16層への道 3
お待たせしております。
「この魔法は我流なんで、邪道といわれても仕方ないが、話はそれだけか?」
「な、何をいきなり……こ、こいつがモンスターを連れてきたんだ。俺たちを殺そうとしたに違いないぞ」
おいおい、こいつ興奮しすぎて自分が何を言っているかわかっているのか?
「へえ、俺がスケルトンを連れてきたと。言葉に気をつけろよ”白銀の戦槍”ともあろうチームが俺を疑うわけだな。二つ名持ちのあんたの名誉にも関わるが、それでいいんだな?」
リグルは<業火>の二つ名を持つA級冒険者だ。それを証明するように全身をマジックアイテムで固めており、本人の魔力と相まって塊のような圧力を感じる。これほどの猛者が俺のような新人をいちいち的にかけるほど暇ではないはずだが、頭に血が上っては正常な判断ができないか。これは血を見るかな。
「リグル! 落ち着くんだ。サットンから<シュトルム>出現の情報が入ったのはかなり前だ。お前も聞いていただろう。骨どもが現れたのはそれからかなり後だろうが。”引いて”来たとしたら距離がありすぎる」
大柄な男が俺達の間に割って入った。手には馬上槍があるから彼がリーダーのゼインだろう。俺よりも頭二つ分以上背の高い、革鎧を身に着けた掘りの深い筋肉質な男だ。伝え聞く話から冷静で落ち着いた男だと思っていたが、その通りのようだ。
リグルの奴は他の魔法職の仲間にかなり強引に後ろに連れていかれた。嵐と正面切る気がどうとか聞こえるが、嵐だと? まさかダンジョン内に天候があるのか?
「貴方がリーダーのゼインさんですね。”白銀の戦槍”皆さんにお会いできて光栄です。俺はユウという駆け出しの冒険者です」
「俺達を知っているのか?」
「有名人でしょうに。故郷にいたときからここの有名冒険者は全て頭に入っています。あちらが<業火>のリグルさんだということもね。何故か嫌われていますが」
「普段はあんな奴じゃないんだが、ちょっと追い込まれたからかな。気にしないでくれると助かるが、気分を害したならリーダーの俺が謝罪する。それに、さっきは危ないところを助けてくれて感謝する。俺達も間に合うか微妙な所だった」
見た目が少年の俺にもちゃんとした謝罪と礼をするこのゼインという男は、たいしたリーダーのようだ。多分、リグルのほうが反応としては正しいのだと思う。明らかな異物を受け入れるか、排除するかでは大抵の人は後者を選ぶだろう。俺だって例外ではない。借金という問題がなければ俺も彼らのような一流パーティの雑用から始めたかったのだ。一人でウィスカのダンジョンを攻略してるなんて馬鹿すぎて酒場での笑い話にもならない。
「いえ、横から手を出したルール違反をしたのは自分も同じなので、気にしてはいませんよ。それよりも先に行ってもよろしいですか?」
「さすがは<シュトルム>だな。一撃であれだけ仕留めてすぐに移動するなんて、まさに嵐のような奴だ」
ん? 何のことを言って……
「まさかその<シュトルム>って、自分の事ですか?」
「そうだ。いま俺達アタッカーのなかで一番ホットな話題はお前さんだよ。ダンジョン内を走り回り、とんでもない魔法を操って更に走り回る。誰が名付けたか知らないが<シュトルム>は言いえて妙じゃないか」
ま、まさか俺がいつの間にか二つ名持ちになっていようとは……思いもしなかった。二つ名は実力者の証明なようなもので、自らが広めるものではない。他人の口々に上って勝手に広まるから、強者の証とされる。二つ名を自分で広める事も出来そうなものだが、実力が伴わねば笑い者になるだけだ。
特にウィスカは実力者が揃っている。彼らが認めた存在ならば勝手に二つ名がついてもおかしくない。単純に俺の名前を知らなかったから便宜上その名で呼んでいた可能性もあるが。
それにしてもこちらは上手く隠れていたつもりだが、筒抜けだったという事か。これは恥ずかしすぎる、気付かれていたのに知らずにコソコソしてたなんて。
