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その時、納音の肩を祝がグッと掴んだ。
「初川」
「へえっ!?」
いきなり肩を掴まれて変な声をあげる納音の口を、祝が手でふさぐ。
「静かに」
何だか変な事でもされるのかと瞬間的に思ったが、祝の声が静かな事とその目線が電信柱の方を向いている事で、納音は暴れそうな手足をグッと押さえてみた。
そのまま納音は道端にある住宅の塀まで押されていく。
祝の眼はずっと先の電信柱の方を見たままだ。
納音はそちらをそっと見る。さっき何度か見直した影の方を。
電信柱の影の所で、やはり何かが動いている。
男の人だろうか。変質者だろうか。
…人だろうか。
やけに大きい気がする。電信柱の影から出て来ないそれは、でも人の体格よりは大きい気がした。
ニュースで見た事がある、熊ぐらい。
納音の口から手を離すと、祝はじっと正面からその影を見つめた。
「…迂回する?祝くん」
「いや。待ってくれ。…すぐに終わる」
え?なにが?
納音を置いて、祝が歩いていく。
塀の影は暗く、後ろを見てもコンビニの明かりは遠く小さい。
ここに居ろと言われても、全く持って心細い。
納音は知らず知らずに祝の後ろを歩いている。
電灯のある電信柱の一本前で、祝がピタリと足を止めた。
それから振り返り、納音を見る。
「…待っていろと言わなかったか?」
「だって、怖いんだもん」
納音が言うと、祝は仕方ないと肩を竦める。
もう一度電信柱の方を見て眉を顰めたが、納音の方に歩いてくる。
「迂回しようか、初川」
「あ、うん」
納音がほっとした顔をすると、祝も結んでいた口元を緩めた。