二十話 「戦神の居所」
青くごつい機体がぞろぞろと滑走しながらやってくる。
プロキオンの群隊が本部に帰還するためにやってきているのだが、かなり無防備に動いている。規則的な動作は無く、ただ真っすぐ走っているといった方が良いだろう。
その訳は、北米も同じようにサンドフォースの影響を受けており、本体は上陸しないものの、風で残りカスが飛んでくるのだ。それらが蓄積した結果、北米の戦闘区域はほとんどの電波機器に影響を及ぼしている。その結果レーダーも特殊な物を使わなければならなく、唯一それを開発したのがシャイン社だけだったのである。
「四小隊確認。収容します」
地面にめり込んだような岩肌をまとった基地があった。
北米西区基地「ランミルトン」
封印条約で長らくの間閉鎖されてきた要塞基地である。
「F型への換装を数機分用意しておけ。砲撃戦になりそうだ」
ランミルトン司令部司令官レビィ・フランクリン中佐。
封印条約解放と同時にランミルトン基地に配属された男で、かれこれ8年間司令官を務めている。そして彼にとってこの防衛作戦は人生を変えるであろう戦いなのだ。
彼の命令で、帰還したプロキオンの装備を換装しろと伝えた。
F装備は主にミサイルやビーム砲を装備したものである。つまり敵の襲来を待ち、この場で砲撃戦をするのだ。戦い方としては不利だが、すでに手負いの艦隊を落とさなくても、すこしかずを減らせれば良いのだ。
「敵反応急速に近づく。数四」
「たった四機だと?馬鹿にしているのか奴らは」
苦笑し、敵を見て指示を送った。
だが彼らはその四機の強さを知らないから笑っていられるのだった。
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一番先頭を飛んでいるのはアニー専用のピンク色をしたガルシオンだ。通称ガルシオンACと本人は呼んでいる。
後ろにアンクのデビルカイザー、ガウェインのフェルガー、ミクリのアーノルド、と並列して滑空している。
そして一番後ろ。長射程狙撃銃を装備したレイのリッツ・ショウダーが敵のレーダー圏外から狙っている。
「目標まデの距離、残リ1200。敵からノ攻撃ハ今んトころナいミたいヨ」
「よし、アイビーはちゃんと教えてね!」
「オ、オウ」
最初のように通知が遅いと命を落としかねない。なので釘を打っておいた。
「っしゃあ!じゃあ本気で行きますか!!」
顔から押さえられないほどの笑みがこぼれる。
「今本気出して大丈夫?萎れないでよ」
「問題ねぇ。あんなデカブツを沈めれるんだぜ?体が震えちまうよ」
緊張で震える者は戦場で数多くいるが、楽しくて震える者はなかなかいない。
大鎌を構え直し、ガルシオンを追い抜いて飛翔する。
「あっちょっと!出すぎよ!」
しかし忠告を無視し、一人で先行するデビルカイザー。
するとその時
「グハッ!!」
何かがアンクを襲った。それは実弾でもビームでもなかった。
機体の表面が薄らと光っている。その光が一番激しい部分には小さい筒型のポッドが付いている。
「アンクどうしたの!?」
「クッ・・・しび・・れる・・・」
その言葉を聞いてアニーはデビルカイザーに近寄った。
そして何故か頭部ファランクス砲を撒き散らしながら近寄って行った。そして
「やっぱり」
なにも無かったと思っていた所で爆発が起こった。アニーに予想は的中した。
地面に小型の電撃ポッド射出装置を仕込んでいて、その機械のセンサーに引っ掛かったのだろう。
アンクの機体に付いていたポッドを払い、コクピットを開かせた。
「大丈夫?」
「ああ・・・俺がこんなのにやられるとは・・・」
すでに萎えている。テンションのアップダウンが激しいアンク。それは実験所の人間のほとんどが持っている特徴だ。
元気を出して、と言わんばかりに何かをアンクの口にねじ込んだアニー。すると
「っしゃあ!仕返しだ!やってやんよ!!」
「ふぅ・・・皆さんお騒がせしました」
他の皆に謝るアニー、その前でやる気満々のアンクを通信越しで聞いているとホッとするような緊張感が無いような。軍にも入っていない民間人にここまで戦闘に付きあってもらっているので謝る必要はないのだが。あえて言うと、死ぬ覚悟が出来ているか、だ。
