異変 3
お待たせしております。
「ちょっとユウ、どれかわかんないけど、何か……光ってるよ?」
「光るって何が? 発光する珍しいものなんて入れた覚えないぞ」
リリィが嘘を言っていない事は解るので俺もその品物を探してみた。俺は自分の<アイテムボックス>に顔を突っ込むなんてことができないので<あんたがやらせたんでしょーが>一覧表示を見てみる。
最近のドロップアイテム大量入手が影響して<アイテムボックス>内は非常に混沌としている。それにギルドにも提出していないので品物が結構貯まっている。価値の高いものと大量にあるものは殆ど魔約定に吸わせているが、それでも食料系や捨てる場所に困るダンジョンモンスターの塵とかが数十トン貯まっているのだ。
今日だけでも魔力水を非常に大量に入手したが、<アイテムボックス>の中では”魔力水 2000トン”の一文にすぎないので、単純に種類が多いのだ。いくらでも入るから後先考えずに手当たり次第突っ込んでいるのが原因なのだが。
だが、それも整頓一つですっきりする。今まで入手順に乱雑だった一覧が最古順から並び替えられる。特に様々な基準で並び替えられる機能は重宝する。
特にドロップアイテムや消耗品、水食料を瞬時に並び替える機能は本当に助かっている。
その中の一つに、保管中のアイテムで変化があったものを選び出すものがある。
そこにひとつの品が選び出されていたので、取り出してみた。光っているのは多分これだ。<アイテムボックス>の中でどのように発光現象を確認したのかは謎だが、まあ相棒の存在自体がかなり謎……っと、そんな事をやっている場合じゃなかった。
「何だっけこの筒?」
「ああ、あれだよ。王都……のダンジョンに閉じ込められたとき……チートゴーレムの落としたやつ」
俺の言葉に律儀に答えてくれる相棒だが、もう身動きが取れないほど弱ってしまって俺の懐の中にいる。ここは他よりも若干楽になるようで、悪い知らせが続く中でほんの僅か安堵した。
「そういえば、そんなこともあったな。んで、光ってるな」
その筒は淡く発光しながら点滅を繰り返している。試しに振り回したら点滅が早くなったり遅くなったりした。
「ねえユウ、その筒と……あそこの穴ってさ」
「俺もそう思ってた。あの穴の近づくと点滅が早くなるようだしな」
俺達は確信に満ちた顔であの穴に走り寄ると、その頃には高速で点滅する筒を差し込んだ。
”認証完了 管理者権限使用許可”
どこからか聞こえた人間のものとは思えな不思議な声のあと、さらに不思議な事が起こった。穴のあったすぐ隣の壁が消え去って、その先に新たな部屋が出現した。その中には地面に円形の紋章が描かれた青く発光する構造物かあった。
「これが、転送門か。円形の紋章は先生から聞いたとおりだが、この機械はなんだ」
転送門自体はこの紋章だと聞いている。だからこの機械そのものは関係ないはずだ。
物体の表面には何らかの文字が刻まれているが、様々な文字が解読できるはずの<交渉>スキルでは読めない文字だった。
だが、今は外に出られればそれでいい。検証はリリィが元気になってからまた来ればいいのだ。
「ユウ、さっきの筒は鍵……みたいだよ、回収して……おかないと」
「わかった。ちょっと行ってくる」
筒を引き抜いて戻ると、すぐに扉が閉まった。機械と共に気になるがこれも後で調べよう。
転送門の起動方法も聞いている。ある一定量の魔力を感知すると勝手に発動するようだ。これでいいのかと思った瞬間には転送が終わっていたようだ。
「あれ? もう終ったのか?」
俺の独り言に応えてくれたのは見慣れた壁だった。同じような造りをしているので解りづらいが、壁の構造が10層までのものになっている。11層からは緑がかった石畳なのに対し、10層までは土っぽい色をしているから見ただけで判断できる。
事実、先程まで動けなかったリリィが俺の懐から顔を出せている。
「だいぶ楽になってきたよ。地上が近いのは間違いないね」
「そうか、じゃあここが1層なのか。まあ出てみれば解るか」
壁があった場所にも先程あった穴と同じものがあった。リリィの言葉に従って回収しておいて良かった。下手をすればまた20層に戻って取りにいく羽目になっていたかもしれない。転送門はどこも半永久的に使えるようなので問題ないが、また夜営覚悟で20層まで行くのは御免だった。
先程と同じように一瞬壁が光ると消えており、通路側に出るとすぐ先がダンジョンの入り口だった。
とにかくリリィを地上に上げるべく今は何も考えないようにしてダンジョンを脱出する。
「ふぱあーっ!! 生き返ったぁ! やっぱり地上はいいね、リリィちゃん大! 復! かぁーつ!」
「は? ええ、そんなんでいいのか!? もっとちゃんとした治療とかそういうのは?」
「もう大丈夫だよ。こうやって大地の上に居ればすぐ治っちゃうから。いつもは一日は保つんだけど、やっぱり一日近くもダンジョンにいると切れちゃうんだよね。さっきまでのは人で言うと呼吸を止めていたようなものだから。呼吸だって止めたままだとだと死んじゃうくらい苦しいけど、また呼吸をすればすぐ楽になるでしょ。そういうものなの」
