21層への挑戦 4
お待たせしております。
帰還石については今でもギルドと最上位冒険者パーティの間で値段の折衝が行われていると聞く。俺には転移門があるからそこまで必須ではないが、他のパーティにしてみれば帰りの行程を無視できるのだ。その分を探索や戦闘に費やさせるという事でもあるし、不測の事態に陥っても簡単に帰還できるのだ。Aランク冒険者なら保険用として一つは必ず持っていたいアイテムだろう。
ユウナからの話ではかなり激しく話し合いを行っているようだ。ギルドとしては多くのダンジョンを踏破して唸るほど金を持っている高ランク冒険者からは毟れるだけ毟りたいだろうし、冒険者側としては予備はいくらでもあっていいアイテムだから数を仕入れたいはず。中々楽しそうな話し合いだろう。
間違いなく金額は高騰するだろうが、それでも手に入れる価値がある品だ。そしてそのアイテムは21層の宝箱に一つ、階層主がほぼ確実に一つ落とすことが解っている。
一層につき一日最大で2個しか手に入らないことになるので、もし冒険者が入り乱れるような状況になればかなり貴重なアイテムになる。
その貴重なアイテムをギルドでは今、湯水のように使って検証している。俺もユウナを連れて20層まで転移門で移動して帰還石を使わされたりと様々な協力をしている。
一般的な帰還石は大体の人が想像するようにパーティ全員を地上まで送るものだが、効果はダンジョンによって様々で変わった物になると範囲が限定されていたり人数制限があったり、特定の階層以降になると使用不可になったりするものもあるらしい。
なのでギルド側が責任を持って効果を突き止める必要があり、そこまでやるからこそ超高額で売りつけることも出来るというわけだ。
今の俺の最低限の仕事とはこの帰還石を確実に持ち帰ることだ。他のダンジョンの例から察するに22層にもあるはずだが、階層主は落としたものの、宝箱からは見つけられていない。
というよりそこまで探索できていないのだ。22層はこことは違った面倒臭さで攻略難度があがっているのだ。それはまたの話にする、今は帰還石の話だ。
俺自身の保険として帰還石を一つは持ち歩くようにしているが、それ以外は全てギルドに提供している。提出している個数はお互いに控えて確認しているので、価格が本決まりしてから俺への報酬が支払われる事になっている。
金額としては探索やドロップアイテムの方がはるかに儲かるが、この件はギルドへの貢献と他の冒険者たちへの利益供与の側面が大きい。あんな場所にある転移門の存在はギルドから以外には簡単に漏れはしないだろうが、今まで一々階段を降りて目撃されまくり、いつの間にか二つ名まで貰っていた俺の姿が見えなくなれば噂になるだろう。今の俺の行程は20層から降りてアイテムや農作物を回収し、17層まで拾ったら20層に戻り、11層へ跳んで戦闘する。一段落したら宝探しを楽しんで日課の21層探索して帰還石を手に入れる日々だったので、低層で冒険者とすれ違う回数が減っていたのだ。
何かあるんじゃないか? と思われる前に帰還石をギルド経由で流して有耶無耶にしようという腹だ。これがあれば彼らも気には留めなくなるだろう。
俺はリリィから受け取った帰還石とデスハウンドたちが落とした戦利品を回収すると、この層にあるはずの帰還石を求めて走り回っている。今までの階層は階段を目指して最短距離を突き進む事だったが、この層ではまず帰還石のある宝箱を探す必要があった。この十日間、平均して8個の宝箱が21層にはあるのだが、その一つを求めて非常に苦労をすることになる。
今まではその苦労が面倒で先を急ぐ事を優先していたのだが、現状は広く入り組んだ21層をくまなく探して一つだけある帰還石を手に入れようとしている。そこに立ちはだかるのが、またもや現れたこの2種類の難敵である。
「ユウ、鳥がいるよ!」
「了解、最優先排除だ」
俺はこの十日で練り上げた戦術を披露する前に、ブラッドイーグルを狙い撃ちにする。5発の火魔法が7匹の黒鳥を消し炭にして、塵へと返す。
今までデスハウンドの事ばかり取り上げていたが、このブラッドイーグルこそがこの21層の最大の難敵だったりする。
この鳥はもともと攻撃もあんまりしてこない上、周囲を旋回しているだけのことが多いので、初めて遭遇した頃は楽な敵だと思っていた。積極的というか、捨て身に近い勢いで殺到するデスハウンドの方が対処する優先順位は高いと考えていた。
だが、いつもデスハウンドを殲滅した辺りで新たな集団と遭遇するのだ。戦闘音に引き寄せられたのかと最初は思ったが、それにしては露骨に挟撃の形での背後からの増援があまりにも多すぎた。半ば予想しつつもギルドで確認をとると”死を呼ぶ凶鳥”の異名を持つ要注意モンスターであることが解った。
その最大の特徴は人間には聞こえない可聴域の鳴き声を上げ、遠隔地にいる同種と連絡を取っているらしい。だからこそこちらの最も嫌がる瞬間に増援を送り込んでくることが可能なのだ。
俺はリリィと二人でダンジョンに挑むことを決めた時、敵を深追いすることと、囲まれることだけは絶対に避けようと考え、行動の指針としてきた。特に挟み撃ちは危険だ。今まで何度もそれに似た状況に追い込まれたことはあるが、敵が弱かったのもあり俺の魔法で全て危なげなく殲滅してきた。
もっとも、挟撃といっても前方の敵を全滅させたあとで、後方から来る敵を対応することが可能な、かなり余裕のあるものだった。
たが、今回は違う。デスハウンドの展開が凄まじく早いせいで戦いの途中で背後から殴り込んでくるのだ。初めて攻撃を受けた時もそういった乱戦のなかで、処理が間に合わず不覚をとったのだ。
最後は自分を中心に範囲魔法を炸裂させて事なきを得たが、リリィが加勢に入ってその有り様だ。今までの方法が通用しないと思い知った瞬間だった。
大陸有数の難易度を誇るあの”ネライダ”のダンジョンの深層で現れ、多くの冒険者を地獄に送り込んできた凶鳥が、わずか21層で現れる事にギルド側は強い衝撃を受けたが、決して倒せない敵ではないし、敵単体としては非常に弱い部類だ。まともに攻撃してこないから俺も後回しにしたくらいなのだ。
だが、唯一の取り柄言っていい支援能力がダンジョン内ではえげつない効果を発揮するだけだった。
デスハウンドもそのネライダのダンジョンに出現するが、中層に数匹現れるだけだという。ウィスカ特有の数の暴力がここでも発揮されているというわけだ。
楽しんで頂ければ幸いです。




