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お、男の人に抱き上げられているう!?
恐怖心よりも羞恥心が勝った納音は、祝の腕の中で身体を固くする。
「…怖い思いをさせてすまなかったな」
祝がそんな台詞をぼそりというものだから、納音は全力で首を横に降った。
驚いた祝が落とさないように腕に力を込めた事には気付かない。
「あの、祝くん」
「ん?」
見降ろしてくる祝の顔が近すぎて、納音は見あげていた顔を高速で俯かせる。
「さっきの、なに?」
それに返事はない。
ゆっくりと歩いている祝が足を止める。
納音が気付くと、最初に影が揺らいだように見えた電灯の少し手前だ。
何だか嫌な臭いがして、納音は電信柱の下の方を見ようとする。
「見るな、初川」
「え?」
「目を閉じろ。良いと言うまでは開けるな」
その言葉で、納音は今ちらりと見えたものの正体を追及する事をやめる。
何かが置いてある。
肌色と赤い色と黒い色と。ぴくりとも動かない何か。
ギュッと目を閉じて、納音は祝にしがみつく。
納音を抱えたまま、祝はその横を足早に通り過ぎた。
臭いが薄らぎ、嫌な気配も消え去った気がする。
「…目を開けても良いぞ」
祝がそう言うだろうと思っていた納音は、ゆっくりと目を開ける。
周りは何時もの住宅街。塾の帰りに見てきた風景は昨日となんら変わらない。
「あれは、なに?」
納音が祝に同じ質問をする。
小さく溜め息を吐かれて、納音は首を竦める。
「…忘れろ。初川には縁のない世界だ」
「そう、なの?」
「そうだ」
腑に落ちないが、説明する気がない祝から、それ以上の言葉は聞けそうもなかった。
「あ、納音だ」
「あ、納音だ」
見えない頭の方向から、聞きなれた声がユニゾンで響く。
ぱたぱたと足音が近づいて来て、見慣れた顔が二つ納音を覗き込んだ。
「可音、未音」
納音が安心したように小さく呟く。
「私の妹を降ろして」
「ボクの妹を降ろして」
祝はそう言われて納音をチラッと見た後に、腕から解放する。
抱きかかえられていた間に、震えも抜けていた腰も収まっていた。
しっかりと自分の足で立った納音は、祝に礼を言おうとするが、待ち構えていた双子にダブルでガシッと抱き締められた。
「う、苦しい」
「帰ってこないから心配したよ?」
「ずっと家の前で待っていたよ?」
「うん、ごめんね、有難う」
別の言葉を言われても、さすがに長年の付き合いで、それぞれを理解できる納音は、二人に別個にお礼を言う。
そして気付けば、祝はとっくにその場からいなくなっていた。
「あ、あれ?」
まだお礼も言ってないのに。
納音がきょろきょろしていると、双子はぼそぼそとしゃべりだす。
「納音が男に姫抱っこされて来たよ」
「初めて見たなあ」
「うん。じゃあ今日が納音の」
「姫抱っこ記念日?」
双子の呟きに納音が真っ赤になって怒鳴る。
「そ、そんな記念日いらないからねっっ!?」
ぎゃあぎゃあ言っている納音の肩を両脇から抱え込んだ姉妹は、納音を真ん中に挟んだまま仲良く家の中へ入っていく。
離れた場所からその姿を見ていた祝は、やれやれと頭を振った。