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さらに奥へ進むために 3

お待たせしております。



「我が君、今日の収穫だ。受け取って欲しい」


 そう言ってレイアが差し出した銀色液体の入った小瓶を<鑑定>する。綺麗な魔力の流れを感じたから、かなり質のよいものだ。劣悪な品になると手に取った瞬間に残念な魔力になるから出来はそれだけでわかるのだ。そういったクズ品は王都の雑貨屋の息子であるアランに使ったように、適当な場所で使うようにしている。捨てるにももったいないし正規品よりも能力は落ちるので遣い所はないが、多少の回復能力はあるので感謝はされるのだ。

 そして、<鑑定>結果は、



  ライフポーション (上級)  価値 金貨3枚


 ポーションの一種。魔法液には怪我を治す通常ポーション、魔法力を回復するマナポーションなどがあるが、このライフポーションは使用者の病気や状態異常を回復する。

 上級ライフポーションは回復魔法の<キュアオール>に相当する魔法薬で、高位の薬師と錬金術師の協力によって作成される。即死系や脳に深刻な損害を与えうる病気や毒を除いた全てを回復する。



「凄いじゃないか! 上級のライフポーションなんて初めて見たぞ。先生の店にも置いていなかっただろう? 俺の話をどこかで聞いてくれていたんだな!」


「ああ、セラ殿のご教授とアリアの協力で見事作成に成功した。どうかこれを受け取って欲しいのだ」


「いやいや、こんな高価なもの受け取るわけには行かない。むしろこの店で売ったほうがよほど意味があるだろう。訪れる冒険者にとっては保険として手に入れておきたいだろうしな」


 俺は断ろうとしたのだが、レイアが頑として聞き入れない。レイアがここに来て自分が何も貢献していない事を気にしているようだ。これは気にするなと言っても逆効果だな。


 もともとは、俺がセラ先生に公爵家令嬢シルヴィアの事情を説明した事が切っ掛けだった。ソフィア達は決して口にしないが彼女の状況は芳しくないのだろう。リリィからもその話題が一向に出てこないのだ。俺達がシルヴィアを心配している事は知っているから、もし回復しているなら真っ先にこちらに報告が来るはずだからだ。

 俺はどんな病気も治す都合のいい薬はないですかねと駄目元で聞いてみたのだが、セラ先生はさも当然のようにライフポーションを使えばいいじゃないかと答えてくれたのだ。作成に必要な材料は特殊なものが多く、公爵家に伝手があるセラ先生を通じて集めてもらっている最中だと思ったが、上級ライフポーションの作成に早速成功したようだ。

 俺は求めているのはありとあらゆる病気を治すという特級ライフポーションなんだが、材料の銀龍の爪とやらが全く出回らないので公爵家と共に探している最中だった。ありとあらゆる調合を可能とする<至高調合>を折角取っているので俺がやってみてもいいのだが、やはり本職に任せたいともし材料が手に入ったらセラ先生にお願いするつもりである。



 俺達の言い合いに懐の相棒も起き出して来てしまった。今日はダンジョンを出てからずっと眠っていたのだ。どうも眠くて仕方ないらしい。


「解ったよ、有難く使わせてもらうことにする。材料費くらいは払わせてくれよな」


「いやいや、ウチの裏の薬草園で取れたものばかりさね。気にする事はない」

 

 先生の家の裏庭はかなり大きく、そこでポーションの材料となる薬草を育てている。俺が帰り際に風呂を作って帰るのもこの庭のはずれである。そうだ、薬草園で思い出したことがある。


「そういえば先生、裏の薬草園の土は特別なものなんですか?」


「無論そうじゃ。薬草が育つ土壌は魔力を豊富に備えていなければ只の草になってしまうでの。5年に一度森の奥に入って土を採取しておる」


「じゃあ、迷宮の環境層の土はどうですかね。野菜とまとめて持ってきたんでかなりの量があるんですが」


「ほう! それは興味深いの。今まで土を持ち帰る酔狂な輩はおらんかったからの。試してみる価値は大いにあるの」


 先生に促されて裏庭に出る。既に日の落ちた闇の中、光源を出して指定された場所に土を置いてゆくと畝のような形に形成された。姉弟子が早速色々試しているようだ。今までの畑とは別に新しい畑を作って比較するようだ。結果がでるのが楽しみだと思っていると、雨がポツリと降ってきた。


「しまった、雨が降ってきたのう。アリアや、天幕を! 薬草畑は計算された水量で育てんと効能の強弱がでるのじゃ。効果が不揃いのポーションは買い叩かれるでの、こうやって雨から守ってやらねばならん」


