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21層への挑戦 6

お待たせしております。


 俺達は宝箱を目掛けて走り続ける。足を止めると敵がわんさかやってくるので動いていたほうが結果的には敵との遭遇は少ないのだ。


「今度は何かな? さっきは外れだったしね」


「21層でマナポーション5本とかイジメかと思ったね。開けてない宝箱はあと3つあるから、まだまだ機会はあるさ」


 <マップ>で調べた所、今日の21層の宝箱の総数は6個だ。平均で8個ほどあるので今日は少ないほうだが、その分移動しなければならない距離は減っているので良しとしよう。これまで入手したアイテムは中級ライフポーション5本とマナポーション5本、装飾品らしき金細工が一つだけだ。後三つの中に帰還石があるはずだ。


 今日何度目かも忘れたデスハウンドの群れを蹴散らして突き進む。四つ目の宝箱の位置はここから程近い小部屋の中にあるようだ。今度の敵はブラッドイーグルがいたので油断せずに殲滅する。今日8個目の濡羽を手に入れ、他の魔石とアイテム類をまとめて<アイテムボックス>に放り込んだら、視界の先に目当ての宝箱が見えてきた。

 だが、他の宝箱より明らかに大きいし豪華というか、装飾過多なような気がするな。


「これは中身が期待できそうじゃん!」


「はいはい、油断しない。後ろから来てる」


 宝箱に向かって飛び出そうとした相棒を引き止めて背後の敵に相対する。また鳥がいたが、既に仲間を呼ばれた後のようだ。

 とりあえず先に倒したがここが行き止まりの小部屋なので挟み撃ちの心配がないのか救いだな。



 それからしばらくは向かってくる敵を倒す時間だった。多分、ダンジョンのトラップか何かで小部屋に入ると敵が襲って来る仕様なんだろう。それくらい数が多かったのだ。


 そこでさらに仲間を呼ぶブラッドイーグルの能力が重なると、いやあ、終わらない終わらない。

 

黒い波のように遅い来る黒犬とたまに現れる黒鳥を倒すこと倒すこと半刻、ようやく最後の一匹を仕留め終えた。3桁を越えてからは数えることを止めていたのでどれだけ来たのか解らないが、この戦いだけで4桁近い数を倒したのではないかと思う。


「いや、842匹だよ。後半は優先的に黒鳥を狙ったから波は途切れたけど、普通に戦ってたらまだ終わらなかっただろうね」


 あのブラッドイーグルはこの広い階層中の同種全てと連絡をとれるらしく、再出現したそばからこっちに引き込んでくるかのようにひっきりなしに敵がやってくるのだ。

 こっちは早く宝箱を開けたいのに延々と敵が来るから気が焦ってしょうがない。今は俺よりも相棒の方が開けたがっていたので、俺が逆に冷静になれたほどだ。

 だが、今日はずいぶんと長居したな。実際、今は午後の3時だ。

 

 久々の長時間の21層探索なので既に2時間以上をここで過ごしていることになる。早いところ帰還石を見つけて帰りたいが、目の前の宝箱はもっと良いものが入っていそうな気がする。こんな豪華な宝箱なんだ、中身が薬草だったら俺の中の鬼が目を覚ましてしまうぞ。



「さてさて、これはレアなお宝の予感~」


「まてまて、罠抜けは俺がやるって。前のことを忘れたのかよ」


「あれは、ちょっと油断しただけだって。今度はちゃんとやるし!」


 少し前になるが、これほど大きな宝箱ではなかったものの罠を解除するときに相棒が失敗して中身ごと爆発を起こして台無しになったことがある。

 本人は油断しただけだと言い張っているが、横で見ていた俺は知っている。失敗した原因は単純に相棒が小さすぎて、手が解除すべき部分に届かなかったのだ。


あえて指摘する事もなかったのだが、俺の思考が伝わったようで、渋々諦めて場所を譲ってくれた。


 宝箱の罠はこの21層で劇的に凶悪化した。今までは普通に鍵がかかっている程度で、初心者のスカウトでも開錠できる簡単なものだったが、ここからは全く違う。爆発はまだ可愛い方で、宝箱に触れただけで強制的に転移させるものや、背後から毒矢が放たれるものなど、ここまでがお遊びだったと確信させる罠が盛り沢山だ。

 唯一の救いは得られるアイテムが相当良質なものだということだ。宝珠はもちろん、”命の指輪”という即死魔法から一度だけ身を守ってくれるアイテムがかなりの頻度で現れる。金貨10枚の価値があるので収益的に美味しいし、この先どういうことが起きるのか予測が立つのも大きい。

 絶対即死魔法を持つ敵がこの先現れるだろうとリリィと話し合っていた。


 逆にマナポーションは全く現れない。20層に来るまでに充分貯めておけということなんだろうが、このダンジョンの難易度からするに、転移門を有効活用して一歩一歩着実に攻略を進めろと言われているような気がする。

 だから、俺だけしか使えない現状は何かおかしいものを感じるのだ。

 この先に進めばそれを解決するような何かがあるのだろうか?



