酒場にて
ちょい長いです
冒険者ギルドに併設された酒場”栄光の傷跡”亭で喧騒が止むことはない。
冒険者を主に相手にしているため、昼夜問わず人混みで溢れている。昼間は酒こそ出さないが、かなりしっかりとした料理を喰わせる店とされていて、冒険者はもちろんのこと力仕事の男たちにも受けがよかった。夜の帳が下りた今は活気で満ち溢れているが、酔漢はいても暴れはしない。
なにせすぐ隣は冒険者ギルドなのだ。仕事上がりで素面の腕自慢たちに叩きのめされる事は確実だろう。
夜は女がいないのが不満と言えば不満だが一仕事終えた連中が一杯ひっかけるには最適な場所ゆえ、人気が高い。
当然待ち合わせにも良く使われ、場違いな客も散見されたが、馴染みの客はいつものことと大して気にも止めなかった。
そんな”栄光の傷跡”亭に俺はいた。
人と会う約束があったのである。無論、この世界に縁もゆかりもない俺ことユウではなく、ライルが交わした約束である。同郷の先輩がこの街にいて、色々話をしてくれる約束を故郷の父親が取り付けておいてくれたのである。
若くして過酷な道に旅立たねばならぬ息子を思う親心に思わず目頭が熱くなる。同時に自らの境遇を思い起こすと、涙が止まらなくなりそうだったので止めておいた。
父親からはここにいるようにとしか聞いておらず、日が落ちる前からこの席に座りっぱなしだ。酒場の店主がなにか言いたげ視線を送ってくる。注文の一つもすべきなのは分かっていたが、幾つかの要因でそのままである。(金がないのが一番大きな理由だった )
「お前がライルか?」
人混みが苦手なリリィは俺の懐で寝息を立てている。ならばと暇潰しにとマップスキルと<鑑定>で遊んでいた俺に男の声がかかった。
「はい、あなたが父の言っていた冒険者の方でしょうか?」
「ああ、そうだ。俺はブラックって者だ。お前さんのことはランドさんから聞いてるぜ。よく見りゃ顔はテレシアさん似だな」
俺は立ち上がって挨拶した。ライルの父と母の名を出した男を見れば<マップ>が中立を示す灰色から味方の青に変わっていた。
「母もご存じだったのですね」
「俺の生まれは隣村だが、あの村でお前さん家を知らん奴はいないよ、当事者じゃわからんかもしれんがな」
ブラックという男は、そう言って相好を崩した。30がらみのひげ面の男で、2メトルはあるそうな巨体を黒い革鎧が包んでいる。得物は背に担いでいる戦斧だろう。
俺のいた卓に何の飲み物もなかったのを気づくと、マスターに失礼だろ、とエールを二つ頼む。口調は怒っていたが表情はまんざらでもなさそうだ。目下が礼儀を心得ていることがわかって嬉しいらしい。
<交渉>スキルの効果で相手がどう思っているのかなんとなく解るが、これもズルいな。相手を丸裸にした気分だ。いや、遠慮なくガンガン使うけど。
「ランドさんからは冒険者ってものを話してやれってことだったが、一体何を聞きたい?」
このオッサン、向かいの木の椅子に座ったら椅子が思い切りきしんだぞ。何キロあるんだ? 無意識に<鑑定>していたらしく、勝手にステータスが現れた。
ブラック
年齢 31 レベル24 職業 戦士LV20
スキル 戦士LV2 <回転切り> <hpアップ> <STRアップ>
ガーラント大陸ランヌ王国キース伯爵領ソネル村出身。木こりの次男として生まれる。18の時に村を出て冒険者になる。現在、ウィスカの街では中堅チーム、5人パーティーの“五色”の前衛として活躍中。得物は戦斧 銘ブラスト(風のエンチャント付き)気のいい性格で金使いが荒く、女に弱く流されやすい。だが、けして無能ではない。
結構シビアな評価を下すな、<鑑定>よ。目の前のブラックは俺が<鑑定>していたことなど露知らず、運ばれてきたエールを一気に干した。二つ頼んだのでもう一ついくのかと思ったら手をつけない。
ということはもしかして……。
「あの、もしかしてこれ……」
「ガキが遠慮なんかすんじゃねーよ!飲め飲め!」
おおう、このオッサンいい奴だな。だが今の俺は酒なんて飲んだことないからアルコールがいけるか分からんな。こればかりは体質もあるし、どうかな。
「まあ、ガキにはこいつはちときついか……軽いのにしといてやる」
俺が躊躇しているのを強すぎると思ったのか、マスターに果実酒を頼むと手のついてないエールは彼がまた一気に飲んでしまった。どうやら酒以外の選択肢はないようだ。確かに下戸の冒険者など舐められるだけから、嫌でも飲ませるのは悪くないと思うな。
新たに届いた酒で乾杯したあと、この街の冒険者ついて聞いてみた。
「ギルドの依頼を見たんですが、ダンジョンの街にしては街の外の依頼が多くないですか?」
「逆に聞くが、お前さん、この街のことをどれくらい知ってるんだ?」
ブラックは不味い酒に当たったような顔をしている。話題を間違えたか?