「アニー、フルブーストだ!」
「ええ・・わかったわよ」
ハイウィングストライカーでの超高機動移動をフルブーストと呼ぶ。つまり彼がしたいことはその勢いで突撃したいのだ。何とも無謀な挑戦だが彼ならやるだろう。と半ば思っていたアニー。
仕方なくフルブーストを起動させた。
「じゃあ行くわよ」
「応ッ!!」
気合いの入った声で返事をした。
カウントが0になり、一瞬で加速した、だが加速する前に少し後ろにいたアーノルドが飛びつかまってきた。
だが気にする間もなく加速。気づけば敵拠点がすぐ目の前にあった。
「よっと!」
飛び降りたデビルカイザーと共にミクリの機体も飛び降り、すでに数機いる敵機体に飛びかかった。
アーノルドは振りかぶって大剣を振り回す。デビルカイザーは大鎌を投げる。
それぞれが敵を両断していく、が、プロキオンが出てくると勢いが止まった。
「クッ、やっぱり硬い」
「BR-5変更。滑空砲撃てるヨ」
滑空砲をゼロ距離で撃ち、焦げ付いた装甲に拳を叩きこむ。
今回の作戦で新たに装備させた腕部攻撃兵装「マッド・タイラント・ブロー」は強化装甲への攻撃に有利な物となっている。その理由は、アーマーナイフのように高速で振動している刃を突き立てることで装甲に切り込みやすくする機能を備えていることだ。さらに刃を高温化することでより切り込みやすくなっている。
そしてやっとプロキオンを粉砕することが出来た。
「ふぅ・・やっと一機」
そんな方法で戦うミクリを他所に、アンクとアニーは連携して敵を次々撃破していた。
「行くわよガルシオン!!」
その声に応えるようにアサルトライフルで撃ちながら突撃、ストライカーの複合連結式多連装ミサイルをばら撒いた。
青いプロキオンが赤く煌き、煙に包まれる。その隙をうまく突き、デビルカイザーが突撃する。
「砕けろぉぉぉッ!!」
トゥースを振り落とし、装甲の間の腹部を狙って切り込んだ。勘がいいのか、そこは一番弱いところで、機体が上下に分かれて誘暴した。
「至近視に新たな反応。こいつは・・・例の赤い機体かもね」
「ほう、ディナーが来たか」
「じゃあ今のは前食なの?」
「ああ、胃袋に下敷き入れとかないと失礼だろ?なんたってこれから俺に殺されるんだからよぉ。怨んで死んでほしいぜ」
性が悪いアンクは真っ先に突っ込んでいき、同じように敵の一機も突っ込んできた。
そして対面し、激突。大きい金属音が轟き、鍔迫り合いが始まった。
赤いプロキオンは自慢の大剣を振るってきている。
「そのまま地獄送りにしてやるぜ!大人しく豚の肥しになりな!!」
暴言を吐き終わると、接触回線で聞こえていた敵から応答があった。
「その物言い、被検体057か」
「なんだ、知ってるのか。なら話は分かるよなぁ」
アンクの事を被検体と呼ぶ敵、彼の名前は「ネビル・ルシフェル」
赤いパーソナルカラーの機体を好んで使用し、戦場で数多くの敵を撃破してきた。機体の高機動を生かしきった容赦のない戦闘で、隊内では「返り血の死神」と呼ばれている。赤い機体で敵を殲滅している姿が、返り血を浴びたような姿に見えることからこの異名が付けられた。
「そうか・・・お前が噂の赤い死神か。死神対決には持って来いだなぁッ!!」
そのことを思い出したのか、アンクは一気に押し込んだ。
だが同じように押し返され、大剣で押し切られた。
「クッ・・・こいつ!」
「死神の名は一つで十分だ。ここで消えてもらおう」
「ハッ!俺に勝てると思ってんのか?」
機体を回転させて鎌を機体に投げる。同時にキャノンを向け、引き金を三度引いた。
「俺に負けたことを死ぬほど後悔しな!!」
大剣を盾のようにし、それですべてを弾いた。だがそれが盲点となり、デビルカイザーが接近していることがわからない。
しかし鋭い戦場の勘でそれを見破り、砲を向けていた黒い死神に肩部のレーザー砲を浴びせた。
「光進砲発射!!」
アンクの目の前が激しい光に包まれ、感じたことのない衝撃が自身を襲った。
その光は後方のガウェイン達にも届いていた。




