転移門とボス戦 1
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世に言う転送門とは、出口への一方通行の移動手段の事を指す。転送門を起動するのが10階だろうが20階だろうが行き着く先は常にダンジョン入口付近と決まっている。
殆どのダンジョンにあるものは転送門なんだが、ごく稀に入口付近に移動する機能の他に、決められた階層に移動する事ができる転送門も存在する。それが転移門と呼ばれる非常に珍しい魔法装置である。
何故こんなことを突然言い出したのか言えば、どうやらウィスカは転移門らしいことがわかったからだ。リリィが門の隣にあった機械の文字を解読したら、その装置に階層を入力して魔力を流せば望みの階層に転移できるようなのだ。
「つまり、10層のボス倒したあとすぐに20層のボスに挑めるってことなのか! それは凄いな」
「もしかしたら回数制限とかの制約があるかもしれないから調べる必要はあるけどね。それでもショートカットできるだけで時間短縮は相当なものだよ」
確かにそうだ。今まで帰りの時間を三時間は見ていたが、転移門を使用すればそれが無用になるし、ほとんど稼げない低層で時間を浪費することもない。一日の最初から11層で始めればどれほど稼げることだろうか。
リリィがペタペタと謎の機械を触っている。俺が中途半端に口を出したところでうまく行くはずもないので、こういうのは任せるに限る。しばらくああでもないこうでもないとやっていたが、目処がついたのかこちらに向き直った。
「解ったのか?」
「一応ね、多分これでいいはずと思えるくらいには。それでも試してみないと何ともいえないけどね」
「どのみち動かしてみないことには始まらんのだから、とりあえずやってみようぜ。とりあえず10層に行ってみよう」
もし、1日1回の制限があったとしても10層なら帰還するまでたいした時間はかからないからな。今のところ選択可能なのは20層と10層だけなようだ。多分、行ったことがあるボス層にだけ転移門があるのかもしれないな。
リリィが慣れた手つきで機械を操作する。俺も横で見ていたが何がどう動かしているのかさっぱりわからない。
「じゃ、行くよ~」
先程も感じた僅かな浮遊感と青い光が部屋を包むと、瞬きをするような僅かな時間で階層を移動した。間違いなく移動したということは、<マップ>で調べればボス階は単純な構造なのですぐに解るのだ。
一層と同じような鍵を差し込む穴による認証をへて部屋を出ると、見慣れたボス部屋への扉と11層へ降りる階段があった。ボスを倒した先に転移門と階段がある基本的な構造は20層と変わらないようだ。
「ユウ、調子はどう? なんか体に変わった点は?」
「転移するときに自分の魔力を使うみたいだけど、すぐに回復したから今はなんとも」
使用する魔力も100分の1程度だった。これくらいの消費なら全く問題ないな。
俺は扉が閉まっているボス部屋を見やった。もしボスが倒されているなら扉が開いているはずなので、今は復活しているのだろう。
「とりあえず復活している10層ボスを倒してみようか」
「出口側の扉がちゃんと開くのかも微妙な所だけどね。本来ボス倒したら勝手に開く扉じゃん」
「まあ、物はためしさ。扉が開かなくて倒すのが無理でも11層でその分を稼げれば問題無いしな」
うまくいくかどうか半信半疑だったが、良く見ればボス部屋の扉はこちら側から閂がかかっており、おそらくはボスを倒すと外れる魔導具なのだろう。もちろん手でも外すことができたので、そのまま中に入ると見慣れたサイクロプスがこちらに背を向けて膝をついていた。
「こっちからじゃいい的だな」
隙だらけの背中に魔法を叩き込むと、サイクロプスは何もできずに塵に返った。そしてその場に魔石と単眼、そして久々に大鉈が落ちていた。
「簡単に金貨180枚が手に入ったぞ、こりゃ凄いな」
