さらに奥へ進むために 4
お待たせしております。
「おぬしも知ってのとおり、転送門とはとある地点と地点を一瞬で行き来する魔導具じゃ。古代文明時は地上にも多く作られ繁栄したと聞くが、戦争が起こると真っ先に破壊されるのでほとんど現存しとらん。あっても国が厳重に管理しとって一般には使用されとらん。唯一の例外がダンジョンなんじゃが、元々人によって設置されたものではないから厳密にはダンジョンの機能で魔導具とはいえないかも知れん、同じ技術が使われとるのは間違いないがの。恐らくダンジョンの転送門を参考に地上にも同じものを作ったと考えたほうが自然じゃの」
「ダンジョンにある転送門は大抵が節目の階層にあるのが通例じゃの。5層、10層などきりのいい階層や階層主がおる後の部屋などにあるともよく聞くの」
食事は俺の宿でもある”双翼の絆”亭で取る事にした。先生の店に行く前に野菜のお裾分けを済ませていたし、食事は戻ってこちらで取る事を伝えてあったので人数が増えても準備は問題なかった。
この所、俺が沢山の食材を持ち帰るから自分達の所では使い切れず、爺さんの知り合いにも久しぶりに声をかけたりして消費してもらっている。既にこの宿を繁盛させる気も失せ、寂れた店にしか見えない”双翼の絆”亭だが、最近は活気が出てきたように思える。相変わらず宿泊は俺だけだが、食事時にはユウナも居て、今も食卓を共にしている。アリアとユウナは元々顔見知りだったようでアリアがユウナにこいつのお守りは大変でしょうと失礼な同情をされていた。
一番の問題はユウナもあいまいな顔で頷いた事だったが。後でじっくりと話し合う必要がありそうだ。
「帰還石については諸説入り乱れていますね。ダンジョンでも入って直ぐ落ちているところもあれば、特定の層にまで降りねば手に入らないところも。さらには全く存在しないダンジョンもあります」
セラ先生に次いでユウナが情報を教えてくれた。今や、冒険者ギルドは完全にこちらの味方だ。ハンク爺さんに野菜を渡すときにユウナにも17層に到達した事実を教えている。証拠は農作物だが、これが直接的な証明になるかは難しいところだろう。最悪他の迷宮から持ってきたと言えてしまうからな。
別に俺は探索の証明をしたいわけではないが、ギルド側としてはより明確な証拠を欲しがっているようだ。一番解りやすいのはやはり20層のボス討伐になるのだろうが、それにはやはり日帰りではなく最低でもダンジョン内で一泊する必要があった。
俺達の中ではもう一泊は仕方ないのではないか? という意見に傾きかけていたが、相棒は未だに強い拒否反応がある。なので帰りの時間が必要なくなる帰還石や転送門の話を聞いておきたいと思っていた。
「帰還石の存在しないダンジョンは総じて階層が低い。帰還石の必要がないくらい浅いという事なんじゃろう。ウィスカが全20層に満たない可能性は昔から指摘されておったが、先ほどユウが口にした16層の階層の広さでそれは無くなったと見てよい。階層の浅いダンジョンは全ての領域が均等である傾向があってな、逆に降りてゆくたびに広がって行くダンジョンは深い可能性が高い。例を挙げればライカールのギレスダンジョンにベラルークのレッドダンジョン等じゃな。どちらも100層を越える大ダンジョンじゃが、50層を越えると階層の大きさが5倍以上に広がるのじゃ。それ故にいまだに新発見や見つかっていない財宝が毎年のように引き上げられておる」
「では、ウィスカもかなり深い可能性が高いと見ていいですかね」
「じゃな。これまで帰還石が見つかっていないことを踏まえると100層近い大ダンジョンの可能性は高い。高いが故にその難易度と相まって、あれほどの冒険者を揃えていながら遅々として攻略が進んでおらんのは問題じゃが。それにユウよ、転送門の話はよいが20層までの道筋はついたのかえ」
「あ、お師匠様。こいつは既に19層までは到達したとさっき言っていました」
「なんと、それは誠か!」
