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それは一昨日の夜の事。
納音はいつもの帰り道で、コンビニに寄っていた。
時間は21時過ぎ。
塾の帰りだからとはいえ、コンビニであまり時間を潰してもいけない。
納音はペットボトルの紅茶とグミを持って、さっさとレジへ並ぼうと思った時に、本のコーナーに見慣れた後姿を見た。
見慣れたと言っても、別段仲の良いクラスメートではない。
むしろ横の席なのに、口を利いた事があるのは2,3回程度。
しかし、納音は結構注目していた。
というか、むしろ積極的に毎日観察していた。
何せこの隣の席の男子、結構な美形であるからだ。入学当初はクラスの女子が華やかに隣に詰めかけて来ていたりもした。
けれどその人数は、日が経つにつれ徐々に少なくなっていった。
この人物、とことん不愛想なのだ。
隣に居るというアドバンテージがある納音ですら、教科書を借りた時と、日直の時しか話したことが無い。
愛想が悪いのは、他のクラスからこれまた美形の天火くんが来ている時にもいかんなく発揮されている。
隣だからこそ観察が出来ているが、別の席から眺めていたらきっと睨まれていたに違いない。
美形男子が二人でお弁当を食べているところなど、納音にとってはそれこそ「ご馳走様」な訳で、毎日の心の栄養にさせて貰っている訳だが。
それにしたって、友人であるだろう天火くんにも不愛想なこの人物を、ただのツンデレ認定にしておけない納音は、勝手に「超俺様ツンデレ」と心の中で呼んでいる。
で、だ。
納音は塾の帰りにはいつも、このコンビニに寄っている。
しかし今まで一度も彼に遭遇した事はなかった。
という事は、なにかしらイベントの匂いがする。そう思ってもいいはずだ。
納音がペットボトルとグミを握りしめたまま、じっと後姿を見ていると、不意に振り向かれた。それもこっちをバッチリと見て。
急な展開について行けず、わたわたと慌てだした納音に、あろうことか手招きをするではないか。
納音はきょろきょろと辺りを見渡すが、他に人はいない。
ゆっくり自分を指さすと、うんと肯かれた。