「いえ、ダンジョンのある街くらいしか。この国には他に2つ似たような街があるくらいで、あとは村から一番近いダンジョンというくらいです」
「だろうな 何も知らなきゃしょうがねぇ。あまり大きな声じゃ言えねぇが、この街のダンジョンは”初心者殺し”って言われてんだ」
そりゃまた物騒な言葉が出てきたな。
「初心者殺しですか。第一層からモンスターがそんなに強いんですか? それとも罠が凶悪とか」
「いや、そんなもんじゃねえ。モンスターの強さは他のダンジョンとそこまで変わらねぇさ」
ブラックはそこで言葉を切った。言ってしまうべきが悩んでいるようだ。これまで相当の酒量をきこしめしているだずだが、この話の最中の彼は全く酔っていないようだった。
「問題はな……数と勢いだ。――俺もこの国のダンジョンはここと王都リーヴの”リルカのダンジョン”しか知らねえから比較はあまりできねぇんだが、それにしても数が多すぎた。
もう5年も前になるが俺は今組んでる仲間と他にも声をかけてダンジョンに潜ったことがある。油断なんかしてやしなかったぜ、ヤバいダンジョンってのが十分に解っていたからな。準備も入念に行った、魔法職だって8人も居て総勢20人近くの大パーティーだった」
苦い酒を呑んでいるかのような顔だった。<交渉>のスキルがなければ、けして誰にも話さずに墓にまで持っていくような忌まわしい過去だろうことは容易にわかった。
俺は姿勢を正して聞き入った。彼は淡々と語った。感情を必死で抑えているのだろう。
「それでもだ。俺達は地下第二層の階段にさえ到達できずに引き返した。降りてすぐの階層で引き返すことしかできなかったんだ。理由はさっき言ったろ、敵が多過ぎたんだよ。俺達は潜って2寸(分)もしないうちに敵と遭遇した。無論、負けはしなかったが、敵はいつも15体以上であらわれた。酷い時は30近くいたぜ。
ダンジョンはモンスターがどこからともなくあらわれるのは知っているな? 王都のダンジョンじゃあまばらなんだが、ここはあまりにも違う。1寸(分)に1度は敵が現れやがった。結局1刻(時間)もしないうちに魔法使いたちの魔力が限界にきちまったよ。
ウチの魔法屋が弱いわけじゃねぇぞ。連中は常に魔法を使い続けていたからな。とにかく数が多かったから俺たちは向かってくる敵を止めるのに精一杯でな。
どうしても敵を倒すのは魔法でまとめて一掃というパターンばかりになっちまった。
もちろん俺たちも無傷とはいかない。治療をして帰り道も考えたら、そこで引き上げるのは仕方なかったぜ。さらにはよ、迷宮のモンスターは素材が剥ぎ取れないからなぁ。200匹位倒して手に入ったのは十数個のドロップアイテムさ。あまり出ない分、ひとつのひとつの価値はそこそこだから確か金貨数枚にはなったはずだ。だが、それを頭数で割るんだぞ。当然、大赤字さ。ウィスカのダンジョンを攻略出来るのは数を集めた一流か、本物の超一流だけだぜ………」
彼の瞳は目の前の陶杯をみていない。口惜しい過去を眺めているのが嫌でも解った。
「このおかげでウィスカのギルドは強さがはっきり二極化している。全員Aクラス以上が集まっている一流とSランクまでいる超一流はウィスカが一番多いんだ。王都のダンジョンは有名なせいか、同業者がみなダンジョンへ行っちまって浅い層なんて敵を奪い合うらしいぜ。その分ここはあまり攻略が進んでなくて、お宝と出会える可能性も高いからな」
それはいいことを聞いた。だが、商売敵が少なくてもその分強力そうだな。一体どれほどいるのだろうかと聞いてみると20パーティほどだそうだ。多いと感じたが、ブラックが言うには非常に少ないらしい。
「強い連中はダンジョンに潜り、俺達の様な中堅は主に街の外での依頼を受ける。ここいらはウィスカしか大きな町はないから、依頼も捌ききれないほどあるしな」
で、とブラックはこちらに身を乗り出してくる。デカいおっさんの顔を近づけるのはやめてください。リリィがまだ起きなくて良かった。まあ、ここからが本題なのだろう。