「初耳ですね。それはギルドに真っ先に報告すべき事だと思いますが」
老婆と怜悧な美人に詰め寄られたが、これは話さなかったわけではない。ユウナが先にお土産を持ってギルドに戻ってしまっただけだ。どの道こうやって顔を突き合わせているのだから、後でも良いかと思っただけである。
「と言っても、あそこまではたいした手間じゃなかったしね。19層が凄く広そうだったから見るだけで引き返しただけなんだけど」
16層のでぶ鳥、ヒュージ・ダックのモモ肉の炙りに噛み付いているリリィがとりなしてくれた。
「リリィの言う通り、17層は安全地帯、18層に至っては小さい島がぽつんとあるだけなんですよ。階段も目の前にあって直ぐ降りられました」
「なんと、それは随分と変わっておるのう」
「今、島と言いましたか? もしや18層は……」
「ああ、周囲が水に覆われていた。多分水棲モンスターが一杯いるんだろうな。姿は見えたけど、こちらに向かってくる気配は無かったからそのまま19層へ降りて、そこで確認だけして直ぐ戻ってきたんだ」
環境層はどうやっているのか知らないが、現実の時間と同期しているようで、日がだいぶ陰ってきていた。時間を気にしつつ全速力で地上へ戻りながら18層でのんびり釣りでも楽しむのは何時になるだろうと思った。
待ち遠しい未来だが、それは転送門が本当にあるのか確認してからになるだろう。
「そんなわけで、残す所はあと19層だけなんですよ。3日後は終日休日にしようと始めから決めていたんですが、その休みの前に迷宮に一泊して確実に20層を目指そうかと。そのときに転送門があっても見逃していたら勿体無いので先生に話を聞きに来たという訳なんです」
俺の言葉を聞いたセラ先生はため息をついて天を仰いだ。
「やれやれ、行き詰ったと嘆いていたのは一月もならん前じゃぞ。それが今では並み居る冒険者を抜きさって先行者として20層に挑もうとしておるとはな」
「私はダンジョンで泊まるなんて本当に嫌なんだけどね。ユウがどうしてもって言うから仕方なく付いて行ってあげるの」
「悪いな、本当なら地上で待っていてもいいと言ってやりたいんだが」
「もういいよ、初めてのボス戦は私たち二人で挑まないと何があるか解らないからね」
リリィだけでなく俺も本当はダンジョンで宿泊などしたくない。17層が安全地帯だと分かったので安心して眠る場所には困らないが、出来ることならこの宿の固いベッドで眠りたいのだ。だが、このままでは収入は頭打ちだろう。今でも額としては十分過ぎるほど稼いではいるのだが、借金返済という意味では全く物足りない。この推移でいくと後30年ほど返済を毎日続けなればならないからな。
転送門が見つかれば帰還の際の時間をほぼゼロに出来るのだ。現状では三時間ほどかけて戻ってきているが、それを全て探索と敵の撃破に使えれば収入はその分大きくなる。もし帰還石があれば転送門がある層まで足を運ぶ必要もなくなるので、是非とも発見して稼ぎまくりたい。
俺は先生たちと話し合いなから、来るべき明日への準備を整えていった。この探索が、これからの俺達を占う大事な試金石になるのは間違いないだろう。気合を入れてかからねばならない。
残りの借金額 金貨 14996353枚
ユウキ ゲンイチロウ LV179
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV198〉
HP 2687/2687
MP 2015/2015
STR 497
AGI 491
MGI 501
DEF 475
DEX 427
LUK 298
STM(隠しパラ)728
SKILL POINT 780/790 累計敵討伐数 7965
楽しんで頂ければ幸いです。
話の最後に出しているパラメーターですが、主人公が本格的に狩り出したのと
敵が強くなっているので撃破数がこれから跳ね上がってきます。今は平均一日800体ですが
これからもっと酷く(笑)なっていく予定です。