 夜に不意の雨が振ると大変なのよ、と姉弟子が急いで店の奥に引っ込むのを見て、相棒が温室みたいなものがあればいいのにねと呟いた。温室か、確かに温室の起源はこういった薬草や冬季に作物を安定して育てるためのものだというが、硝子製で非常に高価だからそれこそ王侯貴族の屋敷でないと無理だろう。そういえば公爵邸にも小規模だがあったな、立ち入りはしなかったが中に植物があったの覚えている。


 だが、硝子以外で温室なんて無理だろう。太陽光を取り入れるために透明でなければならないが、他にそんな素材……あるじゃないか!! 今日試しに取ってみたわ。


「先生、今これから温室建てませんか? お手伝いできそうな気がしてきました」


「お主、最早なんでもアリじゃな。どんな奥の手があるというのじゃ?」


 論より証拠だ。16層を区切っている透明な壁を取り出した。向こう側が見通せる透明度、そしてダンジョンの壁材となる頑丈さを考えれば建材として使えないはずがないだろう。


「これは、もしや話にあった環境層の透明な壁かの?」


「はい。硝子のように売れないかと山ほど仕入れたんですよ。この量を持ち帰れるのは自分だけでしょうけど」


 言いつつ、次々と壁を取り出した。大きい方がいいと思い<範囲指定移動>で壁を無理やり剥がすという強引な方法だったが、ダンジョンの壁は直ぐに元通りになってしまう。それを利用して10×10メトルの大きさの物を50枚ほど取ってきたのだ。適当な大きさに加工すれば必要量は十分だろう。

 <空間把握>や<構造把握>は建設にも応用可能、というよりこのスキルを一番多く所持しているのは設計士だ。頭の中に正確な図面を書ける優秀な技術者はほとんどこれらのスキルを持っているという。


 ものの半刻で立派な温室が完成した。扉や屋根の調整や細部は専門の業者を呼んで仕上げをする必要はあるだろうが、日光を取り入れつつ雨を除ける機能としては十分だろう。温度の調整は都合の良い魔導具を先生が持っているという。これで真冬でも夏の気温が維持できるとなれば、色々な薬草が栽培できるはずだ。逆に真夏に肌寒い温度も可能ということである。セラ先生の皺だらけの顔には喜色が浮かんでいる。色々想像がはかどっているのだろう。


 これで魔法は建築にも使えるのが判明した。世の魔法使いはもっといろんな場面で活躍できるはずだな。この世界の魔法職は戦闘分野に重点を置きがちで他の研究がおろそかになっている気がするな。こういう建築や輸送に魔法技術をふんだんにつぎ込めば国はもっと豊かになるだろうに。


「そりゃ、戦争に魔法が使われるのは他に代用が出来ないからよ。魔法を使えば『便利』になっても『替えが利かない』ものはそれに頼らざるをえないってわけ。国のお抱えは名誉でもあるしね。でもこれを見れば魔法の可能性は広がるわね」


 出来上がった温室を見ながらアリアが答えてくれる。俺、今口に出してたっけ?


「顔を見れば解るわ」


 なんか通じ合っているみたいな事を言われてしまったが、姉弟子の表情は明るい。毎度の雨に苦労させられてきたのは主に彼女なのだろう。


「ユウ!! でかしたぞ! これは売れるのじゃ!」


 セラ先生は壁が金になる可能性で盛り上がっている。壁を取ってくるのが俺でなければこちらも素直に喜ぶのだが。


「流石、我が君だな。この短時間で建物を建設してしまうとは。従者としても実に誇らしい」


「褒めても何もでないぞ。仕上げもしていない簡単な掘っ立て小屋だし魔法が習熟すれば君もできるようになる」


「あ、照れてる、珍しい!」


 リリィ、余計なことは言わんでよろしい。相棒を掴んで懐に押し込むともがもがいっている声を無視して先生に向き直る。


「それはそうと、先生。先ほどお願いしたお話の件なのですが」


「おお、そうじゃったの。長くなるから食事をしながらでも話してやろう」


楽しんで頂ければ幸いです。


今回出てきた透明な壁はアクリル板をイメージしてもらえればよろしいかと。あれを分厚くして

建材として利用したんですが、実際の所は素人の作ったものなので現状はかなり不出来な代物です。

強風が吹けば崩れはしないものの、建物がズレかねないほどいい加減です。

 この後で本職を呼んで改めて補強、手直しをしています。セラが大喜びしているのは、素材としての底知れぬ可能性を感じたからです。


最近忘れております謝辞です。

ご覧頂いている皆様、拙作にブックマーク、評価いただいている皆様に深い感謝を捧げます。


これからもよろしくお願いします。

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