「ダンジョンに入ってすぐでこれは大きいね。でも、本題はこれからだよ。転移門が1日1回制限付きとかだったりしたら、走って戻らないといけないんだから」
相棒の言うとおりだ。非常に便利な転移門だから、それゆえの不利益だってあるはずだ。そううまい話はないと相場が決まっている……と思ったのだが。
「かれこれ10回は転移しているけど……全然使えるね」
「そうだな。もし総使用回数が決まっているとかだったらどうしようもないし、調べようがないだろうが……って、<鑑定>すればいいんじゃないか?」
「あ、そりゃそうだね」
自分で何で始めに気付かなかったのか我ながらアホの極みではあるが、とにかく門と機械を<鑑定>しよう。
転送門 価値 ――
定位置設置型の大型転送門。古代文明黎明期から終焉間際まで数多く作られたトランスポート。一方通行だが、大量の物資や人間を一度に送り込む手段として重宝される。その使用動力には魔石が組み込まれた物が多いが、寂れた場所にある古い転送門などは個人の魔力を使用する型も多い。同時に状態維持の魔方陣が組み込まれている転送門も多く、驚異的な耐久年数を誇る。それゆえに戦略拠点として活用される事が多く、敵に使用されるならと破壊されて残骸となっている事も多い。
転移装置 価値 ――
本来一方通行である転送門をその用途に応じて行き先を変更できる非常に貴重なアーティファクトの最初期型。古代文明絶頂期にかなりの量を作り出されたが、移動したい転送門すべてにこの装置を設置しなければならない上、それぞれに連携させなければならないので結果的に使える装置は数が少ない。使用回数無制限、自動保全機能付など、高性能だが非常に管理の難しい最初期型は主に高深層のダンジョンの移動用として設置された。後に機能をオミットした簡易版が生まれ、非常に持て囃されたが転送門と同じ理由でほぼ全滅と言ってよいほど破壊された。
最終的にダンジョンにある最初期型が一番数が残っているという皮肉な状況になった。
「無制限で使いまくれる、という考えでいいのかね」
「多分。<鑑定>は必要な事を書いてないこともあるけど、嘘は書かないからね」
二人で鑑定文をじっくりと見た後、本当に問題がない事を改めて確かめた。流石あんな隠され方をしている転移門だ。かなり都合の良い性能をしている。
とりあえず使っても問題がないことは解ったので、20層にむかう。目的は20層のボスを直接この目で確認して改めて何者なのかを確認する事だ。出来ればどういう攻撃するのかも確かめておきたい。さっきはとにかく突破する事しか考えてなかったからな。
20層のボスがどんな動きをするのか、その対処法なども手に入れておきたい。本当は睡眠をとって万全の態勢で向かうべきなんだろうが、今もかなり体は動いていて調子は良い。むしろ休んで体の調子が微妙に崩れてしまう可能性のほうが怖いのでこのまま戦う事にする。リリィも体調に問題はないし、そもそも彼女に睡眠は必要ないはずだ。よく寝ているように見えるのは俺は寝ているから彼女も真似してるだけのはずだし。
「準備はいいか?」
「こっちは問題なーし。にしてもほんとにやるの? サイクロプスのときもかなり遊んでたけど、それで痛い目見たじゃないの」
「あれは研究だよ研究。今回もそうさ、もしギルドにどんな奴だった? と聞かれて魔法で一撃でしたなんて答えたら嘘だと思われるかもしれないし、攻略情報を提供するのも冒険者の仕事のうちさ」
「本音は?」
「使えもしない金を稼いでひたすら効率重視じゃ飽きるんだよ。たまには危険を楽しむのもいいじゃないか」
「うわ。理解できないわ」
そう言いつつもついてきてくれるリリィに内心で感謝しつつ、俺達はボス扉の閂を外して中に入る。
楽しんで頂ければ幸いです。
前回は色々後回しでとりあえず脱出を優先したので、20層関係を丁寧に解説していく話になります。
感想、閲覧、誠にありがとうございます。
これからも頑張ります。




