結果報告 2
お待たせしております。
しっかりと朝食をとった俺は、レイアを伴ってセラ先生の店に向かった。驚くべきことにレイアは店の鍵を預けられているそうで、今は彼女が店の開店を行っているらしい。
働いて一週間足らずのレイアにそこまで任せていいのかと思う反面、高価な魔導具には一つ一つにそれなりの防犯機能がついているはずだから、ある程度は任せていいのかもしれない。
「いや、恐らくあのふたりは朝がひどく苦手なのだ。最近は遅くまで錬金をしているようで、私が寝室に起こしに行っている有り様だ」
信頼されている証と考えよう。セラ先生のことだ、そうにきまっている。決してものぐさではないと信じたい。だが、入って一週間少々の人材に起床までさせるとはどういうことなのだ。
「それって、ものぐさなだけなんじゃないの?」
朝は基本的に俺の懐で目を覚ます相棒が言っても説得力はないと思うがね。
魔導具を主に商う店は営業時間が短い店が多い。午後のみ店を開けているのはまだいい方で、酷いところになると『気が乗らないから』と1日全く営業しないところもある。それでも店が続けていられるのは、一つの売り上げで一月は楽に暮らせる収入がある品物があることや、店の客が魔導具屋はそういうものだと受け入れている所が大きいと俺は見ている。客の方も心得たもので、必要分以上のものをあるだけ買っていく客が多いようだ。
次にくる時買えばいいという考えでいると、店に向かっても営業さえしていないという罠を食らうのからな、そこを見越して大量に買っていく者が多い。
セラ先生の店も営業時間は不定期だ。俺が行くと営業していることが多かったが、どうも俺を迎えるためにわざと店を開けていたような節がある。
実際、完全な寝起き顔で起き出してきた二人は朝食を作り始めたが、開店をする準備はまったく見受けられない。レイアが働いているのは主に複雑なポーション作成をするときで、他の時間はかなり自由に過ごしているようだ。
「レイアはそれで構わんのじゃ。やはり違う種族だと考え方も違うものでの、色々と楽しい発見があるものよ。こちらの知見を広める目的でここにいて欲しかったとも言えるのでな」
朝一の茶を飲みながら俺に答えたセラ先生は、その皺だらけの顔をこちらに向けた。
「して、このような朝早くから店に来た理由はどんなわけじゃ? まあ、大体想像がつくがの」
「ええ、実はダンジョンの20層を攻略して、ボスからアイテムを得たのですが、まずは先生に話をうかがってからの方が良いかと思いまして。そのままギルドに持ち込んでもいいのですが、先生から後で叱られそうなので、先に持ってきました」
「ほう、20層をもう突破しおったか! 流石じゃの。して、気になるドロップアイテムでも出たかの?」
「そのまま出してはマズいだろう品物なので。レイアにも見せる約束なので皆が揃ってから出しますよ」
手持ち無沙汰なので、冷やしていた19層の果実をいくつか皮を剥きつつ姉弟子の到着を待とうとしていたのだが、切っても剥いてもその都度先生と相棒が手を出すので一向に数が揃わないのだが。
「19層は果実の楽園であったか。これも売り捌いても二束三文であろう? ウチに置いていくが良いぞ」
元々そのつもりではあるが、後はギルドの女性陣への賄賂に使うつもりで冷やしてあるのだ。19層ですることもなかったので採れるだけ採ってきたから数は非常に沢山あるし、行こうと思えば転移門からボスを倒せば直ぐだ。そう考えればレイアやバーニィを誘ってボスと戦うのも面白そうだ。ボスは一体だけの出現だから、数で押される事はない。さすがに20層のキリング・ドールは無茶だが、サイクロプスは簡単に倒せるだろう。
山分けするだろうアイテムや報酬は惜しいとは思うが、毎日やるわけではないから大したことはないだろう。皆を誘ってのボス狩りは中々楽しい行事かもしれない。
そんなことを考えながら、しばらく果物と格闘しているとようやく皆が揃った。
「それで、レイからある程度は聞いているけどこんな朝早くから一体何の用なのよ」
「ああ、ダンジョンの20層のボスからこれが出たんだが、ギルドに持ち込む前にこっちに話をしておくべきかと思ってね」
そう言いながら、俺はまずミスリルインゴットを取り出した。不思議な光沢を持つ白い金属を目にした俺たち以外の皆が声をなくした。
「こ、これはミスリルか!? それも未使用のインゴットじゃとぉ!?」
「ええっ!? まさか、あのミスリルですか!?」
「この魔力反応、紛れもなく本物じゃ。未使用のミスリルなど、とうに失われた物と思っておったぞ。まさかこの齢になってまた見ることになろうとはの」
<鑑定>を使ったのであろう先生の声に姉弟子も驚いたようだ。レイアにはここに来る前に見せているのでそこまでの驚きはないが、セラ先生の口から改めて言葉になると、やはり重みが違う。しかし他にミスリルの実物を見たことのあると言う先生の年齢は……はい、気にしません。
あの先生、やはり人の心を読むスキル持ちなんじゃないのか?
