16層への道 4
お待たせしております。
15層はちょっと期待ハズレだった。期待しすぎたといえばそれまでなのだが、この層には俺の親友であるレイス君がその友人を伴って現れたのだ。その名もガイストとスペクターで俺の期待も一段と高まったが、喜び勇んで倒した報酬が、まさかの三種全てでレイスダストだったのだ。
もちろん5層とは違ってレイスたちは殺意全開、こちらめがけて襲い掛かってくる。魔法の武器を持たない通常の冒険者なら大量の魔力を消費して苦戦するかもしれないが、ここまで下りる実力者ならば難なく突破できるだろう。先ほど出会ったゼインが持つようなマジックアイテム所有者なら容易に突破できそうだ。
ドロップアイテム自体は残念だが個数そのものは手に入った。ガイストは常に2個落としたし、スペクターは稀に4個も落としたのだ。先ほど<アイテムボックス>内で集計したら60個以上あったので、短時間の稼ぎとしては非常に美味しい敵であるといえるだろう。
今の時刻は3時を少し回った辺りだ。帰り道を考えるとそろそろ撤退すべき時刻だった。仕方ないので16層を覗いて帰ることにしよう。聞けば現状の最深攻略層はこの16層だという。ここに到達できれば一気に攻略組の仲間入りである。探索する時間はないだろうけど敵のアイテムでも手に入れば到達した証明になるだろう。
しかし、何故未だ突破されないのかも気になる所だ。実際、敵の強さがこの段階で上がっていくのならここに来れる冒険者なら余裕で踏破できそうなものだ。先程の場面は少し危なかったが、あの状況に及んでもリグルの顔に焦りはなかった。首もとのネックレスに強い魔力反応があったので即座に魔法を発動できる宝珠でも仕込んでいたのかもしれない。こちらが勝手に手助けしただけなので恩に着せるつもりもなかったが、あちらにしてみれば余計なお世話だったのだろう。
だからドロップアイテムも辞退したのだ。リーダーのゼインもすぐに受け入れたのはそこの所の機微をわかっていたからに違いない。
その実力者たちが先に進めない層とは一体どういうものなのか、興味はつきない。
「6層は暗闇だったから、16層もそういったギミックがあるのかもね。もう着くから行けばわかるんだけど」
その16層にたどり着いてすぐ視界に入った物は何らかの紋様がはいった両開きの扉と、その前に立ち塞がる巨大な黒い物体だ。
いや、あれは見覚えがある、嫌な感じが頭をよぎりほぼ無意識に<鑑定>を行っていた。
アイアンゴーレム ゴーレム種
太古の魔法技術によって作り出された魔法生命体。術者の命令によって起動し、魔力を受けて活動する。最古のものは力ある言葉をその体に打ち込まれることで魔力の源にしていたが、その弱点が知れ渡ると次第に外部から力を供給されるものに変遷してゆく。主に拠点防衛や戦争用に多くのゴーレムが創り出され、様々なバリエーションが存在する。アイアンゴーレムは鋼鉄を用いて作られる兵種で非常に強力だが数は少ない。重要施設の警備に用いられる事が多い。
HP 350/350 MP 10/10 経験値 420
所持スキル <硬化LV1>
ドロップアイテム アイアンゴーレムの核 ゴーレムの起動核
「さすがに王都で見たあのチートゴーレムほどヤバい奴じゃないね」
「あれは明らかにおかし過ぎたからな。それに倒れても消えなかったからダンジョンモンスターじゃなかったんだろう」
目の前のアイアンゴーレムは俺を見つけたのか、重々しい駆動音を立てて起き上がった。見た目もあのロックゴーレムから一回り小さいが、鉄製のせいか圧力はこちらの方が感じるな。だが、奴には感じられなかった魔力の流れがありありとわかる。初期に作られたのだろう『力ある言葉』とやらの位置がはっきりと見えていたので対処は簡単だった。
人体でいう脇の下あたりに向けて炎の矢というか<ファイアボール>を放ってみた。すると、魔法を受けたゴーレムは体勢を崩しながらも何とか均衡を保ってこちらに振り向いたのだ。