「そう呼ばれるのは不思議な感じはしますね。特に目立った事はしていないつもりですが」
「おいおい。一人でこの迷宮に、そして13層まで来ているだけで十分に異常だぞ。末恐ろしい奴だ」
少しだけ談笑をした後に俺達は別れた。敵がいないとはいえここはダンジョン内で一本道の途中なのだ。油断できる状況ではない。”白銀の戦槍”の皆は階段付近で休息を取るようだ。ここが安全地帯なのは各層共通だからな。
オールド・ガーダー・スケルトンドロップアイテムは全て向こうに押し付けた。アイテムを巡って誰が倒した、だの言い合いになるのは間違いないだろうから、時間の無駄だ。せっかく良好な関係を築けそうなので、ここは引いておく。スナイパーとウィザードのアイテムは倒した際に既に回収したので問題はない。
そのドロップアイテムだがオールド・ガーダーが銀の槍と黄金の胸当て、スナイパーが風の矢という魔法効果のある矢種と風切りの弓。ウィザードはこれまたマナポーションと魔神の骨とかいう高級触媒だった。
14層も表面的な事は変化ない。だが、敵の分布が変わっていた。今までは一種族のなかで役割の違う集団が現れたが、ここでは羽根を持つ敵が集団で襲ってきたのだ。
「蜂蜜みっけ! 大漁だあぁっ!!」
不快な気分にさせる羽音だが、リリィにとっては福音のようだ。敵はキラービーとそれより一回り大きい蜂、クインビーの集団だった。女王蜂が配下の蜂を完全に支配しているようで、縦横無尽にキラービーを飛び回らせている。近づくだけで巨大な針を閃かせて攻撃してくるが……元々遠距離攻撃の俺には関係ない。
それに種類が少ない分、数が多めに配置されているのか一つの群れで通路を埋め尽くすほどの数がいるのだが、それを受けたリリィの先ほどの叫びである。こちらも一直線の通路にいてくれるとほぼ撃ち洩らしかないので簡単で助かる。こういう手合いには質量がある攻撃が効果的だ。<ストーンブラスト>を万篇なく撃ってやるとそこには大量のドロップアイテムが現れていた。
「やったぁ! こっちの方が数が多いよ! あれ?」
リリィのいぶかしげな声につられて駆け寄るとドロップアイテムの中に、大きな瓶詰めがいくつか重なったものがある。とりあえず<アイテムボックス>に収納してから取り出すと、思わず笑い声が出てしまった。
「なんで詰め合わせセットなんだよ……」
数か二つしかないのでたぶんクインビーのアイテムだが、まさかの蜂蜜詰め合わせだった。内容量も普通の物の倍以上あり、中身は俺も聞いた事のある花の蜜や、どんぐりの蜂蜜、百華蜜など5種類の蜂蜜が入っている。そういえば普通のキラービーは所謂プレーン、何の味付けもされていないものだった。それに引き換えこちらは様々な味が楽しめるというわけか。
「もっと狩ろう! 目指せ100匹だよ!」
取り出した蜂蜜に頬ずりしながらリリィははしゃぎ回るが、今日の目的はそこではない。どの道帰りも通るのだからと説得して先を進んだ。それでも<隠密>を使用せず、敵との遭遇率を高めてやったので許して欲しい。
それと、アイテムを<鑑定>して解ったのだが、敵の名前もキラービーではなくキラーホーネットというらしい。遠目では同じだから全く気付かなかったが、よく見れば一回り大きくなっているようだ。的が大きくなって狙いやすいだけな気がした。
結果として14層は文字通り美味しい層となった。稼ぎとしてはやはり蜂蜜は微妙なのだが、リリィのテンションが天元突破しており、相棒が嬉しいと俺も嬉しいのだ。他の冒険者もこの階層にいなかったので未練たらたらで残念そうなリリィを宥めて15層の階段に足をかけた。
楽しんで頂ければ幸いです。
予約投稿だと書くことがあまりありませんが、
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