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可音と未音は双子の姉妹で、納音より二つ上の姉たちになる。高校三年生の今は受験戦争の真っただ中のはずなのだ。
しかし、こんな遅い時間になっているにもかかわらず、勉強をする気配は全くない。納音の背後で納音の長い髪を乾かした後、丁寧に三つ編みをしている未音と、納音の前でせっせと料理を並べている可音に、姉妹ながら納音は首を傾げざるをえない。
納音の家は、静かな住宅街の一角にある。
建売住宅ではなく、建築家の父が自由に立てた家で周りの建物よりも若干大きい。
小さい頃はなにかと友人たちに嫌味を言われて落ち込んだが、蓋を開けて見れば海外を飛び回っている両親に置いてきぼりにされている姉妹三人が、支え合って暮らしているささやかな家なのだ。
年に数回は帰ってくるが、あまり両親に構われた記憶はない。
そんな納音を構うのは、この可愛らしい双子の姉たちなのだ。
納音はちまちまと動いている二人を見て、やっぱり可愛いなあと思う。
自分とは雲泥の差だ。きっと母のDNAはこの二人で売り切れになってしまったに違いない。
ふわふわのくせっ毛を背中まで伸ばした未音は、蜂蜜のようなふっくら肌と小さなピンクの唇で、いつ何時納音の頬にチュウを仕掛けてくるか判らない、あなどれないスナイパーなのだ。
ふわふわの髪が嫌で短くしているにもかかわらず、その癖のあるショートが愛らしさを増している可音は、未音と違って活動的だ。これまた納音にとっては後ろから抱きしめてくるタイミングが分からない、天然のハンターなのである。
「美味しくない?」
自分の思考に沈んでいた納音は、目の前に並んだ料理を見てムウと口をとがらす。
「まだ食べてないでしょ!?」
「うふ。早く食べて。そしてその頬がぷくぷくのリスさんになる所を見せて?」
今の「て?」の所で、二人して同時に首を傾げる所なんか、最高に可愛い。
ああ、今すぐ写メを取りたいぐらいだったよ!
納音は高ぶる自分の妄想魂に蓋をして、大人しく食べ始める事にした。
二人とも揃っているなら、食べている最中に十回は指で頬をつつかれるなあと、納音が想像した直後に最初の一撃が来て、やはりと納音は肩を落とす。
口動かしてる時に指でつつかれると、正直食べにくいんだけど。
それから自分の左右に移動して来ている二人を交互にチラ見してから、心の中で溜め息を吐く。
毎度のことで慣れているせいもあるが、あのキラキラした目の輝きを見ると、絶対に邪険には出来ない。
自分もシスコンであるという自覚は、もうずっと前から持っている納音だった。