十二話 「砂戦争」
「グワァッ!!」
ミサイルの爆風に煽られながら逃げ戦っていた。
レーダーにも反応が増えている、増援が来る前に片づけたいところだ。
「ヤバいよヤバいヨ!」
前にも後ろにも爆発と弾丸が飛んでくる。軽量機体のアーノルドには一発でも当たれば致命傷になる。
従来の兵器では戦車や戦艦、戦闘機などの通常兵器が多かったが、アフターウォーの時代に入ってからは兵器のラインナップがガラリと変わった。そのひとつが「機体フレーム構造」である。
アーノルドは「ボクサー」と言われる近接戦闘に特化したフレームがベースになっている。ボクサーフレームを改良して、高機動戦闘を可能にしたのがアーノルドオリジナルのフレーム「強化柔軟構造」だ。
弾幕を避けながら、時に防御しながら隙を窺っているが、さすがに疲れが出てきたのだろうか、ミクリの反応がすこし遅くなってきている。
アイビーも援助しているが、止まない弾丸の雨の中、演算処理が増えたと文句を言いながら奮闘していた。
「くそう!なんであんなに持つんだ!どこに弾を・・・」
これだけの弾丸を長時間撃ち続けれるのは不自然だ。体中に設置された機銃から延びる線を辿っていると。
「どうしてはやく倒さないの?」
無線から声が聞こえた。女の子の声だ、聞き覚えのある声。
「ねえあなたはどうして撃たないの?」
質問ばかりだ。こっちは聞きたいことが山ほどあるのに。出会ったころもそうだった。身勝手に呼びつけて、質問ばかりして、罠まで設置して。
「どうしてあなたは戦っているの?」
その一言がミクリを動かせた。戦いを生業としている自分たちには応えようがない質問。同時に彼女にも当てはまる質問だった。
「じゃあ」
「じゃあなに」
息をのみ込んで操縦桿を握り直した。
「じゃあ君はどうして戦っているんだい?」
アクセルを踏みきって懐に飛び込む、促すように左手を後頭部へ伸ばし、振りかぶった剣を振り落とした。
ガッキィィィィンッ!!
パージした腕の内側に装着していたのだろうか、厚い鉄板が出てきて金属が弾ける様な音がした。
「私は戦うことそのものが使命なの。私が生きている理由は戦いがあるから」
「違う!それは答えじゃない!君が生まれてここに居るのはそんな理由じゃ―――――」
言葉が鮮明に聞こえる、接触した為か。感情のこもった声は身を震わせた。
「私は言うなれば人形。戦うために生まれた人形」
「人形はそんな感情を持たないし、あの時の笑顔は確かに君の心からの笑顔だった!」
あれすらも人形がした「真似」だったのならば、それはもう真似ではなく「人間」そのものではないか。
しかしミクリの心は通じず。
「なら、私を助けだしてよ。あなたが思う私を」
まるで自分の事を違う人間のように言う。
「・・・・」
だがその言葉にミクリは返事をできなかった。
どう考えても自分たちが不利である。それに今のミクリの力では足りないと自覚しているからだ。それはマシン性能や技術だけでなく、心の強さでもあった。
「もう話が無いなら離れてくれる?殺しちゃうよ?」
一瞬目の前が真っ暗になった。それは敵機が行動を起こす前触れだった。
ガッガンッ
アーノルドが軋み、揺れている。その振動はコックピット内部に響き、振動がミクリを襲う。
「うっ!・・・こんなことして何になるんだ!!」
「何も理解できないのかしら?戦うためよ。戦うために戦うの」
頓智のようなことを言われても到底分からない。ミクリ達から見て彼女たちはゲリラであり、敵であるから。
しかしその時だった。
ボゴンッ
「え・・・・」
敵機の黄色いボディが赤く燃えていた。
機体の後ろに弾が着弾したようだ。炎の大きさからして大型の砲弾である。あの装甲を震わす武器なんて。
「よお。待たせたな」
周りはすでに日が暮れていて、仄かに残る夕日に照らされて黒い機体が降りてきた。
逆光で影しか見えないが、左手に大きな砲、右手に鎌を持っていた。一番の特徴は、丸微の尖った異様な形状。まるで死神か何かの様なシルエットだ。
「さあ、夜は俺のターンだぜ。夜のルールは俺様だ」
男の声。個性的な声だが、機体にその個性が出まくっている。
「じゃあ、始めようぜ」
死神がほほ笑んだ瞬間。夜が始まった。