 まあ、それは後で考えるとして、今は目の前の宝箱だ。外側は豪華であるもののいたって普通で何もおかしい所はない。だが、大抵は蓋を開けると同時に発動する罠は大抵はこの内側にある。何ともスカウト泣かせだが、俺には<鍵空け>と<罠抜け>がある。<鍵空け>は意味はそのままだが、<罠抜け>は微妙に意味が異なる。

 罠を抜けると言うだけあって、発動した罠に自分が引っかからないというものだ。だから宝箱そのものが爆発することは関係なかったりするので防げなかったりする。相棒はそこを過信していたようだが、こんなものやってみなけりゃわかるはずもない。


 なので、実質的な罠解除は<構造把握>で内部を読み取ってしまうのが一番早い。今回は箱の裏側から毒ガスが噴き出す罠の様だ。遭遇するのは初めてではないので対処法は解っている。


 毒と噴き出すカラクリ部分を切断してしまえば罠は起動しない。さて今回のお宝は……


「冷たっ!! って、剣かな?」


「冷気を放つ剣と、同じようなナイフか。こいつは……なんてこった!!」


 剣の鞘から抜いた剣身を見て俺はここがダンジョンだということも忘れて見入ってしまった。


 それほどに心奪われる美しい剣だった。


  アイスブランド   価値 金貨50枚


冷気を纏った魔法剣。術者の魔力に比例して切れ味と冷気と耐久力が増す特別製の逸品。大ラクサールの遺作5剣の一つ。温暖な国を寒冷地に変えたという伝説を持つ魔剣。無銘。


  アイスファルシオン 価値 金貨50枚


冷気を纏った魔法剣。ファルシオン型の短剣。この短剣で傷を付けられた箇所はすぐに凍結してしまい回復魔法を阻害する効果がある。籠められた魔力は莫大で、使用者が魔力を持っていなくても関係なく発動する。


 アイスブランドか。いいじゃないか。実にいいじゃないか。この冷気を帯びて透き通ったような氷のような剣身の美しさはどうだ。

 試しに振ってみると、空気を切り裂く冬の早朝のような引き締まった冷気が実に心地良い。


 なんて素晴らしいんだ、完璧じゃないか!


「おーい、ユウ、聞いてる?」


 それにしてもこの(つるぎ)に対して鞘と拵えの貧弱さはなんなんだ。いくら昔の品物とはいえ、釣り合いってものがあるだろう。ただの古ぼけた鞘じゃこの剣が泣いている。この魔剣に相応しい鞘と拵えを絶対に整えよう。このままじゃあこの美しい剣に対する冒涜だ。


「ユウ!!! ちょっとしっかりしてよ!!」


「はっ。いかんいかん、なんてこった。俺としたことが、ダンジョン探索中に我を忘れるとは」


「その剣がそんなに気に入ったの? なんか危ない特殊能力でもあるんじゃないの?」


 確かに今さっきまで命のやり取りをしていた俺が、剣の美しさに我を忘れるなんて我ながらおかしい。もしや魅了でもされたかと思ったが、<鑑定>にそれらしい記述はない。

 

 つまり、俺が馬鹿を晒したということなのか……だが、この剣は本当に素晴らしい。短剣はともかく、長剣は是非とも試し切りをしてみたい。


「ちょっとちょっと、それは別にこの階層でやらなくてもいいでしょ! ここの探索が終わってから1層にでも跳んでやればいいじゃない」


 ああ、確かにリリィの言うとおりだ。どうも気が急いていけない。ここは落ち着いてひとつひとつしっかりと進まなければ大失敗しそうだ。

 

 こういうときこそ平常心、平常心。だが、あの剣身はまるで芸術品だなあ。


「ユウ、集中だってば!」

楽しんで頂ければ幸いです。


ようやく出ました。主人公の愛剣です。

「ねんがんの」やつではないです。なので「ころしてでもうばいとる」必要はありません。


氷の魔法剣ではありますが、使用者の魔力に比例するので最強武器に大変身です。これは一品モノですので他の剣にはありません。


やはり「な、なにをする。きさまらー」となるほどの価値はありますね。

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