肉の宴 6
お待たせしております。
そのすぐ後に、大勢のギルド職員が到着し、宴会を通して俺は多くのギルド職員に名前と顔を売った。これから大いに利用しあう関係になるのだ。お互いの風通しは良くしておきたい。
理想を言えばもし俺が窮地に陥ったならば、俺が居なくなるとギルドに大きな不利益があると思わせるほどこちらに依存させたい。この宴会もその作戦の一つだ。俺が消えると肉が安く食えなくなると解れば、もし窮地にあっても積極的に俺を助けようという気にもなるだろう。
そういう打算込みでギルドには組織にも個人にも多くの利益を与えていくつもりだし、こちらも各種の特権を引き出している。
ちなみにこの場で俺が専属冒険者だと公表はされなかった。マスター権限で無理矢理決まったのでFランクでは周囲が納得しないと思ったのだろう。
俺は名よりも実を取る派なのでそれは一向に構わない。
その後、俺は各種の肉を一塊ずつ置いて店を出た。店内はまだ肉宴会の真っ最中だが俺は中座させてもらった。明日もあるし、先生のところに寄りたい。それにあまり騒がしいのは好みではなかった。
「ああ、こちらでしたか」
「もう、帰るなら帰るとちゃんと言ってほしいわね」
「ああ、姿が見えなかったから、他の人に言付けてはいましたけど」
店を出た俺を追いかけてきたのはキャシーさんに伴われたランカさんだった。
「先程は有難うございました。あの時大声を出していたら、結果として良くない結果になっていたでしょう。頭では分かっているのですか、あの人とはどうしても合わなくて」
ギルドマスター肝煎りでやってきた人間と揉め事を起こせばどちらに不利かなど言う間でもない。ランカさんのほうに最終的には責が回ってくるであろう事は想像に固くない。
「あらためてギルドの受付嬢の皆さんは大変な仕事をされているなとは思います。俺なら嫌な奴を前に笑顔で居続けるなんて無理ですよ。本当に尊敬します」
ウィスカは比較的小さなギルドだが、王都の受付嬢なんかは露骨に派閥があったりするようだ。高ランク冒険者を担当する事が名誉の証とかなんとかもあるらしく、女の戦いがあるとかリリィが楽しげに話していた。こっちは現実を見せられてげんなりしたけど。
「わたしは本当は受付嬢に向いていないんです。それは自分でも分かっているんです」
「ランちゃんは事情があるのよ。ギルマスはそこも考慮して色々仕事を振ってくれてるし、対人関係も配慮してくれてるけど、空気を読まない人はどこにもいるから」
キャシーさんはランカさんと前から友人関係で色々と事情を知っているせいか、色々と助けて回っているようだ。ランカさんもキャシーさんに深い感謝を感じているのが他人の俺からもわかる。
ユウナも笑顔とは正反対の位置に居る女だが、彼女は受付嬢ではないしな。ギルドの顔として常に笑顔で居る負担は相当なものだろう。俺も同じ複雑な事情持ちとして協力できる事があればよいのだが。
「そうだ。ユウさんの担当を私と共同で受け持ちましょうよ。彼の専属なら二人居てもおかしくないでしょう?」
「へ? そもそもキャシーさんが俺の専属だったのですか? 初めて知りましたよ」
確かに初めて登録するときに話しかけたのは彼女だった気がする。そのころの俺はライルの憑依霊でリリィと喋っていたな。たしか登録の際に、書類を持ってきたのが彼女でその後にユウナと交代したような気がする? 流石に記憶があやふやだ。その後に生涯忘れないような超弩級のヤツが来たからな。あれ? ドレッドノートってなんだっけ? 何故かふと頭に浮かんだんだが……。
「始めて受付した者がその人の担当になるのが基本的なルールです。よほどの事がないと変更は効きませんが、お互いの了承があれば可能です。いいですよね?」
「それは構いませんが、俺これからもあまりギルドを使わないと思いますよ? 今日だってユウナさんに言付けて集まってもらったんだし、そもそもギルドに出向くかな……」
「いいんですよ、こういうのは形が大事なんです。ランちゃんや私が困ったときにちょっとだけ名前を貸してくれればいいんです。私たちはあのユウさんの専属やってるんですよって言えれば」
さすが一筋縄ではいかない冒険者たちを相手にする受付嬢だ。友人を助けながらしっかり自分の利益も確保している。こういう強かな人はけして嫌いではない。
「自分の名前が番犬代わりになりますか? 登録して一月も経っていないFランクですよ?」
俺は至極当然の意見を言ったに過ぎないが、二人から冷たい視線を送られてきた。
「この町であの”嵐”の名前を知らない冒険者なんて既に居ませんよ。たとえ姿は知らなくても名前はもう知れ渡ってます。有名所がこぞってあいつは何者だと口にしてますからね。少なくとも今日付けで貴方に不利益を与える行為は禁止すると通達が出ました。今もギルドに指令書出てますよ」
は? 何でそこまでしてくれるの? 特別扱いというか、これじゃ腫れ物扱いじゃないか!
「キャシー、ユウさんその件知らないと思う。ギルマスから聞いたのだって今朝なんだし」
「ああ、そうだったわね。ユウさんがなんでも王都で大活躍したんでしょう? 今朝早くギルドにウォーレン公爵家から王家の紋章入りの書簡が届いたんです。内容は貴方にあらゆる便宜を図ることと、貴方の身柄を公爵家が保証する内容でした。これって凄い事ですよね、もしユウさんが犯罪を犯しても公爵家が責任取ってくれるってことですもの。それに王家の紋章入りって事は王家もそれを認めているってことでしょう。ギルマスなんて舞い上がっちゃって書簡を入れる額を買いにいってましたよ。ってユウさん?」
公爵閣下! 何してくれてんですか! 職権濫用にもほどがあるでしょうに。しかも事後報告とか、俺を驚かせるにしても悪目立ちするだけじゃないですか!
ああ、大貴族には目立つという事実を理解できないのかも、生まれながらに周囲に傅かれる身分じゃ常に目立つようなもんだしな。
頭を抱えた俺だが、まずは行動だ。せめて張り出されている奴を回収しなくては。
「受付嬢の件は承知しました。先ほどの指令書はまだ掲示されてますか?」
「たぶん。周知するって言ってましたから、しばらくは」
「それは却下です。何も知らない新人が権力を傘に着ているようにしか見えないのですぐに止めてください。今から回収してきますんで、ジェイクさんにはそのように伝えてください」
それでは、と相手の返事を待たずに俺はギルドに向かって走り出した。
冗談じゃない、そんな恥ずかしい指令書は一刻も早く処分してやる!
「おや、我が君。冒険者ギルドの者たちと親睦を深める会は終わられたので?」
「レイアか! 丁度良い所にきた。手伝え、一仕事する」
走っている間、<念話>で今日の予定を伝えてあったレイアが迎えに来た。彼女も<念話>がすぐに使えるようになったので実に都合がよい。これから先生の所に顔を出す予定なので迎えに来てくれたのだろうが、その前に新たな仕事ができた。
「承知した。助太刀致す」
俺達は闇の中、冒険者ギルドに向かって疾走した。目指すは阿呆な内容の指令書だ。
残りの借金額 金貨 14998967枚
ユウキ ゲンイチロウ LV152
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV176」〉
HP 2424/2424
MP 1798/1798
STR 445
AGI 443
MGI 451
DEF 423
DEX 385
LUK 263
STM(隠しパラ)641
SKILL POINT 650/655 累計敵討伐数 6387
楽しんで頂ければ幸いです。