「それでよ……ランドさんから聞いていた話を考えると、お前ウチのパーティに入りたいのか? それならリーダーに話は通してやるが、その場合は雑用からのスタートになるが、いいか?」
ライルはそのつもりだったようだが、俺はとてもではないがその提案に従えない。ヴェテランの下で経験を積ませてもらう意味は痛いほど解っているが、下働きでは碌な分け前など期待できまい。借金が膨れ上がってゆくだけである。
だが、こちらから言い出す前に持ち出してきたということは、厚意で言ってきているはずだ。これを無碍にはできないしな。
うまい言い訳が見つからず、ここは口止めして本当のことを言ったほうがよさそうだ。
「せっかく気を使っていただいているのにすみませんが……いま、こうなってまして」
懐からあの悪夢を取り出した。ちなみに宿の部屋においてきたはずなのだが、この酒場について、腰を下ろしたら目の前にあった。どこまでも追いかけてくるというのは本当のようだ。わかってはいたが、ため息が出る。
「何だこの紙切れは。随分といい紙使ってるじゃねぇか! ガキには不釣合いだ………ってなんだとぉ!!」
おっさん、気持ちはわかるが、叫ばんでくれ。目立ちたくはない。手渡した魔約定を取り返してまた懐にしまった。
「ブラックさん、声が大きいですよ」
「あ、ああ、悪い。だがこれ、どうしたんだよ!? 額がイカレてるぞ、冗談だろ?」
「今日入会したギルドの申込書に紛れてました。うっかりサインしちゃったらこのザマですよ」
「なにぃ!? ギルドの連中め、何を考えていやがる。だがこんなもの破り捨てちまえよ。何かの冗談に決まってるぜ」
そう思うのも無理はない。この契約書がただの紙でなければだが。
「この紙”魔約定”っていう契約書らしくて……破り捨てても無効にならないそうです」
ブラックは目を見開いた。一般人には馴染みのない契約書だろう。
「これが、あの魔約定だっていうのか……はじめて見たぜ。この紙だけで金貨数枚の価値があるっていうじゃねぇか」
「差し上げましょうか?」
俺は笑って言ったのだが、おっさんは思い切り身を引いていた。
「いるかよ! しかし、何だこの1500万とか! ガキの遊びみてぇな額にしやがって! これがマジだってのかよ……」
さすがヴェテランだけあって魔約定の何たるかは知っていたようで、この事態が冗談でもなんでもないことを理解してくれた。
「ええ、ですからそちらにお世話になると、色々と面倒が起きるはずです。有難いお話だとはわかっているんですが……」
俺は正直に頭を下げた。厄介事をそっちのパーティに持ち込むのも気がひけた。
「話はわかったぜ――だが、返すアテはあんのか? おまえまだド新人じゃねぇか」
「それをいわれると苦しいのですが、それでもやるしかないかと…」
「マジか……徒手空拳かよ……」
おっさんは頭を抱えている。あ、それ今まで俺がやってたわ。
「それと、名前を変えようと思います。ライルのままだと故郷の家族に迷惑がかかりそうなのでユウと名乗ろうかと」
ブラックは真剣な目でこちらを睨んで来た。その瞳は酒精に冒されてはいなかった。無茶苦茶な事を言う俺を見極めようとしているのかもしれなかった。
「わかった! お前の気持ちは解ったぜ。お前、本気なんだな! 本気でこの金とケンカする気なんだな! よぅし、気に入ったぜ。貴族の坊ちゃんと思ってたら骨のある奴じゃねぇか! 俺に出来ることなら協力してやるぜ。金以外なら相談に乗ってやる」
酔いが醒めちまったとブラックは新たな酒を山ほど注文した。お前の門出祝いだ! と叫んでガンガン呷ってゆく。周囲の冒険者から冷やかされ、そいつらにも酒を奢ってゆくとなると、もう酒場は手のつけられない混沌の坩堝と化した。
酒場のマスターはため息をつき、俺は酔った冒険者たちから色々な話を聞いていった。俺は経験者の価値ある話をまともに聞くため、自分に状態異常回復の<キュア>を掛け続けなければならなかった。