「お、倒せないか」
「さすがゴーレム、初めて一発耐えた敵だね。ある意味中ボス的立ち位置なのかも」
焦ることなく二発目を撃つと内部で爆破し、アイアンゴーレムは立ち上がっただけでその動きを止めた。塵に帰った後で二つのアイテムだけが残る。<鑑定>に書いてあった核と起動核みたいだ。黒い拳大の四角い物体と淡く発光する何らかの文様が描かれたこちらも拳大の楕円形の物体だ。せっかくなのでこちらも<鑑定>する。
アイアンゴーレムの核 価値 金貨10枚
ゴーレムがゴーレムとして機能するための核。ゴーレム各種の専用品であり、アイアンゴーレムは材料としての鋼鉄とこの核を用いないと動く事が出来ない。太古の技術で量産されていたが、それが失われてからは古いダンジョンや遺跡で発掘される事でしか手に入る事はない。
ゴーレムの起動核 価値 金貨50枚
各種ゴーレムを起動させるための一番重要な部品。この起動核と各種の核を用いてゴーレムは起動する。かつてはこの起動核がないとどのようなゴーレムも起動する事ができなかった。しかし安価な擬似起動核が発明されてからはウッド種やロック種が無数に作り出された。だが擬似起動核は魔方陣を組み込んで作られるため、魔法耐性のあるブロンズ種やシルバー、高価この上ないが非常に優秀な魔法金属で作られたゴーレムはこの起動核でしか動く事ができない。この貴重さゆえに体内の中心部に設置される事が多い。
たとえ外郭が破壊されても起動核さえ無事ならば何度でもゴーレムは起動できる。
へえ、中々面白いアイテムだな。いくつか手に入ったら自分用のゴーレムを作ってみるのも面白いな。しばらくは売却専門だろうけれど。
「さあて、門番は倒した事だし、扉の先はどうなっているのかな?」
リリィが先行して扉に近づくが、開く気配はない。まさか、この重そうな石扉を自力で開けるのか?
「早く早く!!」
肉体労働は俺専任である事は間違いないが……相棒も俺と同じスキルが使えるのだ。ステータスはどうあれ<STRアップLV10(重複)>があるので相当の力持ちのはずだぞ。
「私は宙に浮いてるから踏ん張れないの。早く開けてよ!」
はいはい、仰せのままにと力任せに両扉を押し開けた。どうでもいいが、片方を空けても反対側も同時に開くようで非常に重い。メンバーの多くが魔法職で占めるであろうこのダンジョンで肉体労働は大変だな。
「は?」
「これは、予想外だねぇ……」
扉を人一人が通れる隙間に開けて、その先を見た俺をリリィは揃って間の抜けた声を上げていた。流石にこの光景は予想外に過ぎる。
ももぅー。
牛がもしゃもしゃと草を食んでいる。草原地帯がどこまでも広がっている謎の光景に思わず固まった俺達だが……牛と目が合った。
「モモモゥ!!!」
さっきまでの牧歌的な光景は一気に緊迫感を増した。ドドドドとっ地響きを感じるほどの速度で牛が突っ込んでくる。その角は立派に発達しており、突進を受けたら体に大穴が開くだろう。
「ユウ、来たよ!」
「ああ、解ってるさ」
あまりの事に呆気に取られたが、幸い敵は一匹なので苦戦などするはずもない。むしろ突っ込んでくるだけの敵は俺にとって的以外の何者でもない。敵の強さもそこまで跳ね上がっているわけではなく、魔法の一撃で簡単に沈んだが、俺はこの光景に言葉を失ってしまう。
「……どうなってんだよ、ここは」
現状において攻略の最深層が16層である理由を俺はたっぷりと知る事になった。
残りの借金額 金貨 15000412枚
ユウキ ゲンイチロウ LV145
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV168〉
HP 2358/2358
MP 1723/1723
STR 413
AGI 406
MGI 417
DEF 389
DEX 351
LUK 241
STM(隠しパラ)601
SKILL POINT 615/620 累計敵討伐数 5632
楽しんでいただければ幸いです。




