三話後 「主君の艦長」
「とんでもなく広いですね・・・」
さすがに廊下の長さには驚いた。長いのもそうだが、一定間隔で部屋があるのだ。こんなに部屋は要らないだろうと思うミクリ。
「一応援助したり、機体を修理したりとかで収容するにはこんくらいいるんだとさ。まあせいぜい避難民で溢れ返ることよ。世の中狭いねぇ」
まるで世界を知っているかのような口ぶりだが、実際はそうなのだから否定はできない。
「ところでどこに向かってるんです?」
「ああ?ブリッジに上がって、艦長の顔拝まないといけないだろぉ?バチが当たるぜ」
そんなもんなのか、とミクリは思う。しかし艦長と聞くと厳ついイメージがあるが。
「着いたぜ。お船の御顔に塩水ぶっかけねぇとな」
笑いながら言っていたら、ガウェインの前の扉が開いた。
扉の中から中年の男の顔が出てきてガウェインが焦った。
「うわぁッ!!」
ガウェインの顔の真近くに顔を据えて男がしゃべった。
「ほう、そうまで私を侮辱するならすればいいさ。その場合、貴様はこの艦の全門砲火で派手に汚く散っていくがな。フハハハハハハ!!」
すごい笑みを浮かべて爆笑する男。
「性格悪いぜ艦長さんよぉ」
「その声、ずっと聞こえておるぞ。ハッハッハ」
不思議な顔をしているミクリを見て、男は帽子を外してこちらに顔を向けた。
「おっと、そちらは新人君かな?」
「は、はい。ミクリ・マッケンジーです」
さっきのやり取りを見ていたら、すこし気が引ける。
「私はこの船の艦長。オルガス・バルトークだ。よろしく」
「はい・・・って。バルトーク?」
その名前を聞いて疑問が湧いた。それもそうだろう。
「ああ。ガウの奴は私のせがれだよ。まったく出来の悪い息子だよ」
どうやらガウェインのことを親はガウと呼ぶらしい。しかしここまで息子を馬鹿にできるとは。ガウェインもだいぶ何かやらかしたらしい。
「茶番は置いといて。この艦はどこに向かってるんだ?」
「今はキャリーベース方面に向かってる。この艦も点検を受けないといけなくてな」
第一線を支える重要な艦であるため、いつ何時何があっても大丈夫なように備えるのだろう。
「って言うことは、北米社を叩くのか。俺たちも行くんだろ?」
キャリーベースとは、カリフォルニアにある前線基地だ。先の戦争で壊滅状態ではあったが復旧の目処が立ったらしい
「北米には何があるんですか?」
素朴な疑問を言ったミクリに艦長が目を向けて
「君は例の機体のパイロットだろう?」
「はい、そうですけど・・・」
「期待しているよ」
そう言うとブリッジに戻っていった艦長。依然として疑問が残るが、どちらにせよ後には分かることだ。
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「本艦はこれより、北米奪還作戦を遂行するため、キャリーベースへ移動する。両舷微速。上昇!」
白い巨体が浮き上がり、砂煙が舞う。
艦橋が移動し、前方を見渡すように格納された。
「スフィル安定。高度をこのまま維持。目的地までの時間は、サンドフォースを考えると約六時間です」
サンドフォースとは、エネルギー兵器の影響で、特殊な磁場が形成され、プラズマ化した素粒子がレーダーや精密機器を使用不能にさせる現象である。発生場所は特定できず、機械の電源をすべて落としてやり過ごさなければならない。
「普通なら三時間もあれば着くのだがな。嫌な世界だ」
こんなさびれた世界になったのも、人間が所為なのか。昔から温暖化が進んでいると言われた時代は、まだ改善の余地があった。が、それを顧みず、人道にひた走った結果がこの惨状である。
化石資源の枯渇。工場の増設。大気汚染。酸性雨による森林の減少。新型ウィルスの拡散。動植物の大量絶滅。生物兵器による異形児。南極の氷の減少。砂漠化の拡大。資源の奪い合いによる内戦。
対話どころかこれでは人間種の絶滅もありうる。
「艦長はどう思われますか」
「急にどうした」
語りかけてきたのは副長の「ラン・ミハエル」だ。まじめな女性で、いつもメガネをかけている。
「本当に北米に進行していいのかと」
どういうことかは分からない。しかし艦長には分かったようだ。
「それは行ってみないと分からないだろ」
すでに日は真上に昇っており、焼かれたオゾン層から太陽光と宇宙からの物質が降り注いでいた。