどうなるのかは全く分からない。

 今のところは生きているが、この先も生き続けられるかどうか。

 問題はいまも山積みで完全に解決してるものなどほとんどない。



 それでもその中の一つは解消された。

 不当な扱いをしてくる上層部という存在が。

 これで今までのような問題は起こらなくなった。

 ヒロシ達が無理矢理背負わされた重石が消えた。

 それだけでも大きな前進だと思いたかった。



(……あとの事は、あとで考えよう)

 まともに考えると頭が痛くなる現実から逃げ出し、つとめて楽天的に今後をとらえる事にする。

 でないと悲惨な現実に負けてしまいそうだった。

 いずれは救助もやってくるだろう。

 ゾンビが駆逐される事になるやもしれない。

 終わりは確実にやってくる。

 それまで生き残れば良いだけだと。

 何時やってくるのか分からないという部分をあえて忘れ、ヒロシはそう思い込んでいった。

 どうにかなる、と。

 色々雑だなとは思うが、とりあえずやるだけやってみようと思ってやってみた。

 機会があれば書き直してみたいとも思うけど、それも難しいだろうなと思う。

 ただ、入れられなかったものはあるので、そこは修正というか追加したいもの。




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