3
仕方なく納音は、彼の傍に近寄る。
「…なんで人の事じっと見ているんだ」
「あうう」
後ろから見ていた事に気付かれて、納音は更にわたわたと動く。
その動きを斜め上からじっと見ていた祝が、小さく笑った。
「え?いま、笑った?」
「…笑ってない」
「え?うそ、笑ったよね?」
「笑ってない」
ああ、ツンデレってこんなものだよねえ、と納得しつつも、初めて見た笑い顔を心のアルバムに収める納音だった。
そんな納音の気持ちを知らない祝は、コンビニの壁にかかっている時計をちらりと見上げる。
「もう、遅い」
「え?あっ。本当だ、半になっちゃった」
納音が慌ててレジへ向かい、会計をすますと、ほぼ同時にコンビニのドアに向かった祝が納音の横に並ぶ。
「ん?」
「…送っていく。遅い時間だから」
ええっ!?
ビックリした納音がビョンと跳ねると、また祝がふっと笑った。
その顔を見ながら、やっぱり美形だなあと納音はしみじみ思う。
私は本当にラッキーだ。そして君たちは本当にラッキーちゃんだ。
こんな美形が天火くんと戯れているなんて。
「…何を考えている?」
「ううん。なんにも」
ニヤニヤしている納音を見て、祝は小さく溜め息を吐く。
それを見て納音はぎくりとする。
まさかこの心のBL魂、ばれていませんよね?
祝が心配するほどに、夜は更けていた。
コンビニを過ぎると住宅街で、明かりはぽつりぽつりとしか灯っておらず、納音は何時も懐中電灯で足元を照らしながら早足で帰っている。
隣を歩く祝を見上げながら、納音は久々に普通の速度で歩いていた。
二つ先の電柱まで明かりがないが、隣に人がいるのは安心感がある。
ふと。
電灯のある電信柱の影が動いた気がした。
納音は立ち止まり、いったん丸い眼鏡をはずす。それから目をぐりぐりと擦った。
「…どうした?」
隣から掛かる声が、少し冷たい。
「ううん。何でもない」
「……そうか」
眼鏡をかけなおして納音はもう一度、電信柱の影を見つめる。
きっかり3秒見つめてから、歩き出す。
納音と一緒に立ち止まっていた祝も、また歩き出した。
「ごめんね、祝くん」
「…いや」
納音は自分が何に対して謝ったのか言わなかったのに、その名詞をくみ取って答えた祝を不思議そうに見上げる。
見下ろしてきた祝の顔を正面から初めてしみじみと眺めながら、納音はやっぱり美形だとグッと心の中で拳を握った。
サラサラの銀髪。白い肌。少し釣り目の二重の中に納まっているのは、幾重もの光を集めて作られたのではないかと思う琥珀色の瞳。
その双眸が自分を見降ろしている。
はっと納音の頬が赤くなる。
このシチュエーションは何事!?どうして天火くんがいないの!?
何で見つめられているのが私なの!?違くない!?