ブラックが俺を紹介し、他の冒険者からも酒を勧められたからだ。ここの酒はかなり強く、薄めたりしたら軟弱と怒られた。
俺の体はまだガキなんだよ、と反論しようにも相手はすでに酔っ払いである。
だが、<交渉>スキルのおかげで有益な情報が山ほど手に入った。このウィスカでオススメの店、逆に新人冒険者をカモにしている店。”地回り”どもが経営している関わってはならない場所、周辺のモンスターの分布や稼ぎに適した場所など、酒の勢いが味方しても聞けない事ばかりだった。それに他の冒険者の知己を得られたのは大きかった。
今、俺の前で大イビキをかいている若い男はこの町でも5本の指に入るスカウトで、ダンジョン攻略を行っている超一流パーティー”紅い牙”のメンバーらしい。彼からはダンジョンの危険なトラップや迷宮の構造などを色々聞かせてもらった。ブラックはその性格から友人が多く、色々なところに顔が利くのだそうだ。
やはりコネはいつの時代も強力な武器なのだなと実感した。
その後、すっかり出来上がった連中を尻目に、中年の商人から周辺の薬草類の群生分布を聞き取っていると、四人の男女が現れた。
そして酔いつぶれているブラックを見つけるとため息と共に女の一人が魔法を唱え始めた。<魔力感知>で解ったがキュアだな。俺もさっき使ったし、仲間なんだろうか。
「ブラック。飲み過ぎ」
「すまねえ、シロル。ちょいとやり過ぎた」
僧侶の女の魔法を受けてブラックは立ち上がった。まだふらついてた所を見ると、あまり強い魔法ではなさそうだ。
同じ魔法でも、術者が違えば効果も変わってくる。俺はスキルレベルを一気に上げたから、段々強くなる形ではないんであの女が未熟だという気はない。多分威力をわざと落としたんだと思う。
「ブラックはいつもそう。回復する私の身にもなってほしい」
「シロ、今回はまだましさ。そう怒ってやるなよ」
二人いた男のひとり、装備を赤で統一した若い男が宥めていた。なかなかさわやかな好青年だった。なんだったか、リリィが言うイケメンという奴だ。ところで、なんか彼の名前が解った気がする。
「クリムは甘い」
やはり色つながりだった。後の二人の女の服装は薄い青と黄色を基調としている。そう言えばパーティー名『五色』だったな。
合わせているのか、わかりやすいな。後の二人は手のついていない酒瓶を勝手に飲んでいる。
「もうお開きだな。マスター、すまん。ツケておいてくれ」
マスターは黙ってうなずいた。時刻でいえば午後8刻頃、まだ宵の口だが、夜が早いこの世界では解散してもおかしくはない。
というのも夜の娯楽があまりにも少ないからだ。その分、朝は夜明けと共に動き出すが。
ブラックの足がおぼつかない。赤い奴が咄嗟に支えているが、あの巨体を一人で支えるのは厳しいだろう。手伝いますと言い、助けに入ることにする。その時、嗄れた男の声がした。
「若憎……」
俺のことだろう。振り向くと、今まで殆ど喋らなかったマスターが、何かを投げ渡してきた。
「必ず返しに来い」
ブラックに肩を貸しながら振り向かずに受け取ると、中身は見たことのないコインだった。意味を問うような野暮はしない。振り向いて、しっかりと頷いて酒場を後にする。
「たいしたものだな」
しばらく歩いた後で紅い男、クリムが声をかけてきた。
「何のことです?」
俺の声はいたって平静を保っていたつもりだが、体はかなりきつかった。ライルは実家では農作業を率先して手伝っていたので、平均よりも力はあるほうだと思っていたが思っていた以上に負担がかかっていた。これはダンジョンに行く前に鍛えなおした方が良さそうだ。特に体力と持久力はこれから先必須になるだろう。取得したスキル類では底上げできないものだったので、こればかりは鍛錬を繰り返すしかなさそうだ。
そしてこのおっさん、見た目通りの筋肉達磨である。得物も手伝って相当重いが、俺の反対側でおっさんに肩を貸しているクリムは平然としている。はやりレベルの差なのか。こっそり<鑑定>してみる。