「確かにギルドに持ち込む前にここに来たのは正解じゃな。若造のジェイクたちではこの価値を正しく理解できまい。ワシなら金貨300は出すからのぅ。ギルドではいいとこ250であろ」
当然、儂に売るつもりじゃろうな、という無言の視線に負けた俺は渋々承諾するふりをした。別に金貨になればどうでも良いが、先生の頼みを聞いたという体にしておけば後々役に立つかもしれないし。
「ではそれでお売りしますよ。それで、ミスリルはこのままキルドに持ち込んでも大丈夫な品物ですか?」
「それは止めておく方が賢明じゃろうて。多くの武具や魔導具に使われておるミスリルじゃが、一度加工した後は二度目から魔力の親和性が激しく低下する。それでも他の金属とは雲泥の差じゃが、せっかくのミスリルの特性を自分で殺すようなものじゃから誰もやりたがらん。だから加工前の未使用品は計り知れない価値を持つのじゃが、この数百年未使用が出回った記憶がない。どうせギルドは定価で買い上げて自分たちで競売に出すのがオチじゃ。それならアドルフの所でやった方がよかろうて」
「一応ギルドにも良い目を見せてやると約束したので、一つは出してやろうと思いますが」
「その口ぶりでは……まさか、数があるのか?」
答えの代わりにもう一つ取り出すと、セラ先生は何故か深いため息をついた。そんな目で見なくてもいいでしょうに。
「やれやれ、長い時を生きてきたがまさか未加工のミスリルを一度に2つも目にする日があろうとはの。複数あるのなら、判断は任せるわい。競売に出しても数があれば額はそこまで上がらんであろ」
「ギルマスも他のマスター達に良い顔をしたいでしょうから、一つだけ卸します。そのあとは価格維持の為に魔約定かな」
「稀少性の維持のためにもそれがいいじゃろうか、お主の顔を見ると、まだ話は終わっておらぬようじゃな」
目玉として出したのがミスリルなので、他のアイテムも見てもらう。例のアレは最後に取っておこう。触りたそうにこっちを見ていたレイアたちにインゴットを渡すと次は魔石を取り出した。
「20層のボスは体がミスリルで出来た人形だったのですが、こいつの魔石が特殊でして」
「ほう、平行励起型の魔石か! これは珍しい。2等級までの魔石と同じ出力を可能とするのか。これは便利じゃな。おいそれと使えない伝説級の魔石の代用品としていくらでも買い手がつくじゃろう。ギルドにはこちらを出せばよい。魔石の供給の面でもギルドが一番喜ぶはずじゃからの」
「買い取り金額を増やすには、やはり数を揃えた方が効果的ですか?」
残り三個の魔石を取り出すと、セラ先生の瞳がきらりと光った気がする。
「見かけによらずおぬしも商売人よの。無論、数を揃えておけ。4つもあれば美味く話が転がれば金貨300は届くやも知れぬ。魔石が勿体なくて宝の持ち腐れになっている王家秘蔵の魔導具など山ほどあるでな。2等級の魔石を持つ相手など、上位竜くらいしか思い浮かばぬから、所持数など両手で数えられる程度じゃろう。間違いなく世界中で買い手が殺到するのう」
「そんな伝説級の魔石を使う魔導具が数多く眠っているんですか?」
いくら強力な魔導具だってその魔石がなければ使えないだろうに、なんでそんなに数があるんだろう?
「古代文明には魔石を作り出す技術があったのは間違いないのう。でなければ等級の高い魔石の数に残されている特級魔導具の数が合わんのでな。何時かその技術も復活させてみたいものじゃ、ユウも気に留めておいてほしい、この老いぼれよりもそういった技術の残滓に遭遇する可能性は高いじゃろう」
特級魔導具とは高レベルの魔石を使って発動させる魔導具の総称で、そのほとんどが持ち運び出来ない設置型だ。ほぼ使用できないことから遺失神器とも呼ばれているそうだ。有名どころではオウカ帝国の帝都全域を守護する広域結界を起動させる魔導具”ひび割れた天蓋”などがそれにあたると教えてくれた。つまりこの魔石が売りに出されたら、帝国は間違いなく手を挙げるということか。2等級の魔石を使わずにいざという時に結界が張れるとしたら予備は幾つあってもいいだろうからな。
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