十八話 「死神飛翔」
北米G区画
「エンダーヴルムⅡ世が攻撃を受けています!!」
「むぅ・・・・これでは」
かなり進軍してきたが、ここまで来るのに艦隊の大多数が手負いだ。
ヴァ―ミリオン級戦闘宇宙戦艦エンダーヴルムⅡ世は、ユナイデットステーツと同じで国級戦艦の一隻だ。
そんな大型戦艦が被害を受けているのだ。もはや勝気すら疑いかねる。本部は一体どういう考えでこの作戦を実行したのか。敵の戦力が報告とは違う。
さらには
「味方機が次々に撃墜されています!!」
「なっ・・・・こんな・・・・」
言葉も出ないエイモンド司令。戦場では帰る場所・・・母艦を失った瞬間が何よりも悲しいが。それよりも自機ごと殺されることが一番の憎しみを生むことだ。
最初から死ぬ覚悟が出来ていなければ、マシンに乗ることは出来ないであろう。
だが今その戦場に『死』を司った異名を持つ機体が飛翔する。
「いやっほぉぉぉぉぅ!!死ね死ね!殺れ殺れ!!」
味方の船から船に乗り移りながら敵艦の艦橋を切り落としている。実に卑怯な戦い方だが、彼にとっては一番殺りやすい戦い方だ。
「おっと、地上にも亡者が群がってやがるぜぇ」
死神。亡者。黒い堕天使を駆る彼の名前は『アンク・デミタス』
『ブーステッドレンジャー』と呼ばれる一種の強化人間であり、性能、性質共に限らず、様々な能力値を上げる人間を多数生みだしてきた計画の人種である。その実験施設でのバイオハザードが原因で、今もアンクのような強化人間が地上を這いずり回っている。そしてその恐ろしい笑みを常に浮かべる彼は正しく死神のようである。
地上の敵に向ける大きなライフルで砲撃する。
「いっけー。オンブラスター!!」
対艦ライフルオンブラス。だがオルゲンゲーテで改修され、メガランチャーとなった。現在でも鉄鋼弾は撃てるが、本人は楽しんでいるようで、名前にも『オンブラスター』などとかっこつけている。
「なんつって。ギャハハッ!!」
新たに腕に内蔵された60mm三連装甲砲で撃ち合わせる。
牽制程度に撃ったつもりであったが、運が良いのか、はたまた神が付いているのか。命中した腹部から爆散していった。
追い打ちのつもりか、逃げる機体ごと敵艦に鎌を差し向け、厚いバルジへ切り込む。
「弱いねぇ。貧弱すぎるよぉ。もっといいのはいないのかっと、新手かな?」
どこからか飛んできた弾丸の軌道を見て、その場所へ飛躍。飛びながら鎌を投げる。
飛翔する機体に投げた鎌が戻ってくる所はブーメランを彷彿とさせる。もっとも今の時代はブーメラン等と言うものは存在しないが。
「ハハハッ!殴り込みもいいねぇ。心躍るってもんだぁ!」
スピーカーから戦場とは思えないような声が聞こえてくる。それに反応して主砲を別方向へ向けてしまう船もいたが、即座に連絡が入ったため、大混乱に発展せずによかったが。双方のペースを狂わせたのは確かだ。
「ん?見かけねえのが居いるな」
彼が見つけたのは、数機に群がる敵マシン。だがその型は見たことが無い機体だった。
「新型か?でもそれなりに大きいなぁ」
量産型であれば小ぶりなのが多い。資源を抑えれば大型も生産できるが、その分質が落ちる。
だがその機体はゴテゴテとしていて図体でかい。腕を覆うほどの肩装甲が異様な存在感を放っている。
陣形を組んで移動しているが、動きからホバー移動と思われる。それぞれが違う役目を果たしているのか、大型のランチャーを装備しているものもいれば、少し大ぶりなライフルを持つ機体もいる。
「歯ごたえがありそうな奴らだ。かじってみるか」
食べ物のような言い方をするアンク。
大小の翼を羽ばたかせて飛翔するデビルカイザー。体勢を変えずにそのまま直球のように突っ込んでいった。
暗闇の月夜に死神が羽ばたく瞬間を、エイモンド司令が目撃していた。