1
良く晴れた薄水色の空の下。
少女が息を切らせながら、下り坂の通学路を焦ったように走っていた。
「ち、遅刻するう」
細い息遣いの合間に、そんな言葉が漏れる。
校門が見えてきたが、急いですり抜け、上履きに履き替えて二階への階段を駆け上がる。ガラッと教室のドアを開けて、はあっと大きな溜め息を吐いた。
「ま、間に合った…」
少女がフラフラと自分の席に座ると、教室の後ろの方からダダッと掛けてくる足音がした。そして。
「納音!?心配したんだよ!?」
ぎゅううっと首のあたりをしめられる。いや多分、本人は抱き付いているだけなのだろうが。
「ち、ち、千鳥、苦しい」
巻き付いている腕をポンポン叩くが、納音の首をぎゅうぎゅう絞めている千鳥の腕の力が弱まるはずもない。
走ってきて呼吸が乱れているうえに、親友に首を絞められては、たまったものではない。納音は意識がうっすらと何処かに往きそうになっていた。
「ああ!?ごめんね納音!?」
顔色が白くなって来た納音を見て、千鳥が慌てて手を離す。
「う、うん。…ちょっとだけお花畑が見えたよ」
「ごめんごめん。あんまり遅いから、心配になってさあ」
「…うん。寝坊しちゃって」
「納音が寝坊なんて、珍しいね?」
「ちょっとねえ」
それだけ言うと、納音は隣の席の人物をちらりと見る。
これだけ騒いでいても、隣の席の男子は我関せずで本を読んでいる。
相変わらず綺麗な横顔だと、数秒見てから目線を戻すと、千鳥の不審そうな視線とばっちり目が合った。
「な、なに?」
極めて努めて、平静な声を出したつもりだが。
「…祝と何か有ったの?」
「ううん。別に。…相変わらずネタになりそうだなって」
「まあね。美形だものねえ、顔だけは」
自分の真横の席で、女子二人が極めて不適切な会話をしているのにもかかわらず、祝と呼ばれた男子は本を読み続けている。
その時、担任がガラリと教室の前のドアを開けて入って来る。
千鳥が慌てて自分の席に戻った後に、納音は隣の席からやれやれというような溜め息を聞いた。