クリム
年齢 23 レベル26 職業レベル 戦士LV23
スキル戦士LV2 <回転切り> <hpアップ><strアップ>
ガーラント大陸ランヌ王国イアン辺境伯ボルシュの街出身。平民の息子。状況判断に優れ、中堅チーム”五色”のリーダーを務める男。人当たりがよく、面倒見もよい。獲物は細身の片手剣。銘エリュトロン(炎のエンチャント付き)。交渉ごとに強く危機管理能力にも長けているが童貞。女に幻想を抱いており、運命の女性が現れるのを信じている男。
相変わらずシビアなことを書くな、<鑑定>は。年齢はおっさんよりも低いのにレベルは上か。ステータスはスキルしか見れないのか。<精密鑑定>は見れたはずなんだが、まああとでリリィにきいてみるか。
「酒場のマスター、ウォルトさんに声をかけられたことだよ。あの人は見所のない奴には目もくれないからな」
「へぇ。そんなすごい人に目をかけてもらえたんですか」
「お前なぁ。”雷光のウォルト”だぞ。Aランク冒険者でも上位に入っていたあの人を知らないとでもいうつもりかよ」
マジか! ライルが憧れていた有名冒険者の一人だった。雷を切ったなんていわれているらしい。思わず振り返ってしまった。
「あれが! "雷光のウォルト"なんですか!」
勢いあまってブラックのおっさんを放してしまった。クリムが必死で支えている。謝って支え直した。
うーん、この体は思った以上に非力だな、本当に鍛え直さんと駄目だな。
「そうだぞ。だから自信を持っていい」
酒瓶片手に青い服の若い女が告げてくる。名乗ると彼女はブラウと返してきた。豪快な性格なのはすぐわかった。驚くのは彼女がスカウトだったことだ。装備で理解は出来るが、戦士といわれたほうがしっくりくる。
ブラウもそれは解っているのか、余計なことを言うなよオーラがバンバン出ていた。
「いいな。私のときは何も言われなかった…」
最後の女性魔法使いである少女が(名前はフラムというらしい)ぼそりと呟いた。
「お前のときは私の後ろに隠れてて挨拶も何もなかっただろうに」
ブラウがからかうとフラムは黙ってしまい、そのまま酒瓶をあおってしまった。ただし、その瓶で5本目である。
「ブラックが新人を連れてくるかもっていっていたから様子を見に行ったんだが、本人がこれじゃあなぁ。結局、君は一人でやっていくんだろう? 大変なことも多いだろうが、頑張れよ」
「ありがとうございます。出来るところまではやってみるつもりです」
「そうか、街の外は定期的に魔物が駆除されているが、森の中はまだ危険だ。新人が深入りするなよ」
その後、俺はクリムと共にブラックを支えつつ、彼らの常宿にまで連れて行った。大通りに面したかなり高そうな宿だった。やはり中堅クラスにもなると儲かるようだ。いつもここを利用しているらしい。聞いた話では一泊金貨1枚も取るらしい。俺も早いとこ稼ぎまくってやる。
半分夢の中にいるブラックに改めて礼を言った後、俺は走り出した。スキルの準備だけでは全然足りないとは思っていたが、見通しの甘さを痛感した。まずはこの体がどれくらい動けるのかを確認したほうがよさそうだ。
「ああ、やっと静かになったわ」
リリィが懐から抜け出してきた。この妖精は寂しがりの癖に人見知りというなかなか面倒な性格だったから、俺が一人になってようやく出てくる気になったようだ。
「悪いが相当遠回りして帰るぞ。この体を鍛え直さないと、とてもダンジョンなんていけそうにない」
「ふーん、わかった。わ、星がきれいだね」
リリィは遠慮なく俺の頭の上に座った。精霊に気づかない人間には乗っかられたことにさえ気づかない。ライルも一切気づかなかった。
マップを確認しなから、街を走って一周して帰ることにした。とにかく、体を鍛えなくては。スキルで各種ステータスは上がっているはずだが、この体に馴染んでいないのかもしれなかった。
こうして、初めての夜は更けていった。
ここからひたすら訓練です。