ギルドに報告 3
お待たせしております。
環境層のドロップアイテムで話が盛り上がったが、不意にジェイクが真面目な顔をした。彼はこの話が一番重要だと思っているらしい。
「さて、肝心の話を聞かせて欲しい。さっき言っていたが、転移門があったというのは本当か? 転送門ではなく転移門なのか? 両者の違いは理解しているんだよな」
「ええ、もちろん。ウィスカには間違いなく転送門が設置されていました。20層から地上の戻った際に、もう一度20層まで試してみましたから間違いありません。どうやら行った事のあるボス層へ移動が可能のようです」
俺の言葉に二人は快哉を上げた。だが、喜んでいる所申し訳ないが、あの転送門の特殊性をどう説明すればいいものか解らないのが正直な所だ。俺以外使用できないなどといっても信じてもらえるかどうか。
「おお、まさか転送門とはな。ここまでさんざん苦労させてくれた分、相応のメリットがある感じだな」
「ええ、攻略が捗るでしょう。しかし、ダンジョンには何度も潜った事がありますが、転送門が一層のどこにあったのか、疑問が残りますね」
ユウナがこちらを見てくるが、こちらもどうすれば良いのか悩んでいる。口で言ったって自分のみの認証で動くなんて転移門を独占するための嘘としか思われないだろう。
ここは実際に見てもらうほうが早いか。もともとごく僅かの人には伝えるつもりだったし。あ、この件セラ先生に伝えるのをすっかり忘れていた。転移環の話に夢中だったからな。18層の魔力水の件も伝え忘れている事に気づいたが、まあこれは明日で良いか。いまは転移門の件を先に片付けよう。
もう日もすっかり落ちてギルドを訪れる冒険者の数もだいぶ減ってきたので、俺は二人を連れてダンジョンに向かうことにした。
一通り話したが、当然疑われたので論より証拠と言えば抗弁はなかった。むしろ俺がここまで公開する事の意味を考えているように見える。
確かに今まで秘密主義でやっていたように見える(実際は借金が恥ずかしくて誰にも言えなかったとはいえ)だろうが、そこまで大したことは考えてない。まあ、それは言わぬが華だ。
既に詰め所の人間も立ち去っているダンジョン入り口は閑散としている。人でごった返していた王都のダンジョンは四六時中に番兵が立っていたが、聞くところによるとその番兵もギルドの雇われらしい。
「てっきり街のほうで人を寄越しているんだと思ってましたが」
「ダンジョンで利益を得ているのは冒険者ギルドだろう? と代官から言われると逆らえんよ。ここはあまり賑わってもいないんだ、国としても警備に回す金を出しづらいだろう」
もっとも、最近は大いに潤っているがな、と告げるジェイクに答えずダンジョンに足を踏み入れた。
「ここに来るのも久しぶりだな。マスターになると体がなまってしかたないぜ」
戦う相手がモンスターから書類になって使うのが筋肉から頭脳になれば仕方のないことだ。ジェイクはまだ冒険者に未練がありそうだが、人の上に立つ仕事だし、ギルドマスターだからこそ可能な仕事もある。他人に影響力を及ぼす仕事というのは想像以上に大きな力を持っているものだ。
どちらが上という話ではない。靴屋と服屋はどっちが偉い? と聞く様なものだ。
「冒険者に戻りたいんですか? 確かにまだ動きは現役で通用しますね」
「そりゃあ欲を言えばな。だが上が無能だと下が苦労するからな。無能の下で働く苦痛を他の奴に味合わせるわけにはいかんよ。俺がやることによって変わるなら受け入れるさ」
実際は、王都のギルマスに対抗して現役を引退したんですけれど、と俺にだけ聞こえる声でユウナが呟いた。
俺はダンジョンの入口から右にある転送門の扉の前に立った。扉といってもダンジョンの壁が横に動くので、取っ手がついているわけではないから気付けと言われても難しいだろう。
「ここにあったのですか。どこもダンジョンの入口は似たような形状なので見落としていました」
俺の存在を勝手に認識して扉が開くのを見た二人は驚くが、その先にある転移門を見て言葉を失った。
「これは……転送門は山程見たが、転移門は意外と小さいな。この装置で層を移動するのか?」
ジェイクがかなり無遠慮に機械をいじくり回している。罠を警戒する役目も担っているはずのユウナが何もいわない所を見ると、何があるのかもしれない。
「兄はいわゆる”確率異常者”です。今までも複雑な鍵のかかった箱を難なく開けたり、即死級の罠を知らずに解除したりとそんなことばかりです。もう心配する方が逆に疲れますので」
あんたなんでギルマスやってんだよ。普通に現役やればいいのに、実力を見ても未だ衰えているようには見えない。元々ギルドマスターは力こそ全ての冒険者たちを従える関係上、弱者には勤まらない。力が衰えたら容赦なく交代させると聞いたことがあるので、彼もまだAランク相当の実力者のはずだ。
王都のギルドマスター、ドラセナードとの関係もあるのだろうが、未だ一線を退いた人間の力ではないのは確かだ。
そうしてジェイクが転移門を起動できればそれはそれで凄かったのだが、流石にそこまでにはならない。俺の魔力で門を起動させるとまずは20層へ跳ぶ。一瞬の浮遊感があるが、各層にある転移門は見た目全て同じなので出てみるまでは本当に移動したかわからない。
ああ、そういえば俺が居ないと扉が開かないんだっけか。俺しか転移門を起動できない端的な証明になるな。
「確かに、私たちでは扉が動きませんね」
「あいつだけが動かせるっていう実証だな。そのために来たとはいえこの目で見なければ信じないような話だな。お前が嘘を、というよりは他の冒険者に使わせず転移門を独り占めしていると考える奴の方が多いだろう。これが知れたらあっという間に悪評が広まるだろうよ」
元々迷宮は訳のわからない存在なので、さらに一つ不可解な事が増えても誰も不思議に思わない。そもそもダンジョンモンスターやアイテムがドロップする理由さえ、満足に判明していないのだから個人のみ認証する扉があっても仕方ないという感じか。
「それはともかく、ここが20層です。あっちがボス部屋の出口方面ですね」
ボス討伐後の証でもある開け放たれた両扉の反対側には21層へと続く階段がある。長い間攻略されなかったせいで20層が最奥ではないかと言われ続けてきたようで、その先の階段を感慨深そうに見ている二人だが、いつまでもここにいても仕方ないので早々に引き上げた。
その後、10層に跳んで一応証明として11層の敵を少しだけ倒した。今更手の込んだ冗談だと言われるとは思えないが、たいした手間でもなくゴブリン3種を殲滅してドロップアイテムを土産として渡した。
「いやお前、全部合わせると金貨20枚以上にもなる品をほいほい渡すなよ!」
「ああ、いいですよ。ご覧の通りたいした手間でもなかったので。それより戻りますよ、もう充分確認したでしょう?」
既に夜も更けている。明日が早い人なら既に床に入っていてもおかしくないような時間だ。
最後にもう一度自分だけしか転移門へと続く扉を開けることかできない事を確認して地上へと戻った。
楽しんで頂ければ幸いです。
ギルドマスターは他薦で選ばれます。任地は本人の意思は考慮されないのでジェイクは不満を持っていました、今までは。今はウッキウキですが。




