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イカロスと翼の人  作者: 鶴岡
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天上軍というもの

「アルナルド・ドラグンスキ中佐、貴君の活躍は真に素晴らしい。君のお陰でまたしてもイダ少将に勝利出来た。これからのむしけら(地上人)狩りも期待しているよ」


「ハッ!光栄であります!アータム中将殿!」


 何が活躍だ。何が勝利だ。

 地上人の首数で、それも敵兵だけにとどまらず民間人までも含めた生首の数で味方同士競い合うなど、戦争を何だと思っているのだ。


 いや、それに加担する私も同罪か。

 幼子の首をも刈り取ってまで稼いだ金で飲む酒はさぞかし旨いに違い無い。


「……と言ったそばからすまんが、いいかね?」


「は、何でありましょう?」


「一つ、むしけら共の新兵器とやらを暴くべく潜入工作をやってくれるかね?飛行機械とかいうシロモノで、コードネームは“イカロス”というんだが―――」




 出たばかりの東方方面軍司令部の建物を振り返り、高々と翻る晴天翼日の旗を見上げてみる。

 真っ青なスカイブルーと、一対の翼を背にする太陽の旗。それが、翼人の国の旗である。


 この旗を考えた奴はどうやら、自らが太陽よりも高くを飛べると思っていたらしい―――まったく滑稽な事だ。


 しかし案外、冒険への入り口は向こうから転がり込んでくるものらしい。


 クソッタレの天上軍からおさらばする機会をこうも簡単に得られるとは思ってもいなかった。


 思わず笑いがこみ上げてしまう。




「ど、ドラグンスキ中佐!……よろしいでしょうか?」


 おやいけない、企みが副官にバレる所だった。


「ジグリ中尉、待たせたかな」


「いえ、また空を眺めていたので。中佐は一度空を眺め始めると、何時までも眺めてますからね」


「それは失礼したな。では戻ろうか」


「はい中佐」


 セナ・ジグリ中尉。

 三ツ字氏(上流階級)の彼女が私の副官に納まっているのは、彼女がまだ若輩者で、私の先祖が一つ大きな功を挙げたからに他ならない。

 そんな上へのコネを数多持つ彼女に脱走の意図を察知されてしまっては、私の存在など泡沫の如く消し去られてしまう。


 彼女自身もその右目を地上人に奪われて以来、地上人への憎悪は溢れんばかり。

 その地上人へ与するような行為が発覚すれば彼女自身によって抹殺される事さえ容易に考えられる。


 ……まあ、彼女が右目を失ったのは彼女の業に由来する所が大きいのであるが、その業は天上軍全体の業でもある。


 私が預かっている第4021大隊の隊舎に近付くにつれて聞こえて来るのは若い女性の悲鳴ばかり。いや、他の大隊の隊舎からも聞こえてはいたのだ。


 ()()()が叫ぶ悲鳴など、開戦以前からすら毎日のように聞こえている。


 地上軍兵士の生首と共に攫って来た婦女への凌辱行為が止む事はおそらく無いだろう。


 なにせ、我々翼人同士で性行為を楽しむというのは不可能に近いからだ。

 どうやった所でどちらかが、背中にある翼の付け根が擦れる事による痛みに耐えられなくなるのだから当然の帰結だろう。


 そうであるから、翼を持たない地上人の身体は凌辱するのに便利過ぎた。




 そしてセナ・ジグリ中尉でさえその例外では無い。

 彼女でさえ捕らえた地上人の少年を凌辱している。その右目を奪われた時もだ。


 彼女が新任少尉として東方方面軍に配属されたばかりの頃、襲撃した地上人の村で捕らえた少年を、その少年の両親と兄姉の亡骸の傍で凌辱していた時の事だったという。

 少年が隠し持っていた拳銃によってジグリ少尉は撃たれて右目を失い、そして少年はその拳銃で自らの頭を撃ち抜き自殺した。


 さぞ、してやったという良い顔をして死んだのだろう。

 それ以来、ジグリ中尉の地上人の少年への凌辱が偏執的なまでに極まっているのは有名な話だ。


 ついぞこの間は2人の少年を捕らえて、1人を犯しながらに首を絞めて殺すのをもう一人の少年に見せ付け、そして残った1人を散々に犯したとか。


 彼は彼女の手が首に掛かる度に良い声で鳴いてくれたようだ。


 彼女の副官室と私の大隊長室を隔てる壁がさほど分厚くないという事にさえ、その時の彼女には配慮が無い。




 決して安くない酒を不味い顔をして飲みながら、その日の戦闘詳報を纏めるのが私の毎日だ。




 どうやら常識的な嗜虐的性癖を持ち合わせていないらしい私は、天上軍では異端なようだ。




 私は、この天上軍が好きではない。

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