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さらに奥へ進むために 2

お待たせしております。



 16層の下へ向かう階段の位置だが、先程の図でいうと左上の正方形の隅に小さな泉がある。環境層は本当に何もかも再現するようで、動物が食べる草や水はおろか、林や草花に昆虫までしっかり存在した。それでいてモンスターたちは別に食事を取らなくても平気らしいのだが……ダンジョンの不可思議さには困惑するばかりだが、恩恵も多いしいちいち文句をつけても仕方ないのでそれは脇に置いておく。


 その泉は小さな滝となっていて、滝であるならその元である水の流れる場所が存在する。そのダンジョンにおける滝は壁と接する場所にあって、岩場を形成していた。

 まさかその岩場の石の一つが簡単に外れ、その奥に人がやっと通れるくらいの道が存在して、その先に階段のある祠があるとは誰も思うまい。俺も魔力に()()を言わせ、無理矢理に階層全体に手を伸ばしてその穴の存在に初めて気づいたのだ。あれじゃ普通に探索しても絶対に気付けないだろう。大抵のやつは地面を探しているだろうからな。俺も始めは泉の中は怪しいと思っていたが、まさか岩が外れるとは。地面に階段がなくて焦りつつ魔力を総動員して広大な階層全体を魔力で満たす力技でようやくみつけたのだ。この方法が他人に出来るとは思えない。


「その先の17層でこの野菜を手に入れた、という訳なのね」


「ええ、17層は一切敵の出ない安全地帯で、整地された畑が並んでいる長閑な空間でしたよ。作物回収が面倒だったんで土壌ごと引っこ抜いてきたんですが、明日には復活しているみたいですし」

 

 ここにきて階層全体が安全地帯になるとは思わなかったが、もし魔物がいれば作物が食い荒らされてしまうからかもしれないな。


「土壌ごと引っこ抜くってどうやるのよ」


「そりゃこうするんですよ」


 俺は卓の上にある様々な小物を宙に浮かせた。畑を土ごと浮かせてそのまま収納したのだ。野菜の種類は<アイテムボックス>に表示されて初めて知ったくらい適当に入れた。


「はあ? やっぱりあんた頭おかしいわ。どうやればこんな魔法の使い方ができるのよ」


「風魔法の応用ですよ。物体の底から風で巻き上げるような感じで使います。やりすぎると持ち上げる物が吹っ飛んでいくので調整は要りますが」


「意味解んないわ。どうして人間のあんたがここまで精密な制御ができるのよ」


 姉弟子の言葉には悔しさよりも不甲斐なさが滲んでいた。エルフ族は人間より遥かに魔法適正がある種族とされている。まだ魔法を習って間もない俺に差でも感じているのだろうが、こちらはチートなので本当の努力を重ねているアリアのほうがよほど偉いのだが口に出すわけにもいかない。


「はは、我が君は規格外なのさ。アリアは十分過ぎるほどに優秀な魔法使いだよ」


「レイアさん……そうは言っても目の前で現実を見せられると、辛いものがあります」


 今日の仕事を終えたレイアがこちらに現れた。彼女はこの八耀亭で各種ポーションの製造に手を貸しているらしい。セラ先生にしても、魔族の手法は自分達とは異なった製法らしくて非常に興味深いそうだ。レイアも本当はこういった生産職が性に合っているようで、日々笑顔が見えてこちらも安堵した。

 初めて会った時は武辺者という印象を受けたが、彼女の実家が尚武の家系でレイアも望まないながらもそのように振舞っていたという。セラ先生たちとの出会いで思いもかけず好きな仕事が出来たようで、最近のレイアは雰囲気も柔らかくなっている。


「姉弟子、手を出してみてくださいよ」


「なによ、もういいわよ」


 そう言いつつも手は出してくるアリアを見ると本当に変わったなと思う。少し前なら絶対にこんな事はなかった。多少は信頼してくれているのだろう。


「身構えてくださいよ、いきなりだと衝撃があるかもしれません」


 王都で女性陣にやったように自分の魔力を送り込んた。もちろんアリアの自身にも大量の魔力があるが、送り込んだ魔力の勢いを利用して、姉弟子の中の魔力を思い通りに操れるのだ。これもコツがいるが既に王都で回数をこなしているので、慣れたものだ。

 正直どうやっているのか説明が難しい。言ってみれば俺は自分の体に流れる血流を正確に把握しているというべきか、どういうように力が流れているのかがきちんと理解できているので、新たに魔力を流す事でそれを操る事もできるというわけだ。恐らく自分の体ではないから、客観的に見ることが出来るのかもしれないが、検証したわけでもないのであくまで所感に過ぎない。


「嘘、こんな事が……私の魔力で、こんな制御が!」


 元々高い資質のあるアリアに細かい講釈は必要ない。自分が魔力をどのように動かしているのかを理解させれば後は勝手に自分で調整するだろう。事実、彼女は直ぐにテーブルの上の小物を自在に動かして見せた。最初は一つだったが、直ぐに全てのものが宙を舞っている。適応力の高さは俺の比ではない、俺は一日中訓練して何とか使い物になったのだ。


「凄い、凄いわ!! 魔力って、魔法ってこうやって使うものだったのね! お師匠様が仰っていた意味がようやく解ったわ」


 喜ぶのは十分に解ったから部屋中の小物を乱舞させるのはやめろよ! さっきの今でこの習熟度はやはり彼女も天才なんだろうが、ちょっとは周りを見ろと言いたい。いや、天才特有の視野狭窄なんだろうか。

 レイアは何も言わずに遠くに退避している。あいつ俺に押し付けやがったな。


「これ、アリア! 落ち着かないか。ようやく魔の極致の端に辿り着いたからと言って部屋を荒らすでないわ。お主は子供の頃からほんに変わらんの。一度集中すると周りが全く見えんの」


「お、お師匠様! も、申し訳ありません」


 セラ先生に叱られたアリアはそのとき魔法を解いてしまった。まだ多くの物が空中にあるので、仕方なく俺が引き継いで元に戻してやった。やれやれと思うものの、初めてこれが出来ると楽しいのはわかる。俺もそうだったので何も言わなかった。


「あ、ごめんありがとう」


「ユウ、すまんの。そして感謝するわい。ワシの力量では相手の魔力を動かす事は難しいでな。アリアの扉を開いてくれてありがとうよ。この子は才はピカイチなんじゃが、どうにも不器用での」


「いえいえ、普段姉弟子にもお世話になっていますし、今はレイアまで面倒を見てもらっていますのでこの程度は当然ですよ」


 特にレイアの件は有難かった。本人は俺の役に立ちたいと思っているのだが、ダンジョンに連れて行っても恐らく効率が落ちるだけで、双方に益はない。だが、同行を認めた以上は彼女の面倒をみる責任があると俺は思っていたので、先生の所で落ち着いてくれたのは助かった。こんな美人が冒険者などやられたらたちまち評判になるだろう。そのくせ俺の指示以外は聞く義理がないと平然と言うので冒険者たちと集団行動などできようはずもない。指揮権があればともかく、こっちでの実績もなく所属したての新人にそんなものが与えられるわけもない。レイアをどう扱ったものか困っていたのだ。


楽しんで頂ければ幸いです。

今は20層へ向けての準備なので少し時間かかります。この話が後2話かなと思います。


その後は20層へ向けて進み、その後でこの借金の仕掛け人の一味が現れます。(まだ途中までしか書けてなかったりしますが)

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