四話 「砂の中の非番」
「砂塵壁の反応。距離500。サンドフォースかと」
砂塵壁は、砂漠化が広がったこの世界では、密集して砂塵が飛んでくる。壁のように見えるため「砂塵壁」と呼ばれている。
「来たか。全行動を停止。電子機器はすべて切れ。全員部屋に移動開始」
サンドフォースは、プラズマ化した砂嵐が飛んでくるため、電子機器などはすべて切っておかないといけない。その間、艦の航行も出来ない、さらには細かい隙間に入ってくる砂の影響を受けないために全員部屋に隠れないといけない。
この世界の人々にとって一番暇な時間である。
「艦長はどうなさいます?」
ランが艦長に尋ねた。
「副長も私の部屋に来なさい。二時間もあれば通り過ぎるだろう」
「了解しました」
サンドフォースの中は、この世界で一番安全なところと言ってもいいだろう。敵も居らず、放射線も受けない。しかし同時に大量の砂が体を襲うため、世界で一番危険なところでもある。
そんな矛盾な砂塵の中で数時間耐えなければならない。
「じゃあ私たちも行こうか」
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「まったくつまらん!なにかほかに面白い遊びはないのかぁ?」
ガウェインがほざいている。
あれから一時間、さすがにトランプだけじゃ飽きてきた。
「本も読んじゃったしね」
だだっ広い艦の中には図書館もあった。そこで本を数冊拝借してきたが読んでしまったようだ。
「これだから北米は・・・」
「北米だけなんですか?」
「ああ、昔っから北アメリカじゃハリケーンが多くてな。その名残だとな」
ハリケーン、つまり台風。海上で発生した熱帯低気圧が大陸までやってくる現象だ。
砂漠化が進んだと同時に南極の氷も溶けたため、海面が上昇した。島国は沈み、港に隣接していた都市の大部分は水没した。
「そうなんですね。僕最近まで外に出てなかったからよく分からなくて・・・」
「ミクリは本当に地下に住んでたの?」
不思議に聞く、が
「それはまた今度で」
話をつまんだ。話したくないことだった。
「にしてもここに居座ったってなんにもないしなぁ。しかし動くわけにもいかず」
暇な時間も寝ていればすぐ終わるが、プラズマの影響なのか、脳が張っていて眠れやしない。夜じゃなくて本当によかったと思うミクリ。
そんな時間も途端に終わった。
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「艦長。どうやら過ぎ去ったようです」
感が鋭いのか、ガウェインのようにそのような神経があるのか。砂塵の存在が分かるようだ。
「うむ。お前が言うなら確かだな。行こうか」
「はい」
砂が入らないようにするために窓も閉鎖している。どちらにせよ窓に傷がつくので締めきっているが。
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「全艦始動。周りをモニターに出してくれ」
起動音とともに機械が動き出す。それぞれの指定位置でクルーも動き出す。
モニターには、サンドフォースが過ぎ去ったあとの砂漠が映った。先ほどまでいた場所とは風景が異なっているが、これは砂が舞い上がったせいだ。おかげで艦の後の方が砂に埋まっている。
「ファウを使って砂を払え。どうせドックに入るんだから多少壊していかないとな。ハッハッハ」
ファウというのは後部甲板に設置されたカタパルトの事だ。それを展開した要領で砂を払うのだろう。
「いいんですか~?あれ直すの結構重労働ですよ~」
軽い口調で聞いてきたのは、ブリッジクルーの一人「キャサリン・メズシタン」
豊満なボディに薄着という、なんともセクシーな女性だが、これでも艦の砲術長だ。人は見かけに寄らないと言うがまったくその通りである。
「まっ、知ったこっちゃないな。進路をキャリーベースへ。再出発だ」
静止したままだった艦体が浮き上がり、砂煙を大量にまき散らして浮遊する。
大型のスラスターが大きく息を吐き、大速で飛び出した。太陽は少し傾きかけていた頃だった。