後遺症 4
お待たせしております。
「公爵樣、兄様!」
こちらにやってきたソフィアの声で話は中断した。俺と公爵は視線で互いの意思疎通をし、この話を終わらせた。
相棒はソフィアの側にいない。なんでも日々の魔力鍛錬でレナが強い魔力に目覚めたそうで、姿を消した状態のリリィの事も見えるようになったらしい。なので、今はレナがリリィと話をしている最中のようだ。やはり幼年期から鍛錬を始めた方が上達や能力上昇は早いようだ。シルヴィア嬢でも同じことが出来るはずだが、あの子は既に充分過ぎるほどの魔力量だから制御だけで鍛錬は必要はないだろう。
「呼びつけてすまない。話はリリィから聞いているな?」
「はい、魔力の鍛練ではなく制御だけでしたら私でも難なく行えますので」
「頼むよ、俺が公爵家のお嬢様相手にやるわけにもいかないからな」
「解りました。その代わり、明日は1日付き合っていただきますからね!」
「わかったわかった。だからシルヴィア嬢の方は宜しく頼むぞ」
何処か顔が緊張でぎこちないソフィアを不思議に思いながらも、俺は入れ替わりにやって来たクロイス卿とバーニィに話すことがあるのでこちらを優先する。元々バーニィに用事があって王都に来たのだし。
「何度も済まんな、助かるよ」
「本当にありがとう。これでこの件はようやく一件落着かな」
「そうだな、最後は俺のせいだったみたいだが」
本当はまだグレンデルがここへ訪れた最終目的が明らかになっていないが、王都においての問題は解決したといっていいだろう。
「それはそれとして、二人とも肉は食べますか?」
「はあ? なんだよいきなり?」
「いや、ダンジョンでモンスターが、山ほど肉を落としたんですよ。ギルドに卸してもろくな額にならないので配って回ろうかと」
「はあ……ダンジョンが、肉をかい?」
バーニィは、何故ダンジョンで肉? とよくわからない顔をしてしたが、クロイス卿は合点が行ったようだ。
「そうか、ウィスカの16層の環境層の情報を持ち帰ったのはやはりお前だったか!」
まだよく解っていないバーニィにクロイス卿が事情を説明をしてくれた。
「実力から見てもお前がやったんじゃないかと思っていたが、まだあれから一週間だからさすがに無理だと思ってたぜ」
「ええっ!? ユウが王都から帰ってまだ全然経ってないじゃないですか! 僕もあれから冒険者の情報を手に入れるようにしてますが、それはさすがに無茶ではないですか?」
バーニィは怪しんでいるみたいだが、実際は16層どころの話ではなく昨夜既に20層のボスを撃破しているのだ。その話もしたいが、先に片付けなければならないことをやろう。
「まあ、とにかく肉が大量にあるわけなんですよ。他にも野菜やら魚やら果物やらと。毎日補充されるからウィスカじゃ配っても配っても終らないんで、こっちにもお裾分けしようかと」
「少し待て、ラーウェルに確認させる。だが話は聞いてるぞ、肉は肉でもAランクモンスターのタイラントオックスの肉らしいじゃないか。しかも部位まで選り取りみどりとかな。こんないい話を断る馬鹿は居ないだろうさ」
他にもあるんですが、と話すと詳しい事を聞かせろと奥の部屋にバーニィ共々引き込まれてしまう。ここで俺の冒険の話をしてもいいのだが、クロイス卿は先程からずっとラーウェルさんに呼ばれ続けているのだが……。
「ああくそ。解った! 解ったよラーウェル! そう急かすなって。すまんユウ、すぐ戻るから勝手にバーニィと話をするんじゃないぞ!」
「クロイス卿は昔からラーウェル子爵に頭が上がらないんだよ。公爵のお屋敷より、ラーウェル子爵の実家にいた時間のほうが長いらしいよ」
聞きわけのない孫を諭す祖父のような二人の様子を見ながら、俺はようやく本題に入る。
「元々今回王都に来たのはな、ある魔導具が手に入ったことにあるんだ。さっき俺の先生を呼んだときに使ったんだが、あの白い輪っかを覚えているか?」
「ああ、君の魔法の先生が現れる前に置いたものだよね。覚えてるよ。それより、あの方はどなたなんだい? 公爵閣下があれほど丁重な態度でお送りするなんて今でも信じられないんだけど」
「ウィスカの町の魔導具屋の店主だと思ってたんだが、どうにも顔が広くて凄い人らしいぜ。俺は色々助言もらったり、こっちからも手伝ったりしている関係だ。で、この魔導具なんだが、実は対になっていて双方を行き来できるとんでもないシロモノなんだよ。なにしろ俺はさっきまでウィスカに居たんだぜ?」
「本当かい? にわかには信じられないような話だけど」
「論より証拠だ。早速この魔導具を使ってみればいい。今準備するからちょっと待ってな」
クロイス卿が案内してくれた部屋の床に転移環を設置したものの、このままではセラ先生の店、しかも住居の方に転移してしまう。初対面の人間をそこに転移させるわけには行かず、慌てて店に居るであろうレイアに<念話>で連絡を取る。
<念話>は距離による制限もないようなので非常に便利だ。習得に必要なスキルポイントが多いのと、<共有>というスキルによって二人とも所持していないと無意味であるが取っておく価値のあるスキルだ。
<レイア。先程の転移環はまだ店の中だよな。場所を変えてもらえるか? 王都の連中にも見せて理解させたいが、転移先が先生の店はマズいだろう>
<それは確かに、移動の件は承知した。だが、場所はどこが適当だろうか。街の外にでも行こうか? それとも私が宿泊しているホテルが他人の目がないという観点からは最良に思えるが>
ホテルという手あったか。俺は街の外で良いかと思っていたが野外は意外と設置しにくいからホテルにしてくれると有難い。
<了解した。念話は扱いが難しいな。不用意な考えも全て相手に伝わってしまうようだ。よほど信頼した相手以外には使えないスキルだな>
<そこは慣れだな。会話に必要な言葉だけ強く思うようにすればその部分だけ伝わるようになる。このスキルは鍛えていくと数人で同時に会話が出来るようになるらしいぜ。だが、そもそも信じられない相手と共有するスキルではないからな>
言外にお前は信頼しているといわれて悪い気はしないが、と告げるとレイアは移動したようだ。魔族の力で空を飛んだようで、ほぼ一瞬でホテルの部屋に到着したのがわかる。ともかく準備は整ったのだが……。しかし、空を飛ぶのか。羨ましい、今度俺にも出来ないか教えてもらおう。
「ちなみに一回利用すると魔力を消費する。今調べた限りでは消費は定量みたいだが、魔力は大丈夫だよな」
<鑑定>を使えば解る話なのだが、友人を無許可で<鑑定>するほど不躾ではない。ある意味で秘密の暴露であるから、得体の知れない奴や敵と認識した者以外にはあまり使わないようにしている。
それ以前に彼やクロイス卿などの実力者に面と向かって<鑑定>は非常に難しいのだ。俺もジュリアにやられてわかったが、一瞬でも魔力を向けられるので解る奴には<鑑定>を受けたと解ってしまうのだ。
一方的に情報を吸われた後でさあ友好的な関係を、と言われても無理に決まっている。
本当に心から友誼を交わしたいのであれば、必要なのは誠意と努力だ。当たり前だが、そこに近道などない。
俺は転移環を注意深く設置した。これは便利なんだが、ちゃんと設置できたか把握するのは起動時のみなのが面倒な点だな。本当はあまり動かさない品物だと思うのでそこは対応外なのかもしれない。
楽しんで頂ければ幸いです。
閲覧、ブックマーク、評価、本当に有難うございます!
これからもそれらを糧に頑張ります、ストックは聞かないで(涙)