リリィが嘘を言っている感じはないが、さっきまであれほど苦しがっていたのが嘘のような回復ぶりだ。あの不快感は俺も感じていたのでもう大丈夫なのは間違いないようだが、こうまであっさりと治るとなんか釈然としない気持ちもある。
「まあ、良くなってよかったよ。だけど、今から帰って休むか?」
「うーん、なんかそういう気分じゃないんだよね。折角だからさっきの転送門を調べようよ」
こっちもさっきまでの緊迫感で完全に目が冴えてしまって今から宿に帰って寝るのはどうかと思っていた。
それ以前に既に宿は閉まっているだろうし、この時間で開いている店を探す方が難しい。王都ならダンジョンは四六時中人が常駐しているが、ここではそんな事もない。ダンジョンに挑む冒険者の少ないウィスカでは費用対効果が見込めないのだろう。だから俺達も気兼ねせずダンジョン前で会話ができるわけでもあるが。
このまま寝ているだろうハンク爺さんの宿の鍵を開けてもらうのも忍びない。
「そうだね、それに一応20層のボスドロップも確認しようぜ。さっきまでそんな余裕なかったからな」
「確かに。普通はそっちをまず確認すべきだしね、どれどれ何か手に入ったのかな」
<アイテムボックス>の新規入手欄には3個のアイテムがあったので、それぞれ<鑑定>する。
キリング・ドールの義眼 価値 金貨50枚
殺戮人形の両目に嵌っている魔石。魔石の多くは互いに反発する作用を持つことが多いが、この魔石は連結して使用可能な数少ない貴重な魔石。
単品では金貨50枚だが、数が揃うと価値は飛躍的に上がる。貯蔵魔力では5等級の魔石に過ぎないが、数が揃う事によりが2等級の魔石を必要とする魔導具の起動を可能とするからである。
ミスリルのインゴット 価値 金貨200枚
未使用ミスリルの加工前インゴット。4大属性全てにおいて非常に高い魔法防御力を持ち、なおかつ魔力親和性も高いミスリルの鋳塊。癖がついていない加工前の物は非常に貴重。
武器防具、装飾品全てにどれに使用しても高い価値がある。
転移環 価値 金貨500枚
環同士を移送させる事が可能な古代文明の英知の結晶。起動には様々な制約があるが、距離と時間を一瞬にして縮めたこの品を以って古代文明は隆盛を極めた。
これは個人用の小型のポータブルサイズ。持ち運び可能で何度でも設置可能だが、非常に繊細なので故障事例が数多くある。取り扱いは慎重に。
「なかなか高そうじゃないか。売れば全部で金貨750枚か。流石ボスだな」
「……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! ミスリルが出たのよ! それにあのポートサークルまで! 初回討伐報酬かもしれないけど、これだけでマジで歴史が変わるわよ!」
たしかにミスリルは凄そうだ。たが、転移環はどうかな?
「なに言ってんの! 個人で<転移>が使えるようなもんなのよ! 凄くないわけないじゃない」
「たしかに、使えればそうだと思うけどさ。でもさあ、今まだ一個しかないんだぜ? どこからどこに転移するのつもりだよ?」
「あ!」
転移環は直径二メトルくらいの輪っかなのだが、これは入り口なのだ。出口がなければ移動は出来ないだろう。今の段階では全く意味をなさないアイテムに過ぎない。あのボスも気前良く2個くらい落としてくれればいいのに。
「まあ落ち着こうか。どんなに凄くたって今は絵に書いた菓子さ。後で先生のところに持ち込んで話を聞こうぜ。それよりも転送門を見に行くんだろう」
「そうだった。あの機械をじっくり調べたいのよねー。多分何かあるよ、さっき聞こえた変な声も管理者権限とか言ってたし、特別なものだと思う」
すっかり回復したリリィの調子を改めて確認した俺達は件の転送門を調べるべく再びダンジョンの中に戻るのだった。
残りの借金額 金貨 14995221枚
ユウキ ゲンイチロウ LV218
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV263〉
HP 3069/3069
MP 2574/2574
STR 605
AGI 602
MGI 635
DEF 595
DEX 529
LUK 352
STM(隠しパラ)758
SKILL POINT 975/985 累計敵討伐数 10512
楽しんで頂ければ幸いです。
20層突破! なんですが主人公たちは感慨に浸る間もなく脱出して、むしろ改めて20層ボスを倒しに行こっか? という状況です。なんだこれ。
一応ボスを撃破したのでレベルががっつり上がってます。強敵です、ホントに。
ちなみに転移環はど○でもドアです。大きさは平均的なプラフープみたいなものをイメージしてくださればよいかと。超絶チートアイテムですが、いろいろとあります。そこは次の話で詳しくやるつもりです。
これからもよろしくお願いします。




