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イカロスと翼の人  作者: 鶴岡
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昼飯の味

※グロ注意

 人間の国への潜入任務についての命令書が届いたのは、翌日の午前の事だった。


 大隊長室のバルコニーに舞い降りた東方方面軍司令部付の伝令准尉から昨日の戦闘詳報と引き換えで命令書を受け取ると、准尉から怪訝な顔をされた。


「中佐殿、この戦闘詳報ですが……昨日の戦闘のもので間違いないでしょうか?」


 ああ、またか。


「ああ、昨日1892年4月2日に生起した戦闘の詳報に間違いないよ。私は少しばかり筆が早くてね」


「それは大変失礼しました!」


「気にするな准尉、初めて私から書類を頼まれる伝令は大抵そうなる。奇特な奴とでも思ってくれ」


 そもそも、戦闘から帰還した者は将兵の例外なく己らの欲望を発散しているのが天上軍の一般なのだから、翌日に戦闘詳報が出来ているのが可笑しいのだ。


「そんなまさか。では中佐、確かに1892年4月2日の戦闘詳報、預かりました」


「よろしく頼むよ」




 さて、命令書に目を通してみれば、昨日にアータム中将から話のあった飛行機械とやら、天上軍情報部がイカロスと名付けたその新兵器についての大まかな情報が記されており、そして私に与えられた任務はイカロスの詳細なる調査との事だ。


 さらに人間の国で活動する為の現地通貨と、人間の国で一般にも販売されているという護身用拳銃が同封されていた。

 およそ11mm口径の中折式四銃身拳銃とはまあ中々過激な護身用ではあるが、リボルバーよりも信頼が置けるという点で護身用には最適と言えるかもしれない。


 イカロスが確認されたのは人間の国、正確には“大陸連邦”の構成国が一つ、ガナ=ハルト民国の首都プレスブルクの近郊にあるホーテルバウ記念第三オートバイ工場。

 その工場から程近い丘から超望遠カメラで撮影したという写真も添付されていた。


 超望遠に加えて露光時間も長く取って撮影したフィルムを、さらに引き伸ばして現像したのだろうか?

 正直言ってボケが酷く大まかな姿形を把握するのがやっとである。


 現地潜入工作員からの情報によれば、三輪自動車に翼をやたら無闇に取り付けたような奇怪極まる機械だが、確かに“飛んだ”らしい。

 機械に後ろ向きに取り付けられたエンジン式大型扇風機の反作用によって推進力と浮力を得ているのではないか、というのが天上軍兵器開発総局の所見らしいが、扇風機は空を飛ばないだろう。


 そもそもこのイカロスは本当に飛んだのか?


 しかし、イカロスの目撃と前後してホーテルバウ記念第三オートバイ工場周辺の警備が厳重になったのは事実らしく、大陸連邦の中では精強な軍事力を誇るヴァルキヤ軍国の部隊までもが出張っているようだ。




 まあ、天上軍を脱走しなくても良いかなと思える程度には面白そうな任務である。


 とりあえず、任務を全うするにせよ脱走するにせよ、支給された護身用拳銃のメンテナンスくらいはやっておいた方が良いだろう。


 気の利いた事にメンテナンス・ツールやマニュアルの揃った一式での支給なのだ。恐らく地上人の銃砲店から収奪したシロモノだろうが、都合が良い。




 護身用拳銃、ランチェスターという名らしい.476口径の中折式四銃身拳銃のメンテナンスを一通り終えると、時間はもう昼を少し過ぎた頃だった。


 昼飯、食いに行くか。


 正直言って、(副官室)から時折聞こえる少年の悲鳴で食欲の減退する事極まりないのであるが、もう半ば慣れてしまっている。もう半分は諦めなのであるが。


 しかし、私の大陸連邦への潜入任務は、大隊長である私が大隊から一時的に抜けての単独任務であり、その辺り副官であるジグリ中尉と調整が必要なのだが……。


 朝っぱらから肉欲に耽る中尉の邪魔は、やり辛い。


 いや、しかし、大隊について話すついで、彼女の健康を思いやって食事に誘うのも良いだろう。


「ジグリ中尉、入るぞ」


 副官室のドアをノックして数拍置き、ドアを開けてみると……生臭い鉄の臭いがした。


「……ジグリ中尉、何をしている?」


 そこでようやくジグリ中尉は私に気付いたらしい。


「中佐?!し、気付かずに失礼しました!」


「いや、それは良い。しかし何をしている?」


 右手に持った血塗れたナイフは何だ?


 口元を濡らしている血はなんだ?


 今お前が跨り嬲っている少年の右腕は、なぜ骨が見えるほど肉が断ち切られている?


「何と言いますと、食事であります。彼のお肉、美味しいですよ。ほら、彼も美味しいって言ってますよ」


 とても、とてもじゃないが、口から自らの肉を零している彼がそう言っているようには見えなかった。

 彼はもう廃人となれている事を願う他無いだろう。


「そうか、しかし生肉は食中毒の恐れがある。ましてや地上人のだ。軍人が食べて良いものではないだろう」


 我ながら、自らが口から搾り出した言葉の意味もよく分からない。


 だがジグリ中尉はそれを聞いて顔をパッと明るくする。


「それはそうでした!早速焼いてみることとします!どうですか、中佐もご一緒に!」


「い、いや、遠慮しておくよ。昨日ちょっと飲みすぎてね。肉を食べたい気分じゃないんだ」


 それどころか、もう半年は肉を食う気持ちになれないだろう。


「それは、……残念です」


「まあ、それは置いといて、後で大隊について話がある。1700時に大隊要員を大隊長室に集合させてくれ」


「はッ!了解しました!」




 やはり、私は天上軍を抜けるべきだろうか。


 私まで恐ろしい何かに堕ちてしまいそうで、それがとてつもなく恐ろしい。

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