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肉の宴 4

お待たせしております。



「おいおい、冗談だろ!? お前が行かないで誰が行くんだよ! 有名どころも最近じゃ守りに入っちまって全体的に停滞気味なんだ。こっちはお前にそれを打破して欲しいと思っているんだぞ。何か問題でもあるのか? こっちでできることなら協力は惜しまんぞ。なあみんな?」


 皆は頷いてくれているが、さすがに”物理的”限界はいかんともしがたいぞ。


「そう言われても、日帰りで帰ってこれる限界が16層なんですよ」


「はあ? 日帰りですか!? ちょっと何を言って……」


「今日はかなり階段運が良くて低層はモンスターほぼ無視で突き進んでこの結果ですからね。16層も探索はほぼしてません。階段からすぐ先にこいつがいたので倒した段階で戻ってきたんです」


「ちょ、ちょっと待ってください。日帰りって冗談でしょう? 他の冒険者の皆さんがいつもどれくらいの期間潜っていると思っているんですか?」


「キャシーさん、驚くのは分かりますが事実です。私は経理も兼務してますので、昨日金庫から大量の金貨と引き換えにうずたかく積まれたドロップアイテムが持ち込まれています。そして、ユウさんは一昨日まで王都へ規定クエストの真っ最中でした。時間的に昨日一日で手に入れたとしか考えられません。そしてこのお肉も、今日16層まで降りないと手に入らないものであるのは確かです。そもそも、昨日の夜お会いしていますよね?」


 確かに、ランカさんにはギルドマスターの部屋に行くまですれ違っていたな。会釈程度しかしていなかったから覚えているとは思わなかった。彼女は続けて俺に質問してきた。


「ちょっと伺いたいのですが、日帰りで16層まで行けるものなんですか? ウィスカは地図があっても意味のないダンジョンなのに」


「そこは企業秘密です。こちらの冒険者としての生命線でもありますからね。でもそう考えると世界には100層近いダンジョンはどうやってるんですかね。踏破されたイスカの大迷宮とか150層なんでしょう? 一月以上潜りっぱなしなんですか?」


 すると、みんな顔を見合わせている。何かおかしなことを言ったかなと不思議がったが、相談するべきリリィはだいぶ前から夢の中だ。満腹になったら即眠るとか子供みたいだな。


「いや、みんなお前が本当に新人なんだと安心しているんだよ。今までの実績はあまりにも新人離れしてたからな」


「ええ、私たちにもお教えできることがあるんだと思いました。大きなダンジョンにはほとんど全てといっていいくらい転送門と帰還石が存在します。それを使って冒険者の皆さんは探索をしているんですよ」


「ウィスカもあるはずなんですが、未だに発見されていません。探索を行えた層が少なすぎるのが一番の原因ではありますが、逆にだから浅い迷宮なのではないかとも言われていますね」


 難易度高くて層が浅い迷宮なんて人気なさ過ぎて誰も近寄らなくなってしまいますから、私たちとしては嫌ですけど、とキャシーさんが少しおどけて見せた。転移門と帰還石か、やはりそういった未知の技術があるんだな。


 だがもしウィスカが20層のダンジョンだったとしたら彼女たちにも死活問題だろう。今、このダンジョンがなんとか活況を保っているのは他では見ることの出来ない高ランクの冒険者パーティが揃っているからだ。彼らは誰も荒らされていない未踏破階層でのお宝や、他で類を見ない装備や装飾品を求めて探索をしている。

 それが全て踏破されてしまったら、彼らは効率の悪いこのダンジョンを離れてしまうかもしれない。そうなったら残るのは異常に高難易度で実入りの悪い迷宮だけになってしまう。そうなればこの街は一気に廃れるだろう。



「俺達としてはお前にその二つの探索も依頼したいと思っていたんだが、まさか日帰りが理由で断られるとは思わなかったぞ。だが、真面目に考えてくれないか? その転移門や帰還石があると分かればその日帰りだって簡単に行えるようになるのだからな」


 ジェイクの言うとおり、もし本当にその二つがあれば日帰り探索は確実にできるようになるし、帰りの時間を考えなくていいことにもなるから、もっと探索が出来るようになるということでもある。これは確かに検討の余地があるな。せめて20層にいるであろうボスくらいは倒しておきたいという気持ちもある。

 なんにしろ、俺だけの問題でもない。そこはリリィに相談だな。



「ちわーす!! ここにギルマスが居るって聞いてきたんですけど!」


 前向きに考えますと、答えようとした矢先、この雰囲気の良いレストランに不似合いな声が響く。それを聞いた女性陣の顔が曇った。それだけでやってくる人物の評価がわかるというものだが、この声は昨日も聞いたな。


「おお、来たかフレッド。だが遅かったな、もう俺達はこの最高の肉を堪能させてもらったぞ。もう一回焼いてもらっているからそれまで待てよ」


「ええ、待ちますとも。でも遅れたのは仕方ないでしょう? あの量のアイテムの鑑定をしろっていうんですから時間はかかりますよ。一時はそこの彼を恨みもしましたが、あのタイラントオックスを喰わせてくれるっていうなら、今は感謝しかないですよ! なにしろタイラントオックスですからね、帝都でだってまともに食べようとしたら銀貨20枚は覚悟しないといけません」


 昨日に時点で顔見知りだったフレッドに軽く頷いて挨拶したが、あいつ臆面もなくランカさんとシリルさんの間に座りやがった。よくもまあ堂々とやれるもんだと思ったが、ランカさんが明らかに距離をとっている。しかも顔色はお世辞にもよろしくない。一番の問題はフレッド本人が一切気付いていないことだな。


(フレッドさんはマスターがオウカ帝国から直々に引き抜いてきた人で、仕事はできるんですがデリカシーがちょっと、いやかなり。ランカに気があるみたいなんですけどあの子、ああいう人が一番嫌いで)


 俺の隣にいるキャシーさんが俺にだけ聞こえる声で囁いた。当のフレッドは茶色のぼさぼさ頭に眼鏡の男で同じ男としては趣味に生きる研究者という感じで、なかなか面白い男だと思う。

 なお女性陣の評価は……お察しください。



 本人は得意気にランカさんに自分の仕事を誇示している感じで傍から見れば微笑ましい光景なんだが、ランカさんの表情が微妙に消えていっている。ギルマスに視線を送り、話題を変えてくれ!! と頼んだ。


「そ、そういえばフレッド。皆にも声をかけたんだよな。俺達だけが得をしたなんて思われたらたまらんからな」


 おいおい、そんな話を大きくしたのかよ? いくらでも呼んでかまわないといったが、俺はせいぜい受付嬢と暇な連中くらいだと思っていた。


「もちろんですよ。仕事を終わらせ次第、当直以外は順次こちらに向かってくるはずです。僕は昨日からずっと作業でしたから、さっさと切り上げてこちらに向かった次第です」


 は!? なんか職員みんな来る話になってないか?


「ええ、そんな話になっているんですか? じゃあ、私たちの分をいっぱい確保しておかなくちゃ解体部の皆さんに全部取られちゃうじゃないですか!! ファイズさーん、追加していいですか?」

 

 シリルさんがファイズというらしい店主(店名もファイズ・ガーデンだった)を呼んだ。むしろ話題を逸らす気配がありありだったが好判断である。先ほどのランカさんの発する空気は活火山の噴火寸前のようだったからな。視線で互いを称えあう俺達は、いまひとつのパーティのような一体感だった。


楽しんで頂ければ幸いです。



多くの方に楽しんで頂けて本当に嬉しいです。

閲覧、ブックマーク、評価、誠に有難うございます。


これからも頑張ります。


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