十三話 「黒い煌き」
「喰らえ!デビルトゥース!!」
黒い機体は夜闇の中では見えづらい。だが月光に光った刃が、その存在を確かなものにした。
振りかぶった大鎌が、今振り落とされる。その様子は処刑場でギロチンが落ちる様であった。
ガキンッ!
黄色い装甲に火花が散る。これだけの力で振り下ろしたのにも関わらず、鎌の刃はひびすら入らない。
しかしそれは敵機装甲にも同じことだ。これだけのパワーで振るった鎌を受けきれてしまうのだ。
「硬ってえ!でもおもしれぇ!!」
まさに歯が立たない。
死神のような機体は装甲を踏み台にして飛び上がり、逆さまの状態で大砲を撃った。
至近距離で撃った砲弾は、爆炎と共に砂煙が舞い上がった。装甲の色が禿げて灰色の鉄が見えた。だが実質無傷に近い。
「ユイ、弾が切れそうだ。早めに終わらせろ」
「了解」
砂煙が晴れる前に敵機が動いた。着地した死神機へ、煙の中から多数のミサイルが降り注ぐ。
ミサイルはかなりの至近距離で着弾していったが、爆煙が晴れたあとの姿は無傷だった。その身に似合わない身のこなしで避ける死神はまさしく亡霊のようだった。
「そんなもんじゃ、夜は越えられねえぜ」
「ユイ、撤退だ。地下部隊が全滅した」
「了解。背部装甲をパージ」
背部の装甲が外され、中からスラスターが出てきた。スラスターに火が付き、高く跳躍して飛んで行った。追いかけようと死神機も飛ぶが、飛行中に装甲をパージされ、見失ってしまった。
「チッ、せっかく来てやったのに。釣れねえ奴だな」
地下ハッチが開き、中からガウェイン達の機体が出てきた。
黒い機体を見てガウェインが何かを言った。
「アルデバランッ!!」
ドゥラッペン・フェルガーがライフルの下のランサーで突貫した。
その攻撃はすぐにかわされ、大砲で腹を突かれた。だが撃ってはこなかった。
「どうした、早く撃てよ」
「お前、なぜその名前を知っている」
「・・・・」
「早めに言った方がいいぜ。気が短いんでな」
辺りに静けさだけが漂う。
死神機のことをガウェインは『アルデバラン』と言っていた。
アルデバランは星の名前だ。おうし座で一番明るい恒星の名前。それをどうして叫んだのだろうが。
「以前に戦ったことがあってな。お前と」
「残念だが俺はお前が見たアルデバランじゃねぇよ」
「どういうことだ?お前の様な黒くて死神の様な機体は・・・」
「こいつの名前は『デビルカイザー』だぜ?あんな悪魔野郎と一緒にすんな」
「そ、そうなのか・・・」
死神の機体『デビルカイザー』。大鎌『デビルトゥース』、対艦ライフル『PKAL201 オンブラス』を使っている機体。武装はジャンクで作ったようだが、それにしては有能すぎる性能だ。背部には悪魔の翼の様なウイングを装備していることから『デビル』なのであろう。
彼の言った『悪魔野郎』はアルデバランのことを言ったつもりであろうが、ミクリ達からすれば死神機のことが悪魔だ。
「さーて、どうしようかな。お前たちを倒すのもいいが、裏方は飽きたんでな」
「・・・・何が言いたい」
「俺も装備とかヤバいから正式な設備で修理とか受けてみたいからな~」
つまりは自分の設備に自信が無い。もしくは当てが無いということだろうか。
「好きにしろ。俺がなんとかする」
「いいの?敵かもしれないのに」
レイが心配するが、ガウェインが理由を説明する。
「だが今はその力が欲しい。北米奪還するにも、量ではなく質がほしい」
デビルカイザーをチラ見して最後まで言い切った。
「多少問題はあるが」
「聞こえてるぞー」
笑えないが少しは平和な空気が流れたような気がした。
次にあの黄色の機体『シリウス』と戦うのはいつになるだろうか。そう遠くはないだろう。