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21層への挑戦 7

お待たせしております。




 名剣を手に入れた俺は舞い上がる気持ちを抑えるのに苦労した。それほどの喜びだった。

 深呼吸して気持ちを落ち着かせ、一旦頭からあのアイスブランドの事を追い出した。その様子を見て相棒も安心したのか、いつもの調子で宝箱に近づいた。


「この宝箱の種類は覚えておこうよ。多分、SSRの宝箱何だと思う。魔法剣が入っていた事なんて 今まで一度もなかったしね」


「そうだな、この宝箱は初めて見るし、いいもの入ってる奴なんだと思う」


 俺達はこの珍しい宝箱を記憶すべく木板に模写した。そのとき、俺が外した毒霧の罠が目に入った。

 毒も珍しいものなら持ち帰るかな。先生なら詳しいかもしれない。


 そう思って装置ごと持ち帰ったら、毒よりも液体を噴霧する機構のほうに興味をもたれてしまった。

 どうやら薬草の中には微量な水分を与える事によって効能が強くなるものがあるらしく、いつも水分調整に苦労しているそうだ。そこで俺の持ち込んだ噴霧器が大活躍するみたいで、同じものを見つけたらまた持ってくるように頼まれてしまったほどだ。


 毒の方は大して価値はないらしく、銀貨10枚ほどにしかならなかった。



 捜し求めた帰還石が出たのは最後の宝箱だった。良くある事なので今更己の運の悪さを嘆いたりはしないが、この層だけで非常に時間を食ってしまったので、22層に降りることはせずにこのまま帰還する事にした。22層は別の意味で非常に面倒臭い階層で、疲労しているこの状態で挑むべきではない。


 だが、俺の気分は上々だ。もちろんあの素晴らしい剣を手に入れたからである。1層でゴブリン相手に試し切りをしてみたが、実に手になじみ切れ味も申し分ない。我が愛剣にするに相応しい業物だ。


 1層の戦利品を<アイテムボックス>に放り込みながらわらわらとやってくるゴブリンをなぎ倒す。金額的には無視しても構わないのだが、ギルド側から触媒関係は出来るだけ多く納品して欲しいとの依頼があるのでその要求に応えているのだ。突撃戦法を考えて上手く行くか試したのもここなので、触媒はかなりの数が集まっているが、一日の報酬額がいまいちなのはそれが理由でもある。


 

 それから他の層でも少し狩りをしていつも通りの時間にダンジョンを出た。ざっと計算してみたら、今日の収穫は金貨2000枚以上は確実だった。さすがにボス込みであれだけ倒せばそれくらいはいくか。アイスブランドと売りに出すつもりがないいくつかのアイテムを除いてもその額に達したのは腐っても21層というべきだな。



「何か良いことがあったようですね」


 いつも探索後に現れるユウナに、今日の分の帰還石を渡しているとそう言われた。顔に出しているつもりはなかったのだが、隠しきれなかったようだ。


「わかるものか?」


「覇気が違います。いつもの様子とは全く違いますので。良いものがあったのですか?」


 そこまで解ってしまっては隠す必要もない。俺たち以外に客はいないとはいえ、宿の中で長剣を取り出す訳には行かない。


「いいものを見せてやるから、こっちに来るといい」


 店の裏に回ると、アイスブランドを取り出した。


 古ぼけた鞘収まっているので見映えは悪いが、一度抜けばその素晴らしさは誰の目にも明らかだ。あまり表情の変わらないユウナが口を押さえて固まっている。相棒がほぼ無反応なのでこういう驚きは嬉しい。


「なんて見事な魔法剣……!」


 そうだろう! そうだろう! 見てるか相棒、普通はこうなるんだよ。


「いや、剣じゃん。食べられないし、甘くないし」


 そうですか……嗚呼、人は所詮分かり合えない生き物なんだな。




「私が昔に所持していた物よりもはるかに上等な代物ですね。これを21層で?」


「ああ、ようやく出た大当たりという所だな。それより、貴女もかつて魔法剣を? そういえば二つ名が……」


 アイスブランドを返してもらいながらこの無銘の剣の名を思う。氷牙なんて良いけどそのまま過ぎるかと考えていたら、不意に目の前の女性の異名を思い出した。


「ええ、かつては似たような氷の魔法のナイフを得物としていました。その頃に二つ名を付けられたのです。愛剣はとある戦いでその命を全うしましたが、最善を尽くした結果ですので後悔はありません」


 とてもその無表情が遠因で氷と呼ばれたわけではなさそうだ。彼女は表情が乏しいだけで感情の起伏はかなり激しいほうだ。最近毎日顔を合わせているのでそこらへんの機微がわかる様になっている。

 

 逆に感情が平坦なのはソフィアのメイドであるサリナだ。彼女は暗殺者としての訓練も受けているようだが、あれは生来の性格も手伝っているだろう。全く感情の動きがない。雷魔法を教えるため、彼女の手に触れて魔力を送り込んだときも、驚いたものの感情の動きはなかった。

 本来の殺し屋であるリノアは……アレは別枠だな。



 ユウナは後悔はないといいつつも未練は断ち切れないようだ。返してもらったアイスブランドに視線は固定されたままだ。二つ名になるほどに愛用していたのだ。まさに相棒、なくてはならない存在だったに違いない。


 これは、もう廻り合わせというべきなんだろうな。少々勿体無い気もするが、この方がきっといい。

 俺は自分の決断に不思議と後悔はなかった。


<ちょっと、ユウ! いいの?>


 相棒が驚いているが、俺の中では”()()”でいいのだ。なんだっけ? 皇帝のものは皇帝もとへ、ってやつだな。


「じゃあ、これは貴女が持つべきだ。氷の剣を手に入れた日にその最も相応しい使い手が現れる。これも精霊の導きってやつなんだろうさ」


「こ、これは……こんな事が!?」


 俺が取り出したもう一本の魔法剣、アイスファルシオンを見たユウナの動きが完全に止まった。これは名剣を見た、という感じじゃないな。もしかしたら……


「かつて貴女が使っていた得物と似ているのか?」


「い、いえ、魔法の力はこちらの方が桁違いに大きいです。ですが……この形、重さ、よく手に馴染みます。まるで十数年使い込んだかのように」


「なら、やるよ。そのほうがきっといい」


 そのときのユウナの顔はちょっと表現が難しい顔をしていた。怒った様な喜んでいるような不思議な表情だ。


「な、何を言っているのですか? 確かに貴方はギルドに多大な貢献をしてくれていますが、この品はそういったレベルの品ではないでしょう!」


「ナイフをしっかりと抱きしめながら言う台詞ではないぞ。少なくとも貴女の心は手放したくないと証明している」


「そ、それは……しかし、これほどの業物、金貨100枚ではきかないでしょう」


 <鑑定>では金貨50枚だったが……確かに大金といえば大金だが、俺から見てもユウナの手にあるアイスファルシオンはじつにしっくりくる。まるで昔からの愛剣みたいだ。これを今更、高く売れるからやっぱナシでとは言い辛い。


「じゃあ、働いて返してくればいいさ。とにかくそのナイフはあなたの手にあるべき品なのは確かだ」


 相棒が生暖かい目でこちらを見ているが、もうしょうがないさ。名剣が名手の手に渡ったんだ。自然の摂理と思うことにしよう。今日の収穫は充分あるし、なにしろ俺の手にはアイスブランドがある。どうせ使わないナイフだ。ユウナの元で有効活用してもらうさ。


「ずいぶんおさやしい事ですねぇ」


 嫌味ったらしい言葉で相棒は俺を責めるが、明日からまた一杯稼ぐから勘弁して欲しい。

 飽きることなくずっとナイフを眺めているユウナを見て、これでよかったのだと思うことにした。


 その後、ウィスカの冒険者ギルドに半引退状態だったAランク冒険者が地味に活動を再開する。恐るべき技量を持つ”氷牙”の二つ名をもつ女スカウトの新たな活躍が始まるのはすぐ先のことだ。



 そんなこんなで楽しく日々を過ごしていられたのも束の間、俺はとある連絡を受け、王都に向かう事になる。そこで、俺は自分の宿業とようやく向き合う事になるのだった。



 残りの借金額  金貨 14984789枚


 ユウキ ゲンイチロウ  LV427 


 デミ・ヒューマン  男  年齢 75


 職業 <村人LV470〉


  HP  5986/5986


  MP  4895/4895


  STR 1154

  AGI 1120

  MGI 1259

  DEF 1088

  DEX 1126

  LUK 702


  STM(隠しパラ)1202


  SKILL POINT  1900/1910    累計敵討伐数 32625




楽しんで頂ければ幸いです。


【悲報】主人公、愛剣入手に浮かれて業物をタダであげちゃう凡ミスを犯す



 その後、自分で分割か何かにすればよかったと悔やむ模様。


一週間敵を倒しまくっていたので、ステータスがえらいことになってますが、こんなもの序の口です。


次の話から、主人公の核心に迫る話になります。とうとう宿敵